「こちら、現場からの報告です。突如として暴徒化した民衆によって、反戦・環境保護の象徴と言われたTシティ・インターナショナル・コンベンションセンターは徹底的に破壊され、見るも無残な廃墟と化しています。この施設は元々、非政府組織であるネイチャー・リベリオンの事務局が設置されていましたが、暴動後、地下深くに連邦軍の研究施設が存在することが判明しました。一部の評論家や市民オンブズマンは、この施設内でウィルスや細菌に関する生物兵器の実験が行われており、何らかの原因で排気口や下水管を通じて危険物質が漏れ出したことが、原因不明の狂暴化に繋がったと主張。軍が警告なしに発砲したのも、Tシティ外への感染拡大の防止及び証拠隠滅を図るためだったと非難しています。同様に、軍の情報部がこの所、Tシティ内における議会や民間企業への政治干渉を繰り返していて、政府に対するクーデターを扇動しているという情報もあり・・・」
アーグレットを助け出し、プルと共にT.I.C.Cを脱したマリーダは、迎えに来たヘリに乗りながら、ディスプレイに映し出されたテレビ報道を眺めていた。
民衆による破壊行為が続いたのは、マリーダたちがアーグレットを連れ出してから30分間ほどで、その後には、皆、催眠術が解けたかのように、我に返っていた。
言うまでもなく、彼らには暴動した記憶がない。気が付くと老若男女の誰もが連邦軍の兵士たちに取り押さえられていたことから、一同が困惑し、抗議を始めた。
そこへ、駆け付けたマスコミが十分な注釈や解説もなしにTシティの内外に報道したことから、軍に対する批判が一斉に噴出。
報道官が即座にコメントを発表し、弁明に追われる結果となったのである。
テレビカメラの向こう側で、荒廃した敷地内を歩きながら、いちはやく状況を伝えていたのは、皮肉にもESM社の記者だった。
彼らは偽の情報を掴まされていることも知らず、スクープ性を優先し、あることないことを盛んに報道していた。
「これは、連邦政府が反撃に出たというサインに違いない。ESM社の取材に答えた評論家たちも、皆、政府側の支持者と見て良いだろう。この様子なら、ひとまず私たちの部隊がスケープゴートにされる心配もなくなった」
チェナという連邦軍情報将校による、ESM社の支配が明るみに出たことで、政府と軍の間で何らかの妥協策が結ばれるのではないかと危惧していたマリーダとしては、この動きはむしろ歓迎すべき事態であった。
政府と軍による忖度が行われていれば、このような報道には至らず、即座に情報統制が敷かれたはず。
P部隊にも撤収命令が下されないことを見る限り、ジンネマンも裏方で動いてくれたに違いない。
ともあれ、これでプルツーの救出に集中できる。
下水管の汚水によって強烈な臭気を放っていたサイコウェアを脱ぎ、予備の物に着替えながら、マリーダは改めてチームワークの重要性を実感すると共に、次なる作戦へと移行していた。
「みんな、どうだ? プルツーの居場所は特定できそうか?」
テレビ画面が映し出されていた、全天周囲モニターを外界の映像に切り替えた後、マリーダはヘリを操縦していたプルシリーズたちに話しかけた。
機体から分離させた小型ドローンと、上空を飛行しているS-7により、部隊は総力を挙げてプルツーの居場所を捜索していたが、何の反応も見られなかった。
T.I.C.Cに潜入した際、地下施設では、感応波を妨害する設備によって、プルツーの波長を遮断していたが、民衆らの暴動により、それらが破壊されたことで、わずかな間だけ気配を感じ取ることができた。
にも関わらず、今になって、再びそれが消えてしまった。
恐らくはこれも、謎の組織による防衛兵器の仕業なのだろう。
厄介なことに、敵の兵器は、P部隊のバトルルームや、軍の地下施設のように、ミノフスキー粒子や人工ノイズを使うことで、機械的に索敵を妨害するだけでなく、改良型のサイコ・ジャマーによって、人間の脳にも干渉してくる。
考えられる仕組みとしては、指紋のように個人で異なる感応波や脳波について演算し、まったく同じパターンの逆相となる波長を作り出しながら互いを相殺することで、
