『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~   作:灰色パーカー

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6.復活!友を救え、ポーロット!

「はぁ………はぁ……はぁ………」

 

店を飛び出してから数十分、ようやくアストレア・ファミリアのホームが見えてきた。

 

今日出発ということは、もう既に『下層』に向かった可能性もあるが…………

 

(頼む!間に合ってくれ!)

 

まだホームに留まっていてくれと、一縷の望みを抱いて走る。街の喧騒を駆け抜け、二週間前にも世話になったアストレア・ファミリアのホームに辿り着く。

 

不作法ではあるが、呼び鈴も鳴らさずにドタドタと中へ這入る。

 

「リュー!アリーゼ!いるか~!」

 

大声で二人の名を呼ぶが、木霊するだけで一向に返答が来ない。カグヤやライラ、他の団員の名前も呼ぶが、やはり返答は無い。

 

「どうかしたの、ポーロット?血相を変えて」

「アストレア様!皆は?団員の皆は?」

「落ち着きなさい。あの娘達なら『下層』へ向かったわ。闇派閥(イヴィルス)に動きがあるって情報が入ったから」

「くっ!」

 

遅かった。もう手遅れだ。出発前ならばなんとか説得できたかもしれないが、彼女達がここに居ない以上もうどうしようもない。

 

もう手の打ちようが無い。ギルド側が絡んでいる恐れがある以上、彼らには頼れない。他のファミリアを当てにしても、取り合ってはくれないだろう。

 

よしんば取り合ってくれたとしても、団員の選別や装備の確認などに時間を取られて、とても間に合わない。

 

 

 

 

 

…………もう、これしかない。

 

 

 

 

「アストレア様!あなたの恩恵を僕に下さい!」

「なっ、ちょっと待ちなさい!どうしたというの?いきなり」

 

アストレア様が驚くのも無理はない。何も言わずに出て行った奴が突然戻ってきた挙句、恩恵を授けてくれなどと。混乱しない方がおかしい。

 

だが、悠長に説明している時間は無い。リューさん達の身に危険が迫っているかもしれないのだから。

 

「アストレア様!ギルドからの闇派閥(イヴィルス)の情報、それ自体が罠の可能性があります」

「は?……どういうこと?」

 

手短に僕の仮説を説明する。重要な所だけを、危惧しなければならない部分だけを。

 

「ギルドは中立ゆえ、その行為と情報には信頼の価値がある。誰もが当たり前だと思っている常識を、闇派閥(イヴィルス)は利用しているかもしれないんです!」

「…………そんなっ」

 

今の会話だけで僕が言わんとしていることがわかったのだろう。闇派閥(イヴィルス)が今までのような荒っぽい手段ではなく、狡猾な手段で貶めに来ていることが。

 

「もちろん何の証拠もありません。ただの憶測でしかない。間違っている可能性の方が高いでしょう」

 

ありのまま思ったことを、脳裏に浮かんだ可能性について語る。アストレア様もじっと静かに聞いてくれている。

 

「でも、もし!もし、今言ったことが正しかったら、今度はアストレア・ファミリアの皆が危険な目に合うかもしれない……僕らと同じ、エイレーネ・ファミリアと同じ結末になりかねない!」

「……………………」

 

同じ結末…………即ちファミリアの壊滅。誰も生き残らず全員が天に昇ることになる…………主神(アストレア様)も含めて。

 

闇派閥(イヴィルス)は既に一線を越えた。もう禁忌を破ることに抵抗は無いだろう。そういう連中なのだ。

 

「僕は……全てを失った……大切な家族も、主神も、帰るべき場所も、何もかも………だから、最後に残ったものだけは失いたくない!信じられる、友達だけは!」

「!」

 

気づけばそんな事を言っていた。この状況で、僕の気持ちなんて関係ないはずなのに……

 

それがわかっていても、もう止まらなかった。

 

「お願いします!アストレア様!戦う力を僕に下さい!友達を助ける力を下さい!」

 

膝をつき、両手を床につける。アストレア様を見上げながら、目を見据えて言葉を紡ぐ。

 

「僕に、あなたの眷属を()()()()()()()()()‼」

「……………………」

 

頭を床にこすりつけ、ただひたすらに懇願する。アストレア様の顔は見えないが、ずっと黙ったままだった。

 

 

 

そして幾ばくかして、アストレア様は言った。

 

「背中を見せなさい、ポーロット。あなたに恩恵を授けましょう」

「!」

 

