白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話   作:二本角

75 / 75
お久しぶりです。
なんかリアルでいろいろあって遅れました。
なんとか更新ペース戻せたらいいなあ・・・


エリコの壁3

「クソッ!!なんで動かないんだよっ!!あの役立たずがっ!!」

 

 久路人たちが白流を出発し始めたのとほぼ同時刻、葛城山の麓からやや離れた街にて、マリは苛立たし気に手に持った術具をソファに叩きつけた。

 術具はヴェルズより渡されたモノであり、犬の頭蓋骨が取り付けられたワンドだ。機能としてはアンデッドと契約を行って支配することができる他、契約したアンデッドを収納することもできるという優れものだったが、今は何の反応もない。

 思いっきり投げつけられたワンドであったが、術具として耐久性も高いのか、ソファにぶち当たると床に転がった。

 そんな様子が目に入っているのかいないのか、マリは焦ったように悪態をつく。

 

「何ビビってんだよクソ狐が・・・っ!!この計画は最初が肝心なんだぞっ!!」

 

 エリコの壁計画の第二段階。

 霊地の結界を機能不全にしたところを大妖怪に襲撃させ、人間たちに恐怖とともに異能の存在を知らしめることを目的とする。

 そして、旅団はこの第二段階において最初の襲撃を最も重く見ていた。

 

「学会の連中も馬鹿じゃないっ・・・同じ手は何度も取れないっ!!対策される前に馬鹿どもに化物のことを刻んでやらないといけないのにっ!!」

 

 結界の破壊は常世での霊脈の乱れによるものだ。

 先日の大きな異変のおかげで旅団は現世の葛城山に繋がる霊脈を見つけられたものの、学会側も霊脈の乱れに対応するノウハウを蓄積させることができたのは、白流の様子を見る限り間違いない。

 遠からず、各地の霊脈に何らかの対策が施されるだろう。

 その前に、一般人に大きなインパクトを与える必要があるのだ。

 しかも、それは誰が与えてもよいという訳ではない。

 

「マリじゃあ、あの天使とかいう連中には勝てないっ!!・・・ヴェルズも相性が悪いっ!!クソッ!!あの脳筋どもがっ!!大人しくマリの言うこと聞いときゃいいのにさっ!!」

 

 現世で大きな異変が起きた場合、極めて強力な神の力を操る『天使』の介入がある可能性もゼロではない。

 『神』は現世への干渉を極力避けているようで、学会の七賢のような現地で対抗できる存在がいる場合にはそちらに任せるようだが、もしも天使が出現するようならば、搦め手を得意とするマリや、この世の摂理に歯向かう死者たるヴェルズは相性が悪い。勇者ならあるいはというところだが、天使という存在が勇者の『特性』で対応できるかは未知数だ。そもそも、ヴェルズや勇者には七賢を抑えるという役目がある。

 そして、確実に天使を屠れるであろう黒狼は他者に己の行動を縛られることを酷く嫌い、彼に仕える従牙は主の傍を離れることはなく、戦鬼もまたこちらの言うことを素直に聞き入れる性格ではない。

 さらに、彼らについてはその力の大きさ故にまず現世に来ることが困難であり、大穴を開ける必要があるのも問題だ。

 故に、下手人には強力だがコントロールと耐久性に難があって、使い捨てにしても惜しくない九尾が最適だったのだ。

 だが、その九尾は何かを警戒するように無駄な動きをせず、人間の虐殺などする様子もない。

 術具で言うことを聞かせようにも、距離が遠いせいでコントロールが効かない。

 巻き込まれるのを避けるために、九尾を収めていた別の術具をドローンで落としたのが裏目に出た形だ。

 

「クソッ!!畜生っ!!こうなったら・・・っ!!」

 

 今、あの九尾の操作ができるのはマリのみ。

 勇者は霧間谷に向かわせ、ヴェルズにはこれから白流よりやって来る七賢の相手をしてもらわなければならない。

 そして、エリコの壁の第二段階は最初で躓くわけにはいかない。

 ならば、マリが取るべき手段は一つ。

 

「クソがっ!!」

 

 マリは、床に転がっていたワンドを拾い上げて部屋を飛び出した。

 

「クソ狐もっ!!七賢どももっ!!馬鹿どももっ!!マリの手を煩わせやがって!!絶対に、絶対にぶち殺してやるっ!!」

 

 旅団の幹部が一人、『傀儡』もまた、葛城山に向かうのだった。

 

 

----

 

