プルクローンズ・アフターライフ   作:ユトリノ・ニワカ

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孤独の偶像活動家(アイドル・アクティビスト)

「・・・以上をもちまして、拙い話ではございましたが、私から、この場にいらっしゃる全ての皆様に対するメッセージと代えさせていただきます。我が愛娘であるアーグレットには、父親としてこの上ない誇りと尊敬の念を禁じ得ません。今後とも、彼女とネイチャー・リベリオンの活動を温かく見守ってやってくださいますよう、切によろしくお願い申し上げます。地球万歳! 連邦万歳!」

 予定の時間を10分もオーバーした、アナウスの演説が、ようやく終わった。

 肥満体型にスーツを着込みながら、舞台上で数万人の熱気を一心に受けていた(と言っても、その場だけで、観客たちはアナウスの話には興味なさげだったが)彼は、身体中、汗だくになりながらも、自らの演説にすっかり酔いしれた様子で、連邦軍の関係者が座っているVIP席に向かって深々と頭を下げた。

「アース&スペースメディア社のアナウス・トゥインベル社長、ご多忙の中、貴重なご高説を頂きまして、ありがとうございました。さて、今回の環境フォーラムも、残すところあと僅かとなりました。本日も、本会場にお越しいただいた皆様方と、今後の地球環境の在り方について積極的な議論を交わすことができ、我らネイチャー・リベリオンとしても、大変喜ばしく思っております。最後に、組織の代表であるアーグレット・トゥインベルより、感謝と決意の言葉を述べさせていただきます」

 司会役が、アーグレットの名を挙げた途端。

 アナウスの時とは比べ物にならない歓声が沸き起こった。

 その勢いは、会場の空気全体がビリビリと振動し、肌に細かな衝撃が伝わってくるほどだった。

 そんな中、観衆の誰もが気づかない''異変''を目の当たりにしていたプルツーは、会場の中で一人、かつてない危機感を感じていた。

 改良されたサイコウェアを試用することにより、情報収集の精度をテストしてみるつもりが、今まさにアーグレットを手にかけようと狙う、テロリストを発見してしまったのだ。

「プル、あの、舞台の下に立っているスーツ姿の女と、そいつを撮影しているカメラマンの男。明らかにおかしいぞ。反対派の連中と同じ脳波を放っているが、ドーパミンの分泌量が特に異常で、行動活性化システムの働きも突出している。あれは、明らかに殺人犯の興奮状態と同じ。アーグレットの命を狙っている心理状態だ」

 プルツーの指差す男女が立っていた場所は、舞台に最も近い、客席の最前列の隅だった。

 二人は、マイクやカメラをそれぞれの手に持ちながら、ちょうどテレビか何かの中継を担っている様子だった。

「プルツー、あの女の人、テレビで見たことあるよ。ESM社の有名なアナウンサーじゃない? あんなにニコニコしているのに、怒りとか憎しみとか・・・全然そんな風に見えないけどな~」

 演説台のアーグレットに湧く会場の雰囲気を、カメラに向かって伝える姿を見る限り、その女は笑顔に満ちていて、むしろ職業人としての誇りすら醸し出しているように感じられる。

 あんな人間がアーグレットを殺すなど、プルには、プルツーの警告が一向に理解できない様子であった。

 するとプルツーは、そんなプルの態度に業を煮やしたらしく、「まったく、鈍いったら・・・ちょっと手を貸せ!」と言って強引にプルの腕を引っ張った。

 そして、彼女の手の平を、自らの手で強く握った。

「どうだ、これでもまだわからないか!?」

 プルとプルツーは、遺伝子の器質が全く同じであるため、身体が触れ合うことにより、片方が受信している脳波の映像を、もう片方も共有することができる。

 プルツーに言われて、改めて女の方を見たプルは、それまで気の抜けていた顔つきを変化させ、恐怖に慄いた表情になった。

「うわ、何あの人たち? あんなに笑顔でいるのに、頭の中では、目が釣り上がって、歯もすごい力で食いしばってる。まるで追い詰められた狼みたい。心の中で何度も()()とか()()とか。今にも、アーグレットに飛び掛かっていきそうだよ!」

