「箒君、七夕の夜空いてるかい。政府主導の食事会があるんだ」
俺は聞いてしまったんだ。あのいつもにこにこしているけどISの調整に関しては束さんに迫る神鉄さんが箒をよりにもよって箒の誕生日の七夕の夜に食事に誘ったのを。なんだかんだ勇気が出なくて当日まで誘えなくて結局二人で俺の手料理食べてのんびりしようと前日の朝誘おうと箒を追いかけていた矢先だ。
「ええ、良いですよ。一夏も誘ってくれなかったし」
そしてそれを何でも無い事のようにさらっと受け入れる箒の達観した顔を。俺にはその顔に憶えがある。箒の中学の記録を束さんに執事服着て一日ご奉仕することで見せて貰った(箒には悪いことしたと思ってる、あくまで公的記録だけだ)時の顔、或いは周りの大人が大局的な判断を下す時に見せる顔だ。少なくとも俺にはまだ出来ない。
落ち着け俺、単に食事ってだけだろ。天災の妹である以上ある程度の政治的価値がある、そのためのレッスンとかなんだろそうに違いない。神鉄さんは山田先生以外のISスーツには眉一つ動かさないし。
だけどしかし、と苦悩する俺の脳裏には食事会の後箒と神鉄さんのキスシーンやら二人して夜の町とかそういうのばかり浮かんでいた。余りになまなましい表現なのは箒を女性として見てるからだろう。俺だって男子高校生だ。人並みに性欲はある。
まあ最近箒は専用機が来てない(正確には束さんが鋭意制作中)のを補う為に神鉄さんと良く話してたし放課後はずっと一緒だったし好きな人を誘えないヘタレより頼れるお兄さんの方が良いよな。
なんて事を思いながら自分への情けなさと胸の痛みを憶えながら俺は膝をついたのだった。
(上手くいきましたね)
(そのようだ、最終段階第一フェイズクリア)
なんて会話を神鉄と箒がこっそり交わしていたのを知らぬまま
まあ神鉄に真耶以外の女を抱く気はないし箒に一夏以外の男に肌を許す気はない。
つまり鈍感一夏に危機感を与え恋心を自覚させる為の遠大な計画の最終なのだ。
篠ノ之箒は告られたい、始まります
「なるほど兄上が一日学校休んだから何事かと思いきや、そんな事か」
「そんな事とはなんだよラウラ。あと兄上はやめろって言ってるだろ」
「何をいう、私はいずれ教官の義理の娘にしてもらう、そのために法律をシャルルに教えて貰っているところだ。父も認めてくれたしな」
「まあ仁さんの場合根負けとも言えるし、まあラウラを命がけで助けた仁さんはカッコよかったよそれに比べて俺は」
千冬姉の恋人でありIS学園整備主任の海堂仁、デュノア社の跡取りのシャルル・デュノアからの情報提供で命懸けでラウラを暴走したISから助けた雄姿を思い出しながら俺は項垂れる。
「嫁よ、こういう時は無理にでも引き止めるべきではないか。そうやってベッドにうずくまるよりましだ」
ラウラが胸を張ってそんな事を言い出した。
「いや、でも」
「甘ったれるな」
ラウラに襟首を掴まれる。
「私は愛機の暴走に呑まれたときに思ったのはシャルルに告白しておけばよかったという後悔だ。貴様もISを扱う物ならいつか必ず命の危険にさらされる時が来る。その時箒に想いを告げなかった後悔を抱えて死ぬ気か」
ああ、その通りだ。その通りだよラウラ。
「目が覚めぜ、いっちょ告白して来る」
「ああ、行って来い、へ」
予想外に発破が上手くいったのはいいが体中から闘気を漲らせていく未来の義理の兄を止められなかったラウラにできることはシャルロットの兄であるシャルルに電話する事であった。
「箒、話がある」
「なんだ一夏、ってうわ、顔が近いぞ」
もくもくと歩き箒に話しかける。急に顔が赤くなったが風邪だろうか。
「俺は、お前の事が」
「ストップ、ここ学園の中庭だぞ皆見てる」
…冷静ですね箒さん。
最も次の瞬間ぐいっと距離を詰めて耳元で囁かれた言葉に俺は心奪われた。
「愛してるぞ、一夏。今晩はゆっくり二人で過ごそうな。いっぱい料理練習したんだ」
篠ノ之箒は告られたいではなく、篠ノ之箒は告りたい、この続きは皆さんの頭の中に
おまけ 後日談
「いや普通我輩と箒ちゃんが浮気するとか信じるかね。勿論食事会自体はあったが大人だけだし」
「いやあの時は自分でもどうにかしてましたし。というか山田先生と言葉交わさず食べさせあいさせるのすごいですね」
「一夏、私達も練習するぞまずは言葉ありだはいあーん」
「箒、だー、恥ずかしいけどやるぞ習得するぞ」
これを見ていたL氏は語る。
「私がシャルルとの遠距離恋愛でもどかしい思いをしているのに食べさせっこやら耳元で囁くやらいちゃつくバカップルどもには鉄槌を下したい。尊敬している織斑先生もやってるだろと。
…、ノーコメントだ」