うたわれるもの~大いなる父にうたわれしもの~   作:othello

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昨日投稿できなくてすみません。
レポートが忙しくて・・・。
誤字報告がありました。ありがとうございます。助かります。





 Sideクオン

 

「ぅ……うぅぅ……」

 

「これは……」

 

 隣でハクの顔が真っ青になるのを横目に見ながら私はうめき声をあげる男の人を見つめる。

 

 身体中が紫色に腫れ上がり、苦しそうなうめき声をあげる男が横たわっていた。

 

 もう一人の男もいるが、そちらはそれほどひどい状況ではない。それでも紫色に腫れ上がった腕を押さえ辛そうに顔をゆがめていた。

 

「この症状、もしかして……」

 

 私が原因の考察をしているとウコンの声が聞こえてくる。

 

「んじゃあ帰り道に、突然ギギリに襲われたってわけかい」

 

「っ……ああ、いつもと同じ道を通ってたはずなのに、沢山のギギリがいきなり。ヤツは襲われているウマを助けようとして……こんなことに……」

 

 道は動物や虫に襲われないよう何年もかけて見つけ、虫や動物もヒトが通るから現れないように避けることが多いため安全な場所だ。その証拠にあの雪道で、私とハクは多少襲われはしたものの比較的安全に来ることができた。

 

「なのに俺は……何もできなくて……そればかりか……」

 

「おめぇさんが逃げなかったら、コイツを助けることはできなかったはず。自分を責めるんじゃねえ。生きて帰ったことを誉めてやれ」

 

「俺は……う……うぅぅ……」

 

 少しばかりかわいそうかな。私は手持ちの薬草を思い出し、薬が作れないか考える。

 

 するとハクが声をかけてくる。

 

「なぁ、クオン、ギギリってなんだ?」

 

 そういえばハクは記憶がないだったね、しかたないかな。

 

「そうだね、肉食の蟲……かな。大きくて、いっぱい足があって、硬い殻で覆われて、鋏のような大きな顎を持った。でもあれって、人にかみつくことはあっても、襲ってくるようなことはないと思ったんだけど…………」

 

 すると、ハクは何か思いだすようにうなる。

 

「そいつはまさか……」

 

「どうしたの?」

 

「多分それ、自分も襲われた」

 

 それを聞き私は驚く。

 

 記憶が戻ったかと思ったが、そうではないようだ。

 

「ハクが? でもギギリなんて見なかったけど」

 

 ハクの記憶のほとんどを私は知っている。

 

 あの透明な容器から起こしてずっと一緒にいたのだから。

 

「クオンに助けられる前、そのギギリにも襲われたんだよ。危機一髪のところで、あのタタリってやつがそいつを飲み込んでくれたから助かったんだが」

 

「もしかして、ハクがタタリに飲み込まれそうになったあの時のこと?」

 

 私がハクを野営地で開放して目を話したときにハクはどこかに行ってしまい、大きな音のする方に向かうと、ハクが洞窟でタタリに襲われていた。多分その時だろう。

 

 私はようやく話が見えてきてハクに確認を取る。

 

 肯定する頷きが返ってきて私はため息をついて苦笑いをした。

 

「一難去ってまた一難なんて。運がいいんだか悪いんだか。でもなんだかハクらしい気もするかな?」

 

「待て、なんでそれが自分らしいんだ」

 

「…………え?」

 

「なんでそこで不思議そうな顔をする」

 

「でもかなれなかったのは幸いだったね。見ての通り、ギギリは毒を持っているから」

 

「きけよ、って毒!?」

 

 何となくはぐらかすとハクは面白いほどいい反応をする。

 

「毒なんて、こいつらは大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、毒と言ってもそれほど強い毒ではないし、辺境の男は強いものそれに体を麻痺させる類の毒だから、それで命を落とすことはないかな」

 

「そうか、それならいいんだが」

 

「そう考えるとハクは運が良かったかも。もしかまれていたら体の自由がきかなくて逃げられなくなっていたから」

 

 そう考えると、どこかほっとしている自分がいる……。

 

 なんだかハクは真剣な表情で考え事をしている。

 

 なんだか、目が離せないかな。なんだろう、この気持ち。

 

 そのことをどこかに追いやるように別のことを考え、気になることがあった。

 

「それにしても手当の途中みたいだけど、放置したままなのはどういうことかな? 命に別状はないと言っても、ここまでひどく噛まれたらつらいはずなのに」

 

 腫れて紫色がかった体は見るからに痛々しい。

 

 しかし、ウコンは困ったような顔をしてクオンの問いに答える。

 

「ああ、一応毒は吸い出したんだがちょうど薬が底をついてたらしくてなぁ。今女将さん達が調合しているところだ」

 

「そっか……」

 

 私はそこで薬は必要ないと分かり少し考える。

 