 見た目の雰囲気と、内面とがあまりに違い過ぎる、男女の様子を感じ取ったプルは、プルツーの手を握ったまま、小刻みに震え出した。

「そうだろ? まずいな。私の分析が間違っていなければ、あいつらはこれから間違いなくテロ行為を働くぞ。しかし、ESM社の社員ともあろう者が、重役たちの出席する会合で、こんな堂々と無茶を働こうとするなんて。よほどアーグレットたちのことが憎いのか。あそこまで頭に血が上るとは」

 連邦軍の兵士も多数配置されている中、アーグレットに危害を加えようとすれば、それこそ拘束どころか、その場で射殺されかねない。

 ほとんど無鉄砲とも言える男女の心理状態に、プルツーは明らかな違和感を感じていた様子だったが、それ以上、迷っている余地はなかった。

 プルツーは、すぐさま他の観客を押しのけながら、演説台の近くへと歩き出した。

「ちょ、ちょっとプルツー。まさか、あの人たちを止めにいくの!? あなたの身に着けているサイコウェア、まだ試作段階でしょ? 本当にアーグレットを襲うかなんて、証明できた訳じゃないし。しかも私たち、今日は任務で来ているんじゃないんだよ? マリーダたちもパパもいない中、それこそ何かあったら」

 単独行動を取り始めたプルツーに、プルが珍しく至極真っ当な理屈で制止しようとする。

 だが、プルツーはそれを無視し、どんどん先へと進んでいった。

「だから、今起きようとしていることが、その()かだろ? プル、お前、キャプテンが日頃言っていることを忘れた訳じゃないだろうな? ()()()()()()()()()()。だから、あたしは自分の心に従って、あそこへ向かうんだよ!」

「そ、それはそうかもしれないけど」

 この時、プルは、プルツーが頑なに行動する姿を見て、ある種の危機感を覚えていた。

 プルツーの性格上、アーグレットという、自分たちとほぼ変わらない年齢の少女が、目の前で傷つくのを見たくなかったのだろう。

 先日も、襲撃される直前になってモノレールの乗客に危険を知らせたことで、ケガ人も最小限に抑えることができた。

 後でマリーダにその事を褒められた時、本人は怒って否定したが、プルには、プルツーが心の中で深く安堵していたことを、感覚的に察知していた。

 恐らくは今回も、同じような気持ちに突き動かされているのだろうが、その時とは、あまりに状況が違っている。

 さっきのアキバ横丁での一件と言い、身の回りで起きている流れが、どうも悪い方に動いている気がするのだ。

 この時、直感に鋭いプルの中で、何か不快で、混沌とした感覚が沸き起こっていたのだった。

 

 

 会場の片隅で、今まさに緊迫した出来事が起きつつある中。

 プルとプルツーの存在はもちろんのこと、自らに降りかかりつつある危険すら知る由もなかったアーグレットは、演説台に立ち、数万人の観衆に向けて、仕方なく自らの想いを訴えていた。

 もう何十回と繰り返してきた、戦争反対と環境保護のスピーチ。

 実は、アーグレットは、毎度同じ台詞を言わされるこうした機会に、半ば無力感を感じ始めていた。

 かつて、自身が引きこもっていた自宅の一室で、一人パソコンに向かって喋っていた時は、たくさんの仲間たちと支持者が、自分の味方になってくれていると実感していた。

 それが、今は顔も知らない人ばかりが増え、心の底から自分の声を聴いてくれている人は、ほとんど居なくなった気がしていた。

 アーグレットが世間の注目を集め始めた時から、彼女の演説は、父の経営するESM社によって、大衆が望むようにそのつど作り変えられていた。

 テレビやオンライン上で報道される頃には、言葉の前後が入れ替っていたり、まったく別のシーンの顔が合成されていたり、声のトーンすらも調整されている。

 それだけならまだいい。ただでさえ、加工された映像なのに、それを別の報道機関が再び切り貼りしたり、余計なBGMまで入れたりするから、もはやアーグレットが述べた生の演説など、原型を留めていなかった。

