月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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駆逐艦・響「司令官。執筆が疎かになるくらい私達が好きなら、私達のSSを書いたらどうだ?」

   筆者「………………どっちつかずになりそうだから、却下」

駆逐艦・響「何だその間は」

そんな第12話


第12話「白亜の宮殿を攻略せよ!」

―――Interlude

 

 白亜の宮殿は五階建ての造りになっている。最奥が宮殿の最上階にあたり、進むには絶対に階段を通らねばならない。主催者(ホスト)側である“ペルセウス”は全ての階段を封鎖すれば最奥への道を閉ざす事が出来た。

 門が崩れる音でゲームの開幕を悟った“ペルセウス”の騎士達は一斉に行動する。

 

「第二分隊は東、第三分隊は西階段へ向かえ!」

「第一分隊は正面階段を監視せよ!」

「相手は少人数だ! 冷静に対処すれば抜かれることなどない!」

 

 号令と共に一糸乱れぬ動きを見せる“ペルセウス”の騎士達。本拠を舞台にしたゲームだけに、地の利は彼等にある。

 ましてや勝利条件は至って簡単。ただ相手を目視すればいい。最奥に行く前に見つけさえすれば、プレイヤーは失格になるのだ。

 このゲームは勝ったも同然、と騎士達にも気の緩みが生じかけていた。

 そう―――入口から大量の水が押し入るまでは。

 

「なっ………!?」

 

 突然の事態に口をポカンと開けている間に、騎士達は次々と水に飲まれていく。なんとか水流を防いだ騎士達が正面玄関を見ると、そこにギフトカードを掲げた久遠飛鳥の姿があった。

 

「流石は“ペルセウス”の騎士達ね」

 

 飛鳥は上品な笑みを浮かべると、優雅に一礼した。

 

「さあ、お相手を願えるかしら?」

「馬鹿め! 我等に姿を見られればルイオス様への挑戦権は失われるぞ!」

「そんな事は先刻承知よ。私の役目は、貴方達の露払いなのだから」

 

 あくまで余裕な態度をつらぬく飛鳥に、騎士達はいきり立つ。あっという間に飛鳥を半円状に取り囲むと、投擲用のランスを一斉につがえた。

 

「小娘が………我等“ペルセウス”の力を骨の髄まで思い知るがいい!」

 

 号令と共に、波状攻撃でランスが投げ出される。飛鳥を蜂の巣に変える攻撃は、

 

()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 彼女の宣言と共に現れた水樹の水流に阻まれた。

 突如として出てきた見上げる程の大樹に騎士達が圧倒されていると、更に畳み掛ける様に飛鳥の次の命令が下された。

 

「さあ、()()()()()()()()()()!」

 

 轟音を響かせながら洪水の様な水量を水樹は生み出し始めた。騎士達と共に玄関に置かれた調度品や絵画が水に呑み込まれ、もはや一階は浸水し始めていた。

 

「い、いかん! このままでは宮殿が水没するぞ! 取り押さえろ!!」

 

 慌てた騎士達は空飛ぶ靴を使って、一斉に飛鳥へ群がろうとする。だが水樹の枝から放出される鉄砲水と水柱に阻まれ、なかなか近寄れないでいた。水樹を操りながら、飛鳥は思う。

 

(ギフトを支配するギフト、か)

 

 箱庭に来る前、飛鳥は周囲の人間から恐れられていた。

 曰く―――“他人を言う通りに操る魔女”、と。

 飛鳥自身に、他人を操ろうという悪意は無い。しかし彼女の口にした事は絶対の命令となってしまうのだ。

 その力があって、飛鳥は以前の世界に色が無い様に感じていた。“是”しか答えぬ周囲の人間に何の感慨を感じようか。だが、この箱庭の世界では彼女の命令にも“否”と答える人間がいる。

 人を支配する力を失くす事が出来なくても、その力を別の方向へ傾ける事が出来ると黒ウサギは保障してくれた。支配する対象を人からギフトへ変えたのは、飛鳥にとっては初めて出来た友人達の心を捻じ曲げない為でもあるのだ。

 

(だけど………それはそれ。今はこの水樹を操るのが精一杯というのは頂けないわ)

 

 己の道筋を悟ったというのに、飛鳥の顔には不満があった。とりわけ大きいのは、自分のギフトでは今のところ水樹しか支配できなかったという点だ。

 今まで人を支配していた力を、今度はギフトを支配するという方向転換をしたのだ。“ギフトを支配するギフト”も、まだまだ殻つきのヒヨコでしかない。コミュニティの保管庫にあった武器も試してみたが、どれも飛鳥のギフトには反応しなかった。