 白流より飛び立った高速輸送用術具『C-2/K』。

 日本あるいは近隣国で異能による大きな異変が生じた際に、すぐに駆け付けることができるように京が設計・制作した輸送機だ。

 学会の長たる『魔人』の許可のもと、忘却界の中でも一時的に飛行可能であり、久路人たち4人を乗せて葛城山まで飛んできたのだが、降下のためにスピードを落としたところを飛竜のアンデッドに囲まれてしまっていた。

 

「敵は、ワイバーンスケルトンの群れ。そして少数ですが竜騎士(ドラグーン)の姿を確認しました」

「ワイバーンどもは雑魚だが・・・竜騎士か」

「なんだ、そいつらは強いのか?」

 

 機内にて、敵の確認を済ませたメアに、雫は問いかける。

 彼女には、外にいるアンデッドに大した力を感じられなかったためだ。

 

「大抵の竜騎士は問題ありません。しかし・・・」

「常世にも人間が住んでる国がある。その中には竜を飼いならしてるところもあるんだが、そこの精鋭ならこの機体じゃ追いつけねぇ」

「非常に小回りの利く相手です。そもそも、このC-2/Kは輸送機ですから」

「それじゃあ、どうするの?相手を無視するわけにもいかないよね」

「久路人の言う通りだ。九尾と戦うのに横から茶々を入れられては面倒だぞ」

 

 常世は妖怪のような人外の世界だが、人間が暮らす領域も存在する。

 そういった場所に住む人間は現世の人間とは魂の形からして異なるので、人間と言ってよいか微妙だが、往々にして高い戦闘能力を持つ。

 メアの言う竜騎士とやらは、そういった人間の中でも精鋭らしい。

 そして、死霊術師であるヴェルズはその精鋭もアンデッドに変えて手駒としているということらしい。

 

「決まってんだろ。ここで叩き潰す」

「こちらも対空兵装を展開します。貴方がたは周囲の露払いと取りこぼしの処理を。ただし、大技の使用は避けてください」

「もうここには結界はねぇからな。あまりやりすぎると後が怖い。向こうもそれを見越して雑魚をけしかけてきてんだろうが・・・まあ、雑魚は雑魚だ。せいぜい蹴散らしてやれ」

「わかった!!」

「ああ、心得た」

 

 敵の確認が済んだところで、大まかな役割分担を終える。

 そして、飛行機のハッチが開いた。

 

「行くよ、雫!!」

「おう!!」

 

 直後、久路人と雫は空に飛び出した。

 その身には角と尻尾っが生えており、風を纏っている。

 半妖体となった2人は、空の上であるというのに泳ぐように駆けていく。

 

「俺らも行くぞ、メア」

「了解。C-2/K、これより変形します」

 

 京とメアも、2人に任せきりになどしない。

 機体のハッチが閉まり、光に包まれると、そこには先ほどよりも小型ではあるがスマートな形の戦闘機が浮かんでいた。

 

「『形態変化・空戦仕様(モードチェンジ・エアリアル)』、『F-35/K』装備完了」

「行くぜ!!ついてこれるか?ドラグーンども!!」

 

 変形した戦闘機、F-35/Kは久路人たちを超えるスピードで衝撃波をまき散らしながら飛竜の群れに突っ込むと、群れは穴をあけられたように散り散りになるが、すぐさまその膨大な数によって元の密度を取り戻す。

 しかし、京たちの目的は雑魚ではない。

 彼らが相手取るのは死してもなお竜にまたがる騎士たちだ。

 アンデッドだというのに生前の技量をそのまま保つ彼らは、魔力によって強化された竜ともども戦闘機に追いすがり、航空戦を始める。

 葛城山における此度の異変の序章の始まりであった。

 

 

----

 

「はぁっ!!」

 

 僕が腕を振るうと、空気が大きくうねり、竜巻が現れる。

 荒れ狂う風は飛竜の群れを飲み込んで粉々に吹き飛ばした。

 

「このっ!!」

 

 雫も僕と同じように風を巻き起こしていて、さっきから相手をかき回している。

 これによって、敵の数は大きく減ったのだが・・・

 

 

----ギァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

「ちっ!!また増えたか!!」

「さっきからキリがないよ!!」

 

 またしても、突然空中に真っ黒な穴が開いたかと思えば、そこから新しいアンデッドたちが飛び出してくる。

 さらにたちの悪いことのに、さっき吹き飛ばしたはずの骨が再び浮き上がり、元の飛竜の形をとって復活する。

 

「狂冥の戦い方は物量作戦って言ってたけど、こんなに早く意味が分かるなんてね・・・」

「蹴散らしても蹴散らしても数が減らん上に蘇るとは!!大技さえ使えればすぐに片付けられると言うのに!!」

 

