「ふっ・・・くくく・・・ははは、あっはははは! そうそう、この感じだよ。この、機体の隅々から伝わってくる、金属のぶつかり合う音! 乾いた衝撃! いいぞ、プル! もっとだ、もっとあたしを楽しませろ!」
激しく火花を散らす二機のUMMS。
機体から発射されるミサイルの音と共に、プルツーの
制御室のモニターに映し出された彼女の表情は、普段の寡黙でクールなそれとは明らかに異なっていた。
かつて、戦うために冷凍催眠から覚醒させられ、敵の殲滅のみを生きる理由として与えられた者だけが表現し得る、官能的な
それはまさに、当時駆っていたクィン・マンサによって、ドック艦のラビアンローズを轟沈し、ガンダムMk.ⅡやZガンダムを圧倒した時の、あの獰猛な野獣としての『プルツー』に他ならなかった。
「プルツー、一体どうしたと言うんだ。さっきまでの表情とはまるで違う・・・プルを本当に殺そうとしているみたいだ。まさか、新しい肉体と昔の記憶とが上手く融合せず、極端な衝動性を引き起こしているのか!?」
突如として豹変したプルツーを見て、マリーダは背筋の凍る感覚を覚えながらも、直感的にそう感じた。
恐らく、今のプルツーの頭の中には、訓練などという意識はない。
彼女は、本当に殺し合いをしているのだ。
これまで、本人なりに生まれ変わったことによる新しい生き方を目指してはいたが、何らかの理由で、それまで脳の片隅に抑え込んでいた古い時代の記憶や人格が、融和されることなく独立して解き放たれたのだろう。
例えるならば、それは遺伝子操作によって造られた者の宿命とでも言うべきか、理性と本能との両立が難しく、常人よりも先鋭化しやすい強化人間特有の葛藤。
そうした、自身の内面に対する苛立ちと不満が、理性を超越し、脳を乗っ取り始めたのではないか。
恐らく今のプルツーの頭の中にあるのは、目の前にいる獲物を仕留めようとする、肉食獣としての本能だけなのだ――。
マリーダがそう考えていると、タイミングを同じくして、モニタ越しのプルツーが話しかけてきた。
「聞こえてるよ、マリーダ。そうさ。私は生まれ変わってから、ずっと戦いたくてウズウズしていたんだ。あんな落ちこぼれの妹たちを訓練する毎日に、
マリーダの心の中を見透かしていたかのように、プルツーは高らかな笑いを携え、尋常でないスピードでバトル・ルーム内を飛び回っていた。
そして、攻撃を回避し続けるプルを徐々に追い詰めていった。
「どうした、プル! いつまでも逃げてないで仕返ししてこいよ! 確か、お前もそうだったよな? スクラップ寸前のキュベレイで私のサイコガンダムに体当たりして、そのか弱い身体ごと消し飛んだ。私は、あの時の快感を今でも覚えているよ。今この場にジュドーはいないが、もう一度あの戦いを再現してやるから、早く殺し合いをしよう!!」
限られた空間の中で、プルツーが叫びながらプルに迫っていく。
一方のプルはと言うと、隙の無いプルツーの追撃に、なかなか反撃の機会を見出せないでいるようだ。
そうこうしている間にも、互いの距離は、徐々に間合いが詰められていく。
「おい・・・ちょっと、姉さん! 二人とも、聞こえないのか!? くそっ、二人の思念が強すぎて、とうとう通信電波にまで干渉を始めた! こうなったら私が行って直接止めるしかない!」
このままでは、プルが殺されてしまう。
そう感じたマリーダは、制止を呼びかけていたマイクを放り投げ、自ら席を立ちあがった。
そのまま収納スペースの中に置かれていた予備のサイコウェアを着用した後、なだれ込むようにバトル・ルームの方へと向かい、制御室とを隔てるドアに手をかける。
と、その時だった。
「待て、マリーダ。今お前が行って止める必要はねぇ!」
「あ、マスター!?」
マリーダが扉を開けるようとすると、不意に背後からジンネマンの声が聞こえてきた。
彼はちょうど、別室から戻ってきたばかりで、廊下とを隔てる入口に立っていた。
「マスター! 今まで会議をしていたのですか!? 私が行く必要がないなど、何を悠長な・・・あれだけ、姉さんたちが大変なことになっているというのに!」
普段はジンネマンに対して従順なマリーダも、この時ばかりは彼を制止を振り切り、バトル・ルームに向かおうとした。
そんなマリーダに対し、ジンネマンは、落ち着き払った様子を少しも変えようとせず、走り寄って彼女の腕を掴んだ。
