『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~   作:灰色パーカー

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5.別れの挨拶と垣間見えた事件の真相

アストレア・ファミリアのホームを離れてから二週間が経とうとしていた。今僕は街のはずれにある安宿にいた。部屋は粗末だが、他に人はおらず、一人になるには丁度良い場所だった。

 

この二週間ずっと無気力に過ごしていた。ファミリアの皆がいなくなった喪失感、これから自分はどうすればいいのか、そんな思いがぐるぐると頭を回っていた。

 

あれからリューさん達とは会っていない。たぶんリューさんが他の皆に僕の意図を伝えてくれたのだろう。

 

実際、思惑通り闇派閥の連中も僕に何かしてくる気配はない。きっと連中にとってはもう僕には利用する価値も、相手をする暇もないのだろう。

 

こうなってくると、いよいよ闇派閥が何か大事を企んでいるような感じがする。

 

「……まぁ、アストレア・ファミリアなら大丈夫だろう」

 

彼女達は皆強い。闇討ちされても返り討ちにできるほどに。それに僕からの警告紛いの言葉もリューさん経由で伝わっているだろう。対策はしっかり練っているはずだ。

 

 

 

むしろ問題なのは…………

 

「これから………どうしようかな」

 

僕の今後の身の振り方、それが目下最大の問題である。オラリオに残ってひっそりと生きていくのか、それともオラリオから離れて別の街で暮らすか。

 

リスクは高いがオラリオに残れば、何かしら仕事に就けるだろう。オラリオを出れば恐らく今後一切闇派閥からの干渉を受けることは無いだろうが、碌な仕事に就けるかどうかわからない。非常に悩ましいところなのだ。

 

「でも………出るべきだよなぁ、オラリオ」

 

アリーゼさんも言っていた。恩恵を持たない、ないしどこのファミリアの庇護下にもない人間が今のオラリオに残るのは危険だと。

 

如何に正義の味方が戦い続けたとしても、今のオラリオは暗黒期。そう易々と終わりを告げるとは思えない。

 

アストレア・ファミリアの活躍を見届けたい気持ちはもちろんあるが、今後なりふり構っていられなくなった闇派閥が僕に接触してくることも無きにしも非ずだ。

 

その可能性を潰す意味でも、この街からは出ていくべきだ。

 

「……………………」

 

だが、いざ出ていくとなると少なからず寂しいものがある。この街にはファミリアの皆との思い出が詰まっている。

 

中でも群を抜いているのは、やはりホームだろう。皆と最も多くの時間を過ごした場所。今は亡き帰る場所。

 

街中を歩いて回るのは難しいが、せめて最後にもう一度ホームを訪れてから街を出よう。そう決めて荷物をまとめる。

 

――――――――――――――――――――――――

 

二週間ぶりに訪れたホーム。かつて笑顔が絶えない幸せな場所だったホームも、今は虚しい廃墟。

 

最後に訪れた時は冷静さを欠き、且つ他の皆の事で頭が一杯だったため気にする余裕が無かったが…………これは、相当心に来るものがあるな。

 

ホームに張られていた規制線も外され、自由に入れるようになっていた。廃墟と化したホームの中に這入り見て回る。残っている物は何もなく、煤だらけになっていた。

 

「一体、ここで何が………」

 

そんな疑問が湧くが、答えが出るはずもなく…………ただただ怒りと悔しさが沸き上がるだけだった。

 

 

 

 

一時間ほど見て回り、最後に中庭を通って外に出る。中庭もやはり煤だらけで、芝生はあちこち焼けてしまっていた。

 

「此処は、この後どうなるのかな。ギルドの要請で更地にされて、別の建物が建つのかな」

 

ホームの入り口にまで戻ってきて、ふとそんな事を考える。僕がオラリオを出てからも、しばらくはこのホームもそのままにされているだろうけど。

 

だが数年、いや十数年もすれば取り壊されて、別の建物が建つのだろう。

 

「ギルド主導の下、ゴブニュ・ファミリアが建て直しをするのかな」

 

なんにせよ、恐らくこれがホームを目にする最後になるだろう。だからホームの正面に立って心の中で礼を言い、お辞儀する。

 

(今までありがとうございました)

 

 

 

そうしてオラリオの城門へと歩き出そうとした時だった。

 

「やはり来ていたか。ポーロット」

「!………シャクティさん」

 

ガネーシャ・ファミリア団長 Lv5の第一級冒険者シャクティ・ヴァルマがそこに立っていた。

 

後ろからいきなり名前を呼ばれたため少し慌てたが、見知った顔の相手だったので胸をなでおろす。これが闇派閥の連中だったら目も当てられない。

 

