エア・ギア【RTA風】   作:八知代

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 戦闘描写なんてかけませーん!


17話 うっかりさん

 

───ガンッガンッ

 

 

 それほど大きな音ではなかった。しかし、男達の歓声が響くなか、その音はやけに際立って聞こえた。

 

 大男の手が止まり、男達の声もやむ。

 

 ベンケイも目を開けて音の方を見た。

 

 

───ガンッガンッ

 

 

 もう一度音が鳴る。どうやらボーリング場の外から扉を叩いてる音のようだ。

 

 

───ガンッガンッガンッガンッ

 

 

「うっさいわボケ!今良いとこなんやから邪魔すんなや!」

 

 

───バーーンッ!!

 

 

「呼ばれたから来てみればこの扱い。新手の嫌がらせか」

 

 

 勢い良く壊された扉。暗闇の中から一人の人間が、大きなナニかを肩に担いで入ってきた。

 

 今日一日で見慣れたダボついた白のジップアップパーカー、黒のズボン、足元には白を基調としたA.T。そして、フードから見える安っぽい仮面戦士の仮面。

 

 彼は肩に担いでいたものを床に落とす。落下した際に大きな音と呻くような声がした。良く見たらボロボロの男が三人、縄でぐるぐる巻きにして纏められていた。

 

 

「テメェ!」

 

「道案内にはもっと丈夫なやつを頼む。思わず殴ってしまったら気を失ってな。目的地を聞き忘れてたから、何度か殴って目を覚まさせてと……わりと面倒だったんだ。その後も、場所だけ言って気を失うし。観光名所じゃないから場所が良くわからなくて、此処に辿り着くまでに大分迷ってしまったんだぞ」

 

「なに言ってんだ、お前!」

 

 

 ベンケイが仮面の青年を見ていると、青年もこちらを向いた。仮面のせいでハッキリとしないが、確かに目があった気がした。

 

 

「帰るぞ、ベンケイ。帰り道がわからないんだ」

 

「ふっふふっ、ええですよ。帰りましょ、一緒に」

 

 

 暗に道案内をしろと言われたベンケイは思わず笑ってしまう。現状はたった一人味方が増えただけ。それも三十人以上の男達を前にしては頼りない増援だ。しかし、彼なら何とかしてくれるような気がした。

 

 

「なーなーなーなー!俺を無視すんなや!」

 

 

 ベンケイの側にいた大男が立ち上がり、仮面の青年を睨み付ける。青年もベンケイから目線をはずし、大男を見る。

 

 

「……そいつに怪我させたのはお前か?」

 

「あぁん?なんやねん、急に。せや、ちぃとばかし口が悪うてな。ちょっとしたお仕置きや」

 

「そんな格好にしたのもお前か?」

 

「服ならヤるのに邪魔やさかい、ちょちょいっと切ったったわ。なんや、興奮したんか?そいやったらお前をボコした後、目の前で俺が美味しく戴いてやるさかい、それオカズに床でオナってろこのタコ」

 

 

 発言した大男を含め、周囲の男達はゲラゲラと笑う。青年は不気味なほどに静かだった。

 

 

「……さっきからお前の態度が気に食わん。この人数差やぞ、目ぇ見えてへんのかクソが。余裕ブッこきよってからに、ムカつくわ。そもそも俺の(テリトリー)で好き勝手しよるのがめっちゃどたまにくるねん。あぁ、そうや思い出してきたわ。俺、お前が無様に這いつくばって命乞いをする姿が見たくてしゃあなかったんや。そうやそうや忘れるところやったわ……ちゅうわけで」

 

 

 大男の言葉で周りの男達の雰囲気が変わる。ベンケイを取り押さえていた男達も立ち上がり、皆一様に仮面の青年を取り囲むようににじりよる。

 

 

「さっさとヤッてまえ!」

 

 

 次の瞬間男達が一斉に青年に飛びかかる。

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 しかし、青年に攻撃は一つも当たらない。それどころか男達は青年からの攻撃を一つでも受けると、糸が切れた人形のように簡単に倒れていった。的確に鳩尾に一発叩き込んだり、後ろから手刀を当てることによって気絶させているらしい。

 

 

「うわぁ!」

 

 

