JK組によって開かれた緊急のオンライン会議から二時間後。
にじさんじに入るまでは怪人と分類され、人間世界から離れていた吸血鬼ライバー、ギルザレンⅢ世*1は何故か吸血鬼であるにも関わらず、A市にあるショッピングモールを大荷物を持って歩いていた。
いや、持たされている…という方が正しいだろう。
あの会議から30分くらい経った時、ネットサーフィンでもしようとしていたギルザレンの下に端末からメッセージが送られて来たのだ。
送り主は赤羽葉子。彼女は大切な後輩であり、自身の眷属でもあるのだ。
そしてメッセージの内容は「ギル様助けて!!!!!」
30分前まで地球がヤバいとか云々の話をしていたのだ。ギルザレンはすぐに自分が住む城を飛び出して、発信源のあるA市へと向かった…そして…
荷物持ちをやらされた…
「ヴァンパイアってお偉いさんなんだけどなぁ……」
筋肉隆々のおじ様からは予想だにしない高い声でギルザレンは愚痴を吐く。
ちなみに、ギルザレンに荷物を持たせたのは赤羽だけではない。
「女神の方が偉いから気にせずに荷物を持ってね、ギルえもん♪」
ギルザレンの前には赤羽と並んで女神と大きく書かれた真っ白なシャツにジーンズを履いた水色髪の美女が愚痴に返答してきた。
とても女神を強調してくるこの美女はモイラと呼ばれる本当にマジで正真正銘の女神だ。ちなみに2時間前に話題に上がっていた十二伝説(十二災厄、特異点)の一つでもある。
いくら吸血鬼界隈の大物だとしても神には適わない。
こんな事なら城に居る眷属達を呼べば良かったと後悔しつつ、ギルザレンは黙って荷物持ちを続ける事にした。
(この荷物…ほとんど洋服ばっかだなぁ、買いすぎじゃないのか赤羽君もモイラ君も配信上じゃあ似たような服しか着ないくせに…)
肩に掛けるまで増えていく荷物はそのほとんどが洋服だ。お洒落なのは良いことだが、ここまで来るともはや無駄なのでは無いかとギルザレンは思う。
ギルザレンは歩くスピードを上げて、新たな洋服店へと入店する赤羽達に追いつく。ここは一度荷物を置いて荷物持ちの援軍を呼びたい。その為にはとりあえず片手は使えるくらいには荷物を持ってほしい。
そして、ギルザレンがモイラに駆け寄って話しかけようとした時だった…
「「ッ!!!」」
突然、ギルザレンとモイラは寒気と殺気、そして大きな邪気を感じ取り、身体が強張った。
にじさんじの中でもトップクラスに実力の持ち主で、人ならざるものだからこそ気づける代物だ…寒気の原因は…このショッピングモール内では無い…外……いや、もっとだ…!
「…まさか空!?」
「不味い!赤羽君!モイラ君!逃げろ!!!」
モイラが寒気の原因を突き止め、ギルザレンが避難するように言うがもう遅い。多いなる邪気の正体はまさかの大空からA市へ殺意ある攻撃を仕掛けたのだった…
「なん…だ…これは…」
A市の中央に存在する窓も無い超高層ビル、「ヒーロー協会本部」。
数々のヒーローを制御する脳と言っても良い建物の近くにて、A級2位という確かな実力を持ったプロヒーローのイアイアンは驚愕していた。
彼の師であるS級ヒーローの付き添いで本部に来たまでは良いが、本部内の同行は断られたのでイアイアンは適当にA市をほっつき歩く為に本部から出ようとしたその時…
彼の視界に嫌でもとんでもないものが映り込んだのだ。
数ある市の中でも頭一つ抜けて大きいA市半分以上を覆ってしまう程のまるで巨大な建造物の様な宇宙船が…
そして何よりも…その宇宙船の周りに不自然にも砲弾らしきものがA市の建物にギリギリ被弾しない高さで止められている事に…
「危ない…間に合ったわ!」
ショッピングモール内で先程慌てていたモイラは両手から黄金色の光沢を放ち、天井に向けている。傍から見たら何してんだこの女神と思うかも知れないが、実はこれは先程イアイアンが見ていた砲弾らしきものが市内に被弾しないようにモイラが制限されている力で止めているのだ。
「ギルえもん!今のうちにモール内の人達を退避させて欲しいのだわ!」
砲撃が来ると思って伏せていたギルザレンと赤羽だが、モイラの声にすぐに立ち上がり無言で頷くとショッピングモール外の空の謎の建造物に気づいて不安を覚えたりパニックし始める一般市民達に声をかけて安全に避難させようとする。
そして未だに力を緩めないモイラは申し訳ない気持ちがありつつも、ショッピングモールの天井に穴を開けてショッピングモール外へと飛び出す。その最中にも空の建造物は砲撃が効いてないのに気づいたのか追加で更に砲撃を開始する。幸いまだこの程度ならA市に被弾させるような事は無いが、このまま延々と続けば流石にキツい。
