深夜廻・廻   作:色龍一刻

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これは、あなたへ贈る星の光。
ありとあらゆる刹那の願いが、
確かにわたしを起こすでしょう。
さあ、
その縁を切るために。
その縁を結ぶために。


■■・廻想 血縁 可能性の一つにて。

 

ほしをひとみにかざす。

 

 

 

母さん、そろそろ入りなよ、風邪引いちゃうよ。

 

.....うん、もうちょっとだけしたら、そうしようかな。

 

母さんが縁側で見てる夜空っていつも晴れてるよね。

そんなに星が好きなの?

 

かなり好きだねー。ここら辺の地域は、まだまだ片田舎(訳あり)だからね。

どうしたって夜は暗いし、空気だって澄んでいる。

こんな鮮やかな星空は、多分、他に高い山でしか見れないと思うよ。

 

 

私の隣に、考えに耽りながら座り込む愛娘。

その琥珀色の瞳に、蒼い夜が映り込む。

 

まさか、娘にまで■■が継承されるとは思わなかった。

なんとか七五三をやり過ごし、「この世のもの」として固定することができたのは、あの人達のお陰と言っても過言ではない。

 

"奉る"のではなく、"下ろし被る"。

人として生きるために、月日をかけて込めた、澄んだ穢れ。

ちょっとだけ瞳の(輝き)が欠けたけど、その濃淡こそ美しい。

 

 

空を眺める。

星は輝き、線を結び、ふと未来を垣間見______るのを破棄する。

私も人だ。まだ、あと70年ちょっとぐらいは、しっかりと。

まあ、ちょっと見えちゃったものは後で紙に纏めて報告しておこう。

彼らなら役に立ててくれるだろうから。

 

 

むー.....あ、流れ星!

 

わあ、珍しい。三度祈れた?

 

祈ることを禁止してた母さんが何を言ってるんだか...。

 

ここなら大丈夫。今のあなたが祈る分には、何も起こさせないから。

 

.....昔から思ってたけどさー。新興宗教は辞めときなよ。

子供の言うことだし、そう簡単に聴いてくれると思わないけどさ。

 

し、新興宗教かー.....。

あー.....うん、まあ、あまりそういうのには母さん詳しくないけど、知り合いにそういうのの関係者とかいるし、気をつけておこうかな。

(神道に仏教、陰陽道に神仙道。今の時代、有名とは言え流石に怪しすぎるもんだしね。)

 

うんうん、昔から何回も会ってるし、そう悪い人では無いとは知ってるけどさ。

ニュースとかでも怪しい団体の特集やってたりするじゃん。

お金とか騙し取られないでよ?

ただでさえ母さんはぼんやりしていることが多いんだから。

ころっと騙されそうでヒヤヒヤするし。

 

失礼な。

危機管理はしっかりとしてますよ。

これでも一人の母ですから。

...よいしょっと。

 

ん、あがる?

なら私もっと。

あまり星空なんて眺めたことなんてなかったけど、

案外イケてる趣味だね。

写真にするにはカメラ性能足りないし、

ちょっと絵でも書いてみようっと。

 

まあこれまた珍しい。

お絵描きなんて久しぶりにするんじゃない?

今もほら、居間に飾ってある絵、私のお気に入りなのよ。

 

体が極端に弱い(外に出せない)からって、

色んな習い事を家でやらせてもらったお陰だね。

気が向いたし、寝る前に下書きぐらいは終わらせておこうかな。

じゃ、おやすみー。

 

おやすみなさい。『   』。

 

 

 

 

廊下は月明かりに照らされ、静まりかえっている。

少々お酒をつまみ、神経を薄く引き伸ばす。

 

夜だ。

夜になれば、家を囲む結界の強度は更に増す。

あの人達が、地脈やら方角やら門の位置やら小難しいことを喋りながら、今更気づいたかのように付け足した言葉だ。少々自分のおつむが弱いことは知ってはいるが、からかわれるのは不本意である。

友人が蹴っ飛ばしてくれたので、それで許したが。

....思考能力の7割を彼方に割いているのは今後の課題だ。

思考能力の低下は、完全並列多重思考をマスター出来ていない証拠である。

娘にまで指摘されてしまったし、本腰入れて修行に励もう。

.....心配されないように、こっそりと。だね。

 

珍しく娘が庭に出てきたことで、反応した怪異たちはいないようだ。

見回りも完了っと。

神格も権能も結界も護符も眼にも反応なし。

超小規模の雑霊が結界の都合上どうしても入り込んでくるけど.....うん、危険性皆無だ。精々娘が影や音で驚く程度だろう。

 