ガバッと顔を上げてアストレア様を見る。その御尊顔は、穏やかで慈愛に満ちたものだった。

 

「その憶測の真偽がどうであれ、あの娘達の身が危ぶまれているのは事実。——それに、あなたの()()は伝わった」

 

アストレア様に促されるままに、上着を脱いで背中を晒す。そしてアストレア様がご自分の神血(イコル)を僕の背中に垂らすと、背中に刻まれた刻印が淡く光りだし明滅し始める。

 

アストレア様は正確な指さばきでファミリアの象徴と僕の真名を刻んでいく。

 

アストレア様が恩恵を刻み終わると、失っていたステータスが蘇っていく。体中に力が漲り、感じ取れなかった多くの気がわかるようになっていく。

 

立ち上がり、自分の力を感じ取ろうとするが………

 

(強くなっている)

 

ステータスの詳しい数値は聞いていないものの、それでも強くなっているのが、よくわかる。更には、以前の自分には無かった『力』まで……

 

(……良い気持ちだ。こんな大変な時だっていうのに)

 

力を取り戻したからか、自分が強くなっているからか、心はひどく穏やかだった。自分でも怖いくらいに。

 

(よし!待ってろよ、アストレア・ファミリアの皆!今行くぞ!)

 

実際、本当に危険が迫っているのかなんてわからない。憶測が間違っているなら、むしろそれが一番良い。

 

だが残念ながら、こういう時、起こってほしくない事の方が起きやすい事を、僕は知っている。

 

「アストレア様、ありが…………」

「ポーロット、あの娘達をお願いね」

 

礼を述べようとしたところでアストレア様に遮られる。そして彼女たちのことを任せられる。

 

「………はい!」 

 

ただ一言。力強く返答し、駆け足でホームの外へと移動する。一度深呼吸をし、一気に気を高める。

 

「はあぁぁ!」

 

体中から気が噴き出し身を包む。気を放出したことで発生した突風が砂を巻き上げ、木々の枝は大きく揺れる。

 

その状態のまま上空へと飛び上がり、ダンジョンの入り口であるバベルへと全速力で飛んで行く。

 

(みんな、無事でいてくれ!)

 

 

 

「頑張って…………ポーロット」

 

アストレアはホームの入り口から、ポーロットが飛び経っていくのを見守りながらそう呟いた。

 

どうか全員が無事に帰還するようにと祈りながら…………

 

 

 

その日、オラリオにいる多くの住民が空気を弾く轟音を聞いた。大気を震わすその轟音に何事かと空を見上げた誰もが、バベルの方へと飛んで行く人影を見た。

 

この街で空を飛べる人間など一人しかいない。誰もが一人の人間を思い浮かべ、ある者は歓喜し、またある者は涙した。

 

ファミリアを滅ぼされ、全てを失い、打ちのめされていた男が戻ってきたと。

 

都市の悪と戦う『平和の使者』は滅んでなどいなかったと。

 

この街にはまだ希望が残されていると。

 

 

さらに、バベルの中に居た者達も驚愕を露わにしていた。外で大きな破裂音がするなと入り口付近に集まっていた人々の間を、誰かが突風とも見まがう速さで駆け抜け、飛び越えて行ったことに。

 

辛うじてその姿を捉えた人々が、まさかといった表情で走り去っていった男を振り返る。

 

しかし、すでにその男はダンジョンの入り口の先へと消えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(sideアストレア・ファミリア)

 

凄まじい爆発だった。広間の壁面は大きく抉れ、床にはいくつものクレーターが出来ていた。

 

未だ静まらない振動と遠くから残響してくる瓦礫の音を聞きながら、リューは身を起こした。

 

「みんな、無事?」

「あっぶねぇ~!」

「やはり罠だったか………爆弾で生き埋めとは、品が無さ過ぎて笑えるがな」

 

周囲ではアリーゼ、ライラ、カグヤ、そして周囲のアストレア・ファミリアの団員達の声が上がる。負傷しているものもいるが全員無事だ。

 

アストレア・ファミリアの面々は下層に降り立った際、闇派閥(イヴィルス)であるルドラ・ファミリアに誘き出される形で罠に嵌められた。大量に設置された火炎石の無差別爆撃によって。

 

しかし、罠の存在に目敏く気が付いたライラの警告によって間一髪、その爆撃から逃れていた。

 

「なんで生きてやがるっ…………アストレア・ファミリアの糞女どもがぁ!どれだけの火炎石をつぎ込んだと思ってんだ⁉」

 

