ポケモン世界で配信者、始めました!   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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#2 リーグ順位戦 カブ 前

 

 

「カレンちゃん、がんばってきてください!」

 

「今日も、勝ってきます」

 

 グラウンドに向かう直前、シュートスタジアムの控え室でベリーからの応援の言葉が掛けられる。ベリーの安心しきった表情を見る限り、私が負けるとは露ほども思っていない、私が勝つことを信じている、そんな意思が読み取れる。

 だから私も、何の気負いもなくグッと拳を胸の前で握りしめて「勝つ」とだけ告げて控え室を後にした。

 

 

 

 

 ポプラさんとのバトルに勝った私が次に戦うことになったのは、ほのおタイプのジムリーダーのカブさんだった。はがねタイプ使いの私にとって、天敵とも言えるほのおタイプ使いだが、負けるつもりはない。

 

 リーグ順位戦は名前の通り、リーグ戦──総当たり戦形式の大会だ。初戦のポプラさんとの戦いのように、有利な相手とぶつかることもあれば、今回のように不利な相手とぶつかることもある。それも、リーグ戦ゆえに同じ相手──不利な相手と複数回戦うことになる。

 

 だからこそ、不利な相手に対してどう対策するか、どのようにして勝つか。私は、そういった部分でジムリーダーとして、ポケモントレーナーとしての腕が試されるのだと思っている。故にこそ負けられない。それに、ベリーの全幅の信頼、期待にもしっかりと応えてあげたい。

 

 決意を新たにし、数万の観客に囲まれたグラウンドに足を踏み入れる。それと同じタイミングで、私が入場した側とは反対方向から、白髪混じりの黒髪に鋭い目つきの年配の男性が小走りで走り寄ってきた。赤いユニフォームを身に纏い、タオルを首に巻いたその姿からは、熱血なスポーツ選手のような印象を受ける。彼こそがほのおタイプのジムリーダー、カブさんだ。

 ガラルリーグのポケモンバトルが、前世におけるスポーツ観戦と変わらないほどに娯楽として民衆に親しまれているここ、ガラル地方であれば、カブさんの格好はこの場に最も相応しいもののように感じる。

 むしろ可愛らしいワンピースを、ユニフォームと言い張って身に纏う私の方がナメ腐っている気がして少し申し訳ない。

 

 グラウンドの真ん中でカブさんと対峙する。対峙してわかるピリピリとした緊張感と威圧感。それは、カブさんが私のことを侮ってはいない証明でもある。私の過去の戦績を考えれば侮るような者はいないと思うかもしれないが、これが意外と私を侮る人が結構いる。私の小さく可愛らしい、愛らしい容姿はそれほどまでに相手の警戒や緊張感を解してしまうものなのだ。

 人間とは皆、潜在的無意識な部分でロリコンなのだ。

 

 しばし睨み合い、やがてカブさんが口を開いた。

 

「君とポプラさんとのバトル、見せてもらったよ。圧倒的だった。去年の君とダンデとのバトルを見たときにも感じたけど、今チャンピオンに一番近い位置にいるのはおそらく君だろう」

 

 それは、羨望か憧憬か。複雑な視線で私を射抜く。

 

「だからこそ、負けられない。ぼくもこの歳だけど、未だにチャンピオンになることを諦めていないんだ」

 

 そう言ってカブさんは静かに眼を閉じる。

 

 彼は、昔は何度もチャンピオンになるチャンスを掴んだことのあるポケモントレーナーだったらしい。しかし、その悉くで後一歩及ばず、結局チャンピオンになることは叶わなかった。そして、いつになってもチャンピオンになれないことがきっかけで、迷走してしまい一時期はマイナークラスに落ちて燻っていた。しかし、ダンデとのバトルがきっかけで自らの伸びしろを感じて、メジャークラスに舞い戻ってきたとインタビューかなにかで聞いた。

 重なって見えるのかもしれない。チャンピオンに後一歩で届かない昔の彼と、チャンピオンへの後一歩を埋めようとする今の私が。

 

「君に勝って、このカブの強さを証明させてもらうよ!」

 

 今一度、カブさんは閉じていた眼を開く。そこには、先ほどのような複雑な感情は伺えず、燃え盛るような熱い炎が揺らめいて見えた。それは、カブさんの強い闘志を示すかの様な強い眼差し。