そして狼狽を落ち着かせるように、制御室の窓に顎をやり、マリーダに注視を促した。
「よく見ろ、マリーダ。あのエルピー・プルの動きを。プルツーに追い詰められているように見えるが・・・機体には一つの損傷もしちゃいねぇぞ。それどころか、反撃する体勢に移行しようとしている。部屋の四隅にだって、流れ弾が当たった形跡すらない。これがどういう意味がわからないのか?」
ジンネマンに言われて、マリーダが改めて二人の戦いに目を向けると、確かに彼の言う通り、プルの操る機体には外傷はおろか、何の不具合も認められなかった。
破損を危惧していたバトル・ルームの内壁も、四方を注意深く見渡すと、何ら異常は確認されなかった。
「まさか、狙って外した弾丸が、流れ弾として壁に当たらないよう、軌道を計算ながら回避していた・・・? ということはプルは、プルツーの攻撃パターンをすでに読み尽くしている?」
ジンネマンが頷いた。
「そうだ。プルはああ見えて、モビルスーツやUMMSの扱いにかけちゃプルツーに引けを取らん。いや、それ以上かも・・・今、あいつはプルツーが欲して止まない『殺し合い』というゲームの遊び相手になってやっているのさ。プルツー自身も、それを自覚している。だから、あんなに気分が高揚しているんだ。今、あの二人の頭には、脳の異常が起きている訳でも、生まれ変わった身体と過去の記憶とが乖離している訳でもねぇ。ただ単に、
「やんちゃな妹が、姉に甘えている状態・・・」
例えるなら、それは、肉食動物の子ども同士が、自らの爪や牙を使ってじゃれ合うのと同じ理屈だった。
ジンネマンに言われて、マリーダはあることを思い出した。
かつて、プルツー本人から聞かされた、ダブリンでの戦いの記憶について。
プルツーはマリーダに、ふと、こんなことを呟いたことがあった。
「私を殺そうとしたパイロットはたくさんいたが、私の存在そのものを本気で消そうしたのは、前にも後にもプルだけだった」
ネオ・ジオンのパイロット時代。数々の戦場を渡り歩いてきたプルツーは、多くのパイロットと対峙してきたが、それらはほとんどが、戦場の敵対者としてであり、普遍的な殺し合いの範疇を越えることはなかった。
それだけでも、プルツーにとってはいくらかの快楽を感じ得ていたが、プルとの一戦は、それとは質の異なる感情を生み出したという。
エゥーゴによる解体作業によって、機体の一部を失った状態のキュベレイで立ち向かってきたプルと対峙した時、彼女の意思の強さと、自分に対する殺意に、これまで感じ得なかった衝撃はおろか、全身の五臓六腑までも揺さぶられる感覚を覚えたというのだ。
「私の持つ
自らの死にまつわる話をやけに生き生きと語るプルツーに、その時のマリーダは、彼女から伝わってくる、激情と陰鬱を感じ取るに留まっていたが、今、実際にその光景を目にして、確信した。
あれは、プルツーによる、プルへの愛着欲求だったのだ。
あの話をして以来、彼女はずっと、妹として姉に甘えられる機会を伺っていたのだと――。
「!? プルの動きが変化した。マスターの読み通り、反転攻勢に出ようとしています!」
ジンネマンと共に、戦いの行く末を見守っていたマリーダは、戦況に変化が生じたことに気付いた。
それまで、プルツーの追撃を交わすことに専念していたプルが、機体の向きを変え、対峙する姿勢を作り始めたのだ。
制御室のスピーカーから、プルの声が聞こえてきた。
「お姉ちゃんに甘えたいのね、プルツー。でも、そろそろ弾切れでしょ? 悪いけど、どんなに暴れたって、私には当たらないわ。だって、私にはあなたの心が読めるんだもの。昔と違って、今は機体の型式も装備も同じ。
何を隠そう、プルがモデルS-7を操作したのは、この時が初めてだった。
訓練には常に遅刻していたから、ろくに操縦マニュアルすら読んでいなかったのである。
にも関わらず、S-7を手足のごとく操っている。
プルは、プルツーからの回避行動を取っていたほんのわずかな時間に、機体の一挙手一投足を瞬時に把握していたのだ。
「そんな・・・最新型のモデルS-7と、ほんの数分間の搭乗でリンクした? マスター、そんなことが本当に可能なのでしょうか? それも、あのプルに」
マリーダが信じられない気持ちで尋ねると、ジンネマンは静かに相槌を打った。
