うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
Sideハク
「……い、・-い、おーい。おきろー」
何処なつかしい声が聞こえる。暖かさが消え、重たい瞼を頑張って開けると男の子の顔があった。
「うんん? なんだよ、***。ねみぃから起こすな」
「いいから起きろ! 先生のところに行くぞ」
そういって男の子は自分をベットから連れ出す。
「うん? ***、***。どこか行くのか?」
部屋から出ると声がかけられる。二人いるようだが顔にもやがかかっていてわからない。
「兄さん?」
その言葉は自分から自然と出た。……兄さん? だめだ、思い出せない。
「あ、お兄さん。ほのかさん。おはよう。先生が読んでるんだ」
「うん? ハカセのやつが? あ、ちょっとまて……」
少年は2人にあいさつするとそのまま自分を連れてゆく。
施設の通路を進み、いくつもの扉を進むと巨大な森に出る。
いや、どこか違和感がある。クオン達とあるいた森と比べてどこか……
「先生! ***を連れてきたぜ」
「うん? おお、ようやく来たか」
「先生、あれ見せてくれよ」
「ああ、ちょっと待てよ」
そういうと男は近くのあたりで一番大きな木に触れると何かをつぶやく。
すると木の幹がスライドし、エレベーターが現れる。
これは、なんというかまた改造したのか。兄さんたちに怒られそうだな。
エレベーターが止まるとそこは使われていない部屋のようだった。
「これどうしたの?」
「うん? ああ、ここは施設の秘密シェルター。この間施設を調べていてな、この機を調べたら見つけた。見ろ、いろいろあるんだぞ!」
見ればここには食料が置かれている。
そしてその先にも部屋があるようだ。
「点灯」
先生とやばれた人物がつぶやくと明かりがつく。
部屋は三方向に分かれているようだった。
「とりあえず、正面から調べるか」
「先生、まだ調べてねぇの?」
「昨日はお前らとじっちゃん相手に運動していただろ?」
運動というか、いたずらだな。毎度わけのわからない格闘術で捕まるけど。
「そっか、とりあえず行こうぜ」
奥の部屋はそこそこ広い研究室のようなところだった。
機材も埃をかぶっているが動きそうであった。
そしてテーブルに1つのツボと3本の無色の液体の入った試験官があった。
「なんだ? この液体?」
俺を起こした男の子が試験に触れる。
先生は隣にあった紙を見ている。
「なんだこれ、神の酒? 向こうの科学者が躍起になっていた神の血の複製の複製を作ることに成功した。実体は神の血による効能をナノデバイスで代用した物なのだが、これで外に出れるかもしれない」
「外に、出れる!?」
外に出れるとはどういうことだ? まさか戻れないとかじゃないだろうな?
「先生、俺呑んでみるぜ」
「あ、おい。***」
先生が止める間もなく男の子は試験管を飲み干す。
「……なんともないぜ?」
「***?」
「そう心配そうな顔するなよ。***も飲んでみろよ」
そういって男の子は自分にも飲ませる。
甘く、そしてどこか心地よくなる飲み物だった。
そして、自分奥底の何かに一瞬触れた気がした。
「?」
「***。大丈夫か?」
先生は自分にそう聞いてくるので頷く。
「そうか……。じゃあ、とりあえず俺も」
そういって先生も試験管を飲み干す。
「っ!? ……ああ、そういうことか」
先生は頭を押さえながら、腕に巻いたデバイスを操作する。
「ああ、そういうことか。……これは、きちんと責任を取らないといけないな」
先生は小さく自分たちを見てそういった。
そのまま世界が黒く満ちる。
気づけばいつかみた鎖で縛られた扉。
「……」
『おや、こんなところに扉が』
ふと声がする
「誰かいるのか?」
『うん? いるけど、いないかな』
「なんだそりゃ」
『はは、すまない。君は何者かね?』
「自分は……ハクだ」
『ハク、か……そうか』
「どうした?」
声は戸惑っているようだった。
『いや、私も似たような名前でね。妙な偶然もあったものだ』
「そうなのか。……どう呼べばいいか?」
『そうだね。私のことはシロと呼んでくれ。もっとも、この先も会えるかわからないが』
「そう、なのか? 顔を合わせてないから会えているかすら怪しいのだが……」
『そこはあまり気にしないでくれ。と言ってもこの扉越しでしかしゃべれないのだから』
「それもそうだな。こんな真っ暗な空間にある扉越しに声が聞こえたから最初は警戒したが、あんたは優しそうだな」
