うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~   作:othello

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第1作目 去りゆくものへの子守歌の少しばかり時がたったところから物語は始まります。


うたわれるもの 偽りの仮面前
帰還者


 

 

 

「おお、もどったか、クレス」

 

 

 

「おかえりなさい、クレス様」

 

 

 暗く、どこか神聖さを感じさせるその空間。その一番低いところで頭を垂れる一人の男。

 その中でも2段ほど高いところには大きな簾がかかっており、奥には老人ながらも活力のあふれた声が聞こえてきた。

 その簾の前にたたずむ女性、真っ白な肌、きれいな白髪。

 浮世離れした女性と老人の二人は男の帰還を心待ちにしていた様子だった。 

 

 

「ああ、ひさしぶりかな。二人とも、心配をかけた……ケホッ!」

 

 

 男は口元に手を与えるとその手には血がついていた。

 

 

「クレス!?」「クレス様!?」

 

 

 二人が驚きこちらに来ようとするのを片手で止める。

 

 

「……イコールを使いすぎただけだ」

 

 

 

「……ふむ、ほのか。準備を頼めるか?」

 

 

 

「かしこまりました、我が君」

 

 

 ほのかと呼ばれた女性はミトと呼んだ老人の言葉に頭を下げるとどこかへ消えてゆく。

 

 

「クレス、一体かの地でなにが?」

 

 

「……アイスマン計画。覚えているか?」

 

 

 クレスの言葉に老人は息を詰まらせる。

 

 

「覚えているも何も……」

 

 

「神は実在したよ。私達と同じ青年の中に同化していた」

 

 

「まさか!」

 

 

「そして、もう一つ。私はトゥスクルに敵意を持つことはできない」

 

 

「トゥスクル?」

 

 

「あの地を、彼の元に平定してきた。その国がトゥスクル」

 

 

 その言葉に老人は少し驚いた後、小さく笑った。

 

 

「お前さんが惚れたのならよほどの者なのだろうな……」

 

 

「聖上、準備完了しました」

 

 

「お母さまより、準備ができましたと報告をお願いされました」

 

 

 クレスの後ろより現れた白と茶色の肌の双子。

 その言葉を聞き、聖上と呼ばれた老人はその場所に連れて行くように命令を下す。

 クレスが出てゆき、一人残された老人は空中にスクリーンを映し出し、そこに光る記録を見ながら遠い昔を思い出すように目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トゥスクル、か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのスクリーンには赤いマーカーから延びるように『master・key』と記されたトゥスクルがあった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 クレスは培養液で満たされた巨大なガラスの筒の中に入り、眠っていた。

 

 

 

 この機械は延命装置の改良版で、生命力移譲するものだ。

 

 

 

 クレスの眠る筒の隣には、クレスに似た青年のようなものが入っている。

 

 

 

 しばらくすると、『ビー』という音と共に両方の筒が泡に包まれる。

 

 

 

 泡がやむと青年の入っていた筒から培養液と青年が消え、クレスの入っていた筒は前方が開き、先ほどより若々しいクレスが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。定期メンテナンスとはいえ、いまだにこの感覚はなれんな」

 

 

 

「クレス様」

 

 

 

「タオルと着替えです」

 

 

 

 筒から出たクレスは筒から出たところで待ち構えていた双子から荷物を受け取ると、体をふき着替える。

 

 

 

「うん? そういえば、お前さんたちは何者だ?」

 

 

 

「カムナギ」

 

 

 

「鎖の巫女のウルゥルとサラァナです」

 

 

 

 二人がそう自己紹介すると、クレスは頭をひねる。

 

 

 

「うん? ……それはほのかさんの後継素体となる双子の名じゃなかったか?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「私たちがそうです」

 

 

 

「なに? 俺が調整に入る前はもっと幼子だったじゃないか」

 

 

 

「……いみふ」

 

 

 

「いつのことをおっしゃているのですか?」

 

 

 

「はぁ? ……うん。あれ、待て。なんだ、この感覚……がぁ!?」

 

 

 

 すると、クレスの頭の中に様々な記憶が入ってくる。

 

 

 

 やがて、頭を抱えながらクレスは自身の入っていた延命装置を眺めながらつぶやく。

 

 

 

「……50年? 俺はたった50年で改めて調整をしたのか? しかも、ここ10年近くの記憶が、曖昧だ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『聖上、おにげくだぐべぇ──―』

 

 

 

 息を切らしながら執務室に入ってきた文官。

 

 

 

 その文官は何かの侵入を拒むように扉を抑えていると、それ以上の力で扉が開き吹き飛ぶ。

 

 

 

『俺は、ヤマトっていうところから来た、クレスだ。俺の血をざわつかせる奴はどいつだ?』

 

 

 

『なっ、賊か!? ベナゥイとクロウはどうした? ……って、豪族の調略か。しかたねえ、兄者。俺が相手をする、その間に逃げろ!』

 

 

 

『『若様! 我々も!』』

 

 

 

 茶髪の青年と中性的な顔立ちの双子が奥で執務を行う仮面の男を守るように立ちはだかる。

 

 

 

『ははっ、血気盛ん、忠誠心もあると見た。……だが、若いな』

 

 

 

『なにっ!? ……兄者!』

 

 

 

 気づけば男は仮面の男も前に立っていた。

 

 

 

『……どうやら、君に敵意はないように見えるけど。ここまで来た理由は何かな?』

 

 

 

『うん? ……血に従ったまでだが。そうだな、仕官しに来た!』

 

 

 

『『『はぁ!?』』』

 

 

 

 

 

 

 

『旦那! いるかい?』

 

 

 

 人のいる気配を探り、部屋に入るといつもの見慣れたメンツに羽の生えた人たちがいる。

 

 

 

『はぁ、クレス。今日はオンカミヤムカイの方が来るから、朝早あつまってくれといっていたじゃないか』

 

 

 

『……美しい』

 

 

 

『クレス?』

 

 

 

 俺は部屋には入るなり一人の女性に目を奪われた。その女性のもとにまっすぐ進み正面で達ひざとなり、手を指しだす。

 

 

 

『美しきお方、お名前を教えていただけないでしょうか? わたしは、このトゥスクル客将、クレスと申します』

 

 

 

『わたしは、────の────―と申します』

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「──―くぁ!? はぁ、はぁ」

 

 

 

 断片的に記憶が出ては消え、出ては消えを繰り返す。

 

 

 

「クレス様?」

 

 

 

「大丈夫でしょうか?」

 

 

 

「ああ、いつものことだ。気にするな」

 

 

 

 心配する双子をよそにクレスは立ち上がり、ふらふらと歩きだす。

 

 

 

 実際に、延命装置を使ったとはこんな感じだ。

 

 

 

 肉体の生命力を偽りの生命から徴収し、生命力を取り戻すことで全体的若返り前回の体の記憶が一時的に抜け落ちる。その情報が魂よりフィードバックするため先ほどのような頭痛が起きる。

 

 

 

 ただ、今回は少し事情が違った。

 

 

 

 ──―魂が、傷ついていた? 

 

 

 

 そのために先ほどのような不完全な記憶が自分に返って来た。

 

 

 

 こんなこと、まだミトととともにヤマトを起こして間もないころに最初の仮面が暴走して、己の力を使いきりかけた時以来だ。

 

 

 思い出せない。何か大切なものを...。人を...。

 

 クレスは晴れない霧の中にいるような思いを抱えるのであった。

 

 

 

 

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