月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
そんな第13話。
階段を上がって扉を開けると、そこは天井の無い広場だった。周りの造りから察するに、コロセウムみたいな場所だろう。
「十六夜さん、ジン坊ちゃん………! 白野さまに、セイバーさんも………!」
最上階で待っていた黒ウサギは、自分達の姿を見ると安堵の溜息を漏らす。
眼前のコロセウムの客席を見ると、最上部に玉座が置かれていた。そこに腰かけていたルイオスは、自分達を見ると不満そうに鼻を鳴らす。
「―――ふん。ホントに使えない部下達だ。今回の件が済んだら、纏めて粛清するか」
ルイオスは溜息をつきながら、玉座から立ち上がった。
「ともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとしてお相手しましょう………と言いたいところだけど、一つ提案があるんだ。君達さ、わざと負けない?」
「………はぁ?」
突然の提案に、隣にいた十六夜が胡乱げな声を出す。ルイオスはそれを気にする事無く、先を続けた。
「だって無駄だろ? 僕の圧勝は目に見えているけど、それでも余計な手間をかける事になるんだ。ただでさえ君達“ノーネーム”に本拠を滅茶苦茶にされた上に、あの吸血鬼の商談だって決まってないんだ」
そう言いながら、空飛ぶ靴を使ってこちらへ降りてくるルイオス。その顔には隠そうともしない驕慢が張り付いていた。
「今なら全員、無傷で帰してやるよ。なんだったら、あの吸血鬼も付けてやっていい。もちろん“月の兎”と交換だけどね。どうだい? 悪い話じゃないだろ」
「あ、貴方はギフトゲームを何だと思っているんですか!!」
この期に及んで、“契約書類”の取り決めすら無視する様なルイオスに、ジンくんが怒りの声を上げる。ギフトゲームによる取り決めが大きな意味を持つ箱庭において、ルイオスの提案は非常識以外の何物でもないだろう。だが、ジンくんの抗議をルイオスは鼻で笑ってみせた。
「そんなもん、ただのゲームだろ? 面倒なだけで、景品を得るのに割が合わないね。それに今回ウチは旨味のないゲームをやっているんだ。“月の兎”を渡して貰わないと損なだけだね」
この世界のルールそのものを軽んじる様なルイオスに、ジンくんは言葉を詰まらせた。さっきから一言も喋っていない黒ウサギも同様だろう。いや、あれはむしろ“箱庭の貴族”としての誇りまで傷つけたルイオスに対する怒りで言葉が出ないと言う方が正しいか。
「どうだい、ここはどっちが得か考えた方がいいんじゃない?」
まるで握手を求める様に、こちらに手を差し出すルイオス。
さて………そろそろ限界かな。
「断る」
「………何だと?」
「断る、と言ったんだ。お前の提案には俺達に得な事なんて無い。なにより、これから戦おうとする人間に対して一方的な降伏勧告なんて馬鹿げている」
そう、馬鹿げている。ルイオスにとってギフトゲームは面倒なだけかもしれない。しかし、飛鳥や耀。それに敵として立ち塞がったグライアイ達や“ペルセウス”の騎士達にとって負けられない戦いだからこそ、持てる力の限りをぶつけてゲームに挑んだ。それら全てを嘲笑う資格など、ルイオスには無い。
なによりも、相手が弱いからと決めつけて戦う事すら放棄するのは最大の侮辱だ。聖杯戦争でも、自分は最弱のマスターだったが諦めずに戦った。相手が強大でも、決して膝を屈しないこと。それだけが自分の誇りだった。隣にいたセイバー/キャ■ター/■ーチャー/ギルガメッ■ュ/が諦めずに戦ってくれたから、自分も諦めなかった。それを嘲笑うというなら―――ルイオスを許さない。
「レティシアは欲しい。でもお前に降伏なんてしない。お前を倒して、俺達はレティシアを取り返す」
「白野さま………」
近くにいた黒ウサギが、どこか尊いものを見る様な目で自分を見ていた。自分はただ、思った事を口にしただけなんだけどな。
「よく言った。それでこそ我が奏者よ」
短く、しかし称える様にセイバーが頷く。
「あの優男に目に物を見せてくれよう。さあ、剣を執れ、ペルセウスの末裔よ! 貴様に一握りでも誇りが残っているなら、恐れずしてかかってくるが良いっ!!」