 

(岸波君が保管庫にあった武器からセイバーを召喚したと言っていたから、私にも武器を支配できないかと思ったけど………上手くいかないものね)

 

 プライドの高い飛鳥にとって、彼女の支配が及ばないというのは不満の種でもあるのだ。

 しかし―――

 

「今はいいでしょう。張り合いの無い世界は嫌いだったもの!」

 

 飛鳥は楽しそうな笑みを浮かべると、騎士達の掃討にかかった。

 

―――Interlude out

 

 

 

「第一分隊、沈黙!」

「何!? 陽動役相手に何をしているっ!!」

「ギフトを持つ者はここに残れ! それ以外は私と共に正面玄関へ向かえ!!」

 

 怒号が飛び交い、複数の甲冑が動く音が聞こえた。しばらくすると、辺りは先程の喧騒が嘘の様に静まり返っていた。

 

「………耀」

「うん、任せて」

 

 物陰に隠れた自分達は、騎士達が去ったのを確認すると耀を前に出させる。彼女は鼻をスンスンと鳴らせると、ピクリと反応した。

 

「階段前にいる。人数は………二人」

「よし。頼んだ、セイバー」

「うむ。任せよ」

 

 短く頷き、セイバーが前へ出る。階段へと歩み寄る彼女は、一見すると無防備に見える。普通ならすぐに姿を見られて失格だ。しかし―――

 

「ガッ!!?」

 

 音も無く振られたセイバーの剣は、虚空から苦悶の声を生じさせた。次の瞬間、兜が脱げた騎士が虚空より現れて床へ倒れる。

 

「て、敵襲か!? 何の気配もしなかったぞ!!?」

 

 迂闊にも声を漏らした残りの一人を、セイバーは見逃さない。声のした方向に剣を一閃させると、同じ様な騎士が気絶した状態で姿を現した。

 

「もう隠れている者はいない様だな。出てきて良いぞ」

 

 セイバーの合図に、自分達は物陰からゾロゾロと出る。セイバーの足元で昏倒している騎士達の近くに転がっているのが、不可視のギフトを持った兜だろう。

 

「あっけ無いものだな。これでは端役にすらならぬ」

「そう言うなよ。皇帝様の隠形が完璧過ぎるだけだろ」

 

 兜を拾いながら、十六夜は軽薄に笑う。

 

「というか、どういうギフトだよ? 俺ですら集中して見ていないと見失いそうになるギフトなんて。コイツ等みたいに物理的に透明になったわけじゃない、という事は分かるんだが」

「フフン、余は皇帝だからな。余の辞書に不可能は無い」

 

 胸を反らして得意気になるセイバー。ゲーム前に真名を看破されそうになった事を根に持っているのだろう。十六夜から一本取れた、と上機嫌だ。とはいえ、自分にはセイバーの隠形の正体が分かっていた。

 サーヴァントには各々のクラスに召喚されることで獲得するスキルとは別に、生前の体質や伝承の発現などで会得した固有スキルがある。中でも、セイバーの固有スキルは一際に異才なものだろう。

 皇帝特権。本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できるスキル。

 見方によっては究極の不正行為というか、見栄っ張りというか………とにかく、自己主張の強いセイバーらしいスキルではある。

 

(多分、聖杯戦争で戦ったアサシンの気配遮断を獲得したみたいだけど………。まさか武術の極致をカンで再現しちゃうなんてなぁ)

 

 世の武術家がこれを聞いたら、泣くか激怒するだろうか? 技を盗まれた本人は呵呵大笑しながら勝負を挑みそうだけど。

 

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

「わっ」

 

 十六夜が兜を被せると、ジンくんの姿は瞬く間に透明となって見えなくなる。

 このゲームはゲームマスターであるジンくんの姿が見られただけで、全員がゲームオーバーになるのだ。まずは彼の安全を確保するのが先だ。

 

「残り一個はルイオスに挑む俺が被るとして………岸波、周囲の様子はどうだ?」

「ちょっと待ってくれ」

 

 十六夜に聞かれ、手元に浮かんだホログラムのコンソールを操作する。しばらくすると、ホログラムのウィンドウに地図が映し出された。

 

「………うん、近くには誰もいない様だ。このまま進もう」

「よし。念の為、春日部も索敵を続けてくれ」

「うん、了解」

 

 耀が頷いたのを確認して、自分達は次の階へと足を踏み入れた。

 

