∀月∧日
結局、俺は氷室さんをデートにも誘えず弾達と暇を潰そうにゲーセンに通い詰めている。二人は「クレーンゲームで取った縫いぐるみをプレゼントするのはどうだ?」と提案してくれたけど。
どうしても俺は剣道しか興味無さそうな氷室さんに渡しても迷惑なんじゃないかと考えてしまう。正直に言えば俺は氷室さんと手を繋いでデートしたい。
それでも氷室さんは剣道の試合へ向けて練習を怠ることなく繰り返している。なにより下校するときは決まって、俺の下駄箱を見てから帰っている。
もう、なんでこんなに愛らしいんだろうか?
それこそ世界の心理なんじゃないかと考えるときもあるが、氷室さんは存在しているだけで世界を癒やす存在だと考えれば当然のことだ。
いや、むしろ世界のほうが俺の大好きな氷室さんのために存在してるのではないだろうか。ああ、やばい、そうとしか思えなくなってきた。
とりあえず、少し落ち着こう。
よし、先ずは氷室さんと二人っきりでお弁当を食べるために人の少ない場所を探し、そこで肩を並べて食べるのが最初の目標だ。
∀月〓日
今朝、竹刀を構えた氷室さんを公園で見掛けた。どんな練習してるのか、こっそりと眺めていると一瞬だけ氷室さんの身体が増えたように見えた。
そんなこと有り得ない。ひょっとして俺が氷室さんに増えてほしいって思っていたせいなのか?等と考えながら氷室さんを見ていると数馬のヤツが大声で俺の名前を呼びやがった。
アイツ、ぜったいに氷室さんがいるって分かってるのに叫んでるよな?そうとしか思えないぐらい絶妙なタイミングで話し掛けてきた。
はあ、今日こそ話そうと思ったのに邪魔されるとか最悪すぎると思うんだけど。アイツらは人の恋路で楽しそうにしやがって、アイツらも恋患いになったら絶対に弄ってやる。
いつ来るのか。それすら分からない小さな仕返しを考えながら氷室さんに気付かれる前に数馬の近くに駆け寄り、思いっきり顔面を殴り潰しておいた。
この程度のパンチなら許してくれるはずだ。もしも数馬に許してもらえなかったら数馬が俺に謝るまで殴ればいい。なにかの本で読んだ気がする。
そんなことを思い出しながら後頭部を押さえている数馬のシャツの襟を掴んで気付かれる前に公園から逃げる。さすがに恋人の関係とはいえ覗きは犯罪なので反省しよう。
∀月℃日
早朝、久しぶり帰ってきた織斑千冬に彼女が出来たことを報告したら泣き崩れた。どうして、泣くのかと聞けば「私なんて男の友達すらいないのに…っ」とのことだ。
確かに千冬姉は男の人と会ってるところを見たことないし、この家に遊びに来るのは決まって篠ノ之束だけだったような気がする。
まさか世界的有名人な千冬姉は一人しか友達のいないボッチな学生生活を送っていたとは思えない。いや、むしろ実姉の悲しい過去なんて知りたくない。
そんなことを考えていると「彼女の写真を見せろ」と腰に抱き着いてくる千冬姉を引き剥がし、パーカーのポケットから携帯電話を取り出して千冬姉に見せると泣き出してしまった。
いつもは強くてカッコいいはずなのに千冬姉って情緒不安定なのかもしれない。それこそ千冬姉がいるときは恋沙汰を話すのは控えた方が良いのか?
まあ、千冬姉にも素敵な出会いがあるはずだ。
その時を気長に待つしか堪える方法はない。
それと限界を越えて非行に走るのだけはやめてくれよ?等と思いながら啜り泣いている千冬姉を抱き上げ、掃除したばかりの二階の寝室へと運んでやる。
しかし、千冬姉は完璧主義者のようなイメージだったけど。あんな乙女チックな思考の持ち主だとは思いもしなかったし、千冬姉を崇めてる人に見せたらすごい発狂しそうだな。
たぶん、あれは向こうも見たくもないだろうけど。