妹が悪の組織を作って俺をそのトップにしてきました。どうしよう?   作:百燈 結人

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ネタバレ回避のため???視点としています。


???視点

「お前達、準備は出来たか。」

「はい。いつでも撃てやすぜい。」

 

私はノリトリ星人、その王だ。

数多の星を侵略してきた私が次の目標としたのは、表面が大量の水で覆われた惑星だった。

 

「では、撃てい。」

「了解。」

 

キュィイイイイン

 

私の侵略はとても簡単だ。

星全域を包み込む催眠光線を一回打ち込むだけで完了する。

 

「終わりました。王よ。」

「ではお前達、いつものように行動せよ。」

 

いつものことであるが退屈な作業だ。

連盟に所属していて文明が発達した惑星の中には催眠光線を防ぐことが出来る惑星も少なくはない。

だが、この星のような科学技術が発達していない星ならば防がれるようなことは起きない。

そして催眠を防ぐ装置は惑星全域を包む事が出来るが、解除する装置は個別に時間をかけなければならないので一度催眠出来れば連盟の者達がやってきても惑星を正常に戻すことはほぼ不可能といってもいいだろう。

 

「王よ。現地住民は問題なく催眠にかかっているようです。」

「では、処置をしておけ。」

 

星を侵略することは簡単だが、催眠光線を使用することは宇宙法で禁止されているので使用を確認すると付近の連盟に所属している惑星が我々を討伐するためにきてしまうので、すぐに防衛の準備をしておく必要がある。

 

戦闘員スーツを現地住民に装着することで戦闘力を数倍に引き上げることが出来る。

長く装着することで素の能力値も向上するので、最終的に身体能力は数十倍にもなる。

1人1人の力が弱くとも数の力とは侮れないものだ。

近隣の惑星は確認している。かなりの距離があったので攻めてくるとしても1ヶ月以上の期間はあるだろう。

この惑星の人間全てを戦闘員にしてしまえば攻めきることは不可能に近いだろう。

 

「適合者はいたか?」

「はい。20人ほど見つかりました。ですが特級が今回は少ないようで2人だけのようです。」

 

ふむ。2人か…少ないな。

戦闘員以上に力を手に入れることが出来るのが適合者だ。

適合者とは私達の改造技術を受けた際の成功率が高い者のことだ。

成功率は良くても50%といったところで、失敗してしまえば廃人になってしまうのだが、特級の適合者だと成功率は100%。さらに他の適合者に比べて改造した時の強化率も比べられない程になる。

特級の適合者1人だけで攻めてきた奴ら全てを倒したこともあるほどだ。

だから特級の数は多ければ多いほど良いのだが…いないものは仕方ない。

 

「では早急に改造を施せ。」

「了解です。」

 

特級の者も改造してから時間が経てば経つほど能力が上昇していく。

能力の上昇幅は通常の戦闘員とは比べられない程であるので出来るだけ早く改造しておく必要がある。

 

「他に報告することはないか?」

「はい。それ以外はいままでの惑星と変わりは無いかと。」

「ならばよい。あとはお前達の好きなように行動するがよい。」

 

侵略が終わると、現地の戦闘員達が自ら進んで私達の住みやすい環境を整えてくれるので

我々がすることは特に無くなる。

後は各々の支配欲求を満たしつつ、連盟の奴らが来るまで過ごすだけだ。

好きに過ごして貰って、ここに定住したいかを決める。

少数の同胞を惑星に残して、また別の惑星を侵略するために旅をする。

そうしていくつもの惑星を支配してきた。

 

「はい。では、問題は無さそうなので王を讃える像の建設に取りかからせます。」

我の像を作ってくれるのは毎度のことながら照れるな。

 

 

 

侵略が終わってから特に何も起こらないまま1週間が経った。

この惑星の茶葉を気に入った私がいつも通り優雅な一時を過ごしていた所でその知らせはやってきた。

 

「大変ですっ!!王っ!!。」

「騒々しいぞ。何をそんなに慌てているのだ。」

 