「前に、別の奴にも言ったけどな」
「勝負事というのは勝者を決めて終わるんじゃない。敗者が決まって終わるもんなんだよ」
拳を上げ、十六夜はファイティングポーズを取る。
「来いよ。特別に
「僕も………僕だって、コミュニティのリーダーです! ゲームを前に、逃げ出す事なんて出来ません!!」
ジンくんも、拳を握りしめてルイオスを睨む。よく見ると足が震えており、顔から冷や汗が出ている。誰が見ても虚勢にしか見えないが、その姿にかつての自分自身を見た気がした。
「貴方が僕たちの前に立ち塞がるとのであれば、“ノーネーム”の誇りにかけて“ペルセウス”を打倒しますっ!!」
「ジン坊ちゃん……皆さんも………」
感嘆極まった様に呟く黒ウサギ。それに対してルイオスは、心底つまらない物を見たという顔をしていた。
「フン、本当に馬鹿な奴ら。いいさ、そっちがその気ならお望み通り戦ってやるよ」
ルイオスはチョーカーについた飾りを外し、天に掲げた。それは不気味な褐色の光を放ちながら、脈動する様に徐々に大きくなっていく。セイバーと十六夜は身構え、自分はジンくんを庇いながら後ろへ下がる。そして―――!
「この僕のギフト―――“アルゴールの魔王”がなっ!!」
ルイオスの宣言と共に、一際大きな光が自分達の視界を埋め尽くした。それと同時に、宮殿の隅々まで響き渡る様な甲高い声が耳を揺さぶる。
「ra………Ra、GEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!」
謳う様な、そして叫ぶ様な女の声に堪らずに耳を塞ぐ。現れた女は全身の至る所を拘束具と捕縛用のベルトに巻かれ、膝下まである紫色の髪が女性とは思えない程に乱れていた。両目は血の様に真っ赤に染まり、狂乱の顔を彩っていた。
もしも元の姿に戻れば、絶世の美女の姿を拝めるだろう。だが
「奏者よ、上だ!!」
セイバーの声にハッと頭上を見上げると、巨大な岩石が自分達へと降ってくる―――!
「コード:move_speed()、実行!!」
脚力を強化する
二度三度と落ちる岩石を右往左往する様に避ける自分達へ、ルイオスの哄笑が降ってきた。
「ハハハッ! 飛べない生き物は不便だよねえ。落下する雲も避けられないなんてさ!!」
「く、雲ですって………!?」
ハッと黒ウサギが頭上を見上げると、そこにはいつの間にか空飛ぶ靴で上空へ退避したルイオスがいた。その上には雲一つない晴天となった空がある。ルイオスの言う通り、この岩は浮かんでいた雲を石化させた物だ。力を解放しただけで天高くまで石化の光で満たした女の名を、黒ウサギは戦慄と共に口にした。
「星霊・アルゴール………! 白夜叉様と同じ、星霊の悪魔………!」
星霊とは呼んで字の如く、星に存在する主精霊のことだ。星の主権を持った彼等は、神霊・龍と並んで箱庭の最強種の一つに数えられる。アルゴールもまた、ペルセウス座のゴーゴンの首に据えられた恒星だけに石化のギフトを持つのだろう。
一つの星を背負う大悪魔。箱庭最強種の一角・“星霊”こそが、ルイオスの切り札だった。
「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になってるだろうさ。ま、無能には丁度いい罰だな」
ルイオスの言葉に、ハッと後ろを振り向く。客席が壁になって見えないが、外からも石化した雲の落下音が響いているということはコロセウムの外にも石化の光が降り注いだのだろう。つまり、飛鳥と耀はもう―――。
(いや………大丈夫だ)
胸に湧きあがった暗い考えを否定する様に首を振る。石化したからといって、命を奪われるわけではない。そうでなければ、商品として売るレティシアを石化したりなどしないはずだ。万が一、石化を解除できないとしても自分にはコード・キャストがある。石化の魔眼を持つ様なサーヴァントを相手にしたことは無いが、状態異常を治療する魔術を使えば治せないことは無いはずだ。そう、自分に言い聞かせる。
「白野さん………」
