探し物をするため、夜道を歩くシンジとアスカ。
あのアスカが他人の為に動く…?疑念を抱くシンジ。
アスカの真意とは…

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僕はアスカに溺れてしまった

どんな夢を見ていただろう

 

「ねえシンジ」

 

ともかく、左肩あたりに感触を覚えた僕は目を覚ました。

 

「ちょっと、シンジ」

 

左肩あたりを、とんとん、と刺される感触。

 

目を覚まし、体を反転させる。アスカがいた。

 

アスカが体育座りの姿勢で僕の横にいた。僕を起こしに来た…のか?

 

今は…何時だろう?日は登ってないけど…

 

「なに…?」

 

アスカが僕の部屋にいる、そこそこの異常事態のはずだが寝ぼけ気味の僕はそれにリアクションを取ることもできず、要件を訪ねた。

 

「ミサトのピアス、探しに行くわよ」

 

「えぇ…?」

 

ミサトのピアス、とは今日、3人で夕飯をとっているとき挙がった話題だ。

ミサトさんが言うにはネルフからの帰り道、どこかでピアスを落としたらしい。意気消沈ぶりから大事にしていたものなんだろう、と感じ取れた。

 

それを探しに行こうと言うのだ。アスカが。

 

「…ミサト、まだ帰ってないのよ。」

 

「そうなの…いま何時?」

 

「2時。」

 

夕飯後、やっぱり探しに行こうかしら、とミサトさんが言っていたのを覚えているし、今日はもう遅いし交番にでも届いてるかも、などと当たり障りなく僕が制止したのも覚えている。

制止も虚しく探しに行ってしまったらしい。

確かに少し心配だ。

ここらで眠気も覚めてくる。

 

「…心配だね。」

 

「でしょ。あたしらも探しに行くわよ。」

 

「いいけど…」

 

色々と引っかかるところがある。

まず、深夜2時だ。中学生が外出していい時間ではない。補導なんて面倒だ。

次、そもそもネルフからの帰り道は長い。目的物がピアスとなればもはや果てしない。

というか暗い夜道で目的物ピアスって…無謀な気がする。

そして最後、一番肝心。一番引っかかっている。

アスカから探しに行こうなんて…

 

「そうと決まれば善は急げよ!さっさと行くわよ!」

 

無理矢理僕の体を起こしにかかってくる。

 

「わ!ちょっ…」

 

思考する時間は与えてくれなかった。

 

家の鍵、正確には家の鍵がついた自分の財布と懐中電灯を持って家を出る。アスカと。

 

なんか展開が早いというか…いい具合にアスカのペースに乗せられた気がするが、考えてみればいつもの事だった。

考えるまでもない、考えすぎか…

 

家を出た。早速ネルフへの道筋をたどって歩き始める。ピアスを探し求め、アスカと夜道を歩く。

 

「どんなピアスなんだっけ?」

 

「シンプルな真珠のピアスよ。芸がないわよね。全く。」

 

なんの意識もせず、アスカにピアスの特徴を尋ね、アスカも応えてくれた。

そこで僕は夕飯時の会話を思い出す。

 

(なによ、ミサト。)

(いや〜…ね、ピアス落としちゃってさ〜)

(ふうん。どんなの?)

(真珠のピアス。シンプルなやつよ。もし見つけたら私に連絡ちょうだい。シンちゃんも。)

(まあ、いいわよ。早々見つからないと思うけど。)

(そうよねえ〜…)

(というかどこで落としたのよ)

(ネルフからの帰り道のどっか〜…)

(漠然としすぎよ。ますます無理難題じゃない。)

(そうよねえ〜…)

 

あの時、アスカなりに心配しているのか?と勘ぐった自分がそこにいたのも思い出した。

もしかすると、アスカは本当にただ…

 

 

 

「珍しいね。アスカが…その、探し物の手伝いなんてさ。こんな時間に。」

 

ピアスが落ちていないか、地面を注視しながら歩く。あくまでピアス探しだ。でも、やっぱり引っかかっていた。聞かざるを得ない。

 

「別に。人道支援。エリートだもの、当然よ。」

 

…当たり障りのない返答だ。他人から見れば

こんな高飛車なセリフ当たり障りだらけだろうが、アスカと共にする時間が多い僕にとって、これは当たり障りのない返答に値した。

 

「ふうん…」

 

僕も当たり障りのないリアクションしか取れなかった。

 

でも本当に、アスカの言う通り本当にただの人道支援なのかもしれない。僕も段々諦めがついてきた。

そもそも、仮にも他人のために行動する人間に抱く感情じゃない。やめよう。この考えは、ここで終わり。

 

 

ピアスを探し歩く。当然会話が生じる。

 

「でもミサトさん、本当に落ち込んでたね。よっぽど大事なピアスだったんだろうね。」

 

「…そうね。」

 