ルドラ・ファミリアの幹部であるジュラが罵声を吐くも、既に残された策も無く怯んでいた。

 

「やってくれたわね、ジュラ。でも貴方の悪巧みも、ここまでよ。終わりにするわ。闇派閥(イヴィルス)も、悪の時代も」

 

アリーゼの言葉が男たちの罪状を読み上げるように滔々と響く。彼女の後ろに控えるリュー達の鋭い眼差しが、後退るジュラ達を射抜く。

 

アストレア・ファミリアが正義の鉄槌を下そうとした、その時だった。

 

 

ダンジョンが()()()のは…………

 

 

「————————」

 

引き絞った銀の弦に刃を走らせたかのような、途轍もない無機質な高音域。遭遇した事の無い事態にその場にいた全ての者が動きを止める中、()()はやってきた

 

—ビシリッ、と

 

崩れた壁面の奥に走った、広く、長く、深い亀裂。その中を何かが蠢いていた。アストレア・ファミリアの面々が亀裂の奥で瞬く深紅の眼光を捕らえた、次の瞬間。

 

猛烈な斜線が走り抜け、ルドラ・ファミリアのうちの一人が、寸断された。

 

「—え?」

 

誰も知覚できず、本人も気付けぬまま、一つの命が終わった。紫紺の破爪が無慈悲に閃き男の体が三つの部位に分解されたのだ。

 

「おい、どうし—ぐづっっ?」

 

二人目。仲間の身を案じた人間の上半身が弾けた。紫紺に輝く破爪の仕業だった。

 

三人目。剣を構えようとした獣人がひしゃげた。宙に躍り出た巨体による圧殺だった。

 

突如現れた厄災『ジャガーノート』によって一瞬のうちに三人がやられ、ルドラ・ファミリアの者達はパニックに陥った。冷静さを欠き、ある者は戦おうとして、斬殺。逃げようとした者は追い付かれて刺殺。動けなかった者は、捕食された。

 

中には何とか隊列を組み魔法を放つ者達もいたが、ジャガーノートの持つ盾の力『魔力反射(マジック・リフレクション)』によって魔法を反射され、自らの魔法に身を焼かれた。

 

「「ぎゃあぁぁー!」」

 

広間には無数の悲鳴と、肉が斬られ潰されるぐちゃりという音、血が噴き出す耳に障る音が響き渡る。

 

 

「何………アレ?」

 

一方、アストレア・ファミリアの団員達は未だ無傷だった。だが、これは単にジャガーノートが数の多いルドラ・ファミリアを優先して殲滅しているだけに過ぎず、彼女達に矛先が向くのは時間の問題だった。

 

「皆しっかりして!アレは直ぐに私達を狙ってくる!」

 

アリーゼが言うが早いか、ルドラ・ファミリアのほぼ全員を殲滅し終えたジャガーノートは既にアストレア・ファミリアに照準を合わせていた。

 

「っ!アリーゼ、危ない‼」

「⁉」

 

直後、【厄災】がアリーゼの首を狙った。傍にいたリューが咄嗟にアリーゼの体を突き飛ばし、ギリギリでアリーゼの首が飛ぶのを阻止する。それでも完全に躱しきれず首元に浅くはない傷をつける。

 

だが凶悪な破爪はそれだけでは終わらず、広間の床を爆砕する。その衝撃と爆風でリュー達は吹き飛ばされ散り散りになってしまう。

 

「きゃぁっ!」

「うわぁぁっ!」

「くっ!」

 

吹っ飛ばされながらも何とか体勢を崩すまいと踏ん張る団員達。だが全員があと一歩、いや半歩でも前に出ていたら四肢の一つや二つ持っていかれていた。その事実が全員の心を縛りつける。

 

「—ああああああああ!」

 

そんな中ただ一人、リューだけは【厄災】相手に向かっていった。

 

()()が相手では体勢を立て直す暇なんて無い!たとえ無茶でもここで攻めなければやられる!)