 どうやら、カブさんは今現在最もチャンピオンに近い私を倒すことで、自らもチャンピオンに届きうるという証明を得るための試金石としたいらしい。

 

「……私が勝ちます」

 

 それに対して、私は静かに自分の勝利を宣言した。

 別にカブさんがどのような思いでこのバトルに臨むとか、私の知ったところではないのだ。

 私はただ、楽しいバトルがしたいだけ。楽しく戦って、その上で自分自身のために、応援してくれるベリーやお母さん、ファンのために、勝ちたいだけだ。私の背負っているものなんて、それだけ。カブさんと比べればそう多くはない。

 

 もとより私は、好きだから、楽しいからポケモンバトルをしているのだ。ダンデに勝つという目標や、お母さんを超えるという目標も、大好きなポケモンバトルで誰よりも強くなりたい、好きなことで一番になりたいという誰もが持つ単純な欲求でしかない。

 まぁ、チャンピオンになれれば、いろんな人にちやほやしてもらえるとか、そんな風に考えたりすることもあるけれど、それはちょっとだけだ。ちょっとだけ。

 

 グラウンドの中心で睨み合っていた私たちは、どちらからともなく距離を取る。そして十分な距離を置いてから、お互いにモンスターボールを構えた。

 スタジアムの観客はこの瞬間、一気に盛り上がる。そんな観客たちの熱気に背中を押されるように、私たちは高らかにモンスターボールを投げた──

 

 

 

 

 

 

「お願い、ハガネール!」

 

「行け、コータス!」

 

 私が繰り出すのはハガネール。普段はマイペースな私のハガネールだが、バトルとなれば頼もしい。その巨体を大きく揺らし、スタジアムに轟くように鳴き声を上げた。

 一方、カブさんの初手は四つの脚でどっしりとグラウンドに鎮座するせきたんポケモンのコータス。そして、コータスがボールから出てしばらく、スタジアムには茹だるような熱い日差しが降り注ぎ始める。コータスの特性"ひでり"の効果だ。天候を『にほんばれ』に変え、ほのおタイプの威力を上げ、水タイプの威力を弱める。

 その場に登場するだけで、スタジアムの環境をほのおタイプにとって有利なモノに塗り替える強力無比な特性だ。

 

「ハガネール、"てっぺき"から"ボディプレス"!」

 

 "ボディプレス"は防御力が高いほど威力の上がる珍しい技だ、もともと極めて高い防御力を持つハガネールが"てっぺき"を使用した上で使えば、その威力はかなりのものとなる。まともに受ければコータスも大ダメージを受けるだろう。

 

「コータス、"かえんほうしゃ"!」

 

 当然、カブさんも反撃する。指示を受けたコータスは、ハガネールを近寄らせる前に"かえんほうしゃ"を放つ。ハガネールは防御力が高い反面、"かえんほうしゃ"のような特殊攻撃に対する特殊防御力は低い。その上、巨体故に"かえんほうしゃ"を躱すことも難しい。そんなことは私もハガネールもわかっている。

 

「そのまま攻撃して!」

 

 故に、ハガネールはその身に"かえんほうしゃ"を受けながらも構わずコータスに"ボディプレス"をぶつけるために突進する。

 

「なっ!?」

 

 天候『晴れ』に、低い特殊防御力、その上弱点のほのおタイプの技。ハガネールが耐える道理は無い。この"かえんほうしゃ"は直撃すれば、ハガネールを一撃で倒してしまう攻撃だ。

 

 

 

 ──しかし、ハガネールは倒れることはなく、コータスに"ボディプレス"を命中させた。

 

 

 

 ハガネールの特性は"がんじょう"。どんな攻撃でも一撃は絶対に耐えるという特性だ。それによりハガネールは"かえんほうしゃ"を無視してコータスに攻撃することができた。

 カブさんももちろん、ハガネールの特性については知っていただろうが、こんなことをしてくるとは考慮できていなかったようだ。

 

 それもそうだろう。仮に絶対に耐えられるとしても、果たして自らを一撃の下に沈める攻撃に進んで突っ込んで行くことができるだろうか。可能かどうかと、やれるかどうかは違う。ポケモンにだって恐怖心はあるのだ。普通のポケモンは、そんな恐怖心をねじ伏せて攻撃を続行するなんてことはなかなかできない。