「ああ、滅多にねぇことだがな。長年の戦場の中で、時々そういう奴を見かけたことはある。普段はろくに訓練に参加せず、遊びまわっているくせに、一度操縦桿を握っただけで、乗ったことのないモビルスーツを手足のごとく使いこなす
やがて、プルツーの弾薬が底をついたのを見届けたプルが、遂に回避を止め、反撃に転じた。
機体の全身からは、変わらずニュータイプの放つオーラが滲み出ていた。
「さぁプルツー。死の恐怖を味わいたいんでしょ? なら、全力でぶつかってあげる! あなたのその心に抱えている欲求不満、お姉ちゃんが全部受け止めてあげるわ!」
プルが叫ぶと、それを期待していたかのように、プルツーの歓喜に溢れた声が返ってきた。
「やっと反撃に出てきたか! 身体がゾクゾクしてきた・・・これで私も本気を出せる。どちらかが生きるか死ぬかだ。お互い遠慮は無しだよ、プル!」
プルの挑発に乗る形で、プルツーの機体が撃ち尽くした弾倉一帯型の防弾ユニットを次々にパージした。
すかさず、ブーストを最大出力で噴射し、飛行中のプルの機体に飛びかかった。
プルもそれに応戦するように、機体の装備を捨て去った。
両者は絡み合ったまま、いったん失速して地に落ちた後、そのまま格闘戦に突入していった。
ライフルもミサイルも使わない、ビームサーベルと拳による、容赦なき白兵戦。
UMMSは、重力下でも高い機動性や自立航行を考慮した設計であるため、装甲が薄い。
バリアを展開するタイミングを間違えて、ビームサーベルの一振りが直撃すれば、あっと言う間にパイロットごと切り裂かれてしまう。
しかし、プルもプルツーも、そんなリスクを少しも恐れていないように見えた。
バトル・ルームの二人は、一進一退の勝負を続けていく。
だが――その戦いの行く末を眺めているうち、マリーダは、僅かにプルがプルツーを追い詰め始めていることに気付いた。
もちろん、プルツーは手加減などしていない。いや、プルを相手に手加減などできるはずもなかった。
プルツーは、プルとの戦いが始まる直前に、アビオニクスのソフトウェアもアップデートしていた。
にも関わらず、少しずつ背後に押しやられていた。
それは、姉のプルが、機体の性能をプルツー以上に引き出しているという、明らかな証拠だった。
ほどなくして、制御室のモニターから、プルツーの悲痛な声が聞こえてきた。
「・・・ふんっ。やっぱりプルの方が潜在能力は上だったか。万全の状態でサイコガンダムを操縦していた私に、解体中のキュベレイであれだけの戦いを仕掛けてきたんだから、当然か」
この時のプルツーの声は、それまでの喜々とした声色とは違い、諦めや悔しさを含んだものであった。
プルツーは、初めて同じ条件でプルとの正面対決を実感したことで、想像していた姉の実力を、完全に思い知った様子だった。
徐々に防戦一方になっていくプルツーのUMMS。
だが、彼女の決意は、潰えてはいなかったようだ。
「でもね、プル。私はまだ倒れていない。この勝負、まだ終わっちゃいないんだよ! あたしは満足しつつあるけど、まだ完全じゃない。あたしが死ぬか、あんたが死ぬか。最後の最後まで、徹底的に殺し合うって決めたんだ!」
プルとの実力差を思い知らされたことにより、自信喪失に陥っていたプルツーが、ここへ来て、再び戦意を高揚させた。
じりじりと壁際に追い込まれつつあった機体を踏み留め、更にもう一本のビームサーベルを取り出す。
二刀流となり、それぞれの両手を振り回しながら、攻勢に出る。
勢いを取り戻したかに見えた、プルツーの反撃。
しかし――それすらも、難局の打開には至らなかった。
プルツーの猛攻に晒されたプルもまた、一歩も引き下がることはなかったからだ。
「これだけ勝負がついているのに、本当にわがまま子なのね、プルツー! 私はあなたを、そんな風に育てた覚えはないわよ! いいわ、そんなに痛い目を見たいのなら、一度、その身体で思い知らせてあげる!」
プルツーの往生際の悪さに、プルは憤慨した様子で、畳みかけるようにして攻勢を強めた。
プルツーが持っていた一本のビームサーベルを、瞬時に切り落とし、すかさずもう一本も、軽々と弾き飛ばしていく。
「!? ちっくしょう! ファンネル!」
両手の武器を失ったプルツーは、たまらず背中に収納してあったファンネルを展開した。