険しい顔をした自分を心配そうに、ジンくんが顔を見上げる。大丈夫だ、とだけ言って彼を隣に降ろした。今は目の前の敵に集中しよう。後のことはアルゴールとルイオスを倒してからだ。
「下がってろよ岸波、御チビ。守ってやる余裕は無さそうだ」
敵が尋常ならざる相手だと分かったからか、十六夜はいつもの軽薄な笑みを消して前に出ようとし―――横から伸ばされたセイバーの剣に行く手を遮られた。
「何のマネだよ、皇帝様」
「余が相手をする。そなたは控えておれ」
横やりを入れられる形になった十六夜がセイバーを睨むが、彼女はなんでも無いことの様に返した。
「あのな、皇帝様。相手は一応、元・魔王だ。アンタは岸波と御チビの護衛を」
「控えよと言っている」
少し苛ついた様に反論しようとする十六夜を、有無を言わせない断固とした口調でセイバーは遮る。なおも言い募ろうとする十六夜より先に、セイバーは口を開いた。
「そなたは今まで出会った人間の中で一、二を争う程に優秀な能力ではある。会って間もない内に余の真名を看破しかけた洞察力は見事なものよ。だがな………そなた一人で全てを解決させなくてはならない程、余や奏者は弱くないぞ?」
「………」
なにか感じるところがあるのか、黙って聞く十六夜。
「もう少し、周りに頼ることを覚えよ。なに、心配いらぬ。敵は星の精霊と強大ではあるが、余と奏者が乗り越えてきた壁に比べれば朝飯前にもならぬ」
万物に向かう敵など無し、と不敵に笑うセイバー。いつもは自分がする顔を見た十六夜は片手で後頭部をかくと、溜息をついた。
「ったく、要するに皇帝様が戦いたいってことだろ? いいぜ。譲ってやるよ」
果たしてセイバーの観察眼の通りだったのか、そうでないのか。十六夜はセイバーに戦いを
「余が言えた義理では無いが………そなた、相当に意地を張るのだな」
「かっ、あれだけ大口を叩いたからには朝飯前で倒してくれよ?
「任せよ。諸人に美しく戦う姿を見せてこその王であるからな」
具足を鳴らしながら、セイバーはアルゴールの前へと歩いていく。やがて互いの距離が五メートル程の間合いになると、ピタリと立ち止まった。手にした剣を、持ち手の部分でバトンの様に振り回した後に剣を構える。
そして、当たり前の様に自分へ声をかけた。
「奏者よ、指示を」
―――どうやら自分は突然の事態の連続で、大分鈍っていた様だ。思わず溜息をついてしまう。自分が出来ることは、いつだって前を向いて歩くこと。そして―――全力で戦闘代行者であるサーヴァントを支援すること。いつだって、自分達は
「ああ! いくよ、セイバー!!」
「任せよ! 共に勝利を飾ろうぞ!!」
自分の宣言に呼応する様に、セイバーから闘気が湧きあがる。自分とセイバーが力を合わせれば、たとえ魔王にだって負けはしない!
「名無し風情が………迎え撃て、アルゴール!!」
「RAAAAAALaaaaaa!!」
ルイオスの号令と共に、アルゴールがセイバーへと襲い掛かる。セイバー達の一挙手一投足に意識を集中させる。最初の一撃は―――上空からの振り下ろし!
「上からだ、後ろへ跳び退いて回避!!」
「うむ!」
背中の翼をはためかせて上空へと飛んだアルゴールは、予想通りに急降下して襲い掛かる。それをバックステップで躱したセイバーは、お返しと言わんばかりに落下したアルゴールに剣を横凪で斬りこむ。
「次、アタック! その後にガードしてカウンター!! 相手のガードを斬り崩せ!!」
「はっ、やあっ! せいっ!!」
畳み掛ける様な連撃を加えるセイバーに、アルゴールは為す術無く斬り刻まれていく。ときおり持前の怪力で反撃を加えるが、全てセイバーに受け流されてはカウンター攻撃。さらにはガードをしようと身を固めたところへ身体ごと回転させたセイバーの一撃にガードブレイクされるなど、徐々にセイバーに追い詰められていた。
「くっ、名無し相手に何をしているんだ!? 押さえつけろアルゴール!!」
「RaAAA!! LaAAAA!!」
アルゴールの不利に業を煮やして叫ぶルイオス。すると、アルゴールの体が膨れ上がり、セイバーを優に三倍は超える体格へと巨大化した。
でも甘い。体が大きいということは、リーチも大きくなったということ。つまり―――!
