『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~ 作:灰色パーカー
ジャガーノートをかめはめ波で倒したポーロットはすぐにアストレア・ファミリアの下へと戻る。
「全員、無事だな?」
「……ええ、受けた傷も血は止まったわ」
戸惑いつつも返答するアリーゼ。それを聞いたポーロットはすぐに帰還を促した。
「じゃあすぐ地上に戻るぞ。またあんな化け物が出てくるとも限らん」
「そ、そうね……みんな!」
ポーロットの提案を受け入れる団員に檄を飛ばすアリーゼ。だがアリーゼは目の前のポーロットに少なからず違和感を抱いていた。
(口調が、変わってる?)
普段のポーロットは基本的に敬語を使って話す。元団長のジーベルにはもちろんのこと、自分達に対しても物腰柔らかだったはずが、今はどこか口調が荒い。
その時、
「…………悪い、少し待ってろ」
「え?ポーロット⁉」
突然ポーロットがどこかへと移動してしまった。帰還を勧めた本人がいなくなり、アリーゼだけでなくリュー達他の団員も困惑する。
―――――――――――――――――――
「ハァ……ハァ…くそっくそっくそぉ!あの糞女どもめぇ」
ポーロットがジャガーノートと戦っていた広間からのびる脇道を一人の男が走っていた。
ジュラ・ハルマー。
ジャガーノートによる殺戮の中、ジュラは運良く腕の欠損だけで済んでいた。ジャガーノートの意識がリュー達に移り、ポーロットが乱入してきたため、ジュラは気配を殺して逃亡を図っていた。
斬り落とされた腕の激痛とジャガーノートに対する恐怖をリュー達への罵声で紛らわせていた。
「アイツらが!アイツらが死んでいればこんな事にはならなかったんだ!あれだけの火炎石を使ったってのに!」
腕を押さえながら少しずつ前へと進むジュラ。何とかここから逃げのびて、今度こそアストレア・ファミリアを皆殺しにする。そうでなければ腹の虫は収まらないうえに、自分の身の安全も保障されない。
そう考えていた。
だが、そうは問屋が卸さない。
ピシュン!
「運よく殺されなかったみたいだな」
「なっ!て、テメェ」
広間から遠ざかっていたジュラの目の前に、ポーロットが突然現れた。下層を後にしようと考えていたポーロットだったが、自分達から離れようとしている気を感じ取っていたのだ。
それがジュラであると気が付いたポーロットはここまで追ってきたのだった。
「お前には聞きたいことが山ほどあるんだ。逃がす訳にはいかねぇ」
「な、なんで此処に!いや、そもそも力を無くしたはずのテメェが何でダンジョンにいやがんだ⁉」
いきなり現れたポーロットに動揺するジュラ。自分を追って来たことやどうやって力を取り戻したのかなどわめき立てるが、ポーロットは嫌そうな顔をしながらジュラを一瞥する。
「やかましい奴だな。まぁ良い、悪いがついて来てもらうぞ」
「何……がぁ!」
ドサッ
有無を言わさずポーロットはジュラを気絶させた。そのままジュラの襟元を掴み、急ぎリュー達のもとへと帰っていく。
―――――――――――――――――――――――――
「ポーロットは、一体どこへ?」
「わからない。待ってろとだけ言ってどっか行っちゃったわ」
ポーロットがいなくなったことにリュー達は混乱していた。新手が来たわけでも、先ほどの化け物が生きていたという訳でもない。それなのに何処かへと行ってしまったことに訝しんでいると、
ピシュン!