急に私の私室に大声でノックもせずに入ってきた臣下のせいで少しイライラしてしまった。

侵略した惑星の嗜好品をゆっくり楽しむのが私の一番の楽しみであるのでこの時間を邪魔されないために臣下にはこの時間に部屋に入ってこないように厳命していたのだ。

一度プライベートを邪魔してきた愚か者には然るべき処罰を与えたこともある。

それを知らない訳でもないであろうに、くだらないことならばどうしてくれようか。

 

「お休みのところ申し訳ありませんっ!しかし早急に報告をしなければいけないことがありまして…。」

「ご託はいい。早く申せ。」

「恐れながら申し上げます…。現地住民の中に催眠にかかっていない者がいるようです。」

「なんだと!?」

 

そんなことありえるはずがない。

こんな辺鄙な惑星に催眠装置を防げるような科学力はないはずだ。

侵略する星を間違えたか…?

……いや、だが待てよ…?侵略自体は滞りなく進んでいる。

催眠を防げるというならばここまで順調には進んでいないだろう。

限定的に防げる何かを持っていたのか?

過去に他の惑星から来た者に友好の証として手に入れたとかだろう。

しかし、それにしても厄介だな。

 

「その者は捕まえたのか?」

「いえ…なにせ催眠が効いていない者がいるなど想定していませんでしたから捕獲の準備などもしておらず逃がしてしまいました。」

「では必ず捕らえよ。」

 

他惑星の技術が少なからず存在するというならば我々と戦える能力をも有している可能性が高い。

大多数の現地住民を既に催眠で私中においているので、放置しておいても構わないのだが不確定要素は排除しておかなければいけない。

1人でも捕らえることが出来れば、催眠妨害装置を外して催眠をかけることが出来る。

そうすれば、催眠のかかっていない残りの人数やどれほどの戦力が揃っているかの情報を手に入る。

数々の惑星を侵略してきたのだ。催眠装置以外の兵器も有している。

いることさえ分かっていれば対処は簡単だ。

優秀な部下達ならば明日にでも全員捕まえて来るだろう。

 

 

 

「王よ、報告があります…。」

「あぁ、昨日のことだろう?で、どうだった?」

現地住民にてこずるようなことは無いので捕まえてはいるだろうが、知りたいのはその先だ。他惑星のどんな装置を持っていたのかなどの情報を知りたいのだ。

他惑星の者に気に入られるような人物なのだ。改造の適性も特級の可能性も高いだろう。

 

「あの…実は、まだ捕まえられていません。」

「なんだと?」

捕まえられていない?何を言っているんだ?

連盟から逃げ続けられている私達だ。索敵技術と隠蔽技術は他のどの惑星よりも優れている。だから催眠にかかっていない者が見つかっていないはずがない。

むしろこの時点で全部解決していてもおかしくないはずだ。

 

「それが…索敵装置に引っかからないのです。それでも運良く遭遇自体は出来たのですが逃げ足が異常に速く逃げられました。せめて相手の本拠地さえ分かればと相手にマークまでつけたのですが、やはり信号が捕らえられずなんの成果も得られませんでした。」

「逃げ足が速く、索敵に引っかからないか…。」

やはり催眠を防ぐ装置だけでは無かったか…。

聞く限り我々の隠蔽技術よりも遙かに高い技術を持っているようだ

どこの惑星の技術かは知らないが連盟から逃げるのが常である私達にとっては喉から手が出るほどに欲しいものだ。。

これは是が非でも捕らえねばならぬな。

 

「そうか、相手は思ったよりも手強そうだな。ならばここは絡め手を使うぞ。

既に催眠済みの現地住民を囮に使おう。親交の深い者を使えば誘い出すことも容易であろう。逃げる技術も高いようだが、誘いこんだ先で逃げ場を封じてしまえば捕らえられるだろう。」

「了解しました!早速実行に移します。」

少し驚かされたが、これでこの問題も解決だろう。

 

 