 

間が空く。次の会話。

 

 

「星が綺麗ね…」

 

「アスカもちゃんと探してよ…まさしく上の空って感じだけど…」

 

「うっさいわね〜!ちゃんと探してるわよ!」

 

「でも…本当に綺麗だね。」

 

「アンタも見てんじゃないわよ!」

 

本当に綺麗だったから思わず呟いてしまった。不覚。次の会話。

 

「というかアスカ。そんな格好で外出てよかったの?」

 

「いいのよ。どうせ誰にも会わないし。それに、寝巻き姿の私も良いものでしょ?」

 

「え、ああ…うん。」

 

「なによそのうっすいリアクション!眼福ものでしょ!?」

 

「いや…だって見慣れてるし…」

 

「贅沢なセリフね。自分の環境に感謝しなさいよ!」

 

「分かったって…」

 

そんなような、いつも通りなダラダラとした会話を繰り広げ、30分ほど経った。まだネルフへの道筋の1/5も歩いていない。懐中電灯片手に探し物だ。進まないのも仕方がない。

 

しかしここで、ある事実に気づく。気づいてしまう。

 

「ねえ…アスカ…」

 

「なによ」

 

「ミサトさんって車通いじゃ…?」

 

「…。…!!」

 

驚くリアクションにラグがあったが、アスカも驚いた様子。失念していたようだ。互いに。

 

つまりピアスを落とすのはせいぜいネルフ構内、もしくは車の中か家の中。ネルフへの道中、歩道になんて落ちているはずがないのだ。

 

「ふぅ…サイッテーね。我ながら…」

腰をポンポンと叩きながらアスカが言う。中腰で目を凝らしながら探し物だ、若干疲れが溜まっている様子。そういう僕も少し腰が痛い。

 

「割と早い段階で気づけたから良かったんじゃないかな…」

 

「そうね…。あ、自販機寄って帰るわよ。」

 

帰宅が決定事項と化していた。当然の展開だ。

でも…アスカと歩く夜道は新鮮で…なんだか良い気分だった。

 

「良いよ。僕も喉乾いたし。」

 

「あたしもよ。」

 

自販機を物色する。

 

「あたしこれね。」

 

指されたのは三ツ矢サイダー。

奢りが決定事項と化していた。当然の展開であってはいけない。

まあ財布も持ってない様子だし…いいけど…

 

自分の飲むものも決め、2人分のお金を入れる。

 

「はい。」

 

「どーも。」

 

三ツ矢サイダーを手渡す。見慣れた光景。

 

「ちょっと公園寄るわよ。」

 

「帰らないの?」

 

「歩き疲れたの。休憩よ。」

 

「いいけど…」

 

もう深夜の3時前だ。変に歩き回って大人に見つかるのは嫌だし、そもそも明日は学校…じゃない、明日は土曜日だ。

 

「ふうっ」

 

アスカが公園のベンチに座る。2人がけのようだが余りにコンパクト。僕は遠慮して立つことにした。

 

「…座らないの?」

 

「いや…だって狭いし…」

 

「変に意識するんじゃないわよ!…いいわよ、座って。」

 

「じゃあ…遠慮なく。」

 

近い。肩が触れ合いそう。というか若干触れている。

なんでこんなことを意識するんだ?

 

「迂闊だったわ。まさかあたしがこーんな単純なことに気づかないなんて…」

 

珍しく反省している。確かに考えれば当たり前のことだった。アスカもこんなミスをするんだな…

 

「しょうがないよ。僕も気づかなかったし…」

 

「あんたと一緒にしないで。」

 

「ご、ごめん…」

 

「…。まあ、あたしもあたしで大概ね。」

 

なんだか素直だ。どうしたんだろう?

 

間が空く

 

「星…ホントに綺麗ね。」

 

アスカが空を見上げて呟く。公園内は暗く、1m先も見えないくらいだが、ベンチは街灯の近くにあるおかげで少し明るかった。

その街灯に照らされるアスカの顔、星々を蓄えて光るアスカの目。

 

「綺麗だな…」

 

「はあ?」

 

「え?」

 

「いや、なんであたしの顔を見て言うのよ。そんなこと。」

 

本当に綺麗だったから思わず呟いてしまった。不覚。

 

思わず顔を、目を背けてしまった。アスカから。やってしまった。

 

「…綺麗だった?」

 

「あたしの顔?」

 

何も言えない。何を言うのが正解か分からない。

 

「ねえ。」

 

アスカが僕の肩に顔を乗せるように、耳に直接語りかけるように、そんな姿勢で問い詰めてくる。

我慢ならず立ち上がる。

アスカは僕を見ている。

僕はなんでこんな気分なんだ?

照れている?

