うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~   作:othello

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VSモズヌ

 Sideハク

 

 ウコンは仲間を引き連れ、討伐衆と合流するため山道の奥へと分け入っていった。

 

 半刻ほども経っただろうか? 

 

 やがて遠くから、何か激しくぶつかり合うような音と、大勢の男たちのあげる鬨の声が聞こえてきた。

 

「はじまったか……」

 

 音の大きさから察して、戦いはかなりの規模みたいだ。

 

 あんなものに巻き込まれたら命がいくつあっても足りん。

 

 そう考えていると「ハク様……」と声を掛けられる。

 

 振り向くとそこには巨大な鳥。

 

「うぉ!?」

 

「?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

 あいかわらず、このでかい鳥にはなれないな。

 

「それで何か?」

 

 そう聞くと、ココポに乗るルルティエは少し目を伏せて申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

 

「あ、はい。本当にごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって……」

 

 こんなこと? ああ、ここに残ってルルティエを護ることになったことか? 

 

「いや……別に気にすることないさ」

 

 あの合戦に駆り出されることと比べれば断然ましというものだ。

 

 しかもウコン直々の頼みだからな。気兼ねすることもなくこうして高みの見物でいられる。

 

「ルルティエのほうこそ怖かっただろに。大丈夫なのか?」

 

 山賊達にはウコンの手の者が混じっていたとはいえ、万が一ということもあった。

 

 もしあのモズヌという男が強硬手段に出ていたら……

 

 ──―ザワッ

 

 木々から鳥が飛ぶ。

 

「は、ハク様。大丈夫ですので……」

 

 その声に我に返る。なんだか、感情がうまくコントロールできていない。

 

 こんなにも自分は激情しやすかったか? 

 

「クオン様もいてくれましたし、その……もちろんハク様も……」

 

 そういってくれるのはうれしいが、自分がいたところであの数相手にどうにかできたかは怪しいものだ。

 

「立派だな、ルルティエは。さすがお姫様ってところか」

 

「そ、そんな……っ! お姫様なんて、わたしは……」

 

 はて、そんな恥ずかしいことを言ったか? 

 

「しかし、まあ……結果的にはウコンたちについてきてよかったのかもしれないな」

 

「ふふん、こんな大変な目にあったのに?」

 

 少し遅れてルルティエを追う形で来たクオンがそういう。

 

「ああ。もしウコンたちに同行しないでクオンと二人で旅をしていたとしても、やはりこの道を通ったはずだ。そしたらあの山賊達に襲われていたかもしれん。そうなったときに今みたいに無事に切り抜けられたかどうかは判らんからな。いくら向こうにウコンの協力者がいるからと言って、関係ない旅人まで助けてくれるとは限らん」

 

 山賊達の信頼を得るためにあえて……ってのも可能性としてないわけではない。

 

「だから、ウコンについてきて正解だった。そう思っただけだ」

 

「……」

 

「…………」

 

 そういうとクオンとルルティエ二人が顔を見合わせ嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「そうそう、その通りでおじゃるよ」

 

「ぬおっ!?」

 

 背後からマロロが近づいてきており、思わず驚く。

 

「マロたちとハク殿は一蓮托生でおじゃるよ」

 

「マ、マロロ? お前、なんでここにいる? ウコンたちと一緒に行ったんじゃ?」

 

「何を言うでおじゃる。ハク殿を残していくのが心配で、ウコン殿に頼んでここに残してもらったでおじゃる」

 

「そ、そうか……」

 

 確かにマロロの呪術は頼りになる。

 

 一緒にいてくれるのは心強い。心強いはずなのだが……。

 

 素直に喜べないのはなぜだ? 

 

 その後、マロロにはウコンたちの作戦が共有されていなかったことの愚痴を聞きつつ、クオンの持ってきていたお弁当を食べることにする。

 

 すると近くの石碑が動き出す。

 

 んんんん? 

 

「くそがっ! ノスリの野郎手引きしやって」

 

「あーあ、あれはお頭が悪いんですよ。いくらお頭好みだからと言って……」

 

 なに!? 確かあの時のモズヌとか言うやつ。

 

 ウコンの奴、取り逃がしたのか!? 

 

「しかし、あの客将野郎も隠し通路には気づいてねえみたいだな。とりあえず、ひとまず逃げ……」

 

「……」

 

「…………」

 

「うわぁ!?」

 

 チッ、何やってんだか。

 

「マロロ、クオン、ルルティエ、下がれ。マロロ、呪術準備」

 

「て、てめえら待つじゃん! なんでこんなところに」

 

「うるせぇ、自分は本来喧嘩はしないんだが。なんだかな……」

 

「な、なんだよ」

 

「覚悟しろ」

 

 自分御中で鎖のはじける音がした。

 

 その習慣、ハクの周囲を一瞬薄く青白い光が渦巻く。

 

 ざわっ……

 

「おまえら、落ち着くじゃん。こんな奴ら蹴散らしちまえばいい話じゃん。それににいい土産も手に入りそうじゃん」

 

