∈月―日
早朝、俺は今日こそ氷室さんをデートに誘おうと意気込みながら家を出ようとしたところを千冬姉に捕まった。はあ、千冬姉まで俺の邪魔をするのはやめてくれないか?
そんなことを半泣きの千冬姉に言えば「久々に帰ってきたのに、私を構ってくれないのか!?」と叫ばれた。まあ、確かに俺が千冬姉と会うのは二ヶ月ぶりだけど。
俺は氷室さんと学校でしか会えないんだぞ?等と思いながら鯖折りのように絞まる腕を引き剥がすために千冬姉の腕を引っ張ってるのに動かない。
しかも引き剥がそうとすれば腕の締め付けが強くなるせいで腰が痛くてやばい。このまま抵抗してると腰を折られるかもしれない。
ゾッとすることを考えてしまい、なんとか千冬姉を引き剥がして落ち着かせるために「今日はデートに行かないから落ち着いてくれ」と言った瞬間、ゴギッという鈍い音が聞こえたような気がする。
∈月∞日
翌朝、俺は千冬姉のせいでぎっくり腰になった。
どうすればぎっくり腰なんかになるんだとお見舞いに来てくれた弾達に聞かれ、正直に答えると数馬が小さな声で「千冬さん、ゴリラの守護神でも引き連れてんのか?」と呟いていた。
まあ、それは俺も考えたことあるけど。
千冬姉だって女性なんだから可愛い守護神に決まってるだろうが、俺はうつ伏せのまま反論しながら僅かに動く首を数馬と弾の座っている方に動かすと拳を鳴らす千冬姉が立っていた。
ゆっくりと俺は二人と千冬姉から視線を反らし、聴こえてくる絶叫に堪えながら悲鳴が収まるのを待っていると頭を撫でられる感触にビビっていた。
俺にしか聴こえない小さな声で「一夏、ぎっくり腰が治ったら覚悟しておけ」と言われ、今度こそ殺されるんじゃないかと考えていた。
もう、マジで千冬姉のこと誰か貰ってくれないか?なんて思いながらも千冬姉の言葉に頷いて「覚悟しておく」と言ってから気絶しようかと考えていた。
しかし、そうなると俺が目を覚ます頃には弾と数馬は帰っているはずだ。そうなれば千冬姉の相手するのは俺だけしかいないことになるのは当然だ。
それだけは避けたい。
千冬姉には二人を起こさず、今日は止まってもらおうと提案すると「ああ、そのくらいは良いだろう」と了承してくれた。
とりあえず、俺の安全を確保出来たけど。このまま二人には悪いが、俺の代わりに千冬姉の相手を頼むしかない。あんまり友達を売るようなことはしたくないけ。
それでも俺が助かるには仕方無いことだ。
∈月〃日
早朝、腰を左右へ動かして痛みを和らげるように軽く運動する。弾と数馬は昨日の事件を経て千冬姉の命令を聞く忠実な下僕のようになっていた。
千冬姉、俺の友達だってこと忘れてないか?
そんなことを考えながら運ばれてくる定食のような料理を食べていると「一夏、お前の彼女なんだが…」と氷室さんを話題に出してきた千冬姉を見詰める。
なぜか申し訳なさそうな表情を浮かべながら俺の携帯電話を渡してきた。二人とも首を傾げているし、二人の仕業じゃないのは確かだ。
携帯電話の電源を点けようとボタンを押しているのに点かない。どうなってるんだ?等と思いながら千冬姉に問えば「踏んで壊してしまった」と言われた。
ちょっと待ってくれないか?
俺の携帯電話を踏むような状況なんて昨日はなかったと思うんだけど。なあ、携帯電話を踏んだのって千冬姉で間違いないのか?
とりあえず、氷室さんの家に行く理由が出来た。それと千冬姉は暴れる癖を治さないと結婚どころか恋人すら出来ないと思うんだが…。
先ずは携帯電話を買い替える。
その後は氷室さんとお家デートしよう。