「セイバー、アルゴールの懐に入り込め! そこから攻撃するんだ!!」
「心得た!」
駆け出し、アルゴールの腕の内側へ入ろうとするセイバー。そうはさせないと、アルゴールは巨体でセイバーを押しつぶそうとする。
「bomb()!!」
「GYA!!?」
用意した魔術がアルゴールの顔で炸裂し、動きが一瞬だけ止まった。セイバーはその隙を見逃さない。あっという間に足元まで走りよると、勢いのまま剣を一閃させる。
「天幕よ、落ちよ!
得意の斬撃で繰り出された一撃は、アルゴールの片足の腱を切り裂いていた。バランスが崩れ、倒れかかるアルゴールに更にセイバーは連撃を加える。
「そら、そこを動くな!!」
纏わりつくように攻撃するセイバーに、アルゴールは巨大化した腕で振り払おうとする。しかし、セイバーに掻い潜るように避けられて有効な一撃を出せないでいた。
「何故だ何故だ何故だ!? アルゴールは魔王だぞ!! なのに名無し風情に、どうしていい様にやられてるんだ!!?」
「………それはお前のミスじゃないのか?」
空中で地団駄を踏むルイオスに静かに言い返す。
「単純な力押ししか命令しない、アルゴールの特性も生かし切れていない。だから動きが読み易くて俺達に反撃を許している」
アルゴールは決して弱くは無い。力もスピードも、聖杯戦争で戦った上位のサーヴァント達以上にある。まさに魔王の名に相応しい実力と言えるだろう。だがルイオスの指示が的確では無いのだ。巨大化にしたって、あれで力は上がっているのかもしれないがリーチの長さが仇となっている。だから懐に入られたセイバーにいい様にやられているのだ。
「はっきり言って、指揮が杜撰なんだ。ルイオス………ひょっとして、お前は一度も自分で戦った事が無いんじゃないか? だからアルゴールの力に頼った攻撃しか出来ないんだ。なにせ、お前自身がアルゴールの事を理解してないから」
「こ、の………言わせておけば、名無し風情があぁぁぁぁっ!!」
激昂と共に、空中にいたルイオスが急降下して自分へと向かってくる。その手には神霊殺しの鎌・ハルペー。速い、避け切れない―――!
「奏者!!」
慌てて駆け寄ろうとするセイバーに、髪の毛を無数の大蛇に変えたアルゴールが邪魔をする。蛇に手足を絡み取られて動けなくなるセイバー。そうしている内に、目の前にルイオスの凶刃が迫り―――
「喝っ!!」
十六夜の拳に阻まれた。
「なにっ!?」
「オラァっ!!」
驚愕するルイオスの顔に、十六夜の拳がめり込んだ。衝撃のあまり、ルイオスは地面にバウンドしながら転がっていく。
「油断大敵だぜ、岸波。指揮官もゲーム中は攻撃されるって事を忘れんな」
「ああ。ありがとう、十六夜」
聖杯戦争中、敵サーヴァントはマスターへの直接攻撃は禁止されていた。だから自分は攻撃を心配しないで指示を出せていた。でも、これは聖杯戦争じゃない。もっと周囲の状況にも気を配って戦わないといけないな。
「岸波のガードは任せておけ、皇帝様! なんなら、そっちも加勢してやろうか?」
「………ハッ、冗談を。この程度の相手に、助太刀など要らぬわ!!」
爆発する様な魔力の放射と共に、セイバーを縛り付けていた大蛇の群れが吹き飛ぶ。剣を構えなおすと、セイバーはアルゴールへ斬りかかった。
「返上するぞ!