さてと、

アルコールの効き目が薄いとはいえ、やはり時間が経てば眠くなる。

自分の部屋に上がり、ベットに横たわって目をつぶる。

 

普通の夢を見なくなって久しいけど、

今日は、良い空を視れそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざざーん ざざーん

 

ざざーん ざざーん

 

ざざーん ざざーん

 

 

遠くに波が打ち寄せる。

焼け落ちた視界が元に戻れば、

そこは、永遠に伸びる海岸線。

 

白い砂浜。透明な水。紅い鳥居。

 

海、というより、雨上がりのグラウンドに近い光景。

所々に大小の海が形成された、淡白な世界。

 

鳥居が、乱雑でありながら、厳かに、深く突き刺さっている。

数えきれないほどに、様々な方向を向いて、陽光を紅く反射する。

 

 

.....()()()の神域とはまるで違う世界だ。

 

()()()の世界は、あの夜の町。時間から切り離された、怪異の町。

 

 

「やあ、」

 

突如神気が渦を巻いた。相手の領域だ。瞬間移動なんて朝飯前だろう。

油断せずに、それでいて自然体で構える。()()()()、戦うか。

 

「....お久しぶりです、みかがみ様。」

 

気を何割か抜く、うん、よく感じとれば、懐かしい気配。

姿形は少女なれど、その正体は元強神。"もしも"と"鏡"を司る神様、みかがみ様。

約20年は会っていなかったと思う、

その姿のオリジナルとは、良くママ友的お茶会をしているけど。

 

何かが記憶の片隅に引っ掛かり、もう一度周りを見渡す。

 

思い出した、死ぬ直前に視た、あの景色と同じだ。

みかがみ様の神域だったんだ。

 

「わざわざ化身でお越しになるとは、なかなかの事だと概見しました。ご用件を伺います。」

 

「いや、そこまで重要ってわけじゃないよ。神社の再建と洞窟の保全、廃坑の完全閉鎖工事が終わったから、その報せ。いつか来なよってね。」

 

「承りました。予定が空き次第、お邪魔させていただきます。」

 

「.....堅くない?」

 

「神様相手ですよ? 下手な言葉使えませんって。」

 

「ん、その位が丁度良いね。あ、もう一つ、」

 

「はい?」

 

「お嬢さんの娘、巫女にちょうだ______冗談嘘浅はかだったごめんなさい」

 

「......。」

 

「あ、おみあげ置いてくから。自由に食べて。じゃ、また会おう。」

 

 

私が鋏を持っていなかったことが、かの神の幸運だった。

ため息一つ。一瞬取り出しかけた柄を胸にしまい込み、

霧がかる世界、薄れていく夢を押し退け、現実に浮上する。

 

 

朝。

 

まずカーテンを開き。改めて枕元を見れば、確かに置いてある小袋。

とても古めかしいが、清潔ではあるようだ。流石水の権能持ちである。

 

中身は、

 

 

 

 

「なんともまあ、利便性に富んだものを。」

 

意外と俗世に染まっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ん? まーたお酒買ったの?神棚の瓶増えてない?しかも高級そう。

 

 

貰い物。朝一番に届けられていてねー。

軽く何百枚か()()レベルのだから、暫くそこに捧げておくの(多分神気を抜かんと人には飲めん代物だし)。

 

何百って.....ヤバくない!? 私地震とかあっても保証できんよ!?

 

大丈夫大丈夫。仮にあっても()()()。安心してね。

 

腑に落ちないけど.....まあいつもことか。

 

で、貴女にはこっち、お味噌汁と麹の漬物。

魚を醤油で漬けてるから、夜に食べましょ。

 

っ.....どこのメーカー? これ庶民の舌には毒だわ。

ヤバいご飯止まらない止められない。

 

自家栽培?の各年の一点物ってプレゼントカードに書いてあったよ。

(洞窟で何を作ってるんだか....確かにあそこの地下水は最高品質だけど、まさか食品加工なんて。)

 

 

後に紡に聞いてみたところ、遥か昔から特定の一族が作り続けてる地域伝統の味らしい。流石にあの洞窟で作っているわけではないらしかった。早とちりである。反省。

 

 

そろそろ学校のバスが来る時間じゃない?

 

ん! あ、ほんとだご飯に夢中になってた、急がないと。

 

どう? 学校には慣れた?

