『正義のサイヤ人』~仲間の夢を未来へつなぐのは間違っているだろうか~ 作:灰色パーカー
アストレア・ファミリアのホームへ招かれたポーロットはこれまでの経緯について事細かに説明した。
シャクティとの会話の中で思い至ったこと……一連の
「そんな、馬鹿な……」
「……たしかに盲点だったな」
「迂闊だったわ。そんなことにも気が付かなかったなんて」
ポーロットの話はアストレア・ファミリアの団員全てを驚愕させた。これまで都市の平和のために協力してきたギルドが、よもや
しかし、こと下層での一件に限れば、すべて合点がいくのだ。下層で
「……ただギルド全体が関与している、という訳ではないと思うんです。もしそうなら、もっとやりようはあったでしょうから」
ギルドという組織が完全に
「……だとすると、ギルド側の内通者が誰なのか、調べないとね」
動揺してはいるものの、アリーゼはすぐに容疑者を特定するために動こうとする。
「まずはアリーゼとジーベルに情報を渡した者について、ですね」
「加えてその上司と部下、それから同僚の中で特に親しい奴とかなぁ」
「あとはここ最近で急な休職や長期の欠勤をしている奴だろう。もしもの時のために身を隠しているかもしれんしな」
あっという間に容疑者と調査範囲を絞っていくアリーゼ達。誰が何を担当するか、ギルド側への対応はどうするか、次々に役割が分担されていく。
その流れるような対応に余計なものなど一つもなく、無駄な動きをする者は一人もいなかった。
「…………(汗)」
ただ一人、ポーロットを除いては。
ポーロットはアリーゼ達の対応の早さについて行けていなかった。もともとエイレーネ・ファミリアでもこういった理知的な分野ではこれといって役には立っていなかった。
むしろ現場で
「―それじゃ、決まりね!各自、明日までに役目を果たすこと!以上!」
何もできずにいると、アリーゼ達の作戦会議が終わってしまった。結局何もできなかったポーロットはいたたまれない気持ちのまま、リュー達を見送るしかなかった。
「……さて、ポーロット!」
「え?あ、はい!」
いきなり名前を呼ばれ一瞬もたついたものの、すぐに呼ばれた方を向くポーロット。そこには一段落付いたといった様子のアリーゼが立っていた。
「あなたはシャクティの所に向かってちょうだい。今ここで話したことを、そのまま伝えて来てくれたらいいから」
「……は、はい!」
図らずも仕事を割り振られたことに驚くものの、頼まれたからにはしっかりやろうと意気込むポーロット。力強く返答し早速ガネーシャ・ファミリアのホームへ向かおうとする。
けれど、次のアリーゼの一言でポーロットは固まった。
「
「………………え?」
アリーゼの言ったことが、一瞬理解できなかった。耳にはちゃんと入ってきたのに、言葉の意味だけがまったく入ってこなかった。
「あ、あの……それは、どういう……」
「?そのままの意味よ。あなたは今日からアストレア・ファミリアの団員なんだから。これからよろしくね!」
アストレアの恩恵を受けた以上、もはやポーロットはエイレーネの眷属ではない。
精神的にはともかく、肉体的には既にアストレアの眷属なのだ。
アストレアから恩恵を授かったことの意味を、ポーロットはこの瞬間まで完全に理解できていなかった。
いや、正確にはそこまで頭が回っていなかった。
(そっか……
もともと
それでもし命を落とすことになろうとも、自分を救いここまで導いてくれた仲間との絆を、エイレーネからの祝福を、今際の際までこの背に背負っておくつもりだった。
だが今回、アストレア・ファミリアの危機に際し、新たな恩恵を授かった。友の危機を前にそれ以外のことは頭から抜け落ちていた。
なんとかリュー達を救わねば。その一心であの時のポーロットは動いていた。
その甲斐あって、ポーロットは間に合った。リュー達に迫る死の運命に追い付き、打ち破った。アストレアからの祝福により、誰一人欠けることなく今日を迎えることができている。
そのことに不満は一つも無かった。ただ、死んで逝った仲間達との最後の繋がりが消えてしまったことに、ほんの僅かに胸が苦しくなる思いだった。
上手くいったはずなのに、喜ばしい気持ちでいた筈なのに……………どこか心に影が落ちていた。
――――――――――――――――
その後、ポーロットはガネーシャ・ファミリアのホームに来ていた。丁度シャクティがホームの正門にいた折であり、話があるといったところスムーズに中に通されていた。