 だけど、私のハガネールにはそれができる。普段はダラダラなハガネールだが、やるときはやってくれる頼れるポケモンなのだ。私はそんなハガネールならばと、信頼しているのだ。

 

 だが、コータスはまだ戦闘不能にはならない。ハガネールほどではないが、コータスも防御力に優れたポケモン。大ダメージを受けながらもハガネールの一撃を耐えてみせた。

 ハガネールは満身創痍。だが、コータスも次のハガネールの一撃は耐えられない。

 

「ハガネール、"ボディプレス"」

 

「っ! コータス、戻れ!」

 

 カブさんはコータスを倒されるわけにはいかないと、すかさずボールに戻そうとする。しかし、一瞬間に合わず、コータスにハガネールの攻撃が命中する。その一撃がトドメとなったようで、コータスは力が抜けるように地面に崩折れた。

 戦闘不能だ。

 

「……よくやった。コータス。休んでくれ」

 

 戦闘不能になったコータスをボールに戻したカブさんは、コータスを労いつつも表情に隠しきれない苦々しさが浮かぶ。コータスの特性"ひでり"による『にほんばれ』状態は、永続ではない。おそらく、カブさんはコータスをここで倒される予定はなく、一度ボールに戻し『にほんばれ』状態が終わり次第もう一度繰り出すつもりだったのだろう。

 仮に私がカブさんの立場だったらそうする。

 

 それがハガネールの強引な、ゴリ押しとも言える戦い方のせいで頓挫してしまったのだ。私としても、天候を変える厄介なコータスはここで倒しておきたかった。ハガネールのおかげだ。やっぱりこの子は頼りになる。

 

「行け! キュウコン!」

 

 カブさんが次に繰り出したのは、きつねポケモンのキュウコン。

 

「ハガネール、"ステルスロック"!」

 

「キュウコン、"だいもんじ"!」

 

 コータスの攻撃を受けて満身創痍だったハガネールは、最後の力を振り絞って"ステルスロック"を使う。だけどそこまで。キュウコンの"だいもんじ"を避けることもできずに直撃を受け、大きな音を立てて倒れてしまう。

 

「ありがとう、ハガネール」

 

 戦闘不能となったハガネールをボールに戻し、労う。今日のハガネールも大活躍だった。不利な相手であるコータスを倒してくれただけでなく、"ステルスロック"でカブさんの後続のポケモンに圧力をかけてくれた。

 

 ほのおタイプ使いのカブさんにとって、この"ステルスロック"はもしかしたら、コータスが倒されたこと以上に厄介なものかもしれない。

 ポケモンを繰り出すたびに受けることになる"ステルスロック"のダメージは、ほのおタイプにとっては無視できないほどに大きい。故に、このバトルでカブさんはポケモンを無闇に交換することができなくなった。

 その上、カブさんのエースであるマルヤクデはほのお、むしタイプのポケモン。ほのおタイプと同様、むしタイプも"ステルスロック"によって受けるダメージは大きい。ほのお、むし、と"ステルスロック"のいわタイプが弱点の二つのタイプを持つマルヤクデは、ゲームだったら"ステルスロック"のダメージで体力を半分にされてしまうほどのダメージを受けるのだ。

 

 エースのマルヤクデが万全で戦えないというのは、ただポケモンの一匹が不利な戦いを強いられるというだけの話ではない。精神的な話だ。ポケモントレーナーのエースに対する信頼は、ポケモントレーナー本人のメンタル、余裕に繋がる。そこが崩されるということは、それだけ精神的な負担を負うことになる。そしてその精神的な負担は焦りを生み、判断力の低下を招く。とはいえ、カブさんほどのトレーナーならその影響はあまりないだろう。だけど、全くないというわけはないはず。少しでも崩れてくれれば、私はそれだけ戦いやすくなる。

 

 ハガネールはこの上ないほどの活躍をしてくれた。後で存分に好きなだけ昼寝させてあげよう。

 

「行って、ルカリオ!」

 

 2番目に繰り出すのはルカリオ。ルカリオはほのおタイプのポケモンの弱点となるじめんタイプの技"ボーンラッシュ"を持っているので、このバトルでは重要なアタッカーだ。

 

「キュウコン、"だいもんじ"!」

 