UMMSのファンネルも、本体と同じ音波浮揚の特性を備えているため、地上でも3次元の動作が可能となる。
空中に散開した砲塔がすかさずプルを捉えるも、すかさずバリアを展開し防御する。
それを見て、すかさず今度はプルがファンネルを展開し、プルツーのファンネルを次々と撃ち落とした。
この間、わずか十数秒。
急激に広がっていく戦力差。
傍にいた他の個体たちと共に、マリーダは初めて目にする長姉の実力に目を奪われていた。
もはや、訓練に40分も遅刻してきた時の、あの天真爛漫な少女の姿など、どこにもなかった。
「さぁ、観念しなさい。プルツー!」
一際大きく鳴り響く、プルの
彼女の目の前には、全ての武器を失い、丸腰になったプルツーの機体が、仰向けに倒れていた。
真正面から覆いかぶさるようにプルの機体が乗りかかり、ビームサーベルの先端を向ける。
留めの一手だ。
「いいよ、プル。そのままだ。そのまま私の所へ来てよ! 機体の上からビームサーベルを突き刺して、私の身体ごとを焼き尽くせ!」
死が目前に近づいているにも関わらず。
プルツーは、心から満足しているかのような声色でプルを呼び寄せた。
この時、彼女は、一種の
自らの敗北が明かなのにも関わらず、機体を避けようとするどころか、両手を広げたのだ。
「一体何をやっているんだ、プルツー!? 本当に死んでしまうぞ!」
さすがにこれ以上の戦いは危険だと感じたマリーダは、必死に二人に呼びかけたが、二人の耳にはまったく届いていないようだった。
プルは、本当にプルツーを殺してしまうのか?
その場にいた誰もが、最悪の事態を想定した。
そして遂に、プルの剣先が、プルツーの機体に向かって降り降ろされた――。
その時だった。
「よぅし。そこまでだ!」
「え!?」
突然、ジンネマンの声が聞こえてきたかと思うと、直後、頭に響くほどのブザー音が鳴り響いて、バトル・ルーム内に、緊急用の赤いランプが点灯した。
それと同時に、プルとプルツーが乗っていたS-7が、突然電源が切れたように、その場に倒れてしまった。
マリーダがジンネマンの方を見ると、彼は制御室の隅にあった、パスワード付きの小さな扉を開け放っていて、中にある金属製の武骨なレバーに手をかけていた。
無線送電が停止され、UMMSのシステムが強制シャットダウンされたのだ。
「マスター、それは?」
「これはUMMS用の電力遮断レバーだ。バトル・ルームを使用する時は、UMMSのバッテリーは常時20%しか蓄電されねぇ。それを、変電設備による無線送電を停止し、地球に降り注ぐ粒子も一切受信できねぇようにするんだ。これで、高出力のS-7はあっという間にガス欠になる。このレバーは、P部隊の指揮官にしか扱えない決まりになっているのさ」
ジンネマンのとっさの判断に、マリーダは胸をなでおろした。
改めてバトル・ルームの方を見ると、二機の機体は、完全にプルたちによる支配から解き放たれてしまったようで、まるで鉄の塊のごとく、床に転がったままだった。
「あれれ? いきなり動きが止まっちゃった。一体どうしたんだろう?」
まずはそこから、プルが出てきて、一瞬何が起きたのかわからない様子で、その場に立ち尽くしていた。
相変わらず彼女は切り替えが早く、あれだけの激しい戦闘を繰り広げたにも関わらず、「あ、何かお腹空いてきちゃった」などと言い出す始末。
ところが、もう一人はそうはいかなかったようだ。
プルが機体を降りた直後、別の機体のハッチが勢い良く開け放たれ、そこから鬼のような形相をしたプルツーが飛び出してきた。
全身を汗だくになりながら、制御室の方への走り寄ってきた彼女は、窓に顔をベッタリと押し付けた。
ジンネマンの姿を確認した後、バトル・ルームとを隔てていたドアを蹴り飛ばして、怒鳴り込んでくる。
「やっぱりキャプテンか! なぜ、私たちの戦いを邪魔した!? せっかく、プルの殺意を全身で受け止めることができるチャンスだったのに!」
プルとの戦いがクライマックスを迎えた事により、快楽の絶頂にあったプルツーは、ジンネマンによる邪魔立てが入ったことに感情が溢れ、瞳に少し涙を浮かべるほど怒り狂っていた。
例えるならそれは、ずっと前から欲しかった玩具を買ってもらえずに、駄々をこねる、幼い少女にも感じられた。