 はっきり言ってしまえば、敵の強さは大したことはない。

 中規模の穴から出てくる妖怪と同程度の強さ。

 だが、雫の言う通り数が尋常ではない。

 加えて、今僕たちがいる場所は本来あるべき結界が破壊された後の霊地であるという以前に、人間が住む街の上空だ。

 間違っても広範囲攻撃を撃ってはいけないし、質量のある水や土、高威力の火や雷属性に、猛烈な磁気を発生させる黒鉄も使えない。

 僕も雫も強くなったと胸を張って言えるが、無尽蔵とも思えるほどの物量作戦を仕掛けてくる敵と、こちらが使用できる大技と得意属性の制限によって早くも膠着状況に陥っていた。

 さらに・・・

 

「ギァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「チッ!!またかっ!!消えろ!!」

「ギアアアアッ!?」

 

 アンデッドの群れは地上からかなり離れた空中におり、僕たちを足止めするかのように固まっているのだが、時折群れから数体が抜け出し、地上に向かおうとする。

 今も、飛竜が数体群れから離れたところを雫に吹き飛ばされたが、さっきからそのような散発的な襲撃も行われており、そちらの対応にも神経を削らされる。

 

「まったく!!本当に鬱陶しい戦い方をっ!!」

「これじゃあ本当にらちがあかないよ!!しかも、ヴェルズっていう死霊術士は遠隔で術が使えるみたいだから、術者を倒すのも難しいし!!」

「京の話では、小さな蟲の群れを媒介としているのだったか?その群れを吹き飛ばせればいいのだろうが・・・そんなことをすれば下もただではすまんか」

「せめて、結界さえあれば・・・・・ん?結界?」

「久路人?」

 

 膠着する現状に歯がゆい思いをする僕らだったが、ふと閃いた。

 

「別に、倒す必要はないんじゃないか?」

「何?・・・・・ああ、そういうことか!!」

 

 僕のつぶやきにいぶかしげな顔をする雫だったが、すぐに僕の言いたいことに気が付いてくれたようだ。

 僕らは視線を交わした後、霊力を高めた。

 今まで大技を使えなかった分、ここで少々派手に使ったところで、先のことを考えてもおつりが来る。

 

「よし!!霊力は大丈夫だよね?雫?」

「誰にものをいっている!!この辺り一帯程度ならば、三日は何もせずとも余裕で保つぞ!!そら!!」

「「『嵐流』!!」」

「「「「「ギァァアアアアアアアアアアアアアッ!!?」」」」」

 

 僕らが霊力を解放した瞬間、風が吹き荒れた。

 しかし、すぐに風の流れは規則的に動き始める。

 たちまちの内に、黒い穴の開く辺り一帯を覆い尽くす風の球が完成した。

 数こそ多いが、強さは大したことのない雑魚ばかりである以上、僕と雫という神格持ちの作った風の結界を超えることは叶わない。

 現に、街の方に向かおうとしていた飛竜が数体風の壁にぶつかり、壁の内側に向かってバラバラに吹き飛ばされていく。

 

「なにも倒す必要はない。封じ込めてしまえばそれでいい・・・道理であるな」

「うん。例の蟲の群れを全部閉じ込められてたかわからないけど、また出るようならそのたびに壁を作ればいい。いざとなったら、街を全部覆い尽くしてしまえばいい」

「ああ。結界が壊れたのなら、妾たちが作ればいい。この程度の風なら、京たちなら問題ないだろうしな」

 

 無限に増える敵をちまちまと倒すより、封じ込めてスルーする。

 言ってしまえば簡単だが、思いつくまで少々時間をかけてしまった。

 ついでに言うと今もアンデッドの群れの中を高速で飛び回っているおじさんたちごと閉じ込めてしまったが、まあ、雫の言うとおりおじさんたちならば問題はないだろう。

 

「よし、じゃあ九尾のところに・・・」

「む!!待て、久路人!!」

 

 アンデッドの対処は済んだと判断し、風の壁を通り抜けようとしたところで、雫が僕を呼び止めた。

 その直後に感じたのは、強い敵意。

 

「「オオオオオオオオッ!!」」

「うわっ!?」

「こいつらはっ!?」

 

 とっさに飛び退いたところに、飛び込んできたのは2体の飛竜だ。

 他の飛竜の死骸に比べて体が大きく、見るからに上位種だとわかるが、大きな違いはそこではない。

 

「なるほど、こいつらが京の言っていた『ドラグーン』か」

 