「悪い。遅くなった」
「「「っ!」」」
すぐにポーロットが戻ってきた。気絶したジュラの首根っこを掴みながら。
「ジュラ!」
「こいつの気が残っていることに気が付いたからな、捕まえてきた。さぁ、地上に戻るぞ」
気絶させたジュラを見せながら、ポーロットは再度地上への帰還を促した。
「勝手にどっか行ったのはあんたでしょ?まったくも~」
ポーロットに文句を言いつつもアリーゼは皆を促し、帰還の途に就いた。ポーロットが先頭に立ち接近してくるモンスターを倒しながら上の階層へと進んでいく。
上階への階段に着いた時、リューとアリーゼは一度だけ後ろを振り返った。ジュラ達による爆発でボロボロになった階層の壁、下手をすれば全滅していたかもしれない強敵、駆けつけてくれた友、そんな事を思い起こしながら迷宮を一瞥し、二人は階段を登って行った。
――――――――――――――――
ポーロット達は休むことなく進み続け、数時間で地上へと帰還した。途中で現れたモンスターはポーロットが過剰ともいえる金色の力で蹴散らしたため、リュー達はほとんど疲弊せずに地上に戻ることができた。
外は既に日が暮れ夜になっていたが、迷宮の出入り口では普段通り冒険者とギルド従業員が行きかっていた。
「ふぅ~ついたぁ!」
迷宮を抜け地上に出るとアリーゼはうんと伸伸びをする。リューや他の団員も地上に戻ってきた事に安堵していた。脇により各々肩の力を抜いていく。
「まったく。一時はどうなるかと思ったぞ」
「案の定罠だったな!どうにかなったけどよ」
カグヤとライラも緊張を解きながら口を開く。
「それもこれもポーロットのおかげです」
ポーロットが救援に駆け付けてくれたこと、その事にあらためて礼を言うリュー。体に残っていたダメージもほとんど抜けきっていた。他の団員もポーロットに視線を向ける。
「礼はいらない。俺は・・・僕は、自分がやりたいことをやっただけですから」
ポーロットはリュー達に答えながら、纏っていた金色の力を解いていく。髪の色は金色から元の黒髪に戻り、逆立っていた髪も同時に元に戻っていく。
それに応じて口調も元の丁寧なものへと変わっていった。あれほど圧倒的な力を誇っていても、元の姿に戻ってしまえばその力は見る影もない。
「それより、今はギルドに報告を。下層で起きたことと、それに……この男のこ、と……も」
ドサッ
帰還報告とジュラの身柄を引き渡すこと。それを優先すべきだと伝えようとしたところでポーロットは倒れ込んだ。
(……アレ?なんだ……………意識が……)
「「「ポ、ポーロット!」」」
突然のことだった。これまで一度も負傷していないはずのポーロットが倒れたことにアストレア・ファミリアは面食らった。何ともないような顔をしていた者が意識を失ったことで、彼女たちの脳裏に嫌な予感と焦りが浮かぶ。
「ポーロット!ポーロットォ!」
「バカリオン!さっさと回復の魔法を使え!」
「それよりアミッドの所に運んだ方が早いわ!」
ポーロットの体を担ぎながらリュー達はディアンケヒト・ファミリアの治療師のもとへと連れていった。
――――――――――――――――
気が付くと、ポーロットは真っ暗な場所にいた。右を見ても左を見ても真っ暗な空間で距離感さえつかめなかった。
自分が立っているのか宙に浮いているのかもわからなかった。もしかしたら水中に沈んでいるのかもしれないとさえ思っていた。
しばらくすると、あたりが明るくなってきた。いや、正確にはポーロットの後方から光が差してきていた。
「……………!」
ここが何処なのか判るかもしれないと、振り返って見た視線の先には、二度と合うはずの無い人が立っていた。
「団…長……?」
既に命を落としたはずのジーベルがポーロットに微笑んでいた。よく見れば副団長のマイスをはじめ他の団員達も一緒に立っていた。
「みんな……」
死んでいった仲間達に再会できたことに驚くものの、ポーロットはこれが夢であることを瞬時に理解した。死んで逝った者たちは蘇らない。それが事実でありこの世の理であると知っている。
事実、ジーベル達は一言も話さない。それでも再び会えたことはポーロットには嬉しかった。この時間が少しでも長く続けばいいとさえ思った。
しかし、そう上手くはいかなかった。ジーベル達はポーロットに微笑んだ後、次々に光の先へと消えていってしまう。
「……………さようなら、みんな」
手を振りながら去っていく皆に別れの言葉を告げるポーロット。仲間達が光の先に消えると同時にポーロットの意識も暗転した。
「……………んんっ」
再びポーロットが気が付いた時、そこはバベルの医務室の一つだった。
「ポーロット!気が付きましたか?」
「大丈夫!?」
ベッドに横たわる自分を深刻な面持ちで見下ろすリューやアリーゼ、さらには他のアストレア・ファミリアの数名もベットへと集まってくる。
皆心配そうな顔をしており、状況からポーロットは自分が倒れたということを思い出した。
「……お騒がせしてしまったな」
そう言って身を起こすポーロット。疲労感からか体が重たく感じるが、それ以外には体の不調は無かった。リューに支えられながら起き上がり、そっと窓の外を見た。まだ少し暗いものの既に朝日が昇って来ていた。
「……大丈夫です。体が少し重いですが、それ以外には何も」
「そうですか。それは良かった」
何ともないというポーロットの言葉にリューをはじめ団員の皆が胸を撫で下ろす。
「もぉ~いきなり倒れたりするから慌てたわよ」
「まったくだ。ただでさえ多くのことが起きすぎて手が回らなかったというのに」
「あはは……どうも、すみません」
アリーゼとカグヤの言葉に苦笑いで謝罪するポーロット。そんな話を交わしながらポーロットは倒れた時の記憶を思い起こしていた。
(たしか……地上に戻った後、ジュラの身柄を引き渡そうとして……!)
