『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~ 作:灰色パーカー
商隊の護衛任務に就いてからはや十日。予定では、大陸中央にある都市には到着しているはずだった。しかし未だ目的地には着いていなかった。
道中やけに多くの盗賊に出くわしたのだ。オラリオの外ということもあり、大した強さの敵はいなかったものの、襲い方が不可解だった。
商隊の積み荷を奪うというよりも、足止めをしているように感じたのだ。現にこうして予定日を過ぎているというのに目的地に着けていない。
結局、目的地に着いた時にはオラリオを出発してから二週間が経っていた。
「早くホームに帰らないと……元々十日で帰るって言ってたのに。変に心配とかしてなきゃいいんだけど」
ここまで予定が狂ってしまってはお土産なんて買う暇など無い。商隊と別れを済ませ、舞空術を使い、文字通りオラリオに飛んで帰る。
一時間ほど経った時だった。既に帰路の半分、いや四分の三を消化し、オラリオの町並みが見えてきた頃、突然オラリオの方に光の柱が現れた。
その光の柱は空の頂まで伸びていた。それを、僕は一度だけ見たことがある。ある闇派閥を捕らえたとき、その派閥の主神が天界へと送還されたときに同じような光の柱が現れたのだ。
「まさか……どこかの派閥の神が天界へ?」
その可能性は十分あるが、だとするとどこの派閥だ?出発前、どこかの闇派閥の逮捕に乗り出すなんてことは聞いていない。この二週間の間に一気に情勢が動いいたのだろうか。
(ドクンッ!)
そんな風に、闇派閥の神の誰かが天界へ送還されたのかと思案している時、体に異変が起きた。急に体から力が抜けていく。さらに舞空術を使っているはずなのに、うまく飛べない。それどころか落ちている。
「な、なんだ・・・これ・・は・・・」
まるで魔石コンロの火を点けたり消したりしているかのように、落ちては止まり、落ちては止まり。それを三、四回繰り返し、ついに地上に向かって自由落下を開始する。
「うわぁー!」
幸運にもセオル密林の上を飛行していたため、木々がクッションとなって転落死は免れた。だが、体の異変は一向に治まる気配がない。落下している時には気が付かなかったが、背中が燃えるように熱い。
「何だコレ……力が……抜けて……」
正確には精気と言った方が良いのかもしれない。先ほどまで漲っていたものが、急速に失われていく感覚。
体の変調は、オラリオに伸びる光の柱が消えるまで続いた。ようやく背中の熱さが消え、力が抜けていく感覚が無くなり、立ち上がる。
(体が重い…………まるで鉛みたいだ……とにかく、一刻も早くオラリオへ……)
謎の倦怠感を抱えつつも、何とかオラリオへ帰ろうとする。しかし、ここで更なる異変に気付く。
(舞空術が……使えない?)
任務完了からこれまで、いやLv2へとランクアップしてから今日までずっと使ってきた『舞空術』が使えない。このスキルに時間制限や回数制限などというものは存在しない。自分の意思で自由に扱えるはずなのだ。
(くそっ!こうなったら走っていくしか……)
舞空術を諦め、走ってオラリオを目指そうとする。しかしいくら走っても前に進まない。決して進んでいない訳では無いが、全くスピードが出ない。
しかも大した距離を走ったわけでもないのに、息が続かない。数百メートル走ったところで直ぐに立ち止まってしまう。
(なんなんだコレ……さっきから……オラリオに光の柱が現れてから……)
木に手をつき、肩で息をしながら先ほどからの体の異変について考える。先ほどからおかしい。スキルが使え無い上に、まるで身体能力が
(光の柱……スキルの使用不可……身体能力の減退…………え?)
そこまで考えて、頭に浮かんだ一つの可能性。考え得る限り最悪の、悪夢のような可能性。
(まさか………いや、そんな訳…………)
別の可能性を考えようにも、もはや
揃ってしまっている。
光の柱と体の異変。それが意味するところはすなわち…………主神の…………
「違う!あり得ない、そんな事!絶対に!ホームにはジーベルさんがいるんだ!マイスも!コヒルも!グルナーにピーツ、ジーナにシナコルだって!皆いるんだ!エイレーネ様が死ぬなんてあるものか!」
必死に自分に言い聞かせるが、もはや頭から離れない。そうとしか考えられない、しかしそうであってほしくない最悪の予測が…………
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あれからどのくらい走り続けたのか。数時間なのか数十時間なのか、まだ半日と経っていないのか、既に何日も経っているのか。
確かな事は、セオル密林から見えていたオラリオの外壁が今はもう目の前にあることだけだ。最後の力を振り絞り、ホームへと駆けていく。
門番が何か叫んでいるが、そんなことどうでも良い。早くホームに帰らなくては……
街ですれ違う冒険者や住民たちの「生きていたのか」、「今までどこにいたんだ」、そういった声や目線が僕の心を一層締め付ける。
だが、なんの問題も無い。ここを曲がればホームが見える。きっとみんなが待っている。エイレーネ様もジーベルさんも、他の団員の皆もきっといる。
そう思い、そう願い、そう言い聞かせて、道を曲がる。
そして、曲がった先には……
廃墟と化したホームがあった。骨組みこそ残っているが、壁も敷居も崩れていた。煤だらけになり、燃やされたことが伺える。
「あぁ…………あ………」
ホームの前には規制線が張られ、数人の冒険者が調査をしているようだが、そんな事気にする余裕が無い。必死に足を動かすが、上手く前に進めない
「………………ポーロット?」
「………え?」