 そうした加工品というのは、世間に広まるにつれ、いずれ反対派の連中にも行き渡る。

 彼らは悪意によって、その映像を更に改編し、まるでアーグレットが異常者であるかのように宣伝する材料にした。

 それはそれで、アーグレットの心には深い傷を負わせたが、考えてみれば、本来の映像だって真実の半分も伝えられていない。

 皆が揃って偽りのアーグレットを作り出し、自分たちの都合の良い主張の道具にすり替えることで、本来のメッセージを雲散霧消させている事実には、変わりはないのだ。

 推進派にとっても反対派にとっても、もはや彼女は、真の意味での反戦・環境保護活動家ではなくなっていた。

 ESM社や、その他多くのメディアによって作り出された、うら若き闘う少女。

 偶像としての、アーグレット・トゥインベルだったのである。

「世界が目を覚ましつつあります! 変化が訪れようとしています! そのためには、個人の変化だけでなく、社会全体がもっと変化しなくてはなりません。戦争を止め、美しい地球を取り戻すために・・・自然と寄り添いながら、誰もが平等に生きていく選択肢が必要なのです。私たちは、もう騙されません。自然を大切にする気持ちを確固たるものにすれば、戦争などという人命と経済の浪費に過ぎない行為も無くしていけます。今日集まってくださった人々に、一人でも多くの意志と勇気が宿ってくれることを、切に願います。ありがとう!」

 それでも、アーグレットは演説を止める訳にはいかなかった。

 迷いつつある気持ちを奮い立たせることにより、例え、ステレオタイプとなりつつある決まり文句でも、全身全霊を向けるしかなかった。

 なぜなら、自分と言う存在に興味を持って会場に足を運んできてくれる人がいる以上、まだチャンスは残されていると思ったから。

 人間が最も恐れるべきは、無関心である。例え、いわれのない非難で貶められようとも、自分の前に誰かが居る限り、アーグレットは空虚な心をひた隠して、活動を続けていこうと心に誓っていた。

 やがて、アーグレットの演説が締めくくられた後。

 何に対して興奮しているのかわからない、観衆の大歓声が耳をつんざいた。

 支持者たちを労うように笑顔を振りまいた後、アーグレットが演説台を降りる。

 そのまま、司会の進行と共にフォーラムは閉幕していき、熱狂していた観客たちは、イベントが終わったかのように、淡々と席を立ち始めた。

 アーグレットも、舞台を横切り、自らの席に戻って、いったん水分を口にした。

 彼女の横に座っていた父のアナウスが、満足げな表情を浮かべながら、彼女を出迎えた。

「アーグレット。今日も素晴らしい演説だったぞ。見ろ、母さんや連邦軍の来賓方も、誇らしげだ。これでまた、世界中の人々がお前の活動に注目してくれるな・・・おーい君たち、もうこっちへ来てもいいぞ。インタビューを頼む」

 娘への労いもそこそこに、アナウスは、待機していた報道関係者たちに合図を送った。

 それを見た取材陣たちが続々と舞台の上に上がってきて、アーグレットにインタビューを求めるべく、我先にとマイクを突き出してきた。

 この記者たちは皆、ESM社お抱えの番記者であり、他の報道機関は、彼らがインタビューした映像にライセンス料を払うことでしか、自らのスタジオで放映することは認められない。

 それは逆に言えば、アーグレットはESMの息のかかった者としか関わる機会がない訳で、記者たちのほとんどは、顔見知りだった。

 いつもメンバーによる、いつものインタビュー。

 どうせ真摯に対応した所で、話の前後を切り取った、都合の良い部分しか報道してもらえないことを知っていたアーグレットは、作り笑顔を振りまきながら、押しかける記者たちに、それらしい返答を繰り返していた。