いつもとアスカが違って見える。

 

「…。」

思考してるうち、アスカは俯いてしまった。

早くなんとかしなきゃ…何か言わなきゃ…

 

「ア、アスカが…」

「綺麗だったから…」

 

言った。素朴でつまらないが、自分の思ったことをありのまま伝えた。

これから僕はどうなってしまうんだろう…

 

「それ、本当?」

 

「う、嘘なんてつかないよ…」

 

つけない、の間違いだったかもしれない。

 

「そう…。」

 

「まあ、座んなさいよ。」

 

アスカに促される。正直今にも逃げ出したいが再びベンチにつく。

 

しばし沈黙。アスカは何を考えているんだろう…?不安で仕方がない。すぐに罵らない辺りが既に尋常ではない。

 

「ま、いいわ。」

 

沈黙を破ったのはアスカ。何がいいというんだ?

 

「ご褒美よ。」

 

見つめているとアスカが一言、それを言い、僕の顔に迫った。割と、目にも留まらぬ速さで。

 

キス、キッス、口付け、接吻。

 

予想の斜め上どころではない展開だった。

 

どれくらいの時間、唇を交わしていただろう。放心していたのだから測れないのも仕方がない。

 

「…ちょっと。」

 

「…へ?」

 

僕の人生史上、もっとも間抜けなテンションの返答だったと思う。

2度目だというのにまるで気持ちが違う。同じキスなのに。前回は死にかけたけど…

なんというか、フワフワするというか。有頂天というか。

 

状況を整理しようにも天下のアスカ様はそれを許さない。

 

「…どうだったのよ。」

 

「え?」

 

「2度目のキスよ。幸い、慣れたもんだって感じじゃないけど。」

 

幸い?

 

「考えが…まとまらないよ…」

 

またもや思ったことをありのまま伝える。

つまらない男、なんてまた言われてしまうかもしれない…

 

「そう…」

 

意外にも罵声は飛んでこなかった。やはりアスカも何かがおかしい。

 

「ねえ。」

 

「…もっとあたしを…見てもいいわよ…」

 

俯きながらアスカが言う。え?なんて返答も出来ない。その言葉の意図を汲み取るのに精一杯。

 

「もっと…あたしを見てよ…」

 

相変わらず俯いたままだがそこで気づく。

アスカが震えている。

どうしてだろう。でも、色々な感情が混ざり合った結果、というのはなんとなくわかる。

 

「アスカ…」

 

こんなアスカ、見たことない。

アスカがこんなことを言うなんて…

 

でも今は、問題はそこじゃない。僕がなんと返答するかだ。

僕が取れる最善の選択…

考えた。思考する時間はそれだけアスカに毒だろうと思い、焦りつつも答えを出した。

 

「うん。」

 

「え?」

 

「僕は、ちゃんとアスカのこと見るよ。これからも、ずっと。」

 

「…。ふふっ」

 

アスカは笑ってくれた。あざ笑う、とかではない。本当に心から笑ってくれたように感じた。

 

「殊勝な心がけね…それでこそよ、バカシンジ。」

 

「でも残念。まだ修行が足りないわよ。」

 

「え?」

 

「あたしがどうしてほしいか。当ててみなさい。」

 

「…。」

 

「あたしに聞こうものなら本当に殺すわよ。」

 

考えた。

しかし、いくら脳を回転させても答えが一つしか出てこない。

 

僕は黙って、恐る恐るアスカを抱きしめた。

…アスカも抱きしめてくれた。

正解だったらしい。

 

「…ありがとう。」

 

アスカが呟いた。

なんでだろう。僕も感謝したくなる。

そう。僕もアスカに受け入れられたような気分で…

 

「でも残念。半分不正解ね。」

 

「え?」

 

返答に間髪入れず、アスカはまた僕に顔を近づける。今度はゆっくりと。

 

唇を交わす。今度は僕も上の空じゃない。

 

「ここまでやって、満点よ。」

 

アスカが言う。

 

僕は…

 

「ありがとう。」

 

文脈もあったもんじゃない。無茶苦茶な返答だが、なぜかこう伝えたくなった。

 

 

美しい夜空に、丁度いい明度の街灯がムードを演出し、僕らを狂わせたのか。そんなことはどうでもいい。

アスカが本当にただの人道支援で動いていたかなんて、そんな考えはもう綺麗さっぱり消えていた。

 

 

 

 




今回はアスカがピアス探しを口実にシンジと2人きりの状況を作り出し、見事モノにしたというお話。タイトルはそのまんまです。
途中、シンジがミサトは車通いであることに気づきますが、アスカはそんなの把握済みです。シンジの思考がアスカの先を行くことなんてありえません。…というのが僕のイメージです。
ミサトがいないなら家でイチャつけよ、と思われるかもしれませんが、アスカはユニゾン回やキス回で失敗しているので環境に変化をもたらすべく、外に出たといった感じです。

処女作ということもあって拙い部分が多く見受けられると思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです。


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