張られた規制線の前に立っているのは、リューとアリーゼか?なんだか前も良く見えない。
「二人が…………なんで、ここに……」
「ポーロット、今ここに入るべきではない」
「リオンの言う通りよ、今はダメ」
この二人はどうして止めるんだ。ここは僕のホームだぞ。団員の僕が家に入って何が悪い。
「…………」
「待ちなさい。今入ってはいけない」
「どいて……くれ」
リューが僕の前に割って入り、止めてくる。押しのけようとしてもびくともしない。力も上手く入らない。
「頼むから………どいて……くれ」
「行かせてやれ、リオン」
「なっ!カグヤ、本気ですか⁉」
規制線の向こうから極東風の格好をした女性、カグヤがこちらにやって来た。そのままリューを僕の前からどかせる。
「お前の仲間なら中庭にいる……早く行ってやれ」
「カグヤ!」
「あり……がとう」
遮る人がいなくなり、足をもつれさせながら中庭へ向かう。皆が、そこにいるんだ。
「カグヤ!何故彼を行かせた!」
「黙れリオン……どうせいつかは知ることになる」
「だからと言って!今会わせるべきではないはずだ!今の彼が、受け止められる訳が無い!」
「ならば尚の事会わせてやらなくてどうする!あのまま誰にも会わせずこちらで保護するとでも言うのか?親類を失ったことも無いくせに知ったような口を聞くな!」
「くっ!」
調査中なのだろう。アストレア・ファミリアの面々が至る所にいる。皆こちらに気が付くや驚いているが、反応する余裕は無い。
中庭も酷い有様だ。芝生は全て燃えてしまい地面が見えてしまっている。ほんの二週間前ここでジーベルさんと組み手をしたというのに、その時の面影は一つも残っていない。
「皆は……どこに……?」
カグヤは言った。ここに皆いると……だが見渡しても誰も、どこにも居ない。
二度三度見渡して不可解なものに目が留まる。庭の中央あたりに、何か黒い大きなものが複数置かれている。サイズはちょうど人間と同じくらいの…………
「嘘だ…………そんなはず……」
見てはいけない、確認してはいけないと頭の奥で警鐘が鳴る。だが、体はその黒い物体に向かって動き出す。一歩進むごとにその正体に近づいている。
そして黒い何かの側までやってきて、目に入ったソレは…………
「…………ジーベル…さん?」
体の一部が焼けただれ、煤だらけになったジーベルさんだった。体中に傷を負い、腹部には槍で貫かれたかのような大穴が開いていた。
「ジーベルさん…………あぁあ…………」
ジーベルさんの隣には副団長のマイスさんの姿があった。彼もまたジーベルさんと同じように体中に傷を負っていた。両足に至っては焼け焦げてしまっている。
「ああぁ…………あ…………あああ」
その他に団員の顔がわかる遺体は二つだけ。それ以外は全身が焼け焦げ顔の判別がつかなかった。
「あああ…………ああ…………」
理解した。わかっていたんだ、最初から。ただ必死に考えないようにしていただけだった。団員の皆は僕以外残ってはいない…………そして、皆の死と光の柱、体の異変が示すのは…………
「ああぁぁあ…………あぁぁああ………」
「ああああぁぁあぁあぁあああ!!!」
「「「ポーロット!」」」
誰かが名前を呼ぶ声も、もはや頭に入らない。もう立ってすらいられない。
ジーベルさんが死んだ。マイスさんが死んだ。他の皆も死んだ。そしてエイレーネ様まで…………
「くっ…………くそっ…………くっそぉぉぉ!」
体中から激情が湧き上がる。皆を失った悲しみ、皆を殺されたことへの憎しみ、そして自分への怒り。僕がもっと早く依頼を遂げていれば、皆を救うことができたかもしれない。もっと速く飛んでいれば、皆の助けに間に合ったかもしれない。
「くっ!…………く、くっ!」
激情ゆえか、体が燃えるように熱い。失ったはずの魔力が、気が、体中を駆け巡っている。
そしてその気は次第に膨れ上がり、体中から放出された。
「ああアァァああアァァ!」
体内から噴き出た気は、今まで纏っていた気とは様子がまるで異なっていた。
『金色』
あたりを眩く照らす黄金の気。不思議と力が溢れてくる。力が使えなくなる前と同等、いやそれを遥かに超える力が………
「これは…………一体………な、に」
不可解な黄金の気の力を感じていたが、そこで僕の意識は途切れった。
その様子を見ていたアストレア・ファミリアは全員がこの状況に追い付いていなかった。仲間の死、主神の送還、その事実に絶望し慟哭しているポーロットから、突然金色の魔力が発せられたのだから。
「何……アレ?」
「金色の……魔力?」
元々ポーロットは別の派閥の人間。オラリオの秩序を守るため幾度となく共闘した間柄であっても、本人の能力全てを知っているわけではない。
それでも、この状況はあまりに不可解だった。仮にあの金色の魔力がポーロットの能力であったとしても、主神が消え、ステータスを封印されている今の彼に、能力を使う事などできないのだから。
「アイツ、いつの間にか金髪になってやがる」
そう。この時ポーロット本人は気が付いていなかったが、彼の髪は黒髪から金髪へと変化していた。
しかし彼の変容も長くは続かなかった。突然金色の魔力が消失しポーロットが倒れ伏したのだ。その時には髪の色も黒に戻っていた。
「「「ポーロット!」」」
気絶したポーロットの下へ駆けつけるアストレア・ファミリアの面々。この場にいる全員がポーロットの身を案じていた。
「外傷は無し………恐らく疲労だろう。後は……」
「とにかく彼を安全な場所へ移さなければ!」
「………ホームに連れていきましょう。保護するだけなら私達で十分事足りるわ」
そうして満場一致でアストレア・ファミリアの面々は自分達のホームへとポーロットを担いでいく。
課題…………終わらない…………続き…………書けない