「あれ?」

 と、その時。

 アーグレットは、ふと、その場に違和感を覚えていた。

 いつも、真っ先に自分にインタビューを向けてくる女性と、カメラマンが居ない。

 その女性はESMの中でも指折りの人気リポーターだから、いつも先頭に立って質問してくる手はずになっているのに。

「? あの人たち、あんな遠くで何しているんだろう?」

 インタビューを受けながら、周囲を見渡している時。

 アーグレットは、舞台の下で、二人そろってこちらを眺めている例の男女を見つけた。

 間違いなく、あのリポーターとカメラマンの男だ。

 奇妙なことに、女の方は、その場に立ち尽くしたまま、実況している訳でもなければ、カメラの方に語り掛ける素振りすら見せていなくなっていた。

 さっきは、満面の笑みで中継を担っていたはずなのに、いったいどうしたと言うのだろう?

「おい、お前たち! そこで何を突っ立っているんだ!? アーグレットに真っ先にインタビューするのが、お前たちの役目だろう!」

 アナウスも、男女の姿に気づいたようで、怒り心頭の様子で発破をかけた。

 が、それでも、二人は動こうとしない。

 やがて、アーグレットの周囲にいた記者たちも異変に気付いた様子で、次々と振り返り始めた。

 すると、その状況を待っていたかのように、二人のうち、カメラマンの男の方が、アーグレットに向けて担いでいたテレビカメラのスイッチを押した。

「・・・なっ!?」

 次の瞬間、アーグレットはわが目を疑った。

 カメラのレンズの部分がそのまま外れて地面に落ちかと思うと、その奥から、円筒状の突起物が突き出てきたのだ。

 周囲にいた記者たちも、それを見て一様に戦慄した。

 間違いなかった、それはアーグレットのような子どもでも、すぐに判断できる、凶器の象徴とも言えるべきものだった。

 そう、ライフルの砲塔である——。

「世界の秩序を乱す悪童め! 我々の恨みを思い知れ!」

 男がそう言って叫ぶと、突き出た砲塔から轟音が鳴り響いた。

 先端から火花が散り、無数の弾丸が、舞台上にいたアーグレットに向けて音速のスピードで放たれた。

 直後、壁やスクリーンなど、あらゆる場所に穴が開き、崩れ落ちたのがわかった。

 観客たちの悲鳴が上がり、その場にいた記者たちも、アナウスも、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。