 決して姿が消えるほどのスピードではない。しかし、相手の視覚から消えるのが上手いのだ。現に端から見ているベンケイには、青年がどう動いているかが見えているのに、相対している男達は青年のことを見失っている。

 

 

「クソッ!どこに、ぐわっ!」

 

 

 一方的な攻撃を受けて膝を折る男達を、青年は次々に縄で拘束していく。

 流れるような動きに目を奪われていると、あっという間に大男以外は拘束されて……いや、最初に大男を諌めようとしていた細身の男が端の方で縮こまっていた。それ以外は彼によって全員縄で縛られ地に伏していた。

 

 数えるのも可愛そうになるくらいの短時間で作り上げられたこの光景に、大男の顔が怒りによって大きく歪む。

 

 

「雑魚っ!雑魚っ!雑魚共がっ!俺に恥かかせよってっ!この仮面野郎を殺したらお前らも全員殺したるからなっ!」

 

 

 怒髪天を衝くといった様子の大男を、仮面の青年はチラリと見てすぐに視線を外した。大男のことなど眼中にないのか、足元に転がっている男達を邪魔だと言わんばかりに放りながら一ヶ所に集めていた。

 

 

「……オイ、ナニ余裕かましとんねん。ちぃとばっかし人より速いからって調子乗んなよ、このタコっ!」

 

 

 大男が青年に向かって殴りかかった。ベンケイは昼間から何人もの暴風族を見てきた。偉そうにするだけあって、大男の走りはその中でもかなりの速さと言えた。

 

 顔めがけてとんできた拳を青年は最小限で避けると、そのままがら空きの大男の腹部へ一発。

 

 

「かはっ!」

 

 

 大男は苦悶の表情を浮かべるも、倒れることはなかった。むしろ先程より怒りに満ちた表情を浮かべている。

 

 

「コロスッ!」

 

 

 大男の猛攻。殴る蹴るだけでなく、ベンケイの衣服を切り裂いたナイフをも振るって青年の命を絶たんとしている。

 

 しかし、その攻撃のどれもが青年には届かない。それどころか攻撃によってできた隙を見逃さず、腹部に拳や蹴りを確実に打ち込んでいく……というか腹部ばかり狙っているようにベンケイには見えた。

 

 

「うぐっ、おぇ……はぁはぁ。なんでや……なんで当たらんのや!」

 

 

 大男の動きは痛みと疲労により精彩を欠いていたが、それでも攻撃の手を休めることはなかった。一方の青年には疲れは微塵も感じられない。

 

 

「俺が恨まれて狙われるのは想定内だし、それでも構わないと思っている」

 

「クソッ」

 

「だがな……そいつを巻き込むのは違うだろ、なぁ?」

 

「黙れっ!クソッ!クソクソクソクソクソッ!!」

 

「……もう充分だ」

 

「ぁぁぁぁああああ゛あ゛!!死ねやぁっ!!」

 

 

 ナイフを持った右手が今までよりも速く、鋭い一撃となって青年の顔に突き刺さらんと迫る。

 

 ベンケイは大男のあまりの気迫に、青年の仮面にその刃が刺さる場面を幻視する。

 青年が痛みにのたうち、苦しむ姿は見たくないと思った。

 

 

───パシッ

 

 

 大男が突き出したナイフの切っ先。それは仮面の数センチ手前で止まっていた。青年の右手の親指と人差し指に挟まれる形で。

 

 

「クッソ!うごっ、けっ!」

 

 

 大男はナイフを動かそうと更に力を込めるも、ナイフはびくともしなかった。

 体格が良く2mはあろうかという大男に、それより20㎝以上は低い青年の力の方が圧倒していた。

 

 

「暴風族ならこんなナイフなんかじゃなくて、お前の“走り”で俺を屈服させてみろ」

 

「何を言ってっ、う"ぼぁ!!」

 

 

 気づけば青年の膝が大男の鳩尾に突き刺さっていた。

 

 

「お前の“道”は見るに堪えない」

 

 

 大男の手からナイフが離れ、そのまま前のめりに崩れ落ちる。青年はさっさと大男も縄で縛り、なぜかチラリと服をめくる。大男の腹部をみて満足げに小さく頷くと興味をなくしたのか、他の男達と同じように端に放った。

 

 

「……終わったんどすなぁ」

 

「そうだな。というかその痣大丈夫か?腹とか酷いぞ」

 