だが、これは、高度な集積回路を並列処理させるほどの装置でなければ実現し得ない技術であり、最先端の機器を使用するP部隊のテクノロジーをも上回る。
そのようなものを、連邦以外で擁しているとすれば、ジオンの残党くらいしか考えられないのだが、彼らの技術にしても、不自然なほど革新的であるというのが、マリーダとしての推測だった。
「ジオンの残党も、連邦同様、軍事資産としてのモビルスーツを主役とする戦争体系に縛られている。その点、この組織は、巨大兵器に依存しない非対称戦に徹していることから、できるだけ汎用性の高い、低コストの
脳とコンピュータとを繋ぐインターフェースの開発は、すでに西暦の時代から進められていたが、技術的・倫理的な問題から実用化されることはなかった。
人間の脳は、演算能力こそコンピュータに劣るものの、単純な計算では答えを導き出すことのできない不確定要素においては、まったく異質の力を発揮する。
その複雑性は、
AIは、確かに未知数の存在について
過去の経験則や知識から、まったく未知のもののイメージを瞬時に推測し、行動を導き出すという作業は、今もって人間の脳にしかできないことなのだ。
サイコミュ兵器もまた、構造的にはニュータイプという人間の脳に依存するため、既存のコンピュータやAIでは、どうしても処理しきれない領域にぶち当たったり、超高性能な機材を使用しなければ、性能の向上も見込めない。
その点、脳そのものをコンピュータ化してしまえば、未知の部分が多いサイコミュ兵器の可能性を飛躍的に高めたり、あるいは敵のシステムを上回る存在足り得る。
とどのつまり、感応波を機械的に制御するのではなく、脳と言う根幹部分において
「いわば、思念を以って思念を統制していくようなもの。しかし、この方法は、処理側の脳がオールドタイプのものでは使い物にならないし、情緒不安定なら暴走を引き起こす恐れさえある・・・どちらにしても、現状としてプルツーの居場所を突き止めるには、それを知っていると思われる人間から情報を聞き出すしかないという訳だな」
そう思ったマリーダが視線を向けた先。
そこには、機内の席に小さく腰掛けながら、ひたすらモニター越しの外界を眺める、アーグレットの姿があった。
外は、もう日が沈み始めていて、全天周囲モニターの映像は、そのほとんどが、鮮やかな夕焼け色に染まっていた。
彼女は、隣に座っているプルに見守られながら、呆然とした様子で、ひたすら何か考え事をしていた。
(プル、アーグレットは相変わらずか?)
(うん。さっきからずっと黙ったまま。私たちが助けに来る前に何があったのか、全然話してくれないよ。残ってたアイスで釣ってみても食いつかなかったし。これは、よほどショックな出来事があったね)
マリーダによる意思疎通の問いに、プルは、何を根拠に持ち出してきたのかわからない
マリーダらがプルツーを助けるべく、T.I.C.Cに通じる下水管に潜入した直後は、まだ区域外の河川だったことから、チェナとプルツーが何を話していたのか、また、その時にアーグレット自身は何をしていたのか等の情報は、ほとんど把握できていなかった。
この辺りが、
彼女自身、すでにマリーダたちとは顔見知りだし、特にプルとプルツーに至っては、環境フォーラムの演説中に命を救われている功績を鑑みれば、通常の心理状態が保たれているなら、素直に協力してくれたはず。
それが、人が変わってしまったように無反応を貫き、マリーダたちに対してもまるで注意を向けようとしないのである。
(あれほど気丈だった彼女が、ここまで落ち込むというのは、恐らく自身の存在理由を著しく揺るがされたからに違いない)
アーグレットの様子を遠巻きに眺めながら、マリーダはあることを感じていた。
目立った外傷もなく、無理やりに何かを強制させられた様子でもない所を見る限り、彼女は、自身の存在理由を覆すような事実を知ったのではないか。
アーグレットのような強気な性格の子どもは、一見すると怖いもの知らずに見えるが、実際の所はコンプレックスの塊である。
内面的な心理が混沌としていて、それに向き合いきれず、現実逃避するために、その年齢からは考えられないような驚異的な行動力を生み出している。
だとすれば、その混沌とした心理状況とは何だろう?