「お前に、話しておきたいことがある」

 

 

―――――――――――――――――――――――― 

 

(sideアストレア・ファミリア)

 

 

時は少し遡る。ポーロットがまだ安宿で今後について決めあぐねていた時。

 

リュー達はホームの居間に集まっていた。団長のアリーゼが溌剌と話していたが、リューの意識は別の事に向いていた。

 

(あれから二週間………彼は今頃どうしているだろうか。今も無事でいるだろうか、立ち直れているだろうか)

 

自分達の下を離れたポーロットの身を案じていた。ポーロットが出ていった時、リューはその経緯を事細かくファミリアの皆に伝えた。

 

リューを含め何人かは連れ戻した方が得策ではないか異議を唱えたが、団長のアリーゼや主神であるアストレアがそれを制した。

 

本人が自分の意思で出て行った以上、それを尊重するべきだと。それでも心配なことには変わりなかった。

 

(彼のことだ、自暴自棄になったりしていないだろうが………食事も摂らずふさぎ込んでいたりしないだろうか)

 

「————リオン!話を聞いてるの!」

 

その声にはっとするリュー。顔を上げればアリーゼが細い柳眉を吊り上げていた。

 

「団長である私が話をしているのにボーっとしているなんて、今の貴方、とっても度胸があるわね!」

「すみません、アリーゼ。集中を欠いていました」

 

リューが謝罪の言葉を返すと、アリーゼも「わかれば良いわ!」と明るく笑い返した。

 

「高潔なエルフ様はいつから寝坊助さんになったのでございましょう?しかも立ったままなんて………そんな器用な真似、私にはとてもとても」

「カグヤ、私は寝ぼけてなどいない。あと、その口調はやめろ。無性に癇に障ります」

「苛めてやるなって、カグヤ。アホみてえに強い冒険者でも()()()はしょうがねえだろ~、女なんだしよー」

「ライラッ、下品だっ。それに私は……あ、()()()ではありません!」

 

カグヤとライラから集中砲火を浴び、リューは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべ、声を荒げる。

 

「あら、そうだったのねリオン!ごめんなさい、気が付かなくて!でもダンジョンだったらそんな泣き言なんて言ってられないし、今も我慢してね!」

「貴方も真に受けないでください、アリーゼ!」

ばちこーん☆と片目を瞑って良い笑顔、おまけに親指を立ててくるアリーゼに、リューはとうとう悲鳴を上げる。

 

耳まで赤くするリューの姿に周囲にいた他の団員達も声を上げて笑う。

 

「さて、話を戻すわ!『下層』で闇派閥の動きがあるっていう情報がギルドから入ったわ」

 

アリーゼの言葉でその場の全員の目つきが変わる。それまでの和やかな雰囲気も吹き飛び、刺すような緊張が走っている。

 

「私達アストレア・ファミリアはこれから『下層』の調査へ向かう。何か発見できれば良し、敵の企みを阻止できれなお良し、捕えられれば万々歳ってね」

「また罠の匂いがしねー?27階層の悪夢の時みたいにさぁー」

 

一年前、27階層で起こった大事件。ギルド側の陣営と闇派閥による激戦。両者相当な被害を受け、多くの死傷者を出した。

 

「そうだとしても行くしかないわ!あんな惨劇を二度と起こさせないために。それに…………」

 

そこまで言ってアリーゼが言いよどむ。

しかしすぐに真っすぐな眼差しで言った。

 

「エイレーネ・ファミリアに何があったのか、その手掛かりがわかるかもしれない」

 

相手が闇派閥である以上、先の事件、エイレーネ・ファミリアの壊滅事件について何かしているかもしれない。アリーゼのその言葉に他の団員達も奮い立つ。

 

共に戦ってきた友として、エイレーネ・ファミリアの無念を晴らしてやりたいという思いは全員の胸の中にあった。

 

「それにあたり都市の防衛はガネーシャ・ファミリアに頼んでおいた。この後、出発するから、みんな準備しておいて」

 

アリーゼの話が終わり、各々装備を整えていく。それはリューも例外ではなかった。

 

しかしこの時、リューは漠然とした不安を抱えていた。

 

(嫌な予感がする………何か恐ろしいことが起きようとしているような…………)

 

ただ、そんな事を誰かに相談する訳にもいかず、リューは頭を切り替えて準備を進めていった。

 

 

―――――――――――――――――――――――― 

 

(sideポーロット)

 

「もっと食え。どうせ碌に食べていないんだろう?」

 

机に並べられた料理の数々。サラダにスープ、肉料理にパスタとコース料理かと疑うような皿が並んでいた。

 

