『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~ 作:灰色パーカー
オラリオの暗黒期。それは闇派閥による悪行が都市全体に蔓延っていた時代。毎日どこかで事件が起き、多くの市民が危険に晒され、死人が出るのも珍しくなかった。
この時代の人々は、次は自分ではないかという恐怖と不安で、心は荒んでいた。
しかしこの時代、ただ悪が蔓延っていたわけではない。事件を未然に防ぎ、人々を守り、平穏をもたらそうと戦った者達も当然いた。
商業と学問を司る神ガネーシャ、正義と秩序を司る神アストレア、そして平和を司る神エイレーネ。この三柱の神とその眷属が日々悪と戦い続けていた。
当時ポーロットはエイレーネ・ファミリアに属し先輩団員達と共に闇派閥と戦っていた。
元々ポーロットはオラリオで生まれたわけではない。オラリオの外で生まれ、紆余曲折を経てこの都市へ流れ着いた。やって来た頃、ポーロットはまだ幼かった。歳は七つになったばかりだった。
オラリオに来るまでの間、人間の負の側面を嫌という程見ていたポーロットの目には既に光は無く、未来に何かを期待することも止めており、心のねじ曲がった人間になるのは時間の問題だった。
だが、一人の青年との出会いがポーロットの人生を変えた。青年の名はジーベル。彼は路地裏で膝を抱えて座り込んでいるポーロットを見て確信した。この少年はここで腐らせるには惜しい人材だと。この少年はいずれこの暗黒期のオラリオに光をもたらし得る人間であると。
何故そう思ったのかは定かではない。しかし、敢えて言うならばジーベルの直感だった。彼はこれまで幾度となくこの直感で危機を脱してきた。故にジーベルの、直感に対する信頼は厚かった。
彼はすぐさまポーロットをホームに連れて帰り、主神を説得してポーロットをファミリアに入団させた。ポーロットは青年と出会ってからファミリアに入るまで一言も発しはしなかったが、ポーロットとしてもあのまま路地裏にいるよりは幾分かマシと考えていた。
ジーベルの直感は正しかった。ポーロットの成長は目を見張るものがあった。当時のポーロットは言われたことを盲目的に行っており、戦闘における知識や対処の仕方、隊列から何まであっという間に吸収し自分の物にしていた。
一方で、剣を振るう才能だけが致命的に欠けていた。振りかぶれば後ろに落とし、振り下ろせば前に落とす。どれだけ教え込んでも一向に上達しなかった。
しかし、こと体術においては類まれなる才能を発揮し、
これはひとえにポーロットが『サイヤ人』という民族だったからだ。
サイヤ人とはかつて神が降臨するまで、己の肉体のみで魔物と戦い、また多くの種族と領土戦争を行っていた戦闘民族である。
彼らは長い進化の歴史の中で他の人間や種族にはない特性を獲得した。それは死の淵を乗り越える度に自身の肉体を強化できるというものだった。この特性を生かし幾度となく戦闘を行うことで、領土を広げていった。
しかし下界に神が降臨し人々に恩恵を与えだすと、サイヤ人の成長速度を、恩恵を与えられた眷属の成長速度が上回り、あっという間に形勢は逆転。
それまでの恨みを晴らそうと全種族から攻め入られ、サイヤ人は絶滅寸前にまで追いやられた。
今ではサイヤ人は100人と残ってはおらず、かつての獰猛さや攻撃性は失われ、世界中様々な場所でサイヤ人であることを隠して暮らしている。
ポーロットはこのサイヤ人としての特性を色濃く受け継いでいたため、体術に優れていたのである。
更に、これもサイヤ人故か、ポーロットは戦いの中で成長するうちに、未だ発見されていないレアスキルをいくつも発現させた。
いつの間にかファミリアのメンバーから全幅の信頼を勝ち取るまでに至り、かつて世界に絶望し路地裏で座り込んでいたポーロットの面影は無くなっていた。
ファミリアのメンバーとふれ合い、多くの人々と出会ったことで、明るく正義感の強い少年へと成長していた。
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エイレーネ・ファミリアに入団してから6年、今やポーロットはLv3の第二級冒険者となっていた。