 僕らに突っ込んできたワイバーンスケルトン。

 その背にはランスを携え、西洋甲冑を身にまとう乗り手がいたのだ。

 全身をくまなく鎧で包んだ彼らは顔を見ることもできないが、感情も生気も感じられないことから、アンデッドなのだろう。

 猛スピードで突撃してきたというのに、勢いに流されることなく、ましてや風の壁に激突する無様をさらすこともなく、華麗に宙返りを決めて僕らに向かい合っていた。

 確か、インメルマンターンとかいう似たような戦闘機の操縦法があったような気がするが、機械と飛竜の違いはあれど、彼らは空中戦のエキスパートということが直感でわかった。

 おそらく、この風の壁は向こうにとっては打ってほしくない手だったのだろう。

 だからこそ、術者である僕らを倒すために精鋭を出したといったところか。

 

「雫、どう思う?」

「ふむ・・・こいつらを放っておくのはよくないな。こいつらならば風を超えかねん」

「だよね・・・大穴からじゃないと通れないレベルだよ」

 

 感じる霊力は大妖怪の放つそれと同等の強さ。

 以前に戦った吸血鬼よりも上だろう。

 この竜騎士たちならば、風の壁を突撃で破りかねない。

 ならば、倒すのみだ。

 

「「オオオオオッ!!」」

 

 僕たちが戦う気になったのがわかったのだろう。

 竜騎士たちは竜を操り、動きを変えた。

 一騎が前面に出て、またがる竜の口から炎が飛び出した。

 さながら、戦闘機の牽制射撃か。

 

「妾に炎で挑むか。いい度胸だ」

 

 しかし、その炎は僕らに届く前に、雫が手を振るうだけで霧散する。

 今の炎属性を備えた雫に、牽制程度の攻撃など通用しない。

 そして・・・

 

「紫電改・五機縦列」

 

 お返しとばかりに、黒鉄の矢を立て続けに放つ。

 狙いを絞って、単体の敵にのみ使うのならば、周囲に被害を出すことなく高威力の技を使うことができる。

 炎を放ったばかりの竜に吸い込まれるように矢が迫るが、その矢は硬質な音を立てて弾かれた。

 

「オオオオオッ!!」

「もう一騎の方か!!」

 

 炎を出した竜を守るように、もう一騎がすぐ後ろで待機していたのだろう。

 何かの鉱石を丸ごと削ったかのようなランスによって、僕の攻撃はいなされた。

 このとき、かばった騎士によって、炎を吐き出した方は僕らから見えなくなる。

 

「・・・『黒死槍』!!」

 

 見えなくなったのはほんの一瞬。

 しかし、竜騎士にとってはそれだけで充分だったようだ。

 真っ黒な霊力を身にまとい、ランスを突き出しての突撃によって僕らの距離は大きく縮んでいた。

 その狙いは、弓を放った僕、ではなく・・・

 

「むっ!?」

 

 僕の前に飛び出そうとしていた雫であった。

 不気味な黒色に染まったランスを、雫は真正面から受け止めるのではなく、ギリギリの距離で躱す。

 そのまま無防備な背面に一撃を加えようとするが、竜騎士の姿はそこにはなかった。

 

「チッ!!下か!!」

 

 直線的な突撃から、攻撃が失敗と見るや一気に急降下。

 高さを速度に換えて距離を離してから宙返りし、再び突撃の体勢をとっていた。

 その様子を少し離れたところにいた僕は把握できていたのだが、手を出す暇はなかった。

 

「『ダーク・ランス』」

「はっ!!」

 

 攻撃を躱した雫めがけて撃ち出された黒い槍の形をした魔法を、打ち落としていたからだ。

 僕に攻撃を捌かれたとわかった瞬間には、すぐにその場を離れ、魔力を高めながら突撃した竜騎士と合流するように移動する。

 

「久路人、こいつら・・・」

「うん。時間稼ぎだ」

 

 この竜騎士たちは強い。

 しかし、まともにぶつかり合えば勝つのは僕ら。

 互いの実力差をわかっているからこそ、時間稼ぎに徹する。

 なぜなら、彼らを操る死霊術士の目的は僕らの撃破でなく九尾の暴走なのだから。

 だが、この戦い方を経験するのは、これで二度目だ。

 できれば思い出したくない、僕と雫が初めて本気で仲違いをしたあの時以来。

 

「そういえば、あの吸血鬼も、ヴェルズとかいうのが操っていたのだったか」

「うん。そうらしいよ」

 

 やはり雫も、僕と同じことを思い出していたようだ。

 

「ふん、不愉快だな。だが、久路人。わかっているよな?」

「もちろん。あの時の僕らと、今の僕らは全然違うよ」

 