そこまで思い出し、大事な事を思い出す。今回の件で唯一生き残った闇派閥の冒険者のことを、真実を紐解くための足掛かりとなり得る男のことを。
「あ、あの!あの人は!?ジュラはどうなったんですか⁉何か情報は?」
「落ち着け。まだ帰還してから数時間しかたっておらんのだ。取り調べなどしておらんわ、たわけ」
ジュラについて矢継ぎ早に尋ねるポーロットに対し、呆れた様子で話すカグヤ。そもそもポーロットが倒れてからの数時間。各々身なりを整え、数名を主神の下へ向かわせたものの、ほとんどの団員はずっとポーロットの側についていたのだ。
「それにジュラは今話ができる状態じゃないわ」
「えっ、それは……どういう?」
「大方、どこぞの誰かが気絶させた時に無駄に強く殴ったのだろうよ。ははは、有能よな」
「えっ⁉」
「カグヤ……ジュラは欠損した腕からの出血が多かったらしく、今現在意識不明なんです」
カグヤのセリフに一瞬冷や汗を流すポーロットだったが、リューの補足で状況を理解した。つまり、外傷によって意識不明であり話すこともできないということだ。
現状では手掛かりを得ることはできないとわかり落胆したポーロットだったが、今はアストレア・ファミリアの皆が助かったことを喜ぶべきだと頭を切り替える。
「そういえば……アリーゼさんとリューさんは、傷の方はどうですか?」
「バッチリよ!傷も塞がったし痛みも引いたわ!さっすが私よね!」
「ええ、私の方も問題はありません」
「そうですか、よかった」
二人の息災な様子を見てポーロットは安堵した。そのままベッドから降りて身支度を整える。
「ん?お前何をしている?」
「いえ、退院しようかと」
「「「は?」」」
「もう体も大丈夫ですし、このままここにいても意味がないなら一度アストレア様のもとへ行きましょう。きっとあの
ポーロットは体を伸ばしながらアストレアのもとへ向かおうと告げる。ここにいない数名の団員から報告は受けているだろうが、それでもアストレアは心配していると履んでいた。
「そうね。こちらとしても聞きたいことは山ほどあるしね!」
「まぁ、妥当だな」
「しかし大丈夫でしょうか?アミッドあたりにどやされる気が……」
「おやおや。化け物にも勇猛果敢に攻め込んでいく狂暴エルフも、女医のことは怖いのでしょうか?フフフ」
「黙れカグヤ。アミッドが怖いという意味ではありません。それにそのしゃべり方はやめろと前にも言ったでしょう」
「誰が、怖くないんでしょうか?」
ビクッ
「ア、アミッド……」
リューとカグヤが言い争っているところに、ぬらっと現れたのは件の女医、アミッド・テアサナーレだった。都市で最高の医術を修めている冒険者で、病院という場所での最高権力者であり患者に対し絶対的な優位性を持つ人間だ。
「どうも。お世話になってます」
「おはようございます、ポーロット。気が付かれたんですね」
ストレッチを続けたまま挨拶をするポーロット。アミッドもまた無表情のまま返答した。だがその顔も徐々に険しい者へと変わっていく。
「患者の貴方が、一体何をしているんですか?」
「あ、いえ。体は何ともないので退院しようかと」
「……ほう。医者の診断も受けずに患者の勝手な判断で退院しようと?稀に見る愚患者ですこと」
ますます険しい顔になっていくアミッドとは対照的にけろっとした顔で続けるポーロット。だがポーロットの様子を見たアミッドは深いため息をついて、あきらめた様子で言った。
「はぁ~、まあもともとあなたは疲労で倒れただけのようですし、特に異常が無いならば良いでしょう」
愚患者甚だしいですが、と付け加えながらアミッドはポーロットの退院を容認した。もっともポーロットはたとえ退院を認められなくても、窓から飛んで逃げるつもりではあったのだが……
「それよりも、
アミッドのその一言で全員の間に緊張が走る。