今僕はシャクティさんに連れられ料理屋に来ていた。話があるからとついてきたものの、店に着いたら開口一番「好きなだけ食え」と料理をだされ、なし崩し的にご馳走になっている。

 

「あの、シャクティさん」

「ん?なんだ、デザートなら全部食い終わった後に頼んでやる」

「違います!そうじゃなくって!」

 

まるで親戚の子供扱いだ。いくら僕でもデザートをねだるほど子供ではない。

 

「話って何ですか?」

「ああ、そうだったな。なに、オラリオを出るんだろ、その前にいくつか伝えておきたかったからな」

 

その言葉を聞いて驚いた。なぜこの人は僕がオラリオを出ること知っているのか。誰にもそんな事話していないし、それに…………

 

「なんでそのことを…………だいたい何で僕がホームにいるってわかったんですか」

「そんな難しい事じゃない。私の勘だ、勘」

 

勘…………鋭すぎじゃないだろうか。風の噂で【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナも相当な直観力を持っていると聞いたことがあるが、彼もここまでの鋭さなのだろうか。

 

「…………私も、妹を殺されたからな…………お前の気持ちが、少しだけわかるだけだ」

 

 

……ああ、そうか。シャクティさんも実の妹アーディさんを闇派閥の連中に殺されている。要は同類なのだ、僕たちは。最愛の家族を失ったという点で。

 

「まあ、私は妹一人だけ。片やお前は家族全員。私と同じだとは口が裂けても言えんがな」

「…………悲しみに大きいも小さいも無いでしょ。そもそも比べることなんてできないんですから」

「…………そうだな」

 

悲しみとは個人個人の心に宿る思いであって、一律に同じだと言うことは決してできない。

 

何かを失った辛さ、苦しさ、人それぞれ違った思いを、仮に「悲しみ」と、一括りに呼んでいるだけなのだから。

 

「話というのはお前のファミリアの事だ。残念ながら、二週間経った今も碌な証拠が集まっていない。何があったのかも、誰がやったのかもな…………すまない」

「いえ………」

「ただ、お前がオラリオにいなかった期間、街中での戦闘は一度も無かった。それ故ジーベル達はダンジョンの中で襲われたのではないかというのが、我々の見解だ」

 

なるほど。それならば証拠が出てこなくても不思議ではない。ダンジョンの中なら、場所さえ気をつければ人に見られることも無く、何か証拠が残っても自然に消えてしまうだろう。

 

「これからも調査は続けるつもりだ。今回の件は他人ごとではないしな」

「はい…………お願いします」

「オラリオを出て落ち着いたら手紙を寄こせ。我々でも、アストレア・ファミリアでも良い。何かわかれば必ず伝える」

「…………ありがとうございます」

 

正直感謝してもしきれない。オラリオを出てしまえば、そうそう情報なんて手に入らない。それを手紙という形で伝えてくれるというのだから。

 

「それと…………()()()()()()はするなよ」

「えっ?」

 

それまでとは僅かに違った雰囲気で話すシャクティさんに、思わず聞き返してしまう。

 

「今は何とも無いかもしれない。だがこの先、いつか必ず、お前は悲しみに飲まれる。どうしようもない孤独と一緒にな。」

 

その言葉の意味がはっきりとは分からなかったが、どこか印象的で、説得力があって、すっと頭に入ってきた。

 

「そうなった時、()()()()()()()()()()()()

「わ、わかりました」

 

僕の返答に満足したのか、シャクティさんはふっと笑った。その顔は知り合いを見る目というよりも、どこか懐かしいものを見ているような目で…………

 

「さて、話したかったことはそれだけだ。さぁ、もっと食え」

 

話は終わっても、子供扱いは終わっていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

それからしばらくご馳走になった後、互いにまったりとしていた。すると、不意にシャクティさんが口を開いた。

 

「ところでポーロット。アストレア・ファミリアとの別れは済ませたのか?」

「え?いや…………まぁ」

 

本当は別れの挨拶なんてしていない。そもそも一人を除き、アストレア・ファミリアの人達には何も言わずに出て行ったのだ。

 

まして今もう一度彼女達の下を訪れてしまったら、早々に離れた意味が無くなる。

 

「その様子では済ませていないんだろ。しばらく会えなくなるんだ。助けてもらった礼も含めてちゃんと言っておけ」

「………はい」

 

何故か怒られた感じがする。いや、諭されたといったところか。なんだか、この人にはこの先も頭が上がらない気がする。

 

「とは言え、それも少し先の事になりそうだがな」

「え?」

 

シャクティさんの言葉に思わず聞き返す。先になるってどういうことだ?

