月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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*目次から見れなかった為、再投稿しました。


第4話「飛鳥はちゅーちゅーされるそうですよ? 前編」

―――Interlude

 

 ―――境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”運営本陣営。

 真っ赤な境界壁を削り出すように造られた宮殿と直結したゲーム会場。そのゲーム会場は輪郭を円状に造られており、それを取り囲む形で客席が設けられている。現在は白夜叉の持っていたチラシのギフトゲームが開催されており、その舞台上では最後の決勝枠が争われていた。

 

「ふっ!」

 

 セイバーは自身の剣を盾にして、前へと突き出す。舞台で戦っているのは“ノーネーム”の春日部耀とサポートのセイバー、そして“ロックイーター”のコミュニティに属する自動人形(オートマター)、石垣の巨人だ。巨大な岩の拳を難なく受け止めたセイバーは、返礼とばかりに巨人の腕を斬り落した。

 

「ヨウ、今だ!」

「うん。これで、終わり………!」

 

 鷲獅子から受け取ったギフトで旋風を操る耀は、石垣の巨人の背後に飛翔し、その後頭部を蹴り崩す。加えて耀は瞬時に自分の体重を“象”へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒した。石垣の巨人が倒れると同時に、割れる様な観衆の声が起こった。

 

『お嬢おおおおおお! うおおおおおお! お嬢おおおおおお!』

 

 レティシア達に連れて来られた三毛猫が、セコンド席から雄叫びを上げていた。傍目にはニャーニャーと言っているだけだが、耀には聞き分けられたのだろう。目くばせと片手を向け、微笑を見せる。

 そんな中、宮殿のバルコニーから白夜叉が高らかに声を上げた。

 

「最後の勝者は“ノーネーム”出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっている。明日以降のゲームルールは………ふむ。ルールはもう一人の“主催者”にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

 白夜叉が振り返り、宮殿のバルコニーの中心を譲る。舞台会場が一望できるそのテラスに現れたのは、深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女。

 龍の純血種―――星海龍王の龍角を継承した、新たな“階層支配者”。

 彼女の名はサンドラ。炎の龍紋を掲げる“サラマンドラ”の幼き頭首だ。華美装飾を身に纏った彼女は玉座から立ち上がる。観衆に気付かれない様に深呼吸をすると、笑顔を浮かべて凛とした声音で挨拶した。

 

「ご紹介に預かりました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故もなく、進行に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームについては御手持ちの招待状をご覧ください」

 

 観衆が招待状を手に取る。

 書き記されたインクは直線と曲線に分解しながら、別の文章を紡ぎ出す。

 

『ギフトゲーム名“造物主達の決闘”

 

・決勝参加コミュニティ

 ・ゲームマスター・“サラマンドラ”

 ・プレイヤー・“ウィル・オ・ウィスプ”

 ・プレイヤー・“ラッテンフェンガー”

 ・プレイヤー・“ノーネーム”

 

・決勝ゲームルール

 ・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。

 ・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される。

 ・ゲームのクリアは登録されたギフトの保持者の手で行う事。

 ・総当り戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝。

 ・優勝者はゲームマスターと対峙。

   

・授与される恩恵に関して

 ・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。

                             “サウザンドアイズ”印

                               “サラマンドラ”印』

 

 此れにて本日の大祭はお開きとなった。日も傾き始め、巨大な境界壁の影が街を包み始める。黄昏時を彷彿させる街の装いは宵闇に覆われ、昼の煌きとは別の姿を見せ始める。月明かりを遮る赤壁の街は、巨大なペンダントライトだけが唯一の標としてゆらゆらと灯りを燈している。悪鬼羅刹が魍魎跋扈する北との境界線は、夜の街に姿を変えて目覚め始めていく。

 

―――Interlude out

 

 

 

 夕暮れが過ぎ、空は鮮血の様に紅い西側を残して夜の帳が降り始める。自分はレティシアに抱えられて上空から街を見下ろしていた。

 