「それにしても、すごいギフトですね。“ペルセウス”の本拠の地図はおろか、騎士達の位置まで割り出すなんて………」

「まあね。でも耀がいないと完璧な索敵は出来なかったよ」

 

 後ろから聞こえてきたジンくんの声に笑って答える。姿は見えないが、すぐ近くにいるのだろう。

 コード:view_map()。自分のいる建物の構造や現在位置、さらには周囲の人間まで地図に映し出す魔術(キャスト)だ。聖杯戦争時にも何度か御世話になったこの魔術は箱庭でも問題なく使えるらしい。

 ただし、欠点もある。それは透明化した相手は地図に映らないという点だ。思い返せば、宝具やスキルで姿を隠したサーヴァントも見付けられなかった。緑衣のアーチャーと同じ性質を持った宝具(ギフト)を持つ兜を被った騎士も、この魔術では見つけられないだろう。

 だが、その欠点は耀の動物的な五感で解決できた。いかに透明化を誇る兜も、音や臭いまでは消せない。自分のview_map()から漏れた敵を耀が感知する事で、索敵を完璧な物へと昇華させられたのだ。さらにはスキルで気配を消したセイバーが騎士達を斬り伏せていく。本拠で有利な戦いを想定している相手からすれば、大誤算と言うしかないだろう。

 その後は奪った兜で姿を消した十六夜も騎士達への攻撃に加わり、自分達はあっという間に次の階層も突破した。二階、三階、さらには四階へと足を踏み入れて次々と障害となる騎士達を気絶させていく。しかし五階の階段へと続く曲がり角の前で、セイバーが足を止めた。

 

「待て、奏者達よ。この先に潜んでいる者がいるぞ」

「マップには何も映ってないけど………耀はどう?」

「ううん、私も。音も臭いもしない」

 

 マップを確認した後に耀を見るが、彼女は首を横に振った。セイバーが嘘をつくとは思えないし、マップに映らないことからハデスの兜で姿を消した敵がいるのだろう。しかし、耀の五感でも感知できないというのはどういことだ………?

 

「多分、本物のハデスの兜を持った奴が潜んでいるんだろ。それもレプリカと違って、音も臭いも消せる奴が」

 

 姿を消した十六夜の声が隣から聞こえた。それなら耀の五感に引っかからないのは納得だ。ここから先はルイオスの待つ五階へと続く道だから、精鋭の騎士に守りを固めさせたのだろう。

 

「姿も音も消えているが………。アーチャーやアサシンに比べれば、気配の消し方が雑よな」

「そうか。セイバー、相手がどこにいるか分かる?」

 

 嘆息したセイバーに聞くと、彼女は曲がり角から注意深く顔を出した。そしてしばらくすると、こちらへ向いて首を振る。

 

「駄目だな。階段の近くにいる気配はするのだが………正確な居場所までは分からん」

「そうか………」

 

 こちらもセイバー達の姿が見えていないとはいえ、闇雲に突撃するのは得策では無いだろう。うっかり反撃をくらえば、こちらの姿が見えてしまう可能性もある。

 どうしたものかと頭を捻らせていると、唐突に耀が手を挙げた。

 

「私が囮になって隠れている敵を引き付ける。十六夜とセイバーは出てきた敵を倒して」

「いいのか? 囮になるって事は姿が見られるって事だぞ?」

 

 十六夜の言う通りだ。自分達はハデスの兜を二つしか持っておらず、見つかれば敗北となるジンくんとルイオスと戦う十六夜から兜を渡す事は出来ない。セイバーみたいに相手に見つからない手段が無い以上、耀はここで失格となってルイオスには挑めない。

 しかし耀は薄く微笑んでフルフルと首を振った。

 

「気にしなくていい。あの外道には負けたくないから」

「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでもお嬢様や春日部、岸波と皇帝様には感謝してるぜ。今回はソロプレイで攻略できそうにないし」

「だから気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから」

 

 ちゃっかりとお礼を要求する耀に、吹き出しそうになるのを寸のところで堪える。今はそんな場合じゃない。自分も出来ることをしよう。

 

「セイバー、相手の人数は分かる?」

「ちょっと待っておれ」

 

 もう一度、セイバーは曲がり角の端から階段付近を窺う。目を凝らす様に見ていた彼女は、やがてこちらへ振り返った。

 

「一人だな。余程、自分の腕に自信があるのだろう」

「分かった。それなら―――」

 