「ポーロット、今いいか?」
「はい、何ですか?ジーベルさん」
僕がホームの中庭で鍛錬に勤しんでいると、団長のジーベルさんがやって来た。
ジーベルさんはLv4の冒険者だが、経験値の量からしていつランクアップしてもおかしくないと言われている。
「どうだポーロット!久しぶりに手合わせしないか?」
「今からですか?」
藪から棒にジーベルさんは手合わせをしようと言ってきた。普段一緒に鍛錬をしようとは言ってくるが、手合わせとはまた珍しい。
「そうだ!お前、ステータスは全部Bを超えてるんだろ?どんなものか見てやるよ」
「は、はぁ……」
確かにステータスは全部B超えているけども……ジーベルさんはいつも突然なんだよな。まあでも、この人と戦うのは楽しいけれど。
「じゃあ、お願いします!」
「よ~し!来い!」
構えを取って臨戦態勢を取る。ジーベルさんは普段背中に背負った剣で戦うがまだ抜刀してはいない。体術で戦う僕に合わせてくれている。
「うおぉぉぉ!」
ジーベルさんとの距離を一気に詰め、顔面を蹴り飛ばすつもりで全力で右足を振りぬく。しかしジーベルさんは一歩後ろに引くだけで僕の蹴りを回避する。
だが、蹴り一発で終わるなどとは思っていない。間髪入れずにラッシュを叩き込む。
「おおおぉぉ!」
だがどれだけ拳で攻め込んでも、一発も当たらない。全て避けられるか、ガードされてしまう。隙を見て蹴り技を繰り出すが、これもまたバックステップで回避されてしまう。
「今度は……こっちから行くぞ!」
ジーベルさんがそう言ったかと思うと、突然目の前に現れた。しかも既に右腕を振りかぶっている。
「オラァ!」
「くうっ!」
ジーベルさんの拳をなんとか両手で受け止める。しかし踏ん張った地面は衝撃に耐えられずにひびが入り陥没してしまう。
Lv差があるため手加減してくれているのだろうが、それでもこの威力である。
「ほらほら!どうしたぁ!」
尚もジーベルさんの攻めは続く。もともと体術メインで戦うことが無いからか、どこかちぐはぐな攻撃。しかしパワーとスピードが桁外れなため、まったく油断できない。
「くっ!」
今でさえかろうじて攻撃をガードするので精一杯だ。ジーベルさんの体術の拙さが、ギリギリで僕の回避を成立させている。
「少し速めに行くぞ!」
「ッ!ぐあっ!」
だから、パワーとスピードのどちらかが上がれば、途端に対処できなくなってしまう。現にジーベルさんのスピードが上がり対処が追い付かなかった。
彼の左拳が僕の顔面に炸裂し、庭の反対側へと吹っ飛ばされてしまう。
「がはっ!」
二、三度地面をバウンドしながら壁にぶつかってようやく止まる。だがこの程度ではまだまだ倒れるには早い。
「どうした、どうした。お前の強さはその程度じゃないだろう!」
「言われなくても!波ぁ!」
気功波。この6年間で身につけたスキルの一つ。自身の気=
「このっ!」
僕が撃った気功波に対しジーベルさんは両手で受け止める。だが勢いを殺せずに数メートル後退させられる。いくらLv4の冒険者とはいえ、魔法と遜色ない攻撃をノータイムで撃たれたら守りに入るしかない。
「くぅ!ぜい!」
ジーベルさんは受け止めた気功波を上空へと放り投げる。だがこの隙を見逃す僕ではない。
「だあぁらぁぁ!」
「しまっ……ぐはぁ!」
一瞬でジーベルさんとの距離を詰め、鳩尾に渾身の飛び蹴りをお見舞いする。
たとえLvに差があろうと、ステータスに差があろうと、人体の急所に無防備なまま攻撃を食らえば、ダメージを負うのは必至。前かがみに崩れるジーベルさんに対し、間髪入れずに顎を蹴り上げる。
「ぐふ!」
顎を蹴り上げ、起き上がった上体目掛けて今まで以上のラッシュを浴びせていく。
「おぉりゃああああ!」
何十発とジーベルさんに拳をお見舞いしていく。ジーベルさんも攻撃を受けるまま、為されるがままである。チャンスと見て全力の右ストレートをぶち込む。
「うおぉぉぉ!」
「確かに……強くなったな」