「飛鳥は居たか?」

「いや、こっちにはいない」

 

 魔力で水増しした視力で街の通りを眺めていく。望遠鏡で覗いている様に強化された視界は、しかし、飛鳥の姿を捉える事は出来なかった。

 街はペンダントランプに照らされ、昼間とはまた違った装いを見せていた。だが、どれほど美しく見せても夜は夜。闇に乗じて善からぬ輩が動き出す時間帯だ。

 

「すまない、私の落ち度だ。あの時に飛鳥を止めていれば………!」

「いや、それなら俺も同罪だよ。北側の治安の悪さを自覚すべきだった」

 

 悔恨の表情を浮かべるレティシアを慰める。どうしてあの女の子が人攫いを警戒したか分かった。街からは否応なしに不穏な気配が高まっていくのを感じる。悪鬼羅刹が跋扈する街だけに、夜の闇が魔性を引き出しているのだろう。

 

「これで粗方の場所は調べ終わったか。なのに見つからないなんて………白野、君の力で探せないか? 確か、地図を出すギフトがあっただろう?」

「街一つは無理だな。せめて、目星のついた区画なら出来るけど………」

 

 元々、コード:view_map()はアリーナの階層データを表示させるもの。アリーナも広大ではあったけど、街そのものとは比べものにならない。範囲を拡大させる様に術式(プログラム)を改竄しても、自分の魔力が追い付かないだろう。

 

「外は粗方、探し終わった………そうだ、屋内はどうだ!? 境界壁の麓で展示物が公開されていたはずだ!」

「分かった、そこを中心に探してみよう!」

 

 翼を羽ばたかせ、レティシアは境界壁を目指して飛行する。お姫様抱っこみたいな形で抱えられたが、気にしている場合じゃない。レティシアの腕の中で急いで術式を構築する。

 飛行速度は速く、周りの景色を映像の早送りの様に飛ばしていき、巨大な赤壁に近づいていく。

 

「着いたぞ、境界壁だ!」

「よし……コード:view_map()、発動!」

 

 組み終わった術式を展開する。展開された術式は0と1の無数の数字を織りなし、自分の目の前にホログラムの地図を浮かび上がらせた。

 

「見つけた! でも、これは………!」

 

 境界壁付近の地図に飛鳥の居場所を見つけて、驚きの余りに声を詰まらせてしまった。

 境界壁の内部に飛鳥はいた。地図から察するに、赤壁を掘り進んで作った建物内だろう。しかし飛鳥を示すマーカーは、敵を示すマーカーが無数に取り囲んでいた―――。

 

 

 

―――Interlude out

 

 

 

 ―――境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出展会場。

 時は黄昏時にまで遡る。

 とんがり帽子の精霊に追いついた飛鳥は、彼女(?)を肩に乗せて街道を散策していた。

 

「別に取って食おう、というわけじゃないの。ただ旅の道連れが欲しかっただけよ」

「………………」

 

 精霊は肩の上で大の字に寝そべり、「ひゃ~」と疲れ切った声を上げている。

 飛鳥麓の売店で買ったクッキーを割って、とんがり帽子の精霊に分け与えた。

 

「はい、これ。友達の証よ」

「――――――!」

 

 ガバ!! と甘い匂いに釣られて起き上がるとんがり帽子の精霊。焼きたてのクッキーはアーモンドの香ばしい薫りとキャラメルの焼けた薫りが混じり合い、追いかけっこで疲労した精霊の食欲を刺激した。自分の背丈程のクッキーをシャリシャリと齧ったとんがり帽子の精霊は「キャッキャッ♪」と愛らしい声を上げて飛鳥の頭の上まで登る。

 ―――飛鳥はこっそりと思った。「餌付けは成功したようね」、と。

 

