うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~ 作:othello
Sideクオン
私の目的の一つだったヤマトの首都、帝都。
その凄さに私は目を奪われていた。
まだ少し遠くある帝都。いや、少し遠くにあるからこそ。全貌が見えるからこそ、その凄さ、恐ろしさを感じられる。
「まさか……あんなに……」
「どうだい、ねぇちゃんとこと比べて?」
ウコンが自慢げに話しかけてくる。
確かにこれだけの都を見せられれば、どの国であろうと畏怖するだろう
「……ソ……そう、だね。うん、まあまあかな、まあまあ」
負け惜しみのようになってしまった。
「こんなに……大きかったなんて……」
隣のルルティエがそうつぶやく。
「ルルティエも初めてなのか?」
私も感じたことをハクが先に質問する。
すると、ルルティエは少し恥ずかしそうにうつむきながら「あまり国から出たことがなくて……」とつぶやく。
ああ、確か。小さいころは病弱で城から出られなかったって言ってたけ?
「……ですからとても楽しみでした」
少し恥ずかしそうにはにかみながら答えるしぐさはとてもかわいらしすぎるかな。……恐るべき天然。フミリィルに近いものをかんじるかな。
ハクもその様子を温かい目で見ているかな。
「よーし、おめぇら。あと一息だ。うまい酒に山海の珍味が待っているからな、ちゃっちゃと荷物を引き渡しに行くぜ」
「「オオーッ!!」
長旅の疲れ、そして間もなく仕事が終わるという開放感からか、ウコンの部下たちが大いに盛り上がる。
「はぁ~、ようやくついたのでおじゃる……。とりあえず今回の仕事で借財のをちょっとは返せるでおじゃるが、とほほ……」
道中聞いた話だが、マロロの父、祖父はかなりの散財家だったらしく、見栄ばかり張るために鑑定眼もないのに高価なものを買ったり、少しのことで物を新しく買ったり、取り寄せたりしていたようだ。
そしてその代金はすべてマロロに着けて。
それによりマロロは借財地獄に陥っていたが、宿将オリオンによる内部監査による帝への直言により、マロロは独立。両親は頼りにしてた貴族に泣きつくも学士であるマロロを失ったことにより価値を失い後日路地裏で遺体となって発見されたらしい。
マロロはショックを受けるも、独立してあと後ろ盾となってくれたオリオン将軍と同じ学士の妹を持つウコンの励ましもあり、何とか立ち直り、今は借財を返し、友と恩人のために働いているらしい。
ハクは嘆くマロロを慰めながら都を見ていた。
その顔はどこかこの町を懐かしく見ているようであった。
……
「うおぉ、でかい……」
近づくにつれてよくわかる外壁とその門の大きさ。
私は、内心で驚いていたがハクは声に出して驚いていた。
それほど正面に設えられた門は大きく、立派なものだった。
そこには巧みな装飾が施され、隅々まで綺麗に磨かれているのか、鋭い光沢を放っている。
……それにしてもすごい。
洗練された装飾。ゴテゴテと金銀を鏤めていないのもいい。
私の国でこんな施設と言ったら禁じられた……。
私はいつ間にか手で口元を隠し見とれていた。
気づけばハクが優しい目で私を見ている。
私は恥ずかしさから思わず目をそらすも、一呼吸おいてハクを見る。
目線が合うけど、ハクは何も言わない。
その様子に少し苛立ちを感じるけれども、ぐっと抑え笑みを浮かべる。
「あはは、別に何でもないかな。絶対に何でもないから」
私がそういうと、ハクは苦笑いを返す。
……むぅ。もう、仕方ないかな。
その後、いろいろなものを観察し会話しながら巨大な門を潜り抜ける。
門の内側には、これまで目にしたものとは違い、立派な建築物が無数に見えてくる。
何よりそこを行きかう人の数が違う。
山中ですれ違う人も増えたと感じていたが、この帝都の大きくて広い通りは、これまで以上により多くの人であふれていた。
商店らしき場所で品物を買い求める人。路上で芸を披露し食い扶持を稼いでいる人。
警備の為か歩いている兵や、荷を運んでいる人、人、人……。
