異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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「ほー、そんなものか」
くつくつと、煮詰まった鍋から湧く煮沸音のような響きを秘めた笑みを浮かべて半裸の女は面白そうに鼻を鳴らした。
「ほほほ、その程度で我に逆らおうなど……我が孫娘や死体の婿殿が侮るのもようわかる。ようわかるわ」
きひひ、と気が抜けるような、あるいは酷薄な笑いを浮かべながらカレーナはその頭が逆に生えた物体を踏みつける。
グリグリと、力をそうも込めずに、屈辱のみを引き出すような踏み様だ。
おそらくはそんな性癖を持つものであれば屈服し、絶頂せずにはいられぬような、蠱惑的で加虐的な。
『お、おの……れ!』
しかし、踏まれているものはそうではなかったようだ。
ビクビクと震えて文句を抜かすそれの、躯体から生えて逆になった頭を踏みつけて女は笑う。
「なんじゃその哀れでみっともないうめきは。もちっと麗しく叫べ」
くふふ、と含むような笑みを牛込に向けて、彼女は「偽の体にしては苦しむの。滑稽じゃのう」と続ける。
「偽も真も肉にはない。偽があるとすれば、離れることじゃ。人より、な。うぬらは世より離れすぎじゃ。おなごのほとでも舐めておるほうがまともじゃぞ?」
チロ、チロ、と卑猥なものでも舐めるが如き仕草で彼女は、倒れ伏す牛込を笑うのだ。
それが正しい仕儀であることを、微塵も疑わぬかのように。
「まだ何か企んどるんじゃろ?」
ニタニタと笑いながら、それは足を退けて翻る。
まるで踊る蝶のように。
コンテナは戦いの、いや蹂躙の余波を受けてグニャグニャと曲がり変容しつつある。
―――2mほどの斧のようなものに。
「うーむ。ゴブリンのゾンビのほうがわかる造形じゃのう」
『ふ、ふはははは!これを待っていた!これさえ果たせれば』
「ははーん。ほうほうほうほう」
牛込の言葉を遮り、カレーナは納得したとばかりに首を縦に振って微笑んだ。
「なかなかめずらしいことをするものだ。これ、あれじゃろ。秋遂ちゃんのアレじゃろ。武器。それをこのように無駄にしてやることがあるとすれば……」
『き、貴様何を知って……!』
カレーナは牛込の言葉を無視してそれを眺め、「いやはやつまらんことばかりするものだ」と笑みを消して肩をすくめた。
「言っておくが御せるとは思わんことだ。呼び出したものによっては孫の怒りを更に更に買うことになるであろう。今のあやつは凪の娘じゃが、の。本来のあやつは風。そして嵐じゃ。どうなっても我、知らんぞ」
『な、に……!?』
つまらんとばかりに己の魂を宿す剣を円かに薙ぐと、牛込の首がポトリと花でも落ちるかのように胴を離れた。
「え」とカレーナは意外そうに剣と牛込の首を交互に見る。
「あ、えーと。すまんな?思ったより切れるわ、この剣」
どうもこの剣、精霊術の触媒としてしか使用していなかったようで、この切れ味は彼女にとっては予想外。
剣術については全くの素人である彼女が振るってこれなのだ。
孫はこれ使ったほうが良いんじゃないか。
そんなことを思いながら彼女は、古い時代のエルフが良く行う謝罪である、左の耳を指で垂れさせる仕草をしてバツが悪そうに笑った。
『お、おのれッ!だがその怪物に勝てると思うなよ!!』
悔しげにそう返して、牛込の首は溶け消え、体もまたガラガラと崩れながらドロドロに溶けていく。
相変わらず気持ちが悪い喃、と心のなかで蔑んで、彼女は今や巨大なポールアクスに一つ目と翼竜の翼、カギ爪のついた爬虫類の腕のようなものが生えた怪物へと向き合う。
「どうれ。相手をしてやろうかのう」ともはや牛込の残骸には目もくれず、女は剣を怪物へと向けた。
その怪物は、ポールアクスの刃部分が顔なのだろうか、そこから恐竜のような牙と口を生やして猛然と走り出す。
「おっと、おっかないの。止まりゃ―――水の娘ウンディーネよ、こやつをその腕で止めておくれ」と彼女が剣を向ければ、周囲から水の触手のようなものがポールアクスを絡め取らんと生えてきた。
『GYAAAA!!』
邪魔だ、とばかりにポールアクスは腕ではなく頭をブンと振り回す。
軸がまるで生き物のように曲がり、水の触手を切り払った。
彼女は「おっと」と驚きは見せるが、しかし既に突進からは体をそらし、優雅に、風に乗るように後ろへと飛び、ニヤと嘲笑う。
「元の姿のままで、秋遂ちゃんがぶっ放せば我にも勝てようが……その姿では小鬼が世界樹の頂を目指すようなものぞ」
無理難題を示す意味の言葉を用いて、女はかすかに表情を和らげ……呪を唱えた。
「らいさま、らいさま、降り注げ。雷様よ、打ち鳴らせ。雨降る夜も振り乱し、空なき昼に神鳴らせ―――雷光の鳥ビネシよ、らいさまくりゃれ」