 

「実は昨日アリーゼがうちに来てな。『下層』で闇派閥が動いているという情報が入ったから調査に行くと。その間、都市の防衛を頼むとな」

「闇派閥が…………」

「ああ。アリーゼの話ではギルドから直接その情報を受け取ったらしい。まぁ、他のファミリアからのタレコミならもう少し慎重になるんだが、ギルドからの情報だからな。()()()()()ということだろう」

 

なるほど。それでアストレア・ファミリアは『下層』に。

 

 

 

 

……………………アレ?

 

 

 

「………あの、シャクティさん」

「なんだ、どうした?」

 

ふと浮かんだ疑問。普段なら恐らく気にも留めずに聞き流していたであろう一言。

 

()()()()()って、何をですか?」

「は?()()()に決まっているだろう」

 

そう。文脈から行けばその通りだ。だが僕が気になっているのはそこでは無い。

 

「いや、そうじゃなくて……………どうしてギルドなら信頼できるんですか?他のファミリアはダメなのに」

「どうしてって、ギルドはこの街を実質取り仕切っている組織だぞ。それにギルドはオラリオを守る活動に積極的に手を貸している。一年前の27階層の悪夢の時もギルドがどれだけ協力してくれたか、お前も知っているだろう?」

 

確かにギルドはこの街を守るために様々なファミリアと協力して活動している。都市の運営から迷宮の管理、ドロップアイテムの売買などを行い、オラリオをオラリオ足らしめている重要な要素の一つである。

 

それ故、全幅の信頼を置くにふさわしいのだが……………………

 

 

ギルドはこの都市の運営機関、街の味方、住民の味方、信頼が厚い…………ギルドは、()()()

 

 

「………………はっ!」

 

唐突に浮かんだ一つの仮説。ただの憶測であって、推理でもなければ考察でもなくて。

 

間違っている可能性の方が遥かに高くて。こんな考え、切り捨てて然るべきなのに……

 

もし、『()()()()()()()()()()』という固定観念を闇派閥が利用していたとしたら……

 

「……それなら、辻褄が合う」

「どうした?ポーロット」

 

考えに耽っている僕を見て、シャクティさんは訝しんでいたが、それどころでは無い。

 

(依頼という形で僕を都市の外に追い出す。舞空術による救援要請を封じたうえで、皆を罠にかけて殺害。更に守り手がいなくなったところで、エイレーネ様を殺害。そして送還…………)

 

もしも、商隊の護衛任務がギルドと闇派閥による罠だったとしたら。全てがつながる、つながってしまう。

 

「何故だ、何故!」

「おいっ、大丈夫か?さっきから変だぞ」

 

見かねたシャクティさんに肩を掴まれ、思考の海から浮き上がる。少し考えすぎていた。

 

そもそもこれは僕の仮説であって、証拠なんて何一つないのだ。ここで物思いに耽っても仕方がないのだ。

 

とは言え、今思いついた事。一応シャクティさんに伝えておこう。考えすぎだと跳ね除けられるのがオチだが、そういった可能性もあることを知らせておくべきだろう。

 

「……すいません。シャクティさん、実は…………」

 

伝えようとしたその時、何か忘れていることに気づく。とても重要な、今もっとも優先しなければいけないような…………

 

(この人はさっき何といった?『下層』に闇派閥………ギルド…………()()()()()()()()()()()……………はっ!)

 

ガタッ!と椅子を倒しながら勢い良く立ち上がる。いきなり立ち上がった僕にシャクティさんも他の客も驚いていた。

 

「お、おい……本当にどうした」

(マズい!もしも、本当にそうなんだとしたら…………)

 

「シャクティさん!アストレア・ファミリアが『下層』に行くのは、いつですか!」

「は?いや、今日向かうとしか聞いていないが……何故だ?」

 

マズい。間に合うだろうか。もう少し早く気が付いていれば!

 

もう動かずにはいられなかった。倒れた椅子もそのままに店の出口へと走っていく。

 

「ちょ、おい!ポーロット!」

「ごめん、シャクティさん!ここの勘定頼む!今度返すから!」

 

それだけ伝え、一目散に走っていく。今僕が向かうべき場所へ、アストレア・ファミリアのホームへ。

 

 

 

「ま、待てポーロット!一体どこへ?

くっ、店員!支払いは置いておく!」

 

シャクティも代金を置いて直ぐに店の外に出るが、この時間は人通りが多くポーロットの姿を見つけられなかった。

 

「くっ、アイツ一体どこへ」

 

ギルドの話をしたところで様子がおかしくなったことを思い出し、とりあえずギルドへと向かうシャクティ。

 

しかし、それはポーロットが向かった場所とは正反対の方角だった…………

 




次回、いよいよ死神と激突します


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