その雑多な喧噪を聞いているだけで、疲れてしまいそうだ。
ウコンが集落とは比べものにならないといったが、まさかここまでなんて……。
私がそう思っていると、それ以上にハクが嬉しそうにあたりを見回していた。
Sideハク
確かにこりゃあ、すごいな。建物もすごいが、人込みもすごい。
それが自分のこの町の感想だった。
「今日は何か、特別な日なのかな? 祝祭の日……とか」
「んお? いんや、なんもないはずだがな」
「そう……なんだ。それにしては人が多いような……」
「いや? 何時もこんなモンなんだぞ」
「何時も!? あ……ううん、そうなんだ。いつもこんな感じなんだ……そう……」
ウコンとクオンの言葉に自分も耳を傾ける。
驚くことではあるが、それよりもどうやらクオンの様子が少しおかしい。
「どうかしたのか?」
「えっ?」
「いや、さっきからブツブツとつぶやいているから、何かあったのかと思ってな」
「ぅ……ううん別に何も。ただ、私の故郷より、ほんの少しだけ穏やかだったから、ほんのちょっと驚いちゃっただけ。……ただそれだけかな」
その様子を見て自分は気づく。
ああ、なるほど。にこやかな笑みを浮かべながらも、眉を更にひくつかせてる理由が何となく判った……にしても、やけに悔しそうだな。
おそらく、クオンの故郷より……いや、止めておくか。
「さて、俺達はこのままコイツを大内裏まで届けに行くんだが、ねぇちゃんたちはどうする?」
「そうだね、まずは寝床の確保かな。都の見物がてらに旗籠屋を探すつもり」
「そっか、宿屋か」
ウコンの隣で聞いていたクレスが忘れていたのか、そんな様子にあきれ、不安になる。
「そういえば、紹介してくれるって言ってたな?」
「え? ……ああ、あいつのところか」
クレスがオリオンよりお願いされていることを聞いていた自分はクレスに聞くと忘れていたのか、少し間を開けて答える。
「あー、そうだったな。参ったな、報告案件があるんだよな……。ウコン、任せてもいいか? 荷物も俺のほうで報告する。もう鳥も飛ばしてあるから部屋も取れてるはずだ」
「しかし、兄貴……」
「今日はあそこで宴会だったな。先に言っておいてくれ」
「あ、ちょっと。兄貴!」
そういうとクレスは荷物と数人の部下を連れて歩いて行ってしまう。
「ウコン、ところで宴会って?」
「うん? ああ、帝都についたらみんなで仕事納めの宴会をするのが習わしでよ。そのつもりで、もう店のほうにも予約を兄貴がいれてるだが、たぶんそこがアンちゃんたちに紹介する旅籠屋だ」
宴とな?
その言葉を聞き、自分の腹の虫がぐぅと鳴いた。
そういえば、腹が減った。もうすぐ帝都だからと言って昼を抜いたからな……。
「ふふん、つまり、私たちを歓待してくれるってこと?」
悪戯っぽく含みのある笑みを浮かべ、『私たち』を強調するクオン。
「あ~、野郎どもの慰安も兼ねて……な」
どう考えてもそっちが本命だろうな。
「あはは、せっかくだから喜んで参加させてもらおうかな。ハクもそれでいい?」
「ああ、構わんが。一泊の値段を聞かなくていいのか?」
「ひと月ほどは兄貴が報酬と謝罪を込めて半分払うとのことだから、宿の質や料金から見ても一番いいと思うぞ? それにあそこを超える旗籠屋となると旧貴族か成金が多くて、いずらいと思うが?」
「へぇ、そのあたりも考慮して紹介してくれているのか」
「まあ、だまされたと思ってそこにしてみたらいい。何しろ……いや、こいつは見てからのお楽しみってな。特にねぇちゃんは気に入ってくれると思うぜ」
「そこまで言うなら楽しみにさせてもらおうかな」
「そうだな。ところでその旅籠屋はどこらへんにあるんだ?」
「もうすぐだ。ホレ、見えるだろ? この先に見える、あの門までだ」
そういうウコンの指さす方を見るとはるか向こうに豆粒より小さく見える門がある。
「どこがもうすぐだよ……」
小声でぼやきつつも、後に続いて歩いてゆくのであった。
クレス:あ、妹ちゃんのこと忠告し忘れてたわ・・・。