今は応接室のような場所でシャクティが来るのを待っている状態だ。ガネーシャ・ファミリアの性質からか、このファミリアには外部から来る者が一定数いる。ギルドの職員、他派閥の神などだ。
そのためかこの部屋に限らずホームの全てに掃除が行き届いていた。僅かな汚れも、埃すらも落ちていない。
部屋の作りも豪華であるため、こういった場に慣れていないポーロットは借りてきた猫のようにソファーに縮こまっていた。
「―待たせたな」
そうこうしているうちにシャクティが応接室に入ってきた。彼女がポーロットの向かいに座ると、一息ついてから先に話し出した。
「……街中で空を飛ぶ冒険者が現れたと聞いた時はまさかと思ったが、アストレア・ファミリアに入団したとはな。予想外だったよ」
「……あははは」
もうすぐ都市を出ると言っていた男がその次の日には他派閥に
「で、話とはなんだ。まさか
「はい……あ、でもその前に。あの‥‥ご飯代を払いのはもう少し待ってもらえますか?ちょっと、手持ちが……」
「そんな事気にせんで良い。もともと私が誘ったんだからな」
「……ありがとうございます」
料理屋では食い逃げに近い形で出て行った上に支払いをシャクティに丸投げしていたことをポーロットは気にしていたのだが、そこはシャクティの好意で水に流された。ポーロットは礼を言うとすぐに話し始めた。
「実はー」
「…………!」
話を聞いていくなかでシャクティは何度も驚いた顔をした。ギルドの
たった一日でここまでの事態が起きるものかと頭を抱えたい気分になったものの、何とかポーロットの言わんとしていることを飲み込んだ。
「……つまり、今後はギルドからの情報にも注意を払う必要があるということか」
「現在アリーゼさん指揮の下、ギルドの調査が行われています。
少なくとも今回の事件に関与した職員についてはすぐに捕まるだろうとの見解を述べるポーロット。
しかし、油断はできない。もし本当にギルドが
ギルド側が進んで調査に乗り出し、然るべき対応を取らない限り何も安心できないのだ。
「なるほどな……お前がいきなり走り出した意味が、わかったよ」
ポーロットの話を聞き終わったシャクティは穏やかな口調でそう言った。
穏やかで、しかしどこか悲し気で、それでいて懐かしいものを見るような、そんな顔でシャクティは続けた。
「突拍子も無いことを思いつき、自分の考えを信じて突っ走る」
自分の無鉄砲さを言われているのだと、恥ずかしさを感じるポーロットだったが、シャクティの口調がどこか引っ掛かっていた。
「……あまり、無茶はするなよ」
まるで手のかかる兄弟を諭すような、懐かしむような。そんな喋り方が気になるポーロットだったが、なぜそう思ったのかは終ぞわからなかった。
「今回はすまなかったな、わざわざ。こちらでも色々と調べてみるつもりだ」
話が終わったポーロットとシャクティは応接室を後にし、ホームの正門にまで出てきていた。
「はい。シャクティさん達も、どうかお気をつけて」
ペコリと頭を下げたポーロットは、すぐにアストレア・ファミリアのホームへと戻っていった。気を開放し白い
「……ふっ。やはり、アイツは
ポーロットが飛び去って行った方角を見ながら、シャクティは誰にも聞こえないような小さな声で吐露した。
「大切な誰かを守るために……傷つきそうな誰かを救うために……なりふり構わず死地に飛び込み、己が正義を貫かんとする」
シャクティがポーロットに抱いた印象は一貫してそうだった。幼いころから平和の使者として生きてきたポーロットは、ずっと誰かを想って戦っているように見えた。
それは自分が愛し、ずっと一緒にいたかった者と同じだった。正義感が強く明朗で、勇ましくも愛らしかった、たった一人の
「……なぁ、もし生きていたら、お前もポーロットに手を貸しただろう?……アーディ」
消え入りそうな声で紡いだ言葉は、誰にも聞かれることは無く、無窮の空へと消えていった。
――――――――――――――――
翌日、ポーロットはアリーゼやリュー達と共に進捗状況の共有を行っていた。
「ギルドの上層部に問い詰めたところ、相当に驚いていました。あの反応からして、恐らく本当に知らなかったのでしょう」
「直近での長期欠勤者はいなかったが、昨日突然休んだ者は3人いた。そいつらがいつもつるんでいたこと、ここ一か月ほど何やらコソコソ話しているのを目撃した者が多数いる」
「けど、そいつらが今どこにいるかはわかってねぇ」
それぞれが調べたこと、わかったこと、現段階ではわかっていないこと。リュー、カグヤ、ライラが次々に報告を済ませ、情報を共有していく。