それは例えば、敏感過ぎる感性から生じる、人生への絶望や、自身の行動範疇における、慢性的な居心地の悪さなどだ。
この仮説が肯定できたとすれば、マリーダには導き出せる
もちろん、あくまでも予想であり、それがアーグレットの心を閉ざしている真の理由かどうかは確証が持てない。
それでも、これまで彼女が歩んできた短い人生の中で、
そう。今こうしている間にも、薄っすらとアーグレットの傍に佇む、思念体らしき人の面影。
彼女と見た目が瓜二つの、うら若き少女の存在である——。
「アーグレット。もう私が学校の先生ではないことは承知の上だろう。だから、本来の口調で喋らせてもらうが・・・お前は、自分の横に立っている思念体の存在に、気付いているのか?」
回りくどい言い回しが苦手なマリーダによる、核心をついた問いかけ。
瞬間、アーグレットの身体が、ビクッと震えたように見えた。
彼女は、驚いた様子で一瞬、マリーダの顔を見たが、本音を見透かされまいと、慌てて目を伏せた。
「思念体って、
そう言って、アーグレットはそっぽを向いた。
だがこの時、マリーダはアーグレットが、間違いなく図星を差されたことを見抜いていた。
すかさずプルに無言の合図をして、席を入れ替わってもらう。
そして数秒ほど、沈黙を続けた後。マリーダは軽く息を吐きながら、優しい口調で アーグレットに語り始めた。
「アーグレット。お前には正直に言う。私はかつて、娼婦だったことがあってな」
突然の告白に、アーグレットの動きが一瞬固まる。
「・・・?」
「モビルスーツのパイロットとして戦場に赴いた後、不慮の出来事から、人身売買の業者に捕らえられてしまったんだ。当時はまだ、プルやお前とほとんど変わらない年頃だったが・・・その時に、お前の横に立っている少女に出逢ったことがある」
「え・・・」
瞬間、外に向けられていたアーグレットの顔が、マリーダへと向けられた。
もちろん、この事実は、過去に「心を置いてきた」マリーダ本人にとって、当然ながら触れたくない内容だった。
それでも、姿を消したプルツーの行く先を知るためには、現状、アーグレットからの情報に頼るしかなく、彼女の心を開くためには、避けて通れない道であることもわかっていた。
だから、覚悟を決め、あの恐ろしい時代に自分を投影することに決めた。
そう。かつて、プルトゥエルブという名前だった頃の、忌まわしい過去である。
ずっと昔に、閉じ込めたはずの記憶の箱。
マリーダの頭の片隅に閉じ込めてあったはずのその箱が、本人の手によって、再び開かれようとしていた。
第一次ネオ・ジオン抗争末期。
反乱を起こしたグレミー・トトの先兵として出撃した後、戦線を離脱して地上に降り立ったマリーダは、いつ出られるともわからない、絶望の世界に閉じ込められていた。
モビルスーツのパイロットとして、準備不十分のまま実戦に投入されたかと思えば、やっとの思いで逃げ延びた先が、ケダモノと化した男たちの巣窟。
この時代、娼婦の生活は、凄惨の二文字で片付けられるほど、軽いものではなかった。
欲望のままの性行為で終わるならまだましで、内臓が破裂し、骨が折れる程の暴力行為に加え、刃物で身体を切り刻む、熱湯や冷水を浴びせる、毒性の強い合成薬物を注射されるなど、拷問とほぼ変わらない行為に晒される毎日が続いた。
時には、棒状の突起物を性器の中に押し込まれたり、銃の
人類の歴史上、平和と言われた時代でさえ、娼婦という職業は消えることはなく、常に身の危険を伴った。
それが、長引く宇宙世紀の戦争の最中ともなれば、男たちの歪んだ欲求は、本能の赴くままに発揮される。
彼らは、純情な少女の悲鳴や恐怖に駆られた表情に
マリーダとて、いかに強化人間の肉体と言えど、そのような行為に日々晒されれば、人としての尊厳を失うことは当然で、女性としての機能そのものも確実に破壊させていった。
