ただ残酷な迄に正直過ぎる、
この世界から。
地下水脈が、柔らかい石灰層を削り下ってゆく中で作られた
木の根っこのような洞窟たち。
その中心部、旧鏡面湖本体が削り取った円柱の縦穴を落下しながら、
ハルはさっきの話を思い出していた。
お前さんは今、二柱の御霊と繋がった、
謂わば半現人神。
御霊という存在は、ある一定のお力を持たれていれば、
御霊一柱一柱、独自の高次元領域、つまり神域を持っておる。
お主も今御霊に近き存在。
何を以て神とするかはお主の自己認識次第だが、
お主はお主だけの、神域を創造できる筈だ。
それは、ヒトを外れる行為。
それは、アレらに近づく行為。
禁忌とは言わぬ。
遠い遠いご先祖様も通った旅路は、
異能として、我らの血縁を
皮肉なことだが、これを運命と言わずなんと表そう。
だが、お前さん、いやハルよ。
この運命を背負う覚悟はあるか。
強く、私より大きな手を、握る。
紅い糸が、脈動する。
「ハル?」
「いこう。ゆかりの友達を助けに。」
お化けに背を向けて、更に下。
湖の底に揺蕩う、濃密な神力の結界を睨む。
______問う必要は無かったようだ。全くもってお節介だな。これは。
覚悟。
そんなもの、意識してしたことなんてなかった。
あったのは、
焦り、寂しさ、恐怖、願い、そして、ちっぽけな勇気だった。
思い返す度に、
届かなかった手を、血が出るくらい握りしめて、
とうに枯れた涙を、ハラハラと溢しきって、
私は、わたしは、
______『ありがとう。一緒にいてくれて。私の友達でいてくれて』
あの大樹の下。
あの逢魔時の縁側。
私たちの左腕。
わたしが、
わたしは、わたしだけじゃない、
だれかのともだちの手だって、にぎりたいと。
そう、強く。
想いを刻んできたんだ。
______なんだ、とっても強い、覚悟じゃないか。
心配は要らなかったようだね。
神域を蹴り入れば、
そこには、空気があった。
周りを見渡せば、水が滴る、苔むした古い神社のようで、
ぴちゃん。
「紡!?」
そのゆかりの声で、
「待ってゆかり。あのこは、違う。」
ゆかりを糸で引き留め、私は鋏を構える。
立ち上る神気。
散りばめられた銀の小鏡。
威嚇するようにわたしの内面が
「あなたが、みかがみ様?」
____ええ、最も今は、この娘の体を借りて、
ヒトらしい認知や思考を得ているようなものだ。
「...言いたいことがあります。そのこや、連れ去った街の皆を返してください。」
____勿論、そうしたいところだが、少々困った事象が起きている。
?
