勢いで書いた。
反省も後悔もしていない。
続くかどうかは誰にも分からない。

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オリジン

 

 大好きだった母が最期まで愛していた相手は、何千何万と殺しても足りない程憎い男だった。

 

 

 もう何年も前のことのはずなのに、今でもついさっきの出来事の様に鮮明におぼえている。

 

 

 

 

 病院のベッドに力なく横たわる母に、隣の妹は励ましを投げかけている。

 

 『おかーさん大丈夫よ!』

 

 幼いながらにそれが嘘だと分かっていたはずなのに

 

 『おとーさんすぐ帰ってくるから!だから大丈夫よ!』

 

 

 残していくことになる俺たちに、生気の無い顔で精一杯笑顔を作ろうとしてくれた母はそれでも美しかった。

 

 怒った顔も、泣いた顔も、ただの一度も見せることはなくずっと笑顔でいた母が愛したアレは、逆に俺にはどうしようもなく醜い存在に感じた。

 

 

 だから俺は、

 

 

 あの醜い存在と瓜二つの自分の容姿(・・・・・・・・・)が嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくて腹立たしくてしょうがない。

 

 

 妹たちはみんな、母に似てとても素敵だ。きっと将来はもっと綺麗になるだろう。

 

 俺は醜い。ただ一つだけ俺が誇れるのは、母さんと同じ綺麗な色をしたこの髪だけ。

 

 

 年を重ねるごとに声がアレに近くなっている

 

――――――だから死に物狂いで変声技術をおぼえた

 

 年を重ねるごとにアレに雰囲気が似てきた

 

――――――だから死に物狂いで気配や印象操作の技術を学んだ

 

 

 年を追うごとにアレに近くなることを感じ、そのたびに新たな技術を死に物狂いでおぼえた。

 

 

 

だけどこの顔だけはどうしようもなかった。声をかえ、雰囲気をかえても、どんな技術をおぼえてもどうしようもないこの顔だけはかえることができなかった。

 

 

 

 

 辛い思い出を想起させるこの顔のせいで妹たちと離れ離れで暮らすようになっても、アレが関わったことに否応なしに巻き込まれても、大好きだった母さんがくれた顔が、大好きだった母さんが愛してくれた息子の顔は、変えられなかった……

 

 

 

 

 いっそアレに見立てて怒りをぶつけてくれれば、煮るなり焼くなりしてくれれば、この顔に未練などなかったというのに……

 

 

 

 

 『(けい)、それに(かい)、ごめんね』

 

 

 

 最期の母さんの顔は美しかった。これからも一生忘れることはないだろう。残していく子どもたちへの申し訳なさと、俺を見て一抹の寂しさ(・・・・・・)を宿したあの顔は。

 

 

 

 『お父さんを許してあげてね』

 

 

 

 

 

 

 目が覚める

 

 

 変わり映えのしない、いつも通りの夢と視界にうつる天井。

 

 いつも通り体を起こし、洗面台に向かう。

 

 顔を洗い終えて、目の前に見えた顔に反射的に体が動いた。

 

「…ははッ、またやってしまった」

 

 まだ若干寝ぼけた思考の中で、拳に刺さったガラス片を取り除いていく。

 

 

 

 

 ああ 腹が立つ 腹が立つ

 

 




「確かに手前を嫌悪している奴が役者を志すのは自然だ。
今と違う自分を演じたいと思うんだろ」 巌 裕次郎


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