身も心も乱暴に扱われたことで、マリーダの人格が崩壊するには、さほど長い時間はかからなかった。
娼婦の中には、自ら死を選ぶ者もいたが、彼女のように
自分はいつまで、このような辱めを受けなければならないのか。
いよいよ生きる希望すら失いかけたある日、マリーダはたまたま、同じ娼館にいた、ある少女と出逢った。
その娼婦は普段は富裕層向けの特別な部屋にいることが多く、実際の年齢はマリーダよりも上だったが、見た目には彼女と同じか、むしろ幼かった。
肌の色も純白で美しく、何年も粗雑に扱われてきたように思えない。
実は、それには理由があり、その少女は、生まれつき性行為に特化した強化手術を施されていて、子宮や脳、性感帯などに通じる神経から一切の不快感を遮断されるという、娼婦になるためだけに生み出された存在、『セクサクローン』だった。
長引く戦争によって、多くの民衆が貧困に喘ぐようになったが、それは宇宙に暮らすスペースノイドにも顕著であった。
ジオンが弱体化する一方、地上に比べて連邦の監視も届きにくい辺境のコロニーは、人身売買の場として活用されることが多く、軍事技術を応用することで、
娼婦たちは、初期の頃はほとんどが民間人で、各地の居住区域から自らの意思で集まった者で占められていたが、需要の増加やニーズの変化と共に、より従順で、若い身体が求められるようになった。
そこで、身寄りのない子どもたちを誘拐まがいに連れて来たり、客との間に孕んだ子を堕胎することなく出産させた後、強化人間と同じ手術によって調整し、時には性別の遺伝情報まで書き換えるという、非倫理的行為にまで及び始めたのである。
このような方法で育てられたセクサクローンの幼体は、肉体的な老化が遅く、傷の再生能力も早いことから、関係者の間で
マリーダが出逢ったその少女も、そんな改造人間の一人で、名前すら持たないその子は、シリアルナンバー6693mil-R、通称を『ミリル』と言った。
ミリルは、マリーダよりもずっと多くの男たちを相手にしており、時には絶命してもおかしくないレベルの残虐行為に何度も晒されたが、驚異的な再生能力で、そのつど生き延びていた。
だが、ミリルという人物の驚くべきは、そこではなかった。
彼女は、生まれつきを
表面上は男たちに従いながらも、娼婦として働かされることへの拒否感を保ち続けていたマリーダは、自分よりもずっと辛い境遇に生きながらもなお、前を向き続けるミリルと出逢ったことで、自らがまだ人として救われていることを実感し、後のジンネマンと出逢うまでの日々を、何とか耐え忍ぶことができたのであった。
「・・・そして、そのミリルという少女の姿が、アーグレットにそっくりで、今も傍に佇んでいる思念体と瓜二つなのだ。ある日、ミリルは客の一人から、過去に堕胎したはずの子どもが生かされていて、新たな
次第に途切れ途切れになりつつも、何とか話を言い終えた直後。
マリーダは全身の力が一気に抜け、まるで頭の中が激しく揺さぶられたような
「マリーダ先生? どうしたの?」
異変に気付いたアーグレットが、心配そうに顔を覗き込む。
できるだけ、毅然とした態度を維持しようと気を張っていたが、やはり過去の忌まわしい記憶に耐えられることは、難しかったようだ。
そのの様子を見ていたプルが、慌てて駆け寄ってきた。
うずくまる彼女の背中をさすりながら、代弁するようにアーグレットに事情を説明する。
「ゴメンね、アーグレット。実はマリーダって、私とプルツーの妹なの」
「え!? マリーダ先生が、あなたたちの妹?」
吃驚した様子で、アーグレットは両目を丸くした。