だが、ラッシュに無抵抗だったジーベルさんが突如復活し、僕の右ストレートが左手で受け止められる。しかもあれだけラッシュを浴びせたにもかかわらず、ジーベルさにはほとんどダメージが無かった。
「だが、まだ甘い!」
「がはっ!」
腹部に重たい一発をくらい、その場に膝をつく。今まででもっとも大きなダメージを負い、腹部を押さえたまま立ち上がれない。
「あ……がぁ……」
「はあっ!」
膝をついて動かない僕を蹴り飛ばすジーベルさん。地面を転がったまま僕は暫く動けなかった。
「ここまで、だな。大丈夫か?」
「はあ……はあ……は、はい」
なんとか返事を返すものの、うまく話すことができない。それを知ってか知らずか、ジーベルさんは一方的に今回の手合わせの評価を始めた。
「最後に手合わせをした時と比べて遥かに強くなっている。それは俺が保障する。ラッシュのスピードと手数、絶妙なタイミングでの蹴り、見事だった」
未だ地面から起き上がれない僕は、寝そべったままジーベルさんの評価に耳を傾ける。
「気功波からの飛び蹴りも中々だった……更に顎、再びラッシュ……ここの流れも良かった。だが、最後の最後で欲しがったな、一発を」
確かにジーベルさんの言う通りだ。最後、決定的な隙を見せたジーベルさんに全力の一撃を加えようとした。
「あの一瞬、確かに大きな一発を与えられる絶好の機会だったろう。だが、それは同時にお前が最も油断していたタイミングでもある。一撃を加えることで頭が一杯になったお前は俺が反撃するかもしれないという可能性を見落とした」
返す言葉も無い。まったくその通りだ。なんとか起き上がりジーベルさんと向かい合う。
「チャンスになっても、決して油断するな。それさえ忘れなければ、お前はもっと上へ行ける」
「ハア、ハア……はい!」
団長からの貴重なアドバイスをもらい、まだ大きな声は出せないが、精一杯返事をする。
「ところで、何もただ手合わせをするために声を掛けたわけじゃないんだ。ポーロット、お前に頼みがあるんだ」
「頼み……ですか?」
なんだ、手合わせだけが目的ではなかったのか。また団長の直感だけで行っているものだとばかり。
「実はな、ギルドから一つ依頼が来ているんだ。国外へ向けて出発する商人の一団を護衛して欲しいそうだ」
護衛の依頼か。よくある依頼だが、それならわざわざ僕に頼む必要はないのでは…………その、うちの団員なら誰でもできるのでは?
「問題は護衛することではなく、護衛として商人たちを送り届ける場所だ。大陸中央部まで行くらしい。普通に行って帰って来るのでは相当日数が掛かる」
どうしてそんな遠い場所にその商隊は赴くのか。もっと近いところにも栄えた都市や町があるというのに。港町メレンとかベオル山地の麓の町とかさ。
「そこでお前の出番なんだよ、ポーロット。お前の舞空術なら行きはともかく、帰りは数時間で戻ってこられるだろ?」
「ああ、なるほど」
6年の修行で獲得したスキルの一つ「舞空術」。活動可能領域を空中、果ては大空にまで拡張するスキル。このスキルのおかげで空中に浮くことも自由に大空を飛ぶこともできる。
「今のオラリオでは何が起こるかわからん。メンバーの長期間の離脱は好ましくない。お前なら片道の日数で帰ってこられるだろうからな。請け負ってくれるか?」
確かにジーベルさんの言う通りだろう。万一に備え、戦力はできるだけ整えておくべきだろう。
仮に大陸中央まで一週間かかるとしても、普通の冒険者なら帰還するのに三日はかかるだろう。
だが舞空術があれば商隊を送り届けたその日にオラリオに帰還することができる。
「わかりました。その依頼、僕が行きます」
「頼んだぞ。出発は明後日の正午らしいから、明日中に準備を済ませておけ」
「はい!」
二日後、僕は商隊護衛の任務のためオラリオを離れた。大陸中央まではおよそ十日、予想より三日も長いがまあ良いだろう。帰るときに皆にお土産でも買って帰ろうかななんて呑気な事を考えていた。
しかし、この時はまだ知らなかった…………この日の朝が、皆と顔を合わせる最後になるなんて…………
主人公のステータスはいずれ設定集という形で投稿します。