 

.......お母さんが言ってたように、みんな優しいよ。

何も聞いてこないし、普通に話しかけてくれるし、初めて友達もできたし、

あー、でも、うん、ほら、一般社会での反応を知ってるからさ、

その優しさがね、無性に......寂しいなって。

 

 

朝食を食べ終え、中学校の制服を引っ張りだしながら、娘は答える。

 

 

どうして寂しいの?

 

みんな少し大人なんだよね。

聞けば大企業の娘だったり、某大臣の息子だったり、

教えられないと謝ってくれた子だったり、()()()()()ような子だったり。

私より心が少し年上で、だから私に優しくて。

だけどそれは、本当の意味で友達とは程遠いって感じちゃうんだ。

遠慮とはまた違う、何て言うか、上手く説明できないのだけど。

 

『知る価値は、知った後に作られる。

 識ったことは、君自身のみが価値を見いだせる。

 なにせ、他人からのアドバイスすらも、

 君が受け取った知識でしかないのだから。』

 

え?

 

受け売りだけどね。

『  』はクラスメイトを少し年上みたいと思ったようだけど、

それは、そのように振る舞えるだけにすぎないんだよ。

まだ、彼らは貴女のことを見定めてる途中なんだ。

危害を加えないか。

悪意を持たないか。

ある程度気を読めるか。

価値観の差異は許容範囲か。

人間性に欠陥はあるか。

その欠陥は共に生活するなかで許容範囲か。

そして______私たちを怖がらないか。

 

だから、遠い。

声も小さけりゃ、意思の伝達もままならない。

理解するには"知ること"が足りず、

隠れた怯えは、無い筈の溝を生む。

さて、どうするべきでしょう。

 

.......。

 

 

支度を終え、玄関で靴を履いて、彼女はこちらに振り向いた。

 

 

一歩、近づいてみるよ。

気になってる子がいるんだ。

結構気を使わせちゃってるし、恩返ししないとね。

 

うん、今はそれで百点満点。

何でも知ってきなさい。

勉強のことでもいい。

友達のことでもいい。

そういうのが無意識に積み重なって、また何かを知るのだから。

 

 

遠くでバス特有のエンジン音が聞こえてきた。

そろそろ時間のようだ。

娘もそれに気がついたようで。

 

 

_______行ってきます。

 

 

 

いってらっしゃい。

 

 

送り出す。

今の今まで、人との関わりなど手で数える程しか無かった娘を。

 

目を細める。

今はまだ、見守るべきそのすべてが、

いつの間にか、少しづつ変わってきているようで。

 

子供の成長とは、ここまで早かったか。

 

 

 

「ちょっと、かっこつけちゃったな。」

 

お皿を水に浸けながら、また父の言葉を思い出す。

今日のあれも、その一つだったわけで。

 

「『何時だって先は不透明で、

  過去は後悔と未練の塊で、

  だから、今だけの選択は、

  とてつもなく、重いんだ。』」

 

私は間違えた。

その後悔と未練こそ精算こそされたけど、

残った傷は幾つもあって。

 

_______空洞の袖が風に靡く。

 

小さいことかもしれないけど、

娘には、泣いてほしくはないから。

 

「さてと、じゃあ、始めますか。」

 

一通り片付けを終え、仕事室に移動する。

物理的、電子的、霊的防犯機構を起動し、

昨夜視えたビジョンについての報告書テンプレートファイルを立ち上げる。

 

#多重連続性時空帯における特異基点:不明

#観測:成功 

#観測状態安定:0.260s

#干渉度数:皆無

#知覚内容:欠損あり。未来事象により断定不可。

#■■■______________

 

まあ、つまり、

なんにもわからないけど、一応視えたことだけお伝えします。という文句である。

私が関われる、彼らの活動のお手伝いはたったこれだけ。

それでも、少なくない協力代が貰えるものだから、

なんとも、大事にされているのか、遠慮されているのかわからないものだ。

少し、ううん、結構なにくそ~って気持ちが強いけど、

まーた首突っ込んで大事にしちゃうのは勘弁だしねー。

この歳になってまで大目玉食らうのは流石に恥ずかしかったものだ。

 

兎に角、これでオッケー。

観測できたということは、起こりうる事象ということであり、

それをどう対処するかは、彼らに任せる。

 

 

 

 

私が夜の町を歩く日々は終わった。

 

私が鋏を振るう意味は遠退いた。

 

ここに在るのは、愛する娘の存在で。

 

時に視える景色は、悲しい色が多いけど。

 

まだ、

 

まだ、私は、

 

あなたたちの願いを受けとる資格が無いから。

 

 

だから、

 

だからどうか、神様。

 