『まっくら? ……なるほど、この先は君の精神世界なのか』
「何か言ったか?」
『いやなんでもない。それより「あれ?」どうした?』
「いや、体から力が……」
『そうか、時間切れか。……これは、あいつの力? そうか、ハク!』
「な、なんだ?」
『……もしここに来るようなことがあれば声をかけてくれると嬉しい。私もこっちに話し相手が居なくて寂しいのだ』
「さびしいって……はぁ、面倒だが仕方ない。また来てしまったときは声をかけるよ。シロ」
『ありがとう……』
シロの声が遠くなる。
「おーい、ハク。起きろ」
「うん?」
起きると、クレスの顔が見える。
その顔が一瞬、あの時の少年と被る。
「お、起きた。ねえちゃん、姫さん。起きたみたいだぜい」
「ハク!」
「ハク様!」
そういって起き上がった自分の身に二人の女性が抱き着いてくる。
「クオン? ルルティエ?」
「もう、驚かせないでほしいかな……」
「いきなり気を失って、もう、ハク様……」
なんだか、涙声の二人の頭を戸惑いながらもなでる。
どうやら、モズヌと戦った場所に簡易天幕を貼り、治療にあってくれたようだ。
「おーい、アンちゃんが倒れたって聞いたんだが……なんだい、アンちゃん。両手に花で羨ましい限りだな」
「う、ウコン!」
「まったくだ。キレイどころ二人に抱き着かれて。また、部下連中ににらまれるぞ」
「クレスまで」
からかう二人に怒るも、二人に抱き着かれたままでは説得力などないに等しい。
「はは。それで、ねえちゃん。アンちゃんは動いても大丈夫そうか?」
クレスがクオンにそう聞くと、クオンの抱き着いていた体が離れ、互いの額がくっつく。
「……うん、熱は下がったから問題はないと思う。ハクはどう? 体動かせそう?」
「ああ、むしろ倒れる前より良く体が動くみたいだ。……まあ、少し腹が減ったが」
「あ、わたし、おかゆを……」
そういってルルティエは天幕を出たすぐにもどってくる。
「ちょうど、皆さんがお昼だったので一緒に作っておきました」
おかゆに薬味の乗った器とスプーンを持ったルルティエはスプーンにおかゆを掬うと、ふー、ふーと冷まし、「はい、ハク様」と自分に向ける。
「え、あ、ありがとう?」
何か言おうとしたが、クレスとウコンの無言の「判っているよな?」という雰囲気に何も言えずそのまま食べる。
「おいしいですか?」
「あ、ああ。おいしい。ありがとう、ルルティエ」
困惑しながらも腹の虫は正直で、おかゆはすぐになくなりクオンと共にお代わりを取りにいてくれる。
「クレス、ウコン。悪いな」
「なんだい? キレイどころを独占してるからって、怒ったりはしないさ」
「そうだぜ、アンちゃん」
「いや、ちげぇよ。ここ足止めしてしまってってことだよ」
自分は二人の冗談に呆れたように返すと二人は判っていておちょくったようで大きく笑う。
「別に構わんさ。なあ、ウコン。別に昼食が早まったってくらいだろ」
「そうだな。もう少し先で撮る予定だったものを繰り上げただけだ。問題はねぇよ。気にするな」
「そうか。それでも、すまない」
自分がそういうと、クレスがため息をつき「ハク」と名を呼ぶ。
「こういう時は、すまない。じゃなくて、ありがとうでいいんだよ」
そういって、優しい二人に自分は「ありがとう」と改めて言うのであった。
──―それから数日
盗賊に奪われた荷物を回収し、オシュトルやヤマトの誇る将の話を聞きながら都を目指す。
そして、なんだかモズヌを打ち取った一件が自分が先読みして一網打尽したようにとられたらしい。
弁明しようとしたが、クレスからそのほうが自分たちにとっても都合がいいからそういうことにしてほしいと言われた。
ルルティエを巻き込んだことなどを夜酒を飲んだ勢いで言ったら、経験や箔付け。そして、ルルティエに自信をつけるためのものだったと聞かされた。
ウコンもそれ以上はルルティエの家族や環境に関することで黙る。
そこで、クレスが謝礼の話を出し、オリオン将軍よりとある宿を進められていることを聞く。
そこはどうやら二人のお気に入りのようで、クオンも絶対に気に入ると断言していた。
それを聞き少し楽しみになる
「お、ようやく見えたな。どうよ、アンちゃん。すごいだろ?」
なだらかな丘を越えようとしたとき、先頭のウコンが振り返ってそう告げてくる。
それにつられて、顔を上げて前方を見つめた。
「おおぉ。これが、都……」
眼下に広がるのは最初に見た集落とは比べてものにならないほどの広く、高くて立派な建物が並ぶ都市だった。
「あれが帝都──―目的地さ」