うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
Sideハク
「このあたりなんだな」
ウコンの言葉にここまで案内してきた怪我の男が返答し、あたりを見回すがギギリの姿は見当たらなかった。
ほッ、っと一息ついているとウコンが号令をかける。
「そうか。よぉし、てめえら、作戦の確認をする。小休止しながら聞いてくれ」
ウコンの声に、各々腰を下ろしたり、水筒に口をつけたりと、休息を取り始める。
「そんじゃマロロ、説明頼むな」
「うー……」
そう促すウコン。しかし、マロロは地面に突っ伏したままでうめき声をあげるだけだった。
「……やれやれ仕方がねえ、俺が説明するか。こういうのは性に合わねぇんだがなぁ」
ウコンはため息をつき、荷台にたたまれた網をポンとたたいた。
「まずは、この網を設置する。そして……」
そう言いつつ、その隣に置かれた大甕をコンコンと叩く。
「その上に、この腐肉を煮詰めたモノをぶちまける」
その言葉を聞き、先ほど荷車に乗ったことを覚えてます。
そんなものの隣で休憩をいたこともそうだが、倒れた時を考えると……中々悲惨だ。
「こいつは奴らの大好物らしいからな。匂いにつられて、ここら一帯にいるやつ等が寄ってくるはずだ。この網に乗ったが最後、脚がからんで動かなるって寸法さ」
なるほど、と感心る一方で弱そうな網であんな図体のでかい虫の脚を取れるか心配になる。
「そこでマロロが一発でかいのをぶちかまして一網打尽、網から漏れた奴ぁ取り囲んで叩く。まっ、ギギリぐれぇ俺たちの敵じゃねえってことだ」
そしてにやりと笑うウコンに、皆も笑い声をあげた。
「…………」
そんな様子を見てもどこか不安を覚える。
自分の何倍もの大きさを持ち、頑丈そうな殻を持つばけものだ。
ただ、これまでに見てきたヒトたちを見て、自分の常識にとらわれていけないとも感じ始めている。
「ハク、やっぱり不安?」
「ああ、いや…………せめてもう少し頑丈な罠にするとか、いやいろいろとな」
そんな自分の様子を見かねてか、クオンが話しかけてくる。
確かに不安を少し感じる事があったため、現実的な心配事を少し漏らす。
「ハクは心配性かな。相手はギギリなんだから、多少大きかったとしても、今の罠で十分だよ」
「そうはいうが、どうしても自分は罠が引きちぎられ連中が蹴散らされる場面しか浮かばんというか……」
そういうと周りの男たちが笑って背中をたたく。
「おいおい兄ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だって」
「そうだぜ。俺たちはもう何度も、この手の雑役をしてるんだ。ギギリじゃ物足りねぇぐらいだ」
そういって笑い飛ばしてくれる。その様子に少し心が軽くなる。
「そういうことだぜアンちゃん、心配すんな。だが、おめぇらちぃと油断しすぎだ。何があるかわからねぇんだ、くれぐれも気ぃを抜くな。それに兄貴の部隊の連中が妙に殺気だってやがる。さっき話を聞くと、密猟者を向こうで発見したらしい」
「密猟者ですかい? ……ギギリの?」
「そのようだ。一応兄貴のほうで今ぐらいから確保、殲滅を行うようだから、もしかしたら兄貴のほうで駆逐されてるかもしれねえが、手負いの獣ほど恐ろしいものはいねえからな。その辺、気を引き締めて行けよ!」
その掛け声とともに、男どもの「おー!」という声。
「あと、あのねぇちゃんの手厚い看護を受けたいからって、ワザと怪我するような真似はするなよ。ンなことしたら報酬を差し引くからな」
「あら、ばれてらぁ」
『ハハハハハ──―』
男の声にドッと笑い声があたりに響く。
いや、それでも看病してもらえるならと、勝手なことを語り合う男たち。
クオンも曖昧な笑みを浮かべていたが、どちらかと言えば苦笑いに近いものだった。