()()()しまった誰かの叫びを、

 

()()()しまった誰かの手を、

 

 

 

どうか、どうか____________

 

 

 

ふと、カーテンの奥が暗くなった。

まるで夜になったかのように。

 

 

 

『わたしはしった、それを"おひとよし"というのだろう。』

 

 

 

 

鈴がなった。

 

 

 

 

和装(着物)なのだろうか、

 

洋装(ドレス)なのだろうか、

 

形容しがたい、

 

花のようにふんわりと広がった、

 

朱と銀の衣を身に纏い、

 

長く伸びてゆく、稲穂のような金の髪を、

 

鮮やかな蒼いリボンで留めている。

 

両眼を紅金に染め上げて、

 

左腕からは、銀光の紐を舞い散らせながら、

 

大きな赤黒い鋏を持っている。

 

 

銀の鈴を飾るように

 

髪や服に、何個も結いであり、

 

霞み消えそうな神気が空気を煽り、

 

シャリン、シャリンと、

 

澄んだ音を響かせる。

 

 

 

"エニシガヒメ"

 

知らずのうちに、言の葉を紡いでいた。

 

 

 

言葉はあった。

 

発する必要があったのだろうか。

 

表情はわからない。

 

無表情のような、呆れ顔のような、微妙で、繊細な表情を浮かべている。

 

人情は無いだろう。

 

彼女は神である。

 

堕ちているわけでもない、

 

私から向こう百年切り離された、

 

新しき()()()である。

 

 

 

 

なんで、あり得ない。

 

まさか、まさかまさか。

 

 

「まさか私がっ!?________」

 

 

『わたしが視た、わたしが聴いた、わたしが識った。

 それは、わたしへと捧げられた願い。

 故に、偽りの神域が建つこの一時のみ、

 その縁を切ろう。新しき縁を結ぼう。

 其が、わたしがすべき全て。』

 

 

 

眼を起動する。

 

.....やられた。

 

神棚の神酒がいつの間にか揮発して、

空間に強大なレイラインのバイパスと疑似神域を作り出している。

 

おあつらえ向きに、この家は最高に縁起の良い要素(儀式環境)で構成された場だ。基盤と中核、更に私さえいれば、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

"鏡は宇宙(そら)を写し出し、

それは星々を掴むだろう"

 

 

やられた。

 

あの胡散臭い、少女らしからぬ常の微笑みを思い出して毒づく。

 

多分、湖という巨大なスクリーンを利用して、星空を投射、

私と同じ星読みをしていたのだろう。

視えたあのビジョンを、重大インシデントでは最悪の部類だと神々は判断した。

だから、手頃な私を利用して_______

 

ため息をこらえ、舌打ちをこらえ、

額の寄った皺を伸ばしながら、応える。

 

 

「......ついていくよ。どっちみちあなた一人だけを行動させるわけにはいかない。あなたにはお兄さんたちの到着を待つ理由は無いでしょうから、これが最善手だと思いたい......。」

 

『了承。ならば外郭(肉体)を借りる。霊体だけでの現界は負担が大きい。消耗は避けたい。』

 

 

「やっぱこうなるよね........ごめんよ『  』ぁ.....」

 

 

魂魄が反転し、肉体の制御権が強制的に奪われる。

薄れゆく意識の中、最後に夢想したのは、愛する娘の呆れ顔だった。

 

 

ちょっと母さん、神様やってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





怒濤の 伏 線 回 収 ☆

どうもこんばんは、人生に押し潰されかけている作者です。

無理矢理時間を空けて書き散らしました。(故のAM4:00 眠い。)
マジ生活に余裕無いんでこのまま沈みます。

大人ハルちゃんは、皆さん好きなように想像してください。
彼女の瞳の能力は色々あります。制御仕切れてないので自動で発動してショッキングなビジョンを目の前に展開、四六時中ハルちゃんを病ませようとしてきます。可哀想だね。

『  』ちゃんもお好きなように。
琥珀色の瞳が素敵な現役中学生です。多分黒い着物が滅茶似合う。
安心の美少女。元箱入り娘(物理)。世間知らず。
今はわけありお嬢様学校に入学しています。
お母さんに隠し事があるようで.....?

夜廻三、めちゃくちゃ楽しみですね。
勿論買ってプレイします。トロコンはデフォ。

おやすみ。

ハル達がいる街を含む、この世界のオカルトへの関心を掲示板形式で書きたくなったのだが需要ある?

  • ある
  • ない
  • そんなことより続きはよ
  • ハルちゃんprpr

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