「まぁ、仕方ねえさ。なんでもここ最近、ギギリによる被害が頻発しているらしくて、薬が追い付かねぇって話だ。マロロに何か知恵を借りようと思ったんだが、酔いつぶれちまってめをさましゃしねぇ。兄貴も今いねえしな……」

 

「くそ、虫よけの香も炊いていたってのになんであんなにうじゃうじゃ……」

 

 怪我をした男が悔しそうにそういつぶやく。

 

「ここ最近、被害が増えているって聞いたがそんなに酷えんかい」

 

「ここ半年で急に増えて、それでも今日みたいに集団で襲いかかることはなかったのに……」

 

「確かにギギリが人を襲ったって話はきかねぇな。何かの拍子に大量発生して人を襲うようになったか? このまま放置しておくとやばいことになるかもしれねぇなあ……」

 

 すると怪我のひどいほうが苦しみ始める。

 

 ウコンが薬づくりの進捗を確認するが、まだ時間がかかるようだ。

 

 そんな男を見かねてかハクが声をかけてくる。

 

「クオンは薬を持っていないのか?」

 

「あるにはあるんだけど、手持ちのは汎用薬だから、それほど効果は高くないんだ。今調合しているなら、そっちの方を使った方がいいかな。それに治療したとしても、すぐに痛みが引くわけじゃないから」

 

 そうは言うものの、ここまで苦しんでいるヒトをこのままにするのは心苦しい。

 

「…………でも、仕方ないかな。あんまり使いたくなかったけど」

 

 そういって私は腰の筒から小さな丸薬を取り出す。

 

「さぁ、これを口に入れてゆっくりと溶かしてみて」

 

「これは?」

 

「鎮痛薬だよ。これをなめていれば痛みが和らいでくるから」

 

「あ、ありが……とう」

 

 男がそういってなめ始めるとハクが隣にくる。

 

「なんだ、そんなのがあるなら最初からつかってやればよかったろうに」

 

「これはあくまで非常用だもの。言っておくけど味の補償はしないから」

 

 途端に男が不安そうになるがそれでもなめ続ける。

 

 それをもう一人の重体者の口にも入れてあげる。

 

「うん、これで楽になると思うから。意識がもうろうとしてくるけどこの際そのほうがいいよね」

 

 

 

 Sideウコン

 

 しばらくすると嬢ちゃんの言うように苦痛にゆがんでいた男たちの表情が穏やかなものに変わる。

 

「お、表情がやわらかくなったな。どうやらよく効く薬っぽいな。これで一安心できるな」

 

 周囲の奴も安心しているのが見て取れる。

 

 すると、その穏やかな男が虚ろな目になったかと思うと……。

 

「ちゃにぇ──ー」

 

「……は?」

 

 満面の笑みで意味不明な言葉を漏らした。

 

 思わず声を出したのはあんちゃんのようだが、俺たちも同じような感想だった。

 

「くけ、けけけ──―、ひゃろもっこう──―」

 

「ぬおぉ!? な、なんでぇ!?」

 

「な、なんだ、何が……」

 

 そして狂ったように笑いだし、ぐらんぐらんと頭を激しく回したあと、糸が切れたように床に突っ伏した。

 

「あ……あにゅろぅ~、ぬひ、…………ぬひゃひひひっ!」

 

 すると今度は重傷で横たわっていた男がよだれを垂らしながら、まるで快楽の渦に飲み込まれたような表情で笑い出した。

 

 そして、飛び跳ねるように立ち上がると、世にも不気味な踊りおどり始めた。

 

「……」

 

 俺はその様子に思わず、口を軽く開けたまま唖然とする。

 

「…………」

 

 隣であんちゃんもあほみたいな顔して驚いている。

 

「あ、大丈夫。ちょっとだけ強い薬だから、少し精神が高揚しているだけかな」

 

 ちょっと? これが? 

 

 この場にいた全員が思っただろう。

 

 するとあんちゃんと目が合った。

 

『ちょっとどころじゃねえだろう』と互いに目で語りあえた。

 

「いや…………すこしききすぎじゃ……ないか?」

 

あんちゃんはものすごく戸惑いながら嬢ちゃんに質問する。

 

「うん、非常用だから少しだけ効き目が強いんだ。本来なら、戦場で致命傷を負ったようなヒトに使ったりするものだから。ちょっと中毒性があるけど多用しなければ大丈夫だし、痛みで苦しむよりかはいいよね?」

 

 クオンの言葉を聞いて兄貴が戦場使っていた薬を思い出す。

 

 いや、それでもここまでではなかったような……? 

 

「それにほら、あんなに元気になって」

 

 一心不乱に踊る男を見てほほ笑むクオン。

 

「そう……ですね」

 

 その顔に何も言えなくなるあんちゃんの顔からは嬢ちゃんの薬に対する恐怖がしっかりと伝わってきた。

 

 

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