皆、気負うこともなく余裕綽々だな。これりゃあ、ギギリなんて簡単に駆除できるというのは本当らしい。
つまりこいつらの身体能力は、こっちの常識をはるかに超えているってことで……
まいったね、クオンの『見捨てられたら野垂れ死にする』と言ってた意味に、やっと実感が沸いてきた。
「どうかした?」
「いや、何でもない」
少し眺めていると、そのことに気づき声をかけてくれるクオン。
自分は少し軽くなった心で改めて戦場となる場所を見渡す。
「…………」
「ハク、緊張してる?」
「……いや、べつに」
いや、している。今でもあのギギリ、思いだすだけでも震えがする。自分は連中とは違う。あんな化け物を相手に、緊張しない方がおかしいし。
「ハク」
自分を奮いたせるためにいくつもの言い訳を自部に言い聞かせる。
すると、優しく微笑みクオンが自分の名を呼んだ。
「ん?」
「……他人は他人、ハクはハクだよ」
「ん?」
「ハクには立派な才能があるよ。それは誇っていいと思うな」
「……」
「違う?」
「……そうか」
「うん、そうだよ」
その笑みに、何故かフッと心が軽くなった。
「そうか」
「うん、ハクみたいな人は悪運だけは強いもの。野垂れ死ぬとしても、こういった荒事ではしぶとく生き残るかな」
「……おい」
……ホント、まいったね。どれだけ不安そうな顔をしてたんだか? まぁ、そうだな。確かに他人は他人、うだうだ考えても詮無きことだ。それに、ここまで差があると、呆れるというか何かどうでもいい感じになってきた。
「あはは」
「なんだ、人の顔に何かついているのか?」
急に笑い出すクオン。自分が質問すると、安心したような声で話してくれる。
「ううん、なんだかすっきりしたみたいだから」
「うん、悪くないと思うよ。そうだハク、これを渡しておくね」
クオンが何かを手渡してきた。
「これは?」
金属製の扇? ……鉄扇というやつか?
金属だっていうのに握りの部分が随分と摩耗していることからして、相当使い込まれているようだな……。
「それを使って。武器が必要だろうから貸してあげる」
「そいつはありがたいが、大切にしているものなんじゃないのか?」
使い込まれているのに、表面はさび一つなく丹念に磨きこまれており、手入れも行き届いている。日頃から大切に扱われているのだろう。
「貸すだけかな。後でちゃんと返してね」
「判った」
『後で』……か。
受け取った扇をぐっと握りしめる。
初めて触れるはずなのに、不思議と手になじむ気がした。
ただ、扇の模様、さびではない何かのシミが、妙に気になったが。
その瞬間、再び扉が見える。
その扉、気づけばいくつかの可鎖で封がしてあり、その鎖一本一本に様々な形の南京錠がついている。
気づけば手元には鍵があった。
そのカギを眺めていると、そのカギは一つの南京錠に吸い込まれ、南京錠が外れる。
すると、鎖は砕け、ヒカリとなり自分の体に吸収される。
「くっ──ー」
何か、体の内側が作り替わるような不思議な感覚がした。
「ハク?」
クオンの心配そうな声が聞こえる。
「なんでもない。少しめまいがしただけだ」
「……そう」
クオンは心配そうにするも、笑いながらそういった自分を立ててくれたのかそれ以上は聞いてこなかった。
自分は鉄扇を見て扇を目一杯広げる。そこから広げようとすると何か引っかかりを覚える。
「……」
なぜか使い方がわかった。
まるで知っていたかのようなに。それに、この鉄扇も馴染むどころじゃない。
持っていないと少し不安を覚えるほどだ。
どうしてという疑問は尽きないが、ウコンは罠の準備を始めたのを見てとりあえず記憶の隅に追いやる。
今は、目の前のことに集中しなければ。
すみません。長くなりすぎてオリ主出せませんでした。次回こそは出ます。