何とか誰か早く住民を避難させてくれないだろうか…
しかし、願望の返答は絶望だった。
『あいつが砲弾を止めているみたい』『そうみたい』『殺すか』『いいと思うよ』
「!?」
刹那、モイラは純白の翼を広げて大きく水平に移動する。
そしてつい先程モイラが立っていた場所には大きな穴が開けられており、穴の隣にはショッピングモールの天井に風穴を開けた犯人が居た。
体長は明らかに人間では到達不可能な大きさに達しており、薄紫色の体色、禍々しい翼が生えて、右腕がハンマーの様な形をしている顔が5つほどくっ付いている怪人がそこには居たのだ。
『避けたか』『中々やるね』『殺そう』『いいと思うよ』
怪人は顔が別々の顔が互いに会話を交わしており、あまり脅威には思えなさそうな雰囲気だが…
モイラは感じ取っていた。
(この怪人…強いのだわ…)
砲弾の方を警戒していたとは言え、モイラの後ろを取り、全速力で避けなければ危ない程の攻撃スピード、簡単に感じ取れる強者のオーラ。
恐らくS級ヒーロー以外では全く歯が立たず、街を軽く数個は破壊尽くす災害レベル竜に達する強さだろう。
【暗黒盗賊団ダークマター 幹部 メルザルガルド 災害レベル:竜】
怪人メルザルガルドは右手のハンマーをぐにゃぐにゃと変形させると鋭いランスへと変貌させた。そして、腕を一切動かさずにほぼノーモーションで腕のランスはモイラへ突き刺さんと伸びた。
あの変幻自在な腕は伸縮も自在なのだ。つまり攻撃に前振りが無い。
再び不意打ちを食らう形のモイラだったが、再び翼を使い、ランスを避けるように横に避けた。出来れば反撃したいが今両手は砲弾を止めるのに使っている為に反撃が出来ずに避けるだけだ。
『無駄だよ』『追いかけるよ』『絶対に仕留めるよ』『いいと思うよ』
メルザルガルドの顔が全てニヤつくとモイラが避けたはずのランスはその場綺麗に方向を折り曲げて再びモイラへと矛先を向けた。メルザルガルドの左手での追撃を予想していたモイラは予想外だった為にランスを避けきれなかったが、なんとかかすり傷で済ませた。
(住民の避難は……嘘…全然なのだわ…)
モイラはほんの少しだけちらっとショッピングモールから下を覗いたが、まだまだ避難は終わってないらしくショッピングモール前だけでも大混雑していた。
『逃げるだけか?』『砲弾を止めるのに精一杯か』『殺すの簡単』『2人で充分』『いいと思うよ』
一方メルザルガルドは逃げ回るだけのモイラが砲弾を止めるのに精一杯なのに気づいたのか、攻撃を止めて身体をブチブチと分離させ始める。
分離したメルザルガルドは5つほどの頭部がそれぞれ身体を持ち、5つのメルザルガルドへと増えた。
(嘘!?分身出来るの!?)
5つに増えたメルザルガルドは2匹、モイラに対面して残りの3匹は何処かへ向かおうとしていた。
このままでは、住民に被害が出る…
そう察したモイラはこのショッピングモールにもう誰も居ないことを祈り(女神が祈るってなんだ?)、両手を前に向ける。すると、浮いていた砲弾が全てメルザルガルド5匹に直撃する。
砲弾の威力は思ってたよりも大きく、ショッピングモールは上半分が粉々に、モイラも吹っ飛びかけるが何とか耐える。
そしてメルザルガルドは……
『驚いた』『なんだ攻撃してくるじゃん』『でも効かない』『勝てるね』『いいと思うよ』
粉々にはなったが、ぐにゃぐにゃと元の5匹に再生してみせた。
しかしモイラはそこまで絶望しなかった。災害レベル竜ともなれば再生能力はほぼ当たり前だ。それよりも…
「さて両手が開放された今、これから本番なのだわ!」
女神の両手は開放された。モイラはショッピングモールの下半分。つまり1階へと降り立ち、周りに住民が居ないことを確認すると5匹のメルザルガルドに微笑んだ。
その女神の微笑みに謎の恐怖を覚えたメルザルガルドは5匹共、黙って1匹にくっ付く。再び1匹のメルザルガルドへと戻ったのだ。
しかし、最初の様な1匹だけでは無い。身体は更に肥大化し、顔も一つだけだが、目が5匹分、つまりは10個ある。
『ヴフフフフフフフ!!!なるほど!それがお前の本気か、面白い!我々の侵攻に抵抗してみろ!』
メルザルガルドの声も先程の様な短文で無く、ハッキリとした言葉を話すようになっていた。
『貴様1人でどこまで行けるか見物だな!!!』
「おっと、1人じゃないぞ?」
「わらわ達もお主らの侵攻に抵抗させて貰おう」
背後から女性2人に話しかけられたメルザルガルドは驚いた様子で振り向くが、振り向くと同時にその存在はメルザルガルドの身体を貫通してモイラの隣へと並ぶ。
「モイラ様、遅れてすまん」
「応援に駆けつけて来たのじゃ、手伝おう」