「だめっ!リオン」

 

斬られた首元を押さえながら、アリーゼがリューに向かって叫ぶ。リューの考えもあながち間違いではなかったが、それでも冷静さを欠いていることに変わりは無かった。

 

『鎧を纏った恐竜の化石』とも言うべき【厄災】に向かってリューは木刀を見舞った。

 

「っ!」

 

だが、リューの渾身の一撃は無情にも空を切った。ジャガーノートは逆関節を軋ませながら跳躍、数十M(メドル)はある天井に()()()()()()

 

そこから始まる連続跳躍。その超高速移動は容易くリューの知覚を振り切り背後を取った。

 

「‼」

 

敵の移動速度に戦慄していたリューは反射的に回避していた。長年の戦闘経験と何とか死を免れようとする体がリューを動かしていた。

 

だが次の瞬間、リューは途方もない衝撃に襲われた。敵の破爪を避けるのでさえギリギリだったリューに対し、第三の腕のごとく尾が叩き込まれる。

 

「ぐぁっ!」

 

棍棒とも見まがうジャガーノートの尻尾はそれだけで十分な必殺であり、直撃したリューの全身の骨に無数の罅を刻む。

 

瓦礫の塊に背中を叩きつけられ吐血するリュー。全身に走る激痛で動くことができず、その隙にジャガーノートはあっさりと接近し、容赦なく破爪を振り下ろす。

 

「「「リュー!」」」

「—馬鹿がっ!」

 

動けず見ているだけだった仲間たちがリューの名を叫ぶ。リューが尾で吹っ飛ばされた時点で走り出していたカグヤだったが、リューの下に到着する前に敵の爪がリューを砕く。

 

 

(ああ、死ぬのか)

 

途切れかけた意識の底でリューは自分の死を悟った。抗いようの無い運命と、覆しようの無い事実を前に、リューの時は止まった。

 

敵の爪も、こちらに向かって駆け寄る仲間の姿も、とても緩やかだった。辛うじて仲間達の声だけは聞き取ることができた。

 

(…………ごめんなさい、みんな)

 

ジャガーノートの爪がゆっくりと、しかし確実に迫ってくる中リューは仲間達に謝っていた。

 

勝手に飛び出してしまったことに、一人先に死んでいくことに、共にオラリオに正義を示せないことに。

 

(ごめんなさい、アストレア様)

 

主神からの多大なる恩に報いることができなかったことに。授かった正義を全うできなかったことに。

 

(ごめんなさい…………ポーロット)

 

自分達を『正義の味方』と呼び、信じてくれた友に。その期待に応えられなかったことに。

 

 

そして、破爪がリューを捉えようとしたその時、誰もがもうダメだと思ったその時…………

 

 

「だぁりゃぁぁ!」

 

一人の男がジャガーノートを蹴り飛ばした。不意打ちをくらった【厄災】は容赦なく吹き飛び数十M(メドル)離れた壁面に激突した。

 

「はぁ……はぁ………間に合った………」

 

広間にいた全ての者の意識外から現れた、白い魔力(オーラ)を纏った彼は、そっとリューの前に降り立った。着ている服はボロボロで体のあちこちを負傷している彼の顔は、誰もが知り、そして下層にいる筈の無い男だった。

 

「………ポー、ロット?」

 

 

 

(sideポーロット)

 

「はぁ……はぁ………間に合った………」

 

上層からここまで、ノンストップで飛んできた。途中何度もモンスターと遭遇したが、そのどれとも戦わず、翔けてきた。モンスター達の隙間を掻い潜り、攻撃をかわしながら。

 

進むことを優先していたため、躱しきれずに掠めることも多々あったが。

 

だがその甲斐あって、こうして辿り着いた。外れて欲しいと願った、しかし外れないとどこかでわかっていた運命に()()()()()

 

 

「………ポー、ロット?」

 

側で瓦礫に打ち付けられているリューさんが僕を呼ぶ。その瞳は驚愕に満ちていた。

 

「どう……して?」

 

リューさんは何故ここにいるのかと問うてくるが、一旦無視して彼女の身を起こしそのままゆっくりと背負う。

 

「痛っ!な、何を⁉」

「掴まっていて下さい」

 

リューさんを背負いこの場から、と言うより壁に激突しめり込んでいるあの化け物から距離を取る。

 

「ポーロット、お前……ちょっ!」

 

一瞬でカグヤさんのいる場所まで移動し、彼女の手を強引に掴み一緒にアリーゼさん達のもとまで後退する。

 

驚くみんなを余所にカグヤさんの手を離し、背中のリューさんをそっと下ろす。

 

「リューさんの手当てをお願いします。たぶん、骨に罅が………」

「うそ!リャーナ、セルティ!」

 

アリーゼさんの指示の下、リャーナさんとセルティさんが回復魔法やポーションを駆使してリューさんの傷を癒していく。

 