「まあ、痛みはあるけど……骨は大丈夫そうや」

 

 

 青年はベンケイの方に近寄り、しゃがむ。いつの間にか回収していたナイフを手に持ち、ベンケイの手足を縛っていた縄を切る。

 

 ベンケイはお腹の痛みにたえながら、上半身を起き上がらせる。手首や足首に赤く残った縄の跡を自由になった手で撫でるのと同時に、終わったのだという実感も湧いてきた。

 

 

「おおき、にっ!」

 

 

 ベンケイが感謝の言葉を述べている途中に返ってきたのは、頭に被せられた布だった。頭からどけて良くみると、今日一日で見慣れた白いジップアップパーカーだった。

 持ち主の青年を見ると、黒のTシャツ姿になっていた。フードで見えなかった部分も見えている。肩ほどまで伸びた黒髪を邪魔にならないように首もとで結んでいた。

 

 

「なんや、急に」

 

「いやいや、さすがにその格好は駄目だろ。ベンケイの方がほんの少し身長高いとはいえ……サイズは大きめだからある程度隠れるはずだ。着ておけ」

 

 

 身長差を気にしてたんだ、と彼に見えないようにベンケイは服で口元を隠して小さく笑う。小声で言った部分も普通に聞こえていたのだ。

 

 青年はベンケイに背を向けながら電話をかける。

 

 

「もしもしヤスさん、俺です。実は……」

 

 

 どうやらあの刑事にかけているらしい。その様子を見ながら、ベンケイは青年から渡された服を着る。少し暖かく、自分のものとは違う香りがすることに、ついさっきまで彼が着ていたのだと実感した。

 

 まあ、だからなんだという話だが。

 

 前のジッパーを閉めて、ふらふらと立ち上がる。袖は余っていたが、裾の方はギリギリ下着が隠れる程度の長さしかなかった。正直、動けば見えてしまうだろうことは容易に想像できた。

 ベンケイは自分の胸部を見る。ここが布を引っ張ってしまっているのだろう。

 

 青年が電話を終えて、ベンケイの方へ振り向く。青年の仮面がベンケイを見ながら分かりやすく上から下に動く。

 

 青年は拘束した男達のもとへ行く。一通り眺めた後、何を思ったか一人の男のズボンを脱がせ始めた。

 

 

「ちょっ……何してはるん?」

 

「それだけじゃ心もとないからズボンも履いてもらおうかと。ほら」

 

 

 そう言って青年は男から剥ぎ取ったズボンをベンケイへ放る。それをベンケイは一歩横にずれることによって避ける。

 

 ボトッ、とズボンは無情にも床に落ちた。

 

 青年はズボンを一瞥し、そのままゆるゆるとベンケイを見た。

 

 

「ばっちいから嫌や」

 

「いやでも「嫌や」あっ、そう」

 

 

 かなり強めの拒否だった。いくら際どい格好だからといって、自分を襲おうとしたヤツの仲間の服なんて嫌悪感で触れられたものじゃない。青年はその辺りデリカシーが無いようだ、とベンケイは思った。

 

 

「でも、そうやなぁ」

 

 

 少し困らせてやろう、とベンケイの悪戯心が顔を出す。

 

 青年のもとまで歩き、彼の履いているズボンを親指と人差し指でちょこんと引っ張る。A.T装備によって少しだけ高い位置にある青年の仮面を見ながら、甘えるような上目遣い。

 

 

「これやったら……ええで」

 

「そうか、わかった」

 

「えっ」

 

 

 即答だった。

 青年の姿が掻き消えると共に風が吹き、かわりに黒い物体が目の前に現れる。ベンケイは思わずそれを受け止めて確認すると、先程まで触れていた青年のズボンだと気付いた。

 

 

「速く履け」

 

 

 後ろを振り向くと、消えたと思った青年が後ろを向いて立っていた。きちんとズボンを履いて。

 ベンケイは床を見るが、さっきのズボンが見当たらない。

 

 

「まさか……この一瞬でズボンを脱いで、床に落ちてるズボンを拾って履いたやって?」

 

「速着替えは得意なんだ」

 

「んなアホな」

 

 

 これが今日一番の驚きかもしれない、そう思いながらベンケイは青年のズボンを履いた。「終わった」と声をかけると青年は振り返る。

 