 曲がり角の前で跪き、床に手を置く。

 手から光が漏れて、頭に浮かんだ魔術と共に床へ染み込んでいく。

 対象は一人。発動条件はここに足を踏み入れる事―――。

 

「白野………?」

「ただのトラップさ。これで相手をしやすくなるはずだよ」

 

 不思議そうに見る耀に、笑って手を振る。

 仕込みは終わった。後は条件を満たすだけだ。

 

「耀。どうにか相手をここまで誘き寄せてくれ。そうすれば相手は姿を見せる筈だから、そこを十六夜が攻撃して欲しい」

「何か面白そうな事を企んでるな。いいぜ、乗った」

「分かった、やってみる」

 

 十六夜と耀が頷くのを確認すると、セイバーと一緒に物陰へと隠れる。恐らくジンくんも一緒にいるのだろう。

 

 耀は曲り角の先へと歩いていき、しばらくすると―――耳に微かな音が聞こえた。

 

「これは―――?」

「ほう、驚いたな。ヨウの奴め、超音波を出しおったな」

「超音波?」

「確か、ヨウは友となった動物の特性を獲得するのだろう? 大方、コウモリかイルカの特性を使っているのだろう」

 

 成程ね。いかに姿や音、臭いを消せるギフトでも透過するわけではない。ソナー探知機の要領で捜せば居場所が分かるというわけだ。それにしても、会って間もない耀のギフトを把握するとは流石はセイバーだな。

 しばらくすると、靴の鳴る音と共に耀が曲がり角から戻ってきた。それから間もない内に―――

 

「ぐおおぉっ!?」

 

 放電と共に、曲がり角の前に人影が現れる。こっそりと覗き見ると、人影の正体は巨大な鎚を携えた騎士だった。

 

「ば、馬鹿な!? ギフトが解除されただと!!?」

 

 狼狽える騎士は、突然前のめりに体を曲げた。十六夜が腹に拳を叩きこんだのだろう。騎士は苦悶の声を上げたが、倒れずにその場に立ち尽くした。

 

「へえ………よく耐えれたもんだ。加減したとはいえ、空の果てまで飛ばすつもりで殴ったんだけどな」

「………フン。ならばこの鎧が優れているだけだろう」

 

 姿の見えない十六夜に、騎士は苦しそうな顔で笑ってみせた。よくよく見れば、あの騎士はレティシアを連れ戻しに来た時の指揮官だった。

 

「無鉄砲な一撃ならともかく、策に嵌められた上に正面からギフトを打ち破っての敗北だ―――見事。貴様等には、ルイオス様へ挑む資格がある」

 

 それだけ言い残すと、騎士はその場に崩れ落ちた。“ペルセウス”の騎士を纏め上げた軍団の長。彼は短い賞賛を残すと、意識を手放していた。

 

「―――これで、ルイオスまでの障害は無くなったな」

「うん、もう誰の臭いもしない」

「殺気も感じぬな。たった一人で主を守り通そうとするとは、敵とはいえ見事な男よ」

 

 耀とセイバーの確認も取り、マップを覗き込む。これで後はセイバーと自分、そして十六夜でルイオスを倒すだけだ。

 その時、耀が不思議そうに自分へ話しかけてきた。

 

「それにしても………さっきの放電、あれは何だったの?」

「コード:dress_blast()。相手の装具に反応してギフトを封印する魔術さ」

 

 聖杯戦争の五回戦時、アサシンの気配遮断を封じる為に用意された罠の一つだ。協力してくれたラニや遠坂の力を借りないと組めないプログラム(術式)だったはずだが、頭の中に浮かんだ魔術は問題なく発動できた。これも、自分のギフトの影響なのだろうか?

 

「じゃあ、俺達は先へ進むね。耀、ここまでありがとうな」

「うん。気を付けてね、白野」

「そなたはここで休んでおれ。なに、神々の後ろ盾が無ければ怪物退治を出来ぬペルセウス(臆病者)の末裔程度、一蹴に伏してくれよう」

「セイバーも頑張って。帰ったら、色々とお話ししたい」

「余も同意だ。互いにがーるずとーくに華を咲かせるとしよう」

 

 笑いあうセイバーと耀。自分も、今までの事を何気ない雑談として話せたらいいなと思いながら最上階へと向かった。




筆者の現実の環境が忙しいでの、申し訳ありませんが感想の返信はまた後日に。
引っ越しや学校やらで忙しいのあって、けっして艦これにうつつを抜かしているわけではありません。念の為。

これから更新のペースも落ちるかもしれません。どうかご容赦下さい。

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