「現在、【奴隷猫】ジュラ・ハルマーは厳戒態勢の下で治療を行っています。バイタルは安定しつつありますが、出血量が多かったため目覚めるのがいつになるかは今の段階では判断できません」
「そう……」
ジュラが目覚めないということは調査を始められるのがいつになるかわからないということ。その事に若干気を落とすアリーゼだったが、すぐにいつものテンションへと戻り溌剌と口を開いた。
「ま、死んでしまった訳じゃなし。起きたらこってり絞ってやりましょう!」
アリーゼの言葉に皆少なからず笑みをこぼす。この前向きで明るい性格が団員達に慕われる所以でもる。
「ふぅ~、すいません、お待たせしました」
「じゃあ、すぐにホームに戻ってアストレア様に報告しましょう」
ストレッチを終え、顔をパンパンと叩きながらポーロットはアリーゼ達に呼びかける。それを合図にアリーゼやリュー達は病室を出た。
――――――――――――――――
アストレア・ファミリアのホームに戻ると、主神のアストレアが団員の帰りを待ちわびていた。団員一人一人を抱きしめ、「よく帰って来た」と涙ながらに頭を撫でていた。
「え~ん、帰ってきたよぉ~アストレア様~」
「……うぅ///アストレア様、その…ご心配をおかけしました」
「主神さま、何もそこまで気に病むことも無かっただろうに」
若干過剰に反応し主神を強く抱きしめ返すアリーゼ、恥ずかしさからややぎこちなく抱きしめ返すリュー、心配せずとも平気だとそっと抱き返すカグヤ、十人十色の反応を示す団員の面々。
(良かったね……アストレア・ファミリアのみんな)
ポーロットはそれを傍から見ているだけだった。リュー達全員が、またアストレアと再会できたこと、それはポーロットにとっても嬉しい事だった。
自分のような思いをリュー達が、アストレアがしなくて済んだことを静かに喜んでいた。誰一人欠けることなく、この瞬間を迎えられたことを。
(………………もし、
けれど、思わずにはいられなかった。ジーベル達が生きていたらどうだったかを。自分が成し遂げたことを喜んでくれたかを。
(エイレーネ様は…………あんな風に、褒めてくれたのかな…………)
目の前に尊く、輝かしい光景が広がっているだけに、ポーロットの孤独と寂寥感は途方もないものだった。仲間を想って見上げた空も、滲んだ涙ではっきりとは見えなかった。
「―ロット、ポーロット!」
「…………え?は、はい」
不意に名前を呼ばれ一瞬気が付かなかった。慌てて返答し前を向くと、
「ありがとう、ポーロット。全部、あなたのおかげよ」
ポーロットの肩に手を置きながらゆっくりと話し出すアストレア。その凛とした声音は簡単に、しかしポーロットの中に深く入ってきた。
「あなたが可能性に気づいてくれたから……その可能性をあり得ないことだと切り捨てず、行動を起こしてくれたから………私の娘達は生きて戻って来られた」
「あなたがいてくれたから、私達は今日を生きていける………本当に、本当にありがとう」
そう言って、アストレアは
「………………///」
まるで心を見透かされているようだった。自分の仲間と主神がいたらあんな風にしてくれたのかなと、考えていたことをそのままアストレアにされたポーロット。
自分の子供っぽさに顔が熱くなるものの、それ以上に自分が取った行動が間違い出なかったと、よくやったと心から認めてもらえたこと。
それがまるで、亡き主神エイレーネから言われたように感じられたことで、ポーロットは胸がすく思いだった。孤独も寂寥感も消え去るほどに、アストレアの言葉はポーロットに強く響いたのだった。
「……ありがとう、ございます。アストレア様」
ポーロットが答えると、アストレアはそっと抱きしめていた腕を解いた。
「さぁ、中に入りましょう。聞きたいことも、説明することも沢山あるのだもの」
そう言ってアストレアはポーロットの手を引きながら、ホームの中へと誘っていった。
ぜひ感想をお寄せ下さい。
跳び跳ねて喜びます。
感想の数に比例して執筆意欲が高まります(笑)