「大変ですっ!奴らを侮っていました!逃げ道を防いでいたにも関わらず逃走を許してしまいました!」

「お前らは何をやっているんだ!遊んでるんじゃないんだぞ!」

「それが…想定外なことに奴ら戦闘もすることが出来るようでして警備を強行突破されてしまいました。」

「戦闘まで出来るのか…つくづく厄介だな。しかし今回は相手に親交のある者を人質にしていたのだろう?奴らが抵抗したり、逃走しようとしたら自害するように命じたと申していたではないか。親しい者が目の前で死のうとしているのにそいつらはその場から逃げ出したと言うのか!?」

「それが一番の想定外なんです。信じられないかもしれませんが、奴らは催眠を防ぐ装置だけでなく催眠を解除する装置までをも持っていたのです。」

「防御装置を持っていれば、解除装置も持っているかもしれないとは考えていた。

しかし、解除装置は装置にかけてから解除されるまでに最低5時間以上はかかるはずだ

それまでの間、指を加えて眺めていたわけでもあるまい。」

「いえ…信じられないのですが、奴らの持っていた光線銃のようなものが人質に命中した直後、催眠が解けてしまったのです。」

「はぁ!?何を言っているんだっ!そんな物が存在するはずがないだろう!」

そんな物があるなんて聞いたこともない。もしありえるならば私達の侵略はこうも上手くいってはいないだろう。

ありえない。どうなっているんだ。

 

 

「奴ら私達が催眠解除装置の存在を知ったからか、堂々と攻めてくるようになりました。

次々に私達の戦闘員が解放されていきます。これは後から知ったことですが偶然発見出来た時にも催眠解除の活動をしていたようで、あの事件以降奴らの出没した地域の戦闘員達は軒並み持ち場から消えてしまいました。」

「ぐぬぬ…。」

「さらに、戦闘能力もまだ本気を出していなかったようで我々の戦闘部隊をもっても倒すことは不可能のようです。やられた同胞は相手に連れ去られてしまいました。」

想定外だ。このままではまずい。

敵は想定以上の能力を有している。かつて連盟に属している惑星を侵略しようとして失敗した時と同じような感覚だ。

出し惜しみなどしていられない。こうなったら…

「特級の適合者を討伐に向かわせろ。」

「よろしいのですか?まだ調整の途中で想定の50%ほどしか能力を引き出せていませんが…。」

「かまわん。これ以上奴らに好きにさせておくわけにもいかない。

特殊改造された者達は複数の魂が複雑に絡まり合い催眠解除をすることは不可能だ。

それに50%もあれば充分だ。それだけあればそいつらを殺すことも可能であろう。」

「捕獲するのではないのですか?」

「思っていた以上に奴らは厄介だ。加減をして勝てるようなものでもあるまい。

出来るなら私達の戦力にしてしまいたいが、それが難しければ最悪殺さねばならないだろう。」

どれだけ強いと言っても特級相手では戦闘にもならないだろう。

殺す必要性が出てくるかもしれないとは言ったが、特級ならば手加減していても余裕で捕獲することも可能であろう。

ふぅ…。最近張り詰めすぎて参ってしまった。

ティータイムをして気分を落ち着かせよう。

 

 

「特級が倒されましたっ!!」

「あ…ありえない。」

特級が倒されたなど信じられるはずがない。まだ全力を出せる状態じゃなかったとしても倒すためにはそれこそ連盟の将軍級の力がないと勝てないはずだ。

「分かっていたことですが、催眠光線は効きませんでした。奴らもそれに驚いていて、我らの勝利を確信したのですが…。目を離した隙に特級は気絶していました。」

「気絶だと…?交戦することも出来ずにただやられたというのか!?それほどの戦力差があるならば全力を出せていたとしても勝てたかどうか怪しいではないか!」

「し、しかし特級は連れ去られてしまったようですが、幸い催眠は効かないので遠隔で帰還の指示を出し続ければ連れ戻すことも可能かと…。」

「特級以上の戦力が向こうにはいるのだぞ!そこから逃げ出すことなど不可能であろう!」

 