「毎回毎回、余計なことばっかりしやがって! このヒゲ野郎! クマ男! お前なんか、コロニーレーザーに焼かれて死んでしまえ!」
戦いの中断がよほどショックだったのか、プルツーはなかなか気持ちが収まりきらない様子で、自分より遥かに大きな身体のジンネマンに向かって、飛びかかろうとした。
その様子を見ていたマリーダは、遅れて入ってきたプルと共に、慌てて制止に入った。
「姉さん、姉さん、落ち着いて!」
「そうだよ、プルツー! この期に及んで、もうとっくに勝負はついていたじゃんか。ね? 私の方が強かったってことで、いい加減、大人しくしないと!」
てっきりマリーダに協力しているのかと思いきや。
明らかに場にそぐわない説得を展開するプルに、マリーダがすかさず抗議の意思を示した。
「プ、プルも! 一言多いんだって! それは全然説得材料になってない!」
半ば馬乗りの状態で、二人に取り押さえられる中、プルツーはまだ納得していない様子で、「放せ俗物共! 粛清されたいのか!」などと、手足を動かしながら悶えていた。
その異常な姿を見て、他の9人のプルシリーズたちは、制御室の隅に固まりながら、ひたすら震えていた。
なかなか理性を取り戻せずにいるプルツー。
そんな様子を見ていたジンネマンは、うつ伏せに敷かれている彼女の傍へ近づいた。
そして、プルとマリーダをその場から離すよう指示し、プルツーの噛みつかんばかりの顔に微笑みかけた後、その小さな頭にそっと手を置いた。
「まったく、お前たちと来たら。それぞれの理由は違うが、自分の命を簡単に投げ出す向こう見ずな所は、マリーダと言いプルと言い共通の性格みてぇだな。いいか? お前たちが今ここに存在しているのは、連邦に利用されるためでも、
「くっ・・・!」
ジンネマンに諭され、プルツーは反論しようとしたが、そのまま口を
マリーダとプル、それに他の妹達も、その様子を黙って見守っていた。
ほどなくして、しばしの静寂が、制御室を包み込む。
ようやくその場の落ち着きが取り戻された時。
ジンネマンは一人立ち上がり、自分が持ってきた書類に手をやった後、数枚に綴ってあった冊子をめくり始めた。
「さてと。それじゃ、全員冷静になった所で、重大発表を行うぞ。今回、正式に始動した我々P部隊に、初の任務が下されたんだ。今からそれを発表する。言っておくが、こんな訓練よりも遥かに大変な内容だ。覚悟しておけよ」
ジンネマンの神妙な面持ちを見て、それまで個々の感情に浸っていたプルにプルツー、そしてマリーダは、一同に緊張の面持ちを作った。
「マスター、そんなに大変な任務とは。一体?」
マリーダが、尋ねた。
「マリーダのパパ、まさか、敵のアジトに潜入するとか?」
「それとも、重要機密の奪取とか・・・」
続いてプルとプルツーも、そう言って、固唾を飲んでジンネマンの方を見た。
「聞きたいか? お前たち」
ジンネマンが聞き返すと、三人は、ほぼ同時のタイミングで頷いた。
それを見たジンネマンは、一度深呼吸をした後、資料から目を離し、静かに言った。
「よし、それなら教えてやろう。お前たちには、明日から地元の学校に転校生として入学してもらう。プルとプルツーは女子生徒として、マリーダは新卒の教師として就任し、毎日登校するんだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「は?」
三人にとって、一瞬の静寂が、これほど長く思えた時などなかったに違いない。
直後、制御室に、三人の少女たちの戸惑いの声がこだました。
特に動揺したのはプルツーである。
「ふざっ、ふざけるな! 潜入ならまだしも、
抑えかけていた感情が再びぶり返したプルツーは、とうとうジンネマンに向けて飛びかかった。
それを見たプルとマリーダが、慌てて取り押さえにかかる。
「プルツー、それは偏見だよ!
「プルの言う通りなんだって、姉さん! 第一あなたは強化人間なんだから、加減しなくてはマスターがケガを・・・あっ、ヒゲなんか掴んじゃダメだ!!」
先ほどまでは狂気に包まれたやり取りをしていた者たちが、いったんは沈静化したと思いきや、今度は一転してどつきあいのケンカを始めた。
彼らの様子を見ていた他のプルシリーズたちは、もはやついていけなくなった様子で、その場で輪を作り、今晩の食事のメニューの相談などを勝手に始めたのだった。