うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
Sideハク
野営地の設営を終えると、疲れて寝てしまった。
起きると日も沈むところでのんびりしていると、ウコンからウマ(自分にはダチョウにしか見えない)の手入れを頼まれた。たわいもない仕事と思い日受けたのが失敗だった。
ウマには蹴られそうになるわ、よくわからない二人組に驚かされるわ、途中でココポが乱入してくるわ。……めっちゃ疲れた。
「おう、アンちゃん暇してるか?」
「俺も邪魔させてもらうぜ」
一仕事終えて戻ってくるとウコンが声をかけてくる。その隣にはクレスがいる。
「ウコン、あのウマたち凶暴すぎやしないか?」
「凶暴? 何言ってんだ、多少気性は荒いがおとなしい奴らばかりだぞ?」
「はぁ? あれがか!?」
自分がかなり驚くと、ウコンの隣でクレスが笑う。
「はは、ウマに相手に相当疲れたみたいだな」
「マジで疲れたんだよ……」
「まあ、それは置いておいてだ」
置いておかれた。あれだけの目にあったというのに……。
「あんちゃん、得物の手入れしたかい?」
「獲物の手入れ?」
「やっぱりか、お前さんは……っと、何でもねえ。しかし、得物は自分の命預けるんだ手入れしねえといざって時に後悔するぞ」
クレスが途中まで何を言いかけ、一度口をつぐみ言い直す。
そういってクレスは外套の中に手を入れると木でできたこん棒を取り出す。
「まあ、こいつは磨くだけしかできねえが鉄はさびるからな。メンテナンスは大切だ」
「まあ、それはわかるが……ウコン?」
「あんちゃん……いや、なんでもねえ。しかし久しぶりに見ましたね兄貴のこん棒。たしか、ユグドラシル、でしたっけ?」
「そうだ。まあ、いつもは弓がメインだしな」
「へえ、あんた弓が得意なのか」
「ああ、ちょうどいいから。俺もお前さんたちと雑談ついでに矢でも作っておこうかと思ってな」
そういって持ってきた袋の中の見せてくる。磨かれた木の棒や矢じりが入っている。
「そういうことで、アンちゃん。少し得物貸してもらっていいかい?」
「ああ、すまない。しかし、鉄扇は珍しいと思うができるのか?」
「こんな商売続けてりゃ大抵のものはな。珍しいができないわけじゃねえ。それにクレスの兄貴がやり方を知っているらしくてな」
「まあ、友人が使っていたからな。その見様見真似ってところだ。やり方は教えた通りだ。やってみろ。……ただ、ハク。それは普通の鉄扇じゃなさそうだな。気を付けて扱えよ、ウコン」
「はぁ、それじゃあアンちゃん」
「ほいよ」
そういって自分はウコンに鉄扇を渡した。
ウコンは鉄扇を広げて「ほぉ……」とつぶやく。
「結構な代物とは思っていたが、コイツはぁまた……」
「ああ、そういえばそいつからくり付きだったな」
「お、アンちゃん。なんだい気づていたのかい」
「まあ、戦いの中でな」
「しかし、おもしれえな。曰くつきの武器かい?」
「いや、それは借りたからわからんが、呪われているのか?」
そういうとウコンとクレスは顔を見合わせて笑う。
「ちげえよw、まあ呪われていたとしても何の不思議もねえが」
「不思議じゃないのかよ」
「まあ、アンちゃん。それでこいつが何できているかだ」
そういってウコンが扇を常で弾くと、キンという甲高い音がした。
「鋼じゃねえな。もっと硬い別の何かだが判らん。兄貴はわかります?」
「……さぁな?」
「まぁ、あれだけアンちゃんが乱暴に扱ったっていうのに、欠けも曲げもしてやしねぇとはな。そんで次はこの仕掛けだ」
ウコンが扇を目一杯広げると、カチッ……という音がする。
すると金属の扇面から刃が飛び出してきた。
「仕込まれた隠し刃が飛び出すか、……やはり、あいつのか」
「兄貴?」
「いや、友人も似たような面白いものを持っていてな。ちょいと思い出しただけだ」
「しかし、エグイな」
「お、アンちゃんも気づいたかい? この扇面に細やかな溝が彫られている」
「この刃先に触れたらかすり傷でもぞっとするな」
「そうだな、ちなみにうっすらと模様ができているだろ? これは血がしみこむまで使い込んで、何度も手入れされているってことだ。いったいどれだけの命を食らってきたのだか」
「だから呪われているかもしれないってな」
「おい、冗談のつもりだろうがシャレにあんってないぞ」
「兄貴、言い出したのは俺だが俺もそう思うぜ」
「はは、すまんすまん」
そうして場が少し温まったところで鉄扇の『要』を外し扇をバラバラに解体するウコン。
幸い歪みや破損は見られないようで軽い手入れをしてくれることになる。
……しかしクオンはなんでこんな物騒なものを。
そう考えながらウコンの作業する様子を見ていると、「あののねぇちゃん、よっぽどあんちゃんを買っているか、信頼しているらしな」と言ってくる。
「クオンが、自分を? ……どうしてそう思う?」
すると、ウコンはバラ場になった扇の一枚を夕日にかざして、罅などを確認しながらにやりと笑う。
「こいつを見りゃあわかるさ。こんだけ心込めて手入れしてあるんだ、余程大切にしてきた思い入れのある品だろう。そいつをなんとも思ってねぇ奴に預けるとはとてもおもぇねがなぁ」
「…………」
「おいおい、てれなさんなよ」
「うっせぇ///」
「うしッ、こんなもでいいか」
ウコンはバラバラにした扇を一枚ずつ布できれいに拭いた後、それを組み立てていく。
「ほれよ、できたぜ。今度は自分でもできるように手入れの仕方をねぇちゃんに教わっておくんだな」
「あ、ああ……」
「こりゃ、だめだな。ウコン、しばらくそっとしておいてやろう。行くぞ」
「ええ、それじゃあな。あんちゃん」
礼を言わなきゃならないんだろうが、それを忘れて受け取った扇をじっと見つめる。
先ほどのウコンの言葉が脳裏に浮かんだ。
……思いが込められたものか。なぜクオンはそんな大切なものを自分に渡した。
意味もなく扇を広げたり閉じたりしてみる。
……なぁ、クオンは何を感がている。お前の込められた思いとはなんだ?
すると、頭がまた痛む。
『ハク!』
『どうしてあなたがついていながら……』
『二人っきりの時はハクって呼んでもいい?』
またしても、暗闇に浮かぶ扉の前に立つ自分。
その奥から聞こえる声。声は……クオンの物か?
少し聞き取れた声。それと同時にまた現実に戻ってくる。
「今のはお前のせいなのか? それとも、お前を基に……なわけないか」
モノ言わぬ扇は残照に照らされ鈍く光るのみであった。
そして黒き空間にある扉にかけられた無数の鎖の一つがシャリン……と音を立てて少し緩むのであった。