○月%日
夕方、私は女子生徒の人気を独り占めするナンバーワンな男子生徒こと織斑一夏に屋上へ呼び出された。私も思春期なので告白なのでは?と期待してしまいそうだけど、ただの相談事だと思うんだよね。
だいたい、私みたいなボッチを相手するほど織斑君は暇じゃないだろうし、こういうのを期待するだけ無駄っていうんだろうね。まあ、あんまり考えすぎるのは止めるとしよう。
それよりも織斑君の覚悟を決めたような視線の理由は何なのかな?なんて思いながらも彼の話を聞いていると鬱陶しいほど近寄ってくる女子生徒を遠ざけるために彼女の真似事を頼みたいそうだ。
いや、そんなこと言われても私は交際した経験なんて一度もないんだよ?と言えば「君にしか頼めないんだ」と頭を下げられた。
ひょっとして、これが失恋なのだろうか。
そんなことを考えていると織斑君を見ると無言のまま見続けていたのを頼み事の肯定と受け取ったのか、私の左手を両の手で握り締めながら「ありがとう、ダメ元で頼んでみるもんだな」と言ってきた。
はあ、どこで間違えたのかな。
○月/日
早朝、私は朝練のために家を出る時間を早くしたにも関わらず織斑君は通学路の途中にあるバス停のベンチに座って私のことを待っていた。
恋人の真似事を引き受けた覚えなんてないけど、織斑君は承諾してくれたと勘違いしてるんだよね。どうすれば誤解を解けるのかな?等と考えながら歩道を歩いていると織斑君が竹刀袋の沈丁花の刺繍が可愛いと褒めてくれた。
そうだよね、沈丁花って可愛いよね。
部活の先輩は華やかなモノを勧めてくるけど、私は沈丁花みたいな落ち着いた花柄が好きかな。いや、男の子の持ってる竹刀袋のドラゴンもカッコいいと思うよ?
そんなことを話していると織斑君の名前を呼びながら満面の笑みを浮かべてこっちへ走ってくる複数の女子生徒が見えた。
チラッと見上げるように織斑君を見れば凄く不機嫌そうな表情を浮かべているし、それほど女の子を嫌うような出来事があったのだろうか。
とりあえず、深く考えるのはやめよう。
ただ、なんというか真実を知るのは怖いし、織斑君に聞いたらなんとなく後悔するかもしれない。それより私を突き出すように構えるのは可笑しいと思うんだけど、少しだけでも話を聞いてほしい。
○月↓日
織斑君は義理堅い性格なのだろうか?等と考えることが増えてきた。ほとんど強引とはいえ恋人の真似事を行う関係へと引きずり込んだ相手を気遣うなんて簡単には出来ないことだ。
ただ、イケメンな織斑君の知名度は他の地域まで轟いているのは確かだからね。部室の前や武道場の出入り口なんかに現れると女の子は阿鼻叫喚だよ。
いつもは厳格そうな先輩なんて恋する乙女みたいな表情を浮かべながら可愛い剣道してるし、どんだけイケメンに飢えているのだろうか。
胴着の襟元を直していると織斑君の下校デートという取って付けたような名前の護衛を頼んできた。いや、私は諦めてるから良いんだけ、私を除いた女子生徒の猛攻は酷くなると思うな。
そんなことを思いながらも竹刀袋を代わりに持つと言ってくる織斑君の手を押し返して、他の女子生徒か、逃げるためにも両の手は開けておいた方が良いと教える。
なんとなく納得してるみたいだけど、私のことをチラチラと見てくるのは何故だろうか?なんて考えているとフェンス越しに睨んでくる複数の女子生徒にビビって腰を抜かしそうになった。
あんな殺気を剥き出しにしたヤツと知り合いになった覚えはないけど、たぶんクラスメイトだったような気もするんだよね。
いや、本当に多分なんだけどね?