 そういってクオンとルルティエを見るモズヌ。

 

「っ……」

 

 小さくルルティエの悲鳴が聞こえる。

 

『……のと……よ……われ……』

 

 こころの奥で何か声が聞こえる。

 

 しかし今はそれどころではない。

 

「ハク、私も手伝うかな。この人数を一人では難しいと思うのだけど?」

 

「いや、ルルティエを護ってやってくれ。5人までなら抑えられる」

 

「……ハク?」

 

「どうした?」

 

「うんん……何でもない」

 

「そうか……」

 

 そういって自分は鉄扇を構える。

 

「うひぇひひひ、たっぷりかわいがってやんよ。よしテメェ等、女を取り押さえろ。男は袋にしちまえ!」

 

 そういって前に出てきた手下ABC。

 

「失せろ」

 

「「「っ!?」」」

 

 ―バタン

 

 気づけば男たちは倒れていた。

 

「ルルティエ」

 

「は、はい。」「安心して、守るから。でも数が多いから下がってね。クオン、申し訳ないけど任せた。危なくなったら、絶対に助ける」

 

「う、うん」

 

「は、はい……」

 

 顔を赤らめ戸惑い気味の二人。

 

「コココ……コッココー!」

 

「ココポ? あっ、に、逃げてください……」

 

「ルルティエ?」

 

「は、早く……」

 

「?」

 

「お、おねがいです。そこの方たち……逃げてください……」

 

 どうやら逃げるように注意しているのは自分ではなく目の前の山賊達。

 

「は?」

 

「……あ? 何言っての? そっちの兄ちゃんが強いからまだこっちには10人いるじゃん」

 

「このコ……普段はおとなしいですけど……おこるととっても凶暴になるんです。だから……」

 

「へっ、そんな脅し通用するとでも」

 

 ルルティエが懇願するように言う。

 

 それを一蹴しようとすると、ココポが駆け出し……。

 

「ぐぇ!」「ひぎゃ!」

 

 近くにいた山賊数人を、14,5メートル先まで突き飛ばした。

 

「へ?」

 

「お、おおう……」

 

「そういうこと……」

 

 モズヌは呆け、自分は驚き、クオンはどこか納得していた。

 

「コォォォォォォッ!」

 

 そのまま新たな敵に襲い掛かるココポ。

 

「クオン、サポートに入るぞ」

 

「うん!」

 

 その後は一方的だった。

 

 ココポが敵をかく乱、油断したところを自分とクオンが叩く。

 

「これで一通り済んだか? ……しかし」

 

「あれはかわいそう、かな?」

 

 そういう自分たちの視線の先では……。

 

「あひゃぁぁぁ、や、やめ……ま、待つじゃん。俺が悪かったじゃん。だからもうやめてくれぇ──ー」

 

 叫びながらココポにぼこぼこにされるモズヌの姿があった。

 

「あー、その。ルルティエ、さま? もうやめてあげては差し上げてはいかがでしょうか?」

 

 あまりにモズヌが不憫すぎて、そして想像を超える事態に思わず敬語になる。

 

「えっ? ち、ちが……私がやらしているのでは……。ココポ、もういいの……お願い、もう終わったの」

 

「コロロロロロ!」

 

 ココポの攻撃がさらに激しくなった。

 

『お願い』したらこうなるよな……。これはむごい。

 

「い、命だけは、命だけは助けてくれー、おねがいだ……」

 

「悪党とはいえ、少し哀れになってきたな……。しかし、許されざる修業をしたことは事実。煮るなり焼くなり、ルルティエの好きなようにすればいいんじゃないのか?」

 

「ちが……だから違うんです……」

 

 もう今にも泣きそうなルルティエ。

 

 そこに拍手の音が鳴り響く。

 

「……」

 

「おっと、やめてください。私はウコン殿の手の者です」

 

「確か、ノスリとかいうやつの仲間だったよな?」

 

「先ほどは失礼いたしました。ああすることになっておりましたので、申し訳なく思っていましたがご承知のほどを」

 

「……そうか、やはりお前たちが。だが、配下というわけではないのだろ?」

 

「おや、なかなかいい目をお持ちのようで」

 

 男はそういって不適笑う。

 

「て、テメェ、オウギ! こいつらとつるんでいるってことは、やはり裏切りやがったか」

 

「もとより、仲間などではありませんでしたから、裏切ったなどと言われるのは心外ですね」

 

「同じ盗賊を朝廷に売りやがったんだ。裏切り以外、何があるってんだよ!」

 

「同じ? 貧しいものから奪わず、犯さず、殺さずが我々の流儀です。力のないものを襲い、戯れに遊び、命を奪うあなた方畜生と一緒にされるのは甚だ不愉快」

 

「きれいごとを!」

 

「まぁ、あなた方と問答をするつもりはありませんのでどう思おうとご自由にどうぞ。……どうせすぐになにも言えなくなりますので」

 

「ま、まさか、おまえ……」

 