目にも止まらぬ連続の斬撃は、アルゴールの髪の大蛇をバラバラに切り裂いた。のみならず、アルゴールの体に無数の切り傷を生じさせる。
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
「それは悲鳴か? 見苦しいものだな」
詰まらなそうに呟くセイバーに、ジンくんが慌てて叫んだ。
「い、今の内にトドメを! 石化のギフトを使わせては駄目です!!」
星霊アルゴールの真価は、身体能力とは別のところにある。世界を石化させる強大な呪いの力こそ、彼女の本領だ。
だが自分よりも、鼻血を流しながら起き上ったルイオスの指示の方が早かった。
「アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴らを殺せ!」
「RaAAAAA!! LaAAAAA!!」
謳う様な不協和音が周囲に響き渡る。途端に宮殿がドス黒く染まり、壁が生き物の様に脈打ち出した。宮殿一帯に広まった黒い染みから、次々と蛇の形をした怪物が出てくる。
「これは―――!」
「ゴーゴンは様々な悪魔を生み出した、って伝承があっただろ。それの具現化じゃね?」
襲い来る大蛇たちを蹴り飛ばしながら十六夜が言った。そもそも星霊はギフトを与える側の存在だ。アルゴールも、宮殿そのものに“怪物化”のギフトを与えたのだろう。壁や床から蛇蝎が次々と生み出され、いまや白亜の宮殿は魔宮と化していた。
「もうお前達は生きて帰さないっ! この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ! 貴様等の相手は魔王と宮殿そのもの! このギフトゲームの舞台に、貴様等の逃げ場は無いものと知れっ!!」
ルイオスの絶叫と、アルゴールの不協和音。それらが合わさり、柱は大蛇に姿を変え、床からは多頭の蛇が鎌首を上げる。まさに怪物の巣に落ちた様な状況にセイバーは、
「―――ハン」
鼻で笑ってみせた。
「闘技場そのものを怪物と為す………なるほど、流石はアルゴールの魔王。かのメデューサの首に据えられた星の悪魔に恥じぬ力よな」
目の前でセイバーを丸呑みに出来そうな大蛇が鎌首を持ち上げていても、彼女は余裕の態度を崩さなかった。
「だが………せっかくの奏者との第二幕に、この様な禍々しい舞台は相応しくない。余が一つ、世界を覆すとはどういう事か手本を見せてやろう」
こちらへ視線を飛ばすセイバーが何を言いたいのか察し―――力強く頷く。
「ああ―――! いまこそ見せてくれ! セイバーの、真の力を!!」
セイバーはフッと笑い、剣の切っ先を天へ向けて叫ぶ。
「レグナム・カエロラム・エト・ジェヘナ―――築かれよ、我が摩天! ここに至高の光を示せ!!」
詠唱と共に、
「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!
黄金の光が目を開けていられない程に強まり、全員が腕で目を庇う。光が収まると―――そこは怪物が跋扈する魔宮ではなくなっていた。
「これは、一体………!?」
黒ウサギの茫然とした声が聞こえた。さっきまでいたドス黒く染め上げられた宮殿はおろか怪物達も消え、代わりに壁から天井に至る一面を煌びやかな黄金で彩られた劇場の舞台に自分達はいた。天井からは深紅の薔薇の花弁が舞い、魔物の住処は豪華絢爛な劇場へと姿を変えていた。その舞台の中心に、さながら主役の如くセイバーが毅然と立っていた。
「これぞ芸術に身を奉げた余の至高の舞台! 箱庭に住まう神々よ、ご照覧あれ! 万象を可能とする我が絶対皇帝圏―――
宣言と共に、セイバーの魔力が増大する。ここはセイバーの領域だ。たとえ星を司る悪魔といえど、彼女の支配下から逃れることは出来ない。
「ローマの皇帝、それに黄金の劇場………そうか、皇帝様の正体は―――!」
「何なんだ………何なんだ、お前はぁぁぁぁッ!!?」
十六夜の確信と錯乱したルイオスの絶叫。それらを受けて、黄金劇場の主にして悪名高き暴君は高らかに名乗り上げる。
「我が
セイバーの真名はネロだったんだよ!
な、なんだってーーー!(AA略)
そんなわけで第13話です。多分、次くらいで原作小説1巻が終わります。その後に番外編を書いて、二巻目に突入です。
筆者の引っ越しも間近に迫っており、更新が滞るかもしれませんが最後までお付き合い頂ければ幸いです。それではまた。