「ポー、ロット……な、ぜ…?」

「そうだ………なぜお前が下層(ここ)にいる」

 

未だ激痛に苛まれているリューさんやカグヤさんが疑問を口にする。だがそれは恐らくここにいる僕以外の皆が抱いているものだろう。

 

だがすぐ向こうに化け物がいるのだ。悠長に話している暇はない。化け物から目を離さずに告げる。

 

「………友達を、助けに来た」

 

 

「「「……は?」」」

 

当然というか、思った通りというか、みんな驚いていた。治療中のリャーナさんやセルティさんも手が止まるくらい。

 

「地上にいる時に色々あって………皆が危険に晒される可能性が出てきた。それでここに」

 

アリーゼさんは首元を押さえたまま、カグヤさんは立ち尽くしたまま目を見開いていた。他の皆もここが下層であることを忘れて、呆けている。

 

「もっとも、僕が思っていたものとは些か違っているけれど」

「で、でも!それじゃあなたは誰に恩恵を授かったの?」

「アストレア様です。事情を話して頼み込みました」

 

すると、とうとうあの化け物は壁から頭を引っ張り出してきた。

 

「みんなは此処にいて下さい。此処でじっとしてて下さい………アイツは、僕一人で片付けます」

「なっ、ダメよ!勝てっこないわ!」

「………久方ぶりの戦闘で勘が鈍ったか?お前一人でどうにかなる相手ではない。アレを吹き飛ばしたのも不意打ちだったからこそだ」

 

一人で戦うと言った僕をアリーゼさんとカグヤさんが止めに入る。僕よりもほんの少しだけ長くあの化け物を見ていたからこそ、その驚異度の高さから止めているのだろう。

 

「………大丈夫です。前の時とは違う」

「…………前?」

 

僕が言った『前の時』。それが何なのかわからず皆、首を傾げている。

 

「僕は、ジーベルさん達の危機に間に合わなかった。でも、今回は違う!」

 

一歩。化け物の方へと踏み出し、敵を見据えたまま続ける。

 

「間に合ったんだ、今回は!僕は家族を守れなかったけど、だからこそ友達だけは!友達だけは必ず守る!」

 

二度と誰かを失わないために、大切な誰かを守るために、僕は今この『力』を使う。

 

気づかぬうちに宿っていた、巨大な力を。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ゴゴゴゴゴ

 

徐々に『力』を開放していくと、自分でも信じられないほど気が上がっていく。空気は震え、小さな瓦礫が中に浮きはじめる。

 

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

次第に広間(ルーム)全体が揺れだし、僕以外の、あの化け物も含めて全員が動きを止める。

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

そして、一気に『力』を開放する。髪は逆立ち、全身から今までとは違う金色に輝く気が放出される。

 

 

「きゃあ!」

「うおっ⁉」

「くっ!」

 

突然放出された黄金の気と光に、最も近くにいたアリーゼさんやカグヤさんが身構える。後ろに控えるリューさん達他の団員の人たちも目を手で覆っている。

 

(金色の気、見たことがあるような……………無いような)

 

新たに宿っていた黄金の力。その色や気の質にどこか覚えがあるように感じるが、よく思い出せない。

 

(まぁ、良いか。アレを倒すのが先だ)

 

気を開放し、構えを取る。既に攻める体勢を整えていた化け物だったが、何故か突っ込んでこなかった。

 

こちらの準備が整うのを待っていたのか、単に余裕のつもりなのか。どちらにせよあの化け物は倒さなくてはならない。

 

広間に散らばる無数の骸。闇派閥(イヴィルス)の者達の遺体だろうが、これをやった下手人はあの化け物だ。アストレア・ファミリアは闇派閥(イヴィルス)であっても相手を殺さない。

 

よしんば殺すことになってもあんな無惨な殺し方はしない。仮に闇派閥(イヴィルス)の同士討ちであっても同様だろう。

 

つまり犯人はあの化け物で、奴はこの場にいる者全員を殺すつもりなのだろう。此処で倒さない限り逃げても恐らく追ってくる。

 

 

「行くぞ!」

 

踏み込んだ地面が爆ぜるほどの勢いで化け物に突貫する。

 

 

 

 

 

さあ、決戦だ。

 




この話の各所で色々な作品の名言(迷言)をお借りしています。

おわかりいただけましたでしょうか?

ヒントはオンドゥル語、「神様は乗り越えられる試練しか与えない」です。

わかったら感想でお答えください(笑)
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