「姉上に対する罵詈雑言、汚い手で触れ……最後に言い残すことはありますか?」

 

 表情を崩さずそう言ってのける男に恐怖する。

 

「し、死んでたまるかってんだよ」

 

 すると、モズヌは男の不意を突き逃げ出す。

 

「今更無駄だというのに……先の見えないものは哀れですね」

 

 男はそういって刀の柄より手を放す。

 

 ──―ザッ、ザッ

 

 遠くよりウマの足音がする。

 

 武装し、上質な制服に身を包んだ集団がこちらに近づいてくる。

 

 先頭の男はほかの男たちと違い、制服ではないが何よりの顔につけた仮面に目が行く。

 

「あの仮面……」

 

 クオンが何かをつぶやくが、自分の中にも変化があった。

 

 自分の中の何かが彼の仮面に反応した。

 

 しかしそれもすぐに収まり、再び鎖が何本か巻き付く音がする。

 

 先ほどより感じていた力は消え、自分はその場に腰を下ろす。

 

「おっと……」

 

 力が抜け、座り込む。

 

「あのお方……まさか、オシュトルさま!?」

 

 ルルティエの驚愕する声に、あの男がただ者でないことがよくわかる。

 

 おそらく都の者だろう。

 

「ちくしょう……オウギ、てめぇええ!」

 

「ですから、無駄だと言いましたのに」

 

「これもおめえの仕業かよ。オウギィィ!」

 

 モズヌが武器を振りかぶる。

 

 それより早くオウギはモズヌに峰内を当てる。

 

 崩れ落ちるモズヌ。

 

 今の自分では交わすことのできない動きに、驚きが隠せない。

 

 動かないモズヌにルルティエが言葉を失う。

 

「ご安心を姫君。峰打ちです。切り伏せるその価値もないので」

 

「以上、依頼の遂行とさせていただきます、オシュトル殿」

 

「感謝する。ノスリ殿にも力添え感謝いたすと伝えてもらいたい」

 

「はい。お預かりしていた荷物は指定の場所に運んでありますので、お受け取りを」

 

 ……うん? 今の話だと、あいつは。

 

「確かに、承る」

 

「それと姉上からの伝言が」

 

「聞こう」

 

「『今回は奴らの行いが許せるものではなかったため、共闘したまで。なれ合いはせぬ』」

 

「ふ……ノスリ殿らしいお言葉だ」

 

「では、僕はこれにて……ご縁がありましたらまた。そちらの方々も」

 

 そういって男は姿を消す。

 

 男が姿を消したことに問題ではないようで部下に指示を飛ばすオシュトル。

 

 いつまでも座っているのはあれなのココポを支えにたちあがらせてもらうとルルティエが感動していた。

 

「まさか、オシュトル様が来てくださるなんて」

 

「もしかしてあの仮面の方のことかな?」

 

「はい。……あのお方はヤマトの双璧とうたわれる、右近衛大将オシュトルさまです」

 

「……そっか、あの人か」

 

 ふーん、そんなお偉いさんがね。ってか、あいつ。……いや、まさか。

 

 すると、オシュトルが近づいてくる。

 

「そなたたちが賊の首領を取り押さえてくれたのか」

 

「ああ、まあ……」

 

「おかげで助かった。此の度の策、首領を逃すことはまさに失敗と同義であったからな。この通り、感謝する」

 

「あ、ああ」

 

「このような場所では謝意も満足に伝えられぬ。その他たちの功に関しては、後ほど正式に表彰し、褒章をもって報いよう。ルルティエ殿」

 

「は、はい」

 

「クジュウリ皇からの請願は、これにて遂行されたものとしてよろしいか? 詳細はこの書簡にしたためております故、皇へはよしなにお伝えいただきたく」

 

「た、確かに……受け取りました……討伐の件……しかと父に伝えます」

 

 緊張気味のルルティエ。じぶんはそのルルティエの腰に手を当てポンポンと、優しく二度叩く。ルルティエは驚いたようにこちらを見てきたので優しく微笑む。

 

 それで落ち着いたのか、お礼の言葉をつなげた。

 

 しかし緊張でがちがちだったな。

 

 姫君であるルルティエが緊張する。それほどの人物っていうことか。

 

「某は別件がある故、これにて失礼いたす。護衛の者もすぐに戻る故、安心して帝都までの旅を楽しまれよ」

 

「は、はい。お心遣い感謝します……」

 

「では諸兄諸姉の良き旅を祈っている。全軍、速やかに撤収せよ」

 

 その言葉と主に後ろの兵が転身する。

 

「またどこかでお会いすることもあろう。ハァっ!」

 

 オシュトルがウマを疾走させて去っていく、討伐隊もそれに続いていった。

 

 一糸乱れぬ行軍は、将の器を痛いほど感じさせるものだった。

 

「なあ、くお──ー」

 

「ハク?!」

 

「ハク様!?」

 

「ハク殿!?」

 

 先ほどのオシュトルが誰かに似ている気がする話をしようとしたところで、不意に意識を失うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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