 幸い、最初の発砲は、アーグレットには当たらず、弾道を外れたようだった。

 だが、今度は女の方が舞台の上に這い上がってきて、持っていたマイクに仕込んであった刃物を振り回しながら、アーグレットの下に駆け寄ってきた。

「何? 何なのあれ? 何であの人たちが?」

 二人の気迫に押され、アーグレットは腰が抜けてしまったようで、その場にへたり込んでしまった。

 それを見たリポーターの女は、ニヤリと笑みを浮かべ、持っていた刃物をアーグレットに向けた。

「お前のような者が次から次へと現れるから、人類は永年に渡って団結を果たせなかったのだ! 今ここで、その罪を償うがいい!」

 女が、鬼のような形相で突進してきて、アーグレットの身体に向けて刃物を突き出した。

 アーグレットは、逃げようにも身体が言うことをきかなかった。

 もうダメだ——。

 アーグレットは、観念した様子でとっさに自らの死を覚悟した。

 だが、その時だった。

「! あ、あなたたちは!?」

 恐怖のあまり、縮こまっていたアーグレットの目の前に、颯爽と二人の少女が現れた。

 他ならぬ、プルとプルツーだ。

 二人は、鮮やかな手つきで走り寄ってきた女の腕を掴み、足元を蹴り上げてバランスを崩し、そのまま地面に叩きつけた。

 とっさに手から離れた刃物を、蹴りつけて遠くへと追いやる。

 ジンネマンから日頃手ほどきを受けていた、近接格闘術が、その威力を発揮していた。

「プルツー。私たちって、こういう特撮ヒーローみたいなキャラじゃない気がするんだけどなぁ・・・」

 舞台の床で、仰向けに倒れている女を見下ろしながら、プルは気まずそうな口調でプルツーの方をチラッと見た。

「今更つべこべ言うな。モビルスーツに乗っていないだけで、やってることは似たようなもんだろ。それより、さっさとこのイカれた連中を黙らせるぞ!」

 アーグレットと、その周囲の人々が呆然と眺める中、プルツーはプルに合図を送り、再び、キャスターの女とカメラマンの男に向かって、駆け出した。

 刃物を失った女は立ち上がり、今度、履いていたスカートを捲り上げて腿に隠された銃を取り出した。

 男もまた、カメラの中に隠してある小銃に弾倉を充填し、プルたちの方角へ向け、藪から棒にトリガーを引き始めた。

 それぞれの銃口から、再び火花が散る。

 だが、プルたちはそれに臆する様子も見せず、持っていたハンドガンを向けた。

 ほんの僅かな刹那の後、小出力のビームが細かな球体状になって連射される。

 直後、それらが空中で弾丸と衝突し、相殺する形でパンッと弾け飛んだ。

 プルたちは、銃に搭載された人工知能とサイコウェアを駆使し、周囲に被害が及ばないギリギリの出力で、敵の銃弾を溶解・蒸発させたのだ。

「子どもの遊びじゃないんだよ。そんな豆鉄砲で、あたしたちを仕留められると思うな!」

 いくら撃っても弾丸の届かない状況に、男と女は怯み始めた。

 その隙を見て、プルツーが「プル、仕掛けるよ!」と叫びながら、駆け出す脚を更に速めた。

 プルもそれに続く。

「プル、お前はあっちのカメラ男をやれ! せいぜい肋骨の2~3本で留めておくんだぞ!」

「オッケー、任せて!」

 プルとプルツーが、互いにアイコンタクトを取り、二手に分かれた。

「くそ、このガキ共がぁ!」

 なおも、女が銃を連射し続けた。

「小賢しい! 無駄だって言ってる!」

 プルツーが地面を蹴り、宙を舞った。

 その高さ、モビルスーツの脚部に及ぶ10m。

 この時、雲に隠れていた日の光が再び顔を覗かせていた。

 天井のガラス越しに太陽を背負ったことで、プルツーに対する女の視界が利かなくなった。

「!?」

 女の体勢が崩れた。

「もらった!」

 プルツーは空中から急降下するように頭から突っ込み、そのまま、女の身体に覆いかぶさった。

 女の身体が、勢いよく地面に押し倒される。

「ぐ・・・くそっ! 離せ!」

 女は抵抗し、起き上がろうとしたが、無駄なあがきだった。

 特別な肉体強化措置を施され、ジンネマンによる格闘術も叩きこまれていたプルツーの体勢は、いくらもがいた所で、ビクとも動かなかった。

 一方のプル。

 彼女もまた、男から放たれるライフルの連射を跳ね返しながら、身を低くし、ジグザグに針路を変えることで、瞬時に男の懐に入り込んだ。

 すかさず、みぞおちに数発の拳を叩きこむ。

 小さな拳が、男の腹部に突き刺さった。

 一発の打撃力は、年端の行かない少女からは想像もつかない、およそ180kg。

「うぼぇ!」