「ちなみに昨日ウラヌスの所へ行ってみたけど、かの大神も予想外だったみたいよ」
アストレアが三人の後に補足する。まさか一人でギルドに向かったのかと全員肝を冷やすが、ちゃんとアリーゼと一緒に行ったと聞き胸を撫で下ろす。
「じゃあ、まずはその三人を探しましょうか。ウラヌス神が動くならギルド内部のことは任せるしかないわ」
一夜明けた今でもジュラは目を覚ましてはいない。そのため目下最大の情報源は行方知れずのギルド職員のみである。
「でも団長ぉ、この広いオラリオでどうやってその3人を探すのぉ?」
「わかるのは名前と住所だけでしょ?」
アリーゼの3人を捜索するという意見に対しマリューとセルティが声を上げる。これまでの
広大なオラリオ、更にはそこに住む数万人もの人々の中からどうやってその3人を見つけるというのか。
「まさか……ひたすら聞き込み?」
「え?そうよ?」
ノインのそんな問いかけに、違うと言って欲しかった確認に、アリーゼはあっさりと肯定した。
もちろんといった表情で笑い返すアリーゼに、聞いた張本人のノインはおろか他の団員も勘弁してほしいという思いだった。
「捜査は足で!それが鉄則よ!」
確かにそうかもしれないのだが、もっと別の方法を考えろと誰もが思った。リューは深い溜息をつき、カグヤは頭を抱え、ライラに至ってはどうやってバックレようかとさえ考えていた。
「とりあえずその3人が住んでる地域からね。そこで聞き込みをして動向を探りましょう」
アリーゼは端から3人はそれぞれの自宅にはいないだろうと考えていた。一応訪ねてはみるものの無駄に終わるだろうと予感している。
「さぁ、気合を入れて頑張るわよ!」
一人意気込むアリーゼにリュー達他の団員は力なく答えるのであった。普段は快活で面倒見も良いものの、極稀にこのような無茶な計画を立てるのである。
またその溌剌なテンションで押し切ってしまうためリュー達もついて行くしかなくなるのである。
それでも、なんだかんだそれが一番手っ取り早い策であることが多いため、馬鹿にできない所もあるのだ。
「じゃあ、三人一組で動きましょうか。ポーロットは私とリオンと一緒に……って聞いてる?」
「…………」
そんな中、ポーロットは心ここに在らずといった様子だった。視線もやや落ち気味で、話を聞いているのかいないのかわからなかった。
「ポーロット?」
「…………あ、はい!」
「話聞いてた?」
「えっと…ギルドの上層部が驚いていたって」
「それ出だしじゃない!?」
案の定ほとんど聞いていなかったポーロット。アリーゼ達の会話は右から左に流されていた。
これが何てこと無い会話であったならば問題ないのだが、議題が議題だけにそうはいかない。
「あのねえ、今はボーっとしてて良い時間じゃないの!事件解決のために話し合ってるの!わかる⁉」
「はい…………すみません」
ぷんすか怒るアリーゼに対し、しゅんとするポーロットという構図は傍たから見れば微笑ましいものではあったが、本題に戻ろうとリューが助け舟を出す。
「アリーゼ、その辺で良いでしょう。それよりも、聞き込みをするならば早い方が良い」
「もう~しっかりしてよね。じゃあ各班、聞き込みよろしく!」
アリーゼの号令と共に各自聞き込みに出張っていく。ポーロットも気を取り直してアリーゼ、リューと共に出かけていく。
「…………ポーロット」
「……はい?」
だがそこに声を掛けてくる人物がいた。誰あろう、主神アストレアだった。ポーロットは今もしゅんとしているものの、それとは別の理由で悩んでいるのではないかとアストレアは履んでいた。
「大丈夫?」
「?いえ、別に大丈夫です…けど?」
「…………そう」
けれど、ポーロットは平気だと言った。何ともないと。その答えを聞いてもアストレアの懸念は晴れなかった。大丈夫だと言ってはいても、とてもそうには見えなかったのだ。
それでも本人がそう言う以上、多くは聞けなかった。本当に何ともないのか、まだ距離を置かれているのか。
それとも………ポーロット自身、
そんな一抹の不安を抱えながら、アストレアはホーム防衛役のカグヤ、ライラ、アスタと共に見送るしかなかった。
こんばんわ。灰色パーカーです。
まずは感想を送ってくださった皆様にお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます!
励みになります!やはり感想が送られてくると、読んでくれる人がいるという実感が得られるので、執筆意欲がどんどん湧いてきます。
これからも、ご感想お待ちしていますので送って頂けたら幸いです。