 

「さっき警察に電話をした。そろそろこいつらを回収しに来てくれるだろう」

 

「そういうたら電話してましたなぁ」

 

「まぁ……諸々の事情説明はお前が出来るよ、なっ!」

 

「ひっ!」

 

 

 青年がナイフを投擲した先には、這いつくばりながら逃げ出そうとしている男がいた。終始端の方で縮こまっていた細身の男だ。

 

 

「あぁ、そういえばおったなぁ」

 

「説明役として残したんだ。警察に説明、出来るよな?」

 

 

 青年は投擲したナイフを拾って細身の男の前に屈み、仮面を着けた顔を近づける。そのまま青年は怯える男の喉元にそっとナイフの切っ先をあてた。

 

 

「もちろん、嘘偽りなくだ」

 

「はっ、はいぃ!!」

 

「これだけ見たら完全にアンタの方が悪者やな」

 

「余計なこと言うな……ん?来たか」

 

 

 青年の言葉で、ベンケイは微かなサイレンの音に気が付いた。

 

 

「ほな、早めにせんとな」

 

「何をだ?」

 

 

 ベンケイは大男のもとへ向かう。無様に床に転がり、縄で拘束された大男は気絶したまま動く気配がない。

 

 それを見たベンケイは右足を大きく上げ───股関に有るものへ全力で振り下ろした。

 

 

「あ゛あ゛っ!!!」

 

 

 短い悲鳴とともに大男のナニかが終わった音がした。

 

 

「べ、ベンケイ、さん?」

 

「あぁー、スッキリしましたわ」

 

 

 本当にスッキリした笑顔で振り返るベンケイに、青年はそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 そこから先は慌ただしかった。かなりの数の警官がサイレンと共に押し寄せ、男達を連行。ベンケイも事情を聞かれ、怪我のこともあるので病院へ直行した。

 

 

「でもまあ、入院しいひんでいいのは助かりましたわ。じっとしてるのんは性に合わへんさかい」

 

 

 今は青年に家まで送ってもらっている。警察に車で送ってもらうのは拒否した。青年に抱えてもらい、A.Tですぐに家に連れていってもらうのも今回ばかりは拒否した。

 

 青年が明日には京都を発つと聞いたから。少しでも長く話していたくて徒歩を選んだ。多少腹は痛むが、喧嘩で怪我をするのには慣れている。

 

 

「いや、幸い骨も臓器も無事だったみたいだが安静にはしてろよ」

 

「なんや、心配してくれはるん?嬉しいわぁ」

 

「当たり前だろう……そもそも俺に付き合わなければお前が怪我をすることもなかった。本当にすまなかった」

 

 

 青年は立ち止まり、ベンケイに頭を下げる。ベンケイも立ち止まり、青年を見る。

 

 ベンケイは別に謝られる必要はないと思っていた。そもそも青年の仕事に無理矢理ついていったのは自分なのだからと。

 

 あぁでも、と。ベンケイはこれを利用せずにはいられなかった。

 

 

「せやったら、まずはしゃがんどくれやす」

 

 

 青年は言われるがままにしゃがむ。ベンケイはその背中に体を乗せ、首に腕を回した。

 

 

「ほら、レッツゴーや」

 

「え、あぁ。わかった」

 

 

 青年は戸惑いながらもベンケイを背負って歩きだす。それはベンケイの体を労るように、優しい足取りだった。

 

 

「痛くないか?振動が傷に響かなければいいが」

 

「あんまり過保護すぎや。言うたやろう、喧嘩で怪我は慣れてるって。まあ、心配されて嬉しゅうはあるんやけどな」

 

「そう、か」

 

 

 そう言ったっきり、青年は黙って歩みを進める。

 

 無防備だな、とベンケイは思った。今、仮面を取ろうとしたらどうなるのだろうか。あっさり取れてしまうのか。昼間のように抵抗されてしまうのか……ベンケイの体を労るばかりにろくな抵抗も出来なさそうだなとも思う。

 

 

「何笑ってるんだ?」

 

「いいえ、別に」

 

 

 ベンケイは青年の首もとに顔をうずめる。不思議なほどに、心が落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ん……」

 

 

 ベンケイは青年の声で目を覚ます。どうやら眠ってしまったらしい。

 