 肋骨からメリメリという音が聞こえ、胃袋が背中に押しやられる感覚が、男を襲った。

 直後、高圧電流が発生して心臓の動きが一瞬不安定になる。

 二重の衝撃に襲われた男は、苦悶に満ちた表情を作った後、次の瞬間には武器を落とし、その場にへたり込んでしまった。

「ふぅ・・・オジサン、もうこんな真似しない方がいいよ? もしこれがモビルスーツの戦いだったら、機体と一緒に粉々になっちゃうんだからさ」

 男がぐったりと床に突っ伏したのを見下ろしながら、プルは、そう言って男の傍に落ちていた小銃を持ち上げた。

 一方、男が完全に制圧された様子を見て、プルツーの方に取り押さえられていた女も、これ以上抵抗ができないことを悟ったらしく、諦めた様子で大人しくなっていた。

 ほどなくして。

 連邦軍の兵士たちが、駆け足でやってきて、男と女に銃を向けながら、それぞれを拘束した。

 数名の兵士たちによって、無理やり会場の外へと連行される犯人の後ろ姿を眺めながら、プルとプルツーはひとまず安堵した。

「何とか間に合ったな。マイクやらテレビカメラに武器を仕込むなんて、随分手の込んだ偽装を施したもんだ」

「うん。とりあえず、アーグレットにケガがなくてよかったね」

 連行される女たちを眺めつつ、プルとプルツーは、揃って胸を撫でおろした。

「プル、それにプルツー? 学校の転校生だった・・・あなたたちなの?」

 事件が解決したことで、その場を立ち去ろうとすると、ざわつく人々の中から、アーグレットがプルたちの名を呼んだ。

 呼び止められた二人は、彼女の方を視線だけ振り向かせ、少し気まずそうに無言で頷いた。

 こうなることはわかっていたが、自分たちの姿を晒し過ぎないためにも、正直、話しかけてはもらいたくなかった。

 もちろん、アーグレットとしてはそうもいかないらしく、恐る恐る、プルたちの姿を確認しながら、なおも近寄ってきた。

「あ、ありがとう。本当に、ありがとう」

 先ほどの襲撃に対する恐怖が抜けきらないのか、それとも、プルたちに助けれたことに感動しているのか。

 アーグレットは、二人の姿に視線が釘付けになったまま、笑いそうな泣きそうな、複雑な表情で何度も声を詰まらせていた。

「プ、プルツー。どうする? このまま逃げた方が良いんじゃ」

 アーグレットの姿を眺めつつ、プルが、迅速な撤退を提案する。

「そうだな。こいつには悪いが」

 いよいよ、去り際まで特撮ヒーローじみてきた――そんな思いが脳裏をよぎりながら、二人はその場を去ろうとしたのだが。

 どうやら二人の決断は、遅きに失していたようだった。

 騒乱が収まり、我に返った報道陣が、プルたちの下へ我先にと駆け寄ってきたのである。 

「そこの君たち、さっき、銃弾を撃ち落としたように見えたが、一体どうやったんだい!?」

「銃を持った大人二人を素手で倒すなんて、すごいじゃないか! アーグレットさんと知り合いなのか!? ぜひ話を聞かせてくれ!」

 矢継ぎ早に、質問が繰り出されたかと思うと、次の瞬間には、プルとプルツーはすっかり取り囲まれ、もみくちゃにされていた。

 テレビで有名人に取材する時のような、横暴な囲い方。

 カメラは顔に当たるし、フラッシュで目は眩むし、もうさんざんである。

「いやぁ~ん、やっぱりこうなった! 私たち情報機関の人間なのに、今頃、世界中に中継されちゃってるよ! プルツー、早く何とかし・・・あっ! そんな所にマイク押し付けちゃダメだったらぁ!」

「思ったより捕まるのが早かった! すまないが、アーグレット! こいつらを一掃・・・貴様、そのカメラで、一体どこを撮っている!?」

 身体中を、マイクやらカメラのレンズやらの突起物にど突かれながら、二人はたまらず、アーグレットに助けを求めた。

 すると、報道陣の群れの中に沈んでいくプルたちを眺めていたアーグレットは、彼女たちの助けを求める声を聞いて、初めて我に返った様子だった。

 それまで呆然としていた顔つきを一変させ、急いで駆け寄りながら記者たちの間に割り込んでいった。

 そして、プルとプルツーの手を掴み、力の限り引っ張り出した。

「早くこっちへ! 安全な場所に案内するわ!」

 二人の身体を確保したアーグレットは、手を引いたまま舞台の上から飛び降り、追いかけてくる報道陣を振り切って、ホールの外へ駆けて行った。

 こうして、プルとプルツーは、ひとまず人目から避けることに成功したのであった。

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