夜のお嬢さん、君は洞窟ごと
その権能は、
君の縁切りの神と同じ現象さ。
頑張って抑え込んでいたのだが、
この身に叩き落とされてしまっては、堕ちた半身の制御は不可能だ。
...まあ、押さえ込めきれていなかった故に、神隠しを起こしてしまっていたのだがね。
「今、紡は、神様なの?」
____ああ、所謂憑依と言ってもいい。
そんな不安定な状態だ。長らくは持たないね。
まあ、お嬢さんなら、すぐに解決できるだろう。
「...ゆかりはここで待ってて。」
「え、なんで!」
____人の身でこの先、神域の最奥に立ち入れると思うな。
私が許すという問題ではない。存在自体が消し飛ぶこととなる。
ただでさえ封印をかけている。これ以上のサポートはできないね。
「大丈夫。ちゃんと、街の皆も帰すから。ゆかりは、紡といてあげて。.....みかがみ様、よろしく頼むね。」
____私の心情は、依代を参考に構成した偽物だが、
それでも神として誓いぐらいは
『あなたは夜の怖さを、覚えていますか?』
あの夜聴いた、心が軋む、その言葉。
うん。怖いよ。
『その鈴の音が聴こえますか?』
うん。聴こえているよ。
『もう一度、逢いたいですか?』
投影されるのは、鮮やかな記憶。ユイの微笑み。
_____ハル?
離した手は、新たな友達を離さない為に。
もう、十分だ。
神社の奥の、池のような穴に飛び込んで、
石やら木やら、水流やら紙やら文字で構成された、
みかがみ様の封印を、突き抜けて、
ソレに相対する。
神域の最奥。
穢の中心地。
干上がった第二の湖。
いや、上の封印で水を堰き止めているのだろう。
それは、
ありとあらゆる世界の、
『もしも』という可能性の幻想に、
しがみつき続ける人間の業。
真っ赤な肉の塊。
大量の目はグリグリとわたしを見つめ、
数え切れない手足をばたつかせて、
目の半分の数はある口からは、
唾液のようなものや、
よくわからない気体が吹き上げる。
これは、駄目だ。
押し潰されそうな程の、
後悔。
悲壮。
憎悪。
苦痛。
絶望。
そして、
墜ちた神が、溜め込みすぎた願望は、
取り返しがつかない程に膨れ上がっていて。
██████████████████!!!
認識不可能な
「その
どうか、自分くらいは赦してあげて。
標すは、言霊。
わたしの
_____もう、
一振りの朱の鋏。ギリリと双刃をひらき、
アレを囲む、巨大な鋏身を幻視する。
断つのは、視えなくなる程に渦を巻く、業の糸。
その数、ユイの時と比較ができない。
当たり前か。
この糸らは、長年の蓄積と、
平行世界を含む膨大な、意味通りの"魂の願い"。
ユイのように一つではなく。
何重にも絡み合う、永遠の孤獨。
それを切る、代償は、
_____いやだッ!!!
肉は弾けて。
四肢が、飛んだ。
まだ!
血肉が弾け、中から飛び出したのは、
異形と化した、
ユイ!ユイィ!ユイユユイイイイイィッ!!!!
握り込んでいた両腕と共に宙を舞う、
断ち鋏を糸で引き寄せ、歯でガッチリと咥える。
「
糸で拘束、引き寄せて、その勢いで断ち切る。
周りを見れば、飛び散った血肉が、グチャリグチャリと、
急いで、引き寄せた四肢を、
無理矢理"縁結び"で繋ぎ合わせて治療する。
痛覚はこのまま遮断。
だけど、
ヒトから外れたとはいえ、一気に血を失ったせいで視界が霞む。
縁切りの代償たる四肢は、繋ぎ止めても、もう四肢としての役割を十分に果たせるとは言えない。
でも、首を失わなかったのは幸運だったし、
この二柱の力であれば、少しくらい、
「お願いします。コトワリ様、すずなり様。」
そして、やっぱり、気づいてしまって。
ああ、もうなんてしつこいのだろうか。
ソウカイソワカウウイソワイソウカイソワカウウ....
臭い立つ、腐ったような神気には、覚えがあって。
聴こえたとたん、迫る悪縁の糸を切り捨てて。
イタイ!イタイイタイイタイイイイイタイイイィィ!!!
「もう、大丈夫だよ。」
肉肉しい、
「行こう。」
ユイをかの神が見つけてしまった時点で、
わかりきっていたことなのだろう。
あ、マジでどうしよ。
いや、こうすればギリセー?
.....死ななきゃセーフセーフ!(冷汗)
神様相手の"縁切り"ですと、
両手両足ついでに首も取られて即死してしまいます。
だから半神格化し、人間をやめることで即死を回避、
肉体の優先度をあげて首取りも回避する必要があったんですね。(唐突なメガトン構文)
ボスたる"『もしも』の業"には、
道半ばで散っていったハルちゃんたちも
含まれています。
皆さんは、何人のハルちゃんを失いましたか?
そういうことです。
次も多分遅れます。
ハル達がいる街を含む、この世界のオカルトへの関心を掲示板形式で書きたくなったのだが需要ある?
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ある
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ない
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そんなことより続きはよ
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ハルちゃんprpr