 あの時は、僕の身体は霊力の異常でボロボロ。

 雫の霊力にもつけいる隙があったから、ろくに立てなくなるくらいに弱ってしまっていた。

 だが、今の僕らはほんの一ヶ月前よりの遙かに強い。

 人外となり、神格に至ったのもそうだが、なにより・・・

 

「今の僕と」

「今の妾に」

「「隙はない!!」」

 

 僕と雫は、お互いを心の底から愛しているから。

 その気持ちを、お互いが心の底から受け入れているから。

 もう二度と、あの時のようなすれ違いなんて起こることはない。

 ならば、あの時と同じ戦い方をする敵など、何の障害にもなりはしない。

 

「のらりくらりと逃げるようなら・・・」

「逃げる暇もなく叩き潰すだけだっ!!」

 

 僕らは、空中で手を繋いだ。

 僕らの間に繋がるパスは、距離が短いほど強くなる。

 パスが強化されたことで、僕たちを巡る霊力はお互いの身体の中で共鳴しながら高まっていく。

 本来ならば、結界のない場での強大な霊力は穴の原因となるために御法度だ。

 しかし、僕らの中を廻る霊力は、表出することなく僕たちの中だけで増幅する。

 そして、それを解放するのはほんの一瞬。

 

「「オオオオオッ!!」」

 

 動きを止めた僕らを不審に思ったのか、竜騎士たちは再び突撃する。

 一騎が前に出て、もう一騎は後ろから僕らの動きを牽制といったところだろう。

 だが、そんなものにもはや意味などない。

 

「「凍雷閃」」

「「グオァアッ!?」」

 

 竜騎士たちが僕らを通り過ぎてしばし、その身体は真っ二つになった。

 そして、たちまちの内に凍りつき、バラバラに砕け散る。

 対する僕ら2人で握っていたのは、白い冷気を纏う黒い刀だ。

 毒気と冷気を纏う刃は、雷のような速度で、瞬きの間に2体の竜騎士を切り裂いたのである。

 

「妾の毒が乗った一撃だ。凄腕の死霊術士といえど、復活はできまい」

 

 凍り付き、砕け散った破片は風に飲まれて粉々になったが、新たな竜騎士が向かってくる気配はない。

 周辺への被害を考えて広範囲にばらまくことはできないが、雫の持つ毒には術を阻害する効果がある。

 もうあの2体が復活することはない。

 

「さて、片付いたな。では久路人、行こうか」

「うん。でも、その前におじさんに連絡してからにしよう」

 

 アンデッドの封じ込めが成功したのなら、僕らはもちろんおじさんたちもここに留まる必要はない。

 この先には九尾と、まだ見ぬ旅団の幹部がいる可能性がある以上、こちらも最大の戦力で赴くべきだ。

 そうして、僕がスマホを取り出した時だ。

 

 

 

--オォォォアアアアアアアアアアァァァッ!!!!

 

 

「今のはっ!!」

「この霊力はっ!!」

 

 風の結界ごしであるはずなのに、その悍ましい叫びは耳に届いた。

 その声は、かつて聞いたそれとは禍々しさも強さも大きく変貌していたが、それでも魂は忘れることなく覚えていた。

 その正体は・・・

 

「フフフっ!!思ったより早かったなぁっ!!九尾をもう動かしただなんてさっ!!」

「「っ!?」」

 

 悍ましい叫びの正体を口にしたのは、僕でも雫でもなかった。

 いつの間にか、本当にいつの間にか、1人の男がすぐそばに浮かんでいたのだ。

 乾いた血がこびりついたようなタキシードに、髑髏が乗ったシルクハットを被ったその男は、血の通っていない土気色の顔に歪んだ笑みを浮かべている。

 初めて見る男であるはずだ。

 こんな不気味な男を、忘れるはずもない。

 しかし、僕は強い既視感を感じていた。

 

「お前・・・その不気味な霊力は」

「雫、この人に会ったことがあるの?」

 

 雫の反応も、少々おかしかった。

 初めて見る相手にしては、警戒の度合いが僕よりも強い。

 そうして警戒する僕らに、男はにこやかに口を開いた。

 

「フフフフフッ!!お二人とも一ヶ月ぶりだねぇっ!!おっとぉっ!?この姿でお会いするのは初めてだったかなぁっ!?ならぁっ!!改めて自己紹介をしないとねぇっ!!」

 

 男はそこで姿勢を正すと、手を胸の前に持って行き、優雅に一礼した。

 

「ボクはヴェルズ!!ゼペット・ヴェルズ!!旅団の幹部にして、死霊術士のゼペットヴェルズさっ!!よろしくねぇっ!!」

 

 ひび割れた、聞くモノに不快感を抱かせる声で、その男は名乗りを上げた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。