 

……どっちが無防備やねん

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもあらしまへん。にしても、よう一人で辿り着けましたなぁ」

 

「……わりと迷ったがな」

 

 

 青年はばつが悪そうに言う。ベンケイは青年の背中から降りて携帯を見る。

 

 確かに、想定していた時間を二十分ほど過ぎていた。

 

 

「寝てもうて堪忍な」

 

「構わない。今日はいろいろあったんだ、疲れて当然だろう。あとは布団でちゃんと寝ることだ……安静にしてろよ?」

 

「わかってますって」

 

「ならいい。それじゃあ俺はこれで。じゃあな」

 

「ちょい待ちや」

 

 

 あっさりと別れようとする青年の肩を掴む。ベンケイにとって一番大事な目的がまだ達成されていないのに、青年を帰すわけにはいかなかった。

 

 相対する青年に、ベンケイは笑顔で携帯を突き付ける。

 

 

「連絡先、交換しましょ」

 

「それ嫌だって言わなかったっけ?」

 

「ふーん、そないなこと言うんや、へぇ」

 

「な、なんだよ」

 

 

 ベンケイはお腹をすっと押さえて、体を縮こめる。

 

 

「あのとき蹴られたお腹が痛いわぁ」

 

「うっ」

 

「制服もあんなにされて怖かったわぁ」

 

「うぐっ」

 

「何かあったときのために頼れる連絡先が欲しいわぁ」

 

「う、いや、でも俺、この辺に住んでるわけじゃないから頼りにはできないと思うんだけど」

 

 

 ベンケイの演技は微妙なものではあったが、言っていること自体にはなにも間違っていない。そのため青年の拒否はとても弱々しいものだった。

 

 いける、とベンケイは思った。

 

 

「心の拠り所って大事やと思いません?別に絶対に返事を返せなんて言わん……御守り代わりに、な?」

 

 

 青年は黙って下を向き、次に天を仰いだ。その動作を何回か繰り返した後、最終的にベンケイから顔を背けるようにしながら携帯電話を取り出した。

 

 おちたな、とベンケイは思った。

 

 案外チョロくて思わずニヤついてしまいそうになるが、何とか抑える。

 

 

「後からやっぱり嫌や言われんよう、ライダーから送ってや」

 

「……あぁ、えっと」

 

 

 あまり連絡先を交換する機会の無かった青年は、ベンケイに指示されるがまま『プロフィール』を赤外線で送信した。

 

 送られたものを確認して、ベンケイは満足げな顔をする。

 

 

「ほな、お返しや」

 

 

 今度はベンケイから連絡先が赤外線にて送られてきた。

 

 

「それじゃあ、また会いましょな。シイナはん」

 

「なっ!!」

 

 

 青年は仮面を着けていても分かりやすいほどに動揺した。

 

 

「個人情報の取り扱いは気をつけんとあきまへんよ」

 

 

 ベンケイはそう言うと、携帯電話を持つ手をひらひらと振った。ハッとした青年は、携帯電話を開いて電話帳を見る。新しく登録された電話番号、メールアドレス、そして名前。

 

 

「って、お前登録してる名前ベンケイじゃないか!それはズルだろ!」

 

「なに言うてますの。隠すなら徹底的に隠さな……良い勉強になりましたな、シイナはん」

 

 

 青年───シイナは己の失態に両手で顔……というか仮面を覆った。

 

 ベンケイはそんなシイナの耳元に顔を寄せ、小さく呟く。

 

 

「─────」

 

「えっ、それって」

 

「可哀想なシイナはんにお裾分けや。ただ『ベンケイ』って呼ばれるのが好きやから、そっちで頼みますわ」

 

 

 ベンケイはそう言いながら家の敷地に入り、玄関の扉を開ける。

 

 

「ほな。また会いましょ、シイナはん」

 

 

 満面の笑みでそう告げると、ベンケイは家の中に入っていった。

 

 




 赤外線のやつこんな仕様だったような(覚えてない)間違ってても目をつぶって♡つぶらないなら潰すから♡
 ついでに玉潰す予定なかったけど過激派に流されて加筆しちゃった(てへぺろ)

 関西しめるとかいったけどここで終わりです。やりたいことやったしね、しかたない。

 次、眠りの森編。書き留めるので時間が空きます。
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