特級が捕らわれてから2日経った。

奴らの襲撃も止むことはなく、気の休まらない日々であった。

「た、大変です!特級が帰って来ました。ただ…様子がおかしいのです。」

これからもっと酷い状況になるとも思っていなかったが。

「拠点にまっすぐ向かってきているのですが、出撃した時と装備が違うのです。

というか、武器を構えて突っ込んできています!」

「馬鹿なっ!催眠が解けているとでもいうのか!?」

「それだけではありません。出撃前は50%の力しか出せていなかったはずなのに100…いや、それ以上の能力が引き出されています。」

ありえない。催眠が解けているだけでも信じられないというのに、私達よりも能力を引き出すことが出来たというのか。

「凄まじい勢いで我々の拠点が破壊されていきます!あぁ、王の像まで…もうおしまいだ…。」

奴らは襲撃してくることはあってもここまで豪快な破壊をすることはなかった。

こちら側の被害は甚大だ。これ以上は取り返しのつかないことになるだろう。

「この惑星から撤退する。総員準備にかかれ。」

「よろしいのですか?」

危険な状態の惑星に同胞を残していくことも出来ない。このまま撤退すると何も得る物がない。だが、想定外が多発しているこの状況でこの惑星に滞在していることの方が問題だ。

早急に撤退すべきだろう。

「かまわない。出立のためのエネルギーはあとどのくらいで貯まる?」

「あと最低3日はかかります。」

「よし、ならば3日後に出立だ。」

予定より少し早めの出発になるが、連盟の者達もそろそろ補足出来る距離に近づいて来たであろうし、ちょうど良い時期かもしれない。

逃げることが常の我々だ。屈辱だが、こういうこともあると飲み込まねばな。

 

 

「出発の準備が出来ました。」

「よし、では地上の同胞を回収せよ。」

あれからも襲撃を受け続けたが、無事に戦艦にエネルギーが貯まり逃げ出す準備が出来た。

後は地上の部隊を撤収させるだけだ。

「はい…あぁ、特級の者が暴れていて今すぐ撤収することは難しいようです。」

「そうか、いつでも出発することは出来るのだ。奴らがいなくなってからでも構わないだろう。」

逃げ出す準備が出来たので、少し待つぐらいならば問題ないだろう。

「了解しました。そのように……、ってなんだこれは!?何かの力を受けて地上に落下しています!」

「っ!?今すぐエンジン全開だ。この惑星から脱出しろ!」

「無理です。機体の制御が効きませんっ!」

戦艦を落とせるだけの技術を隠し持っているなんて思うわけがないだろう。

いつでも使えただろうにこのタイミングで使ってくるなんて、我々の限界を見極めての行動に違いない。

油断していた。奴らを侮っていたわけではないが、最後の最後にしくじってしまった。

 

運が悪い。いや、これは必然だったのであろう。この惑星を侵略しようと決めた時から敗北することは決まっていたのだ。

もう逃げることも不可能だ。覚悟をせねばならぬだろう。特級の戦力を下すような奴らに勝てるとも思わないが最後のあがきで私も戦うことにしよう。

あぁ、私が住むに値する惑星を探す旅をまだ続けたかったが、ここで私の旅も終わりなのだろうな。

 




登場人物紹介

・侵略者の王
多くの惑星を侵略してきたノリトリ星の王。
ノリトリ星は遙か昔に惑星の寿命が無くなり、新たな住処を見つけるために旅をしていたが人の住んでいない惑星ではいい惑星が見つからないので催眠装置を使って侵略することにした外道である。
ノリトリ星の者達の多くは侵略した惑星に移住したが、王は自分の理想とする惑星が見つからず、旅を続けていた。
宇宙の中で技術力が高い連盟に所属している惑星は狙わず、未発達の惑星を狙い続けていた。

・徳井 咲と実
洗脳をかけてきた宇宙人を絶対に許さない、絶対に倒すという使命感に燃えている。
妹達が戦闘員にされた人がまだその場に残っているかもしれないと慎重に動いていたのに、
躊躇いなく相手の拠点を崩壊させていくバーサーカー。
この子達が戦闘をしている裏では妹達が救助活動をいつも以上に必死に行っていたという。

・明野 福
潜伏行動するにあたって相手の索敵に引っかからなかった理由は兄が妹にストーカーがつくのを心配して、悪意ある者が家の位置を把握しようとしたり、妹の位置情報を取得しようとするとジャミングするような装置を作っていたかららしい。

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