うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
Sideハク
自分がクオンに怒られていると、ウコンが肩を組んでくる。
「わりぃな、アンちゃん。大勢のけが人が出た以上、今は一人でも人手が欲しい」
「なんだよ、あのボロギギリもあの男に倒してもらえばいいじゃないか……って、どこ行った?」
「あの方はもともと別の任務で来られている。その途中で仕方なくあれを倒したというだけだ」
「そんな……」
「仕方ないかな。その分、都での口利きはお願いかな」
「かまわないぜ! 兄貴も口添えしてくれるようだから大抵のことはかなうと思っていい。まあ、ほどほどにしとかないと痛い目を見ると思うから願いはほどほどにしておけよ」
「わかったかな。それじゃあ、ウコン。どうするのかな?」
「そうだな……。マロロ、もう一度ボロギギリの情報を頼む」
「判ったでおじゃる。あれがきっとこのあたり一帯のギギリの親であることはいいでおじゃるな?」
「ああ、理解している。確か繁殖期になると一体が成長して親になるんだったな?」
「そうでおじゃる。親となった個体はこのエサのために子を従えて手当たり次第に襲い掛かるのでおじゃる」
「だから俺たちに襲い掛かってきた……と」
「おそらく、でおじゃるが。本来なら繁殖期には遠いし、繁殖はもっと暖かい地域で行われるのでおじゃるが、ごくまれにこんな辺鄙な場所でおかしな時期に大きく育ってしまうへそ曲がりがいるというお話でおじゃる」
「ありがとう。……今回は意図して寒いところで成長したボロギギリを確保しようとしていた節があるって言ってたな」
「ウコン?」
「なんでもねえ。それよりどうするかねぇ……」
マロロは本当に学士と呼ばれるだけの知識を持ち合わせると感じ感心していると、ウコンが何やらつぶやいていることに気づいた。
話しかけてみると、何でもないとはぐらかさせたがそれよりも奴の倒し方だ。
「親ってことは、番なのか?」
「見たいでおじゃる。詳しいことまではわからないでおじゃるが……」
「むぅ……」
何やら考え込むウコン。
「どうした?」
「いや、ちょっとな……」
「ウコンの兄貴、クレスの大兄貴よりの伝言です。例の奴が索敵を行いながらこっちに来ている。それと番なのに一匹しか見えないのが気になるとのことです」
その報告にざわめく周囲。
「しっ、気づかれちゃう」
それを制したのはクオンだった。
「クオン?」
クオンの大きな耳がピクリと動く。
風に乗って聞こえてくるかすかな音。遠くの茂みがざわざわと揺れる。
「来てやがるな……」
「まさか、においを追いかけてきているのではおじゃらないか?」
「まずいな、怪我してる連中は今村に運んでる。……やるしかねぇか」
「なに?」
その言葉に疑問を持つと同時に共にきた、村人が「かないっこねえ!」と騒ぎ立てる。
「俺も無茶だとは思っているさ。こう体勢が悪くちゃ策も立てようがねぇしな。本当なら村に戻って体勢を立て直したいところだが、負傷者も多く、村での戦いとなる可能性が高い。……ならば、ここで何とかするしかねえのさ」
ウコンの言葉に周囲が静まり返る。
「そう言えば、ハク?」
「ん?」
クオンが話しかけてきた。
Sideウコン
策の立てようがなく困っていると兄貴が一目置ている二人が何やら話していた。
「そう言えば、ハク?」
「ん?」
「あんなのに襲われてよく平気だったね」
そういえば、アンちゃんは襲われたって言ってたな。……襲われた?
「無事なんかじゃない。あと少しで食われるところだったんだぞ」
……待て、そういえば兄貴は、『番なのに一匹しか見えない』と言っていた。
「あんちゃん、もしかして俺たちを襲ったやつの番は死んでるのか?」
「つ、番? ……ああ、そういえばそうなるな。自分を襲った方は死んだわけだから」
「死んだ? あれをアンちゃん一人で倒したのか?」
「違う違う。その襲われる寸前に、あのタタリとかいうバケモノが現れて、ボロギギリってのを食ってくれたから助かったんだ」
「ああ、それでそっかあの時……。あはは、それで今度はタタリに食べられそうになっていたんだ。ホント、運がいいのか悪いのか」
「笑い事じゃないんだぞ」
「それでも助かったんだから、いい思い出になったんじゃないかな?」
「今まさにその思い出が増えそうなんだがな。まったく……いっそのことあいつもタタリが喰ってくれたら」
「え?」「なに?」
アンちゃんの言葉に俺とねえちゃんが喰いつく。
「ん?」
「いまなんていったのかな?」
「思い出が増えそう……か?」
「その後だよ。あんちゃん」
「いっそのこと、あいつもタタリが喰ってくれないかな?」
そうか、その手があったか!
ねえちゃんも気づいたようで「タタリに食ってもらうことを話すとあんちゃんが現実的でない、それ以前にタタリがいない」と否定する。
しかし、ねえちゃんはこの場所に見覚えがあるようで、あんちゃんに周囲を見渡すように言う。
すると、アンちゃんも何か思いだしたようにクオンを見る。
「というわけだから、ちょっとタタリを連れてくるね。だからハクたちは何とかしてあのボロギギリを向こうの崖に突き落としてほしいな」
ねえちゃんのお願いに全員が苦笑いになるが、その前に示したねえちゃんの覚悟に全員がやる気を出す。
あんちゃんは文句をいっているがなんだかんだやる気のようだった。
「ちょっと待った。ねぇちゃんは、大丈夫なんだな?」
「……ふふん、これでも逃げるのは得意なんだ。心配ご無用かな」
「そうか、わかった。……すまないが、たのんだ」
最後にねえさんはハクの前に行き、耳打ちをすると森へ走り去っていった。
その様子に見惚れているところ悪いが時間がない。
「ンで、どうする、アンちゃん?」
「お前もこっちに丸投げかよ!」
まあ、そう思うかもしれないがねえちゃんと二人で話進めちまってただろ?
「だったら、アンちゃんに任せるさ」
そういうとめんどくさそうな顔をしながら策を提案してきた。
そして、そんなアンちゃんに大兄貴からの伝言を伝えると、にやりと笑った。
「まあ、こんあところか?」
「この状況で……早いな」
俺は思わず純粋な思いを口に出してしまった。
そのまま俺は仲間に今の作戦をを伝ええると出発の手立てを整える。
さて、お手並み拝見といこうか、アンちゃん。