「ルカリオ、"しんそく"で近付いて!」

 

 すかさずキュウコンは"だいもんじ"でルカリオを攻撃する。ほのおタイプが弱点のルカリオは『にほんばれ』の影響もあって、この攻撃を受ければ一撃で戦闘不能になるだろう。しかし、ルカリオはそんな攻撃を全く意に介さず、"しんそく"で高速で動くことで回避し、そのまま接近する。

 

「"ボーンラッシュ"!」

 

 キュウコンの目の前まで接近したルカリオが、手に骨の形のエネルギーを生成してキュウコンに殴り掛かる。カブさんのキュウコンの間合いは主に中距離。速いスピードで動き回り、中距離を維持しながら"だいもんじ"のような特殊攻撃で戦うポケモンだ。なのでルカリオのように、それ以上の速度で迫り、懐に入り、接近戦に持ち込むことができれば、キュウコンは一気に戦いづらくなる。

 そして、接近戦であればキュウコンがルカリオに勝てる道理がない。

 

「キュウコン! "でんこうせっか"で距離を取れ!」

 

「逃さないで!」

 

 "ボーンラッシュ"の連撃をなんとか躱そうとしていたキュウコンが、"でんこうせっか"でルカリオから離れようとする。対してルカリオは"しんそく"で逃がすまいと追い掛ける。"でんこうせっか"と"しんそく"では、"しんそく"の方が速い。やがて、ルカリオはキュウコンの速度を完全に捉えた。

 

「捕まえて! そのまま"インファイト"!」

 

 逃げるキュウコンを片手で無理矢理地面に縫い止め、今度は逃げないように動きを封じ、"インファイト"を仕掛ける。ルカリオにいいように攻撃されそうなカブさんのキュウコンは、苦しげにもがくがルカリオはキュウコンを決して逃さない。

 

「"だいもんじ"だ! キュウコン!」

 

 しかし、ルカリオは片手を使って地面にキュウコンを押さえつけている体勢。このままだと"だいもんじ"を避けることは難しい。キュウコンを拘束しているということは、ルカリオもその場を動けないということでもある。この"だいもんじ"を躱すにはキュウコンを遠ざけるしかない。

 

「ルカリオ、キュウコンを空に投げ飛ばして!」

 

 キュウコンの"だいもんじ"が撃たれる直前、ルカリオはキュウコンを宙に投げ飛ばした。そのすぐ後、キュウコンの"だいもんじ"は空に向かって放たれ、爆発する。

 

「落下の隙をついて"ボーンラッシュ"!」

 

 宙に飛ばされたキュウコンは自由に動けない。もう一度"だいもんじ"をルカリオに向かって撃つにしても、それよりも早く地面に落下することになるだろう。

 絶好のチャンスだった。

 落下時の隙にルカリオの"ボーンラッシュ"を為すすべもなく受けることになったキュウコンは、そのまま反撃することも叶わず、倒れた。

 

「お疲れ、キュウコン」

 

 キュウコンをボールに戻すカブさんを尻目に、ルカリオは私の近くまで戻ってきていた。ルカリオの身体に目立ったダメージはない。せいぜいが、キュウコンを押さえつけたときに引っ掻かれた程度だ。ほぼ万全と言っていい。

 ルカリオは楽しそうに笑っている。まだ戦える。もっと戦わせてくれ。と声無き声が聞こえてきそうだ。ルカリオ君絶好調である。

 だけど──

 

「行け、ウィンディ!」

 

 カブさんの3匹目はウィンディ。それを見た私は、ルカリオをボールに戻した。ボールに戻す直前、笑顔から一転、何とも悲しそうな表情をしたルカリオの姿に少し心が痛んだが、仕方ない。相手の攻撃力を下げるウィンディの特性"いかく"を受けた状態のルカリオに戦闘続行させるより一度戻した方がいいと判断したのだ。万全のルカリオならここは一度引いて、他のポケモンの相手をしてほしい。また後で戦わせてあげるから、そんな悲しい顔はしないでほしい。

 

 これがリーグ順位戦という大切なバトルでなければルカリオにそのまま戦わせてあげても良かったのだけど、大切なバトルで最善を尽くさないわけにはいかないのだ。

 ナメプはよくない。

 

「がんばろっ! アーマーガア!」

 

 

 

 

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