「うん、そう。私たち、同じ遺伝子から作られていて、全部で個体が十二人いるんだけど。戦争で一度は全員死んじゃってね。マリーダだけは、少し長生きした分、ちょっと年齢を重ねているっていうか。で、当時はモビルスーツのパイロットだったのが、今はスパイ組織の工作員。でも、記録上は戦死したままだから、誰も私たちのことは知らない。国籍も住民票も持たない、
体調が戻らずにいるマリーダの上体を抱き寄せつつ、プルは苦笑いを浮かべてアーグレットに自己紹介をした。
そんなプルの言葉を聞いたアーグレットは、あらためて周囲を意識して見渡してみた。
確かに、操縦している者たちも、プルとほぼ同じ姿をしている。
この瞬間、アーグレットの心の中で、何かが動き出した。
「そうだったの・・・あなたたちも、色んな事情を抱えているみたいね」
彼女は、一言そう言って、しばらく考え込んだ後、意を決したように顔を上げ、プルとマリーダの方へ恐る恐る眼差しを向けた。
「実はね。私もさっき、母さんから初めて聞かされたことがあるの。私は、父さんと娼婦との間に生まれた子どもで、その人はスペースノイドだったって」
「スペースノイドの・・・娼婦だったの?」
プルの反問に、アーグレットが頷く。
マリーダも、朦朧とする意識の中、それを聞いて「やはり」と確信した様子だった。
「ええ。私には、マリーダ先生ほどはっきり見ることはできないのだけど。確かに以前から、自分そっくりの幽霊がいることはわかっていたわ。でもその人、身振り手振りはできても、言葉が聞き取れなくて。それでも、なぜか私は、その人が他人とは思えなかったから、ネイチャー・リベリオンの活動を抜け出しては、その跡を追っていた。ちょうど、あなたたちと初めて出会ったのも、その時なのだけど。今思えば、彼女が私の本当のお母さんだったみたいね」
マリーダの告白によって、アーグレットの過去の様々な体験が、点と点を繋ぐように結ばれていた。
それは、ある意味で嬉しくもあり、また、彼女自身が知りたくなかった真実に、触れなければならない瞬間でもあった。
「ふふっ。すごいと思わない? アースノイドとスペースノイド。富裕層と娼婦の混血・・・活動家として、最高のステータスよ」
アーグレットは、儚げにそう言って、自身の境遇について鼻で笑った後、しばしの間、天井を見上げた。
全天周囲モニター越しに、真っ赤な空が広がっている。
地上でしか見ることのできない、心にしみるような壮大で哀愁漂う風景。
アーグレットは、その光景をしばらく眺めつつ、いつしか一筋の涙を流していた。
しかし、気を取り直してすぐに前を向き、大きく深呼吸をした後、プルとマリーダの方を見据え、言った。
「いいわ。二人とも、私に協力させて。プルツーの居場所、教えてあげる」
「え、ほ、本当に!?」
突然の展開に、プルとマリーダが、驚きを以てアーグレットの顔を凝視する。
「ええ。プルツーは、地下施設の暴動が起きる直前、兄のフェフが現れ、さらっていったわ。だからきっと、兄さんが活動している組織の所へ行ったんだと思う。確信は持てないけど・・・向かった先は多分、メンシュハイト啓明結社の運営する
「メンシュハイト? キブツ?」
どちらも何かの名称には違いないが、それらは工作員のマリーダやプルの知識を以てしても聞き慣れない名前だった。
軍の地下施設同様、またしても未知の領域なのだろう。
前回のように、事前の準備をしないまま、そうした場所に足を踏み入れることは得策ではない。
だが、プルツーの命が危険に曝されている以上、後戻りする時間もない。
「ここで二の足を踏んでも仕方がない。みんな、プルツーを助けに向かおう!」
しばしの沈黙の後、マリーダが意を決した様子で、ヘリの操縦室に指示を出した。
プルと、その周りの妹たちも、迷うことなく同意する。
同時に、ヘリの機体が大きく旋回を始めた。
そして、アーグレットの指示に従い、日の沈みかけた地平線に向かって、速度を上げていった。