うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
sideハク
戻ると宴が開かれて、策を誉められて、雪山でもことを心配されて、クオンのすごさについて話し、ウコンは俺たちに感謝を示した。
まあ、あと付けくわえておくとすればマロロになつかれたことくらいか。
その後、都関連の話や自分の話をしていると、ウコンより「ともに都に向かわないか?」と打診を受けた。彼らはクジュウリから都への荷運びの受け渡しとして逗留していたらしい。
怪我をした人達は無理に動かすこともできないので村において、その人数の補充も兼ねて自分たちを誘ってきたらしい。きちんと報酬も提示してくれて、クオンは薬師、自分は相談役として必要性を示してくれる。
二人旅も理由にしようとして、クオンが決して弱くなかったことを思い、最終的に数的有利を持ち出さずにいられなかったときは苦笑いしてしまった。
自分としては悪くない話だとも思ったが、クオンが断ったのを見て自分も同意する。
クオンの言葉を借りるわけではないが、自分は今だに右も左もわからない。
最近、文字が自分の記憶と違うものを使うこと知り、習い始めた。(強制)
それにこう言っては何だが、自分の奥底でクオンを守りたいと思う心がある。
……ったく、守られる側なのにえらそうなことでと思うが、そう思ってしまうのは仕方ない。
そう考えていると、クオンはウコンにはっきりと断った理由を伝えた。
確かに、ウコンやそれなりに腕の立つ連中がいる荷運び。……中々重要な荷物と考えるのが普通だろう。それに付随してそれを狙う賊が現れるのも自然だ。
それを聞くと、ウコンは賊に襲われやす事は否定して「もう少し考えておいてくれ」と言って部下たちの輪に戻っていった。
……
…………
それから時刻は夜半を過ぎていたが、宴はまだ終わる様子はなかった。
自分は酔いを醒ますために夜風にあたろうと外に出る。
キンと冷えた風が頬をなでる。
「ふぅ……」
火照った身体が少しずつ冷えていく感覚が心地いい。
背後を振り返ると、旅籠屋から暖かな光と陽気な声が漏れ出てきていた。
マロロがちょうどウコンのまねをして、それに対する笑い声が聞こえる。
……あんなことがあったというのに明るい連中だな。
そう、皆が明るかった。
あの二人も……。
ふと雪山でクオンとの関係をいじられたこと。
軟弱と笑いながらも、気を使って水筒を貸してくれたこと。
だが、その二人はあの宴にいない。
もう二度と共に笑い、酒を酌み交わすことはないのだ。
なのに、なんであいつらはあんな風に笑えるのだろうか……?
こんな仕事をしているから?
文明が分明なだけに死という概念に対する価値観が自分と大きく違うのかもしれない。文明が文明なだけに
見た目も自分と違う。もしかしたら、種としての構造の違いか?
それとも死ぬことは覚悟の上ゆえに……?
それとも本当に薄情なだけ? それはないと信じたい……。
それなら、なぜだれも死者を悼む素振りを見せない。
そう誰も。……あのクオンでさえ。
そして自分も。あんなことがあったというのに自分自身も不思議と動じていなかった。
まだ、衝撃が大きくて整理がついていないだけかもしれない。
そう思い、少し物思いにふけっていると声を掛けられる。
「んお? どうしたいあんちゃん、そんなところに突っ立って」
「ウコン……」
片手にぶらりと酒瓶を下げたウコンがこちらに歩いてくるところだった。
「夜風にあたりに来てな……」
「そうか……あんちゃん、よかったらちょっとそこまで付き合わねえか?」
自分は上着を取りに戻り、夜道をウコンと二人静かな夜道を歩く。
道中、クオンのことを聞かれたが正直自分にはわからないと答えた。
逆に気になるかと聞いたら、惚れているわけではないが何故だか気になるらしい。
その声音はどこか警戒と困惑が混ざっていた。
その声に対し、自分が少し警戒心を持つとよほど顔に出ていたのかウコンは「なんでもねえ」と考えをやめて、純粋にクオンの技量を誉めた。
自分が茶化すようにクオンの食欲の技量を誉めると、それを認めるが身のこなしと胆力のことらしい。
まあ、タタリ相手にああも動けるということは普通のヒトには無理だということだろう。
自分が少し考えこむさまを見てウコンはクオンが稀に自分によく言う「か弱い薬師」に何度突っ込みそうになったことかと苦笑いをしていた。
すると、木々の途切れ目が見てきた。
ウコンが静かに足を速めたのを見て、自分も知れにならい静かに歩く。
そこは集落の外。小さな花が咲く野原一面に一抱えほどの大きさの石が均等に並んでいた。
これは……墓標か?
そう思っているとウコンが一つに墓の前で止まり酒瓶を置く。
「辛気臭いところに連れてきてすまねぇな。酒の一杯でも手向けねえと寝覚めが悪いからよ」
その墓は華やかだった。
それは数多くの御供え物らしき、花や食べ物、酒が供えられていた。
そういうことなのだろう。自分はようやく理解した。
「……遅くなったな。俺が一番最後になっちまったか」
ウコンはつぶやくように墓石に語り掛け、酒瓶を墓石の隣に置く
やはり、勝手に来ていたか。
どうやら自分たちの前ほかの連中も来ていたようだ。
「俺らはみんな、湿っぽいのが苦手でよ。それで兄貴を見習って、見送るときは笑顔で見送ってやる……そう決めているのさ」
「そうか……」
私はそうとしか言えなかった。
仲間をなくしてつらくないはずがなかった……。
「俺たちの仕事は最悪、戦争での傭兵替わりだったりすること気もある。戦場では死んだら誰ももう見つけられねえ。その点こいつらはしっかりのこの地で眠った。しっかりと」
ウコンはそういって片膝をつき祈りをささげた。
「今世の命、確かに見届けた。いまはただ安らかに眠れ。何れ常世にて再び盃をかわそうぞ」
何かをつぶやいたウコンは真剣そのものだった。
……ウコン?
「さて、もどって飲み直しますか。行こうぜ、アンちゃん」
「あ? ああ……」
自分の返事を聞いて歩き出すウコンを自分は追いかけようとする。なんだろう最後に感じた違和感は。
──―去り際。お供え物の中に一口では食べきれないほどの大きなあまむ焼きがちらりと見え、その隣には貸してもらった水筒が仲良く並んでいた。あまむ焼きではなくアマム焼きでは?