モイラの隣に並んだのはにじさんじの中でも特に戦闘能力が高い2人の女性。ファイアードレイクのドーラと鬼の女王の竜胆尊*2。2人ともライバーであり怪人だ。
そして、その2人だけではない。
「おい!そこのお嬢さん達!俺達も手伝うぜ」
消失したショッピングモールの上から3人のヒーローが飛び降りてくる。
まさに侍という言葉がふさわしい姿をしたヒーロー
S級4位 アトミック侍
対してこちらは一昔前のツッパリと呼ぶにふさわしいヒーロー
S級16位 金属バット
そして流水岩砕拳の使い手である老人
S級3位 シルバーファング
「街の上であんなでかいもん停めやがってよ…迷惑なんだ。シバくぞ」
「ワシらとてヒーローじゃ、お主らの様な一般市民だけに怪人を任せる訳にはいかん」
アトミック侍は刀を、金属バットは持ち前のバットを構え、シルバーファングは自身の流派である流水岩砕拳の構えを取った。
対するメルザルガルドは両手をあらゆる武器をくっ付けた様な恐らく地球上には存在しないであろうめちゃくちゃな形に変形させた。
『さぁ、かかってこい!!!』
S級ヒーロー3人、高い戦闘力を持つにじさんじ女性ライバー3人対災害レベル竜の戦いの火蓋が切って落とされた。
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一方、その頃…未だにA市の空中で沈黙している宇宙船は三人の侵入者によって襲撃されていた。
『退け!退けェェェェェ!!!』
『ダメだ、強すぎる!』
『誰かグロリバース様かゲルガンシュプ様を呼べ!俺達には無理だ!』
『ボロス様ァァァ!!!助けてぇぇぇ!!!』
宇宙船に居たさほど脅威ではない宇宙人達はその三人には一切太刀打ち出来ずに逃げ惑う事しか出来なかった。
そして逃げる宇宙人の後を三人の青年がゆっくりと歩く。
不健康そうな顔色と白さをしている高身長の引きこもり吸血鬼、葛葉*3
やけに顎が鋭い高校生、剣持刀也*4
サイタマ戦のダメージが完治した叶の三人だ。
ちなみにこの三人は避難誘導が面倒だとか、こっちの方が面白そうという理由で無断で宇宙船に乗り込んでいる。
「雑魚しか居ないっすね~暇だわ。暇すぎて本間ひまわりになりそう」
「そろそろボスみたいなのが止めに来てもおかしくないんだけどな~」
「もしかしたら尊さん達が戦ってるのがこの船のボスじゃない?」
「マ?じゃあ、降りますか、もちさん」
おおよそ敵船に攻め込んでいるとは思えないくらい腑抜けた会話を3人は交わしながら色んな部屋を探索する。道中出会う敵は向かってくるなら返り討ち、逃げるなら追撃はせずにゆっくりと後を追うくらいに留めていた。
そんな中、3人はやや狭い通路を抜けて少し広めの部屋にたどり着く。左右には新たな通路があるのでどうやらこの部屋は色んな部屋に繋がっているようだ。
見た感じ敵が居ないことを確認した3人は不用意に部屋に立ち入る。すると…
『ふはははははは!!!よくぞ来たな侵入者共!だがここまでだ!』
頭上から声が響き渡る。どうやら上方向にも通路があるようだ。3人が無表情で頭上の声の方向を向くとそこには、目や鼻などの器官が顔は口だけで両手も口となっている緑色の怪人が居た。
『貴様らはここで終わりだ!なぜならこのグロリバースを倒す事など不可能だからな!』
【暗黒盗賊団ダークマター 幹部 グロリバース 災害レベル:竜】
「おっ…ようやっと強そうなのが来たな…」
見た目こそはそこら辺の雑魚と変わらなさそうだが、葛葉達3人はすぐにこの怪人は他とは違う事を見抜いていた。そして3人各々構える。いつでも戦えるように…
『いくぞ!』
そして、怪人グロリバースがその場で跳躍し、今にも3人に襲いかかろうとした……その時だった。
突如、葛葉達とグロリバースの間の船の一部が爆発したように弾け飛んだのだ。
「うおっ!」
『な、なんだ!?』
これは葛葉達、ましてやグロリバースが仕掛けたものでも無い。両陣営が驚いたのだ。
爆発によって発生した煙が徐々に晴れていくと、葛葉達もグロリバースも誰かが煙の中にいる…この4人以外の第三者が来ている事が分かる……
そして煙が完全に晴れると…
『な、何者だ!?』
「っっっ!」
筋骨隆々に奇抜なメイド服、謎に尖った髪型。その姿に初見のグロリバースは困惑し、何度も見たことある葛葉達はここに彼が居ることに困惑する。
宇宙船へと飛び込んで来たエルフは自信満々な表情を浮かべて、グロリバースの方へと向く。
「面白そうな事してるじゃない……私も入れてよ」
にじさんじで最も色々ぶっ飛んでる男(オカマ)、花畑チャイカが宇宙船へ恐怖をもたらしに来たのだった。