シャン、と剣舞を舞うと剣の先からバジン、と電光が弾け、空気の絶縁を超え雷となってポールアクスを襲う。
それは雷の中位精霊ビネシの力を借りる精霊術サンダービームだ。
『GYAAAAA!!』とそれは鳴く。
全身を高圧電流に焼き尽くされながら、叫び、怒りをカレーナへとぶつけてくる。
「―――おお、すごい力じゃ。やはり発電機とやらの近くはすごいのう」
思ったよりも威力が出たことに、カレーナは驚いた。
油断せずに腰を落としていつでも突進から逃げられる姿勢のままで、少し冷や汗をかきながら。
『GIIIAAAAA!!!』
最後のあがきとばかりに怪物は突進を―――する間もなく止まる。
何かに引っ張られるかのように。
「は、早く今のうちに!」と澄んだ声がした。
キリ、キリ、と細い糸が張ったような音がする。
「おっと、退かせた連中は大丈夫かのう」とカレーナが声をかけた方には、エメラルドグリーン髪の魔法少女がいた。
先の糸が産んだような音は、彼女の念動魔法なのであろう。
その姿に、カレーナはフ、と小さく息をつく。
「そ、そんなことより!まだ生きてるわよ、これ!」
「そんなも何も、なあ」
まだ動こうとしている怪物にギロリと睨まれたような気がした女だったが、しかしニ、と小さく笑って構えを解いた。
「もう、終わっとるよ」と小さく言えば―――
『GA、AAA……AH……』
うめきを発し、それは姿を保てずに地面へと倒れ込んで、そして。
ドン、と大きな音を立てて大きな片刃の手斧と変ずる。
「これは……」
「ふむ、褒めてやろう。お陰で最後に我の一撃をくれてやる手間が省けた。大きく壊しもしなかったしのう」
神流川発電所を破壊せずに済んだことにわずかに安堵し、それからケラケラと笑って、カレーナはエメラルドグリーンの少女へと近づいていく。
「褒める前に!なんなのこれ!?」と怒る彼女へと。
そして―――大谷石地下採石場上空。
『フハハハハハッ!見よ!この午雷王の新たなる姿をおぉぉぉ!!』
吠えるロボのようなものが銀の剣を手に、そして銀の翼を背に着けてそびえ立っていた。
「グ◯ートブー◯ターやめいッ!!」
地上から叫んで、空悟は手持ち対空ミサイルを構える。
同時に恋も「そっちはマジン◯ーブレー◯だろうが!違うとは言わせねえぞ!!」と激昂し分身たちに呪を唱えさせた。
「喰らえ!」と恋が言ったと同時に水の刃が放たれる。
しかし、『フハハハハ!貧弱!虚弱!!』と何処かで聞いたようなセリフと同時に午雷王は剣を振るう。
剣風が舞い、水の刃は吹き消され、ミサイルは―――
『かぁッ!』
吐息も荒く馬面の巨体が吠えると、その口からミサイルのようなものが生えて迎撃した。
ドォンッ!と一声でミサイルは破壊されてしまう。
「ああ、くそっ!ここからじゃろくに当たりやしねえ!」と今度は改造M2重機関銃を構えて対空射撃を開始するが―――
しかし。
『その程度で我が傷つくとでも思ったか!ぬぅん!』と叫び、午雷王は猛烈な勢いで急降下してきた。
「おらぁ!」と待っていたとばかりに、空悟は手裏剣を三つ無造作に投擲する。
廻たちの装甲と同じ金属で作られたものである。
『ぬうっ!』と急降下から急激に水平飛行へと移行し、それを躱す午雷王。
そこにいたのは―――「必殺!超魔力ゴマなのですッ!!」
緑色の装束に身を包んだ岬であった。
角度を曲げることを絶妙に読んだ動きによって、ドスリと独楽は午雷王の腹に深々と突き刺さる。
『グボッ!?』
くぐもった声を口から吐き出し、ロボは急旋回すると地上へと降り立つ。
ドォン、と空悟が立っている元石切場の高台へと着陸すると、『小癪な!まずは貴様から粉砕してくれるわ!』と怒号を放って刑事へと斬りかかった。
「ようやく降りてきてくれたな!」と午雷王の異容に臆することなく、空悟は斬鉄剣を抜刀し一歩下がる。
既にM2は彼の手にはなく、かき消えたかのように周囲にも見当たらない。
瞬間、彼の鼻先を狙う捻れた西洋剣の剣先がかすめるが、怯むことあらじ―――
パン、パン、パン、と九四式拳銃の弾丸を叩き込み素早くホルスターに納めて、青眼に構えた。
『むぅっ!我が装甲に衝撃を与えるとは!』
午雷王が言う割にはダメージがないことに、「博士の特製の弾丸だ!」と強がりつつもわずかに冷や汗を流す。
「空悟さん!援護しますですよ!ガトリングマジックミサイルッ!!」
彼女が両手の五指を午雷王に向けると、そこから小さな円錐状の魔力が無数に飛んでいくではないか。
ドドドドドドドッ!と轟音を立てて午雷王の背中に着弾し、午雷王は一瞬前によろける。
『舐めるなっ!』「十分だ!」
ロボと刑事はお互いに不敵な声を出す。
戦いはまだ始まったばかりであった。