「それじゃ、仲良くなったところで自己紹介しましょうか。私は久遠飛鳥よ。言える?」

「………あすかー?」

「ちょっと伸ばしすぎね。締まりが無くてだらしがないわ。もう少し最後をメリハリつけて」

「………あすかっ?」

「もう少しよ。頑張って。最後を綺麗に区切って発音するの」

 

 幼い口調のとんがり帽子の精霊は二度三度と頭を横に振り、小首を傾げて名前を呼んだ。

 

「………あすか?」

「そう。その発音で元気よく、疑問形抜きで」

「………あすか!」

「ふふ、ありがとう。それじゃあ貴方の名前を教えてもらえるかしら?」

 

 とんがり帽子の精霊は飛鳥の頭上で立ち上がり、元気よく答えた。

 

「らってんふぇんがー!」

「……? ラッテン………?」

 

 やや驚いた顔をする飛鳥。絵本の小人の様に愛らしい精霊の名前にしては、厳ついイメージがある。とんがり帽子の精霊を摘み上げ、両手に乗せた飛鳥は、

 

「それ、貴女の名前?」

「んー、こみゅ!」

「こみゅ………コミュニティの名前ってこと? じゃあ貴女の名前は?」

「?」

 

 意味が分からない、という風に首を傾げる精霊。

 ふと、レティシアがとんがり帽子の精霊を“群体精霊”と呼んでいた事を思い出す。言葉通りに受け取るなら、この精霊は群体で一つの存在となる精霊。ひょっとすると、個別の名前が無いのかもしれない。

 

(だとしても、もっと愛らしい名前で呼んであげたいわよね………)

 

 これ程に可愛らしい姿をもって生まれたのだ。ならば、相応の名前をつけてあげたいと飛鳥は思案する。

 

「せっかくだから、私が名前をつけてあげましょうか?」

「んーん、らってんふぇんがー」

「ええ。だからそのラッテンフェンガーという名前以外に、」

「んーん、まきえ」

 

 とんがり帽子の精霊は、手の平の上で首を振って否定する。

 

「らってんふぇんがー、まきえ」

「………マキエ? それが貴女の名前?」

「んーん。らってんふぇんがー!」

 

 要領が掴めないまま、飛鳥は溜息をつく。コミュニケーションが取れないのでは仕方ない。名前の事は一度諦め、とんがり帽子の精霊と共に洞穴にある展覧会を見て回ることにした。

 巨大なペンダントランプがシンボルの街だけあって、出展物には趣向を凝らしたキャンドルグラスやランタン、大小様々なステンドグラスが飾られていた。

 

「凄い数………こんなに多くのコミュニティが出展しているのね」

 

 飛鳥は展示会場の岩棚や天井を見回し、感心した様に呟いた。

 

(この銀のキャンドルスタンドは………“ウィルオ・ウィスプ”製作ですって? あの歩くキャンドルを作ったコミュニティじゃない。こっちの猫の彫刻は“ロック・イーター”製作、か。これは………虎柄の水筒?)

 

 途中に微妙な物もあったが、どの展示品も製作者の並ならぬ熱意が伝わる出来だった。展示品の前に飾られた出展コミュニティの旗印と名前を見ながら、飛鳥は奥へと進む。

 最奥は大空洞となっており、広さから考えてここが会場の中心になるのだろう。急に開けた場所に出た飛鳥だが、周囲の雑踏を見回すことなく、大空洞の中心にある展示物に目を奪われた。

 

「あれは………!」

 

 人混みも、周囲の喧騒も、他の展示品も、何もかもが眼の前に飾られた巨大な展示品の衝撃に掻き消された。大空洞の中心に展示されたモノは飛鳥をそこまで驚愕させる程の、今までの展示品とは比べ物にならないインパクトがあったのだ。

 

「紅い………紅い鋼の巨人?」

「おっき!」

 

 そう。全身が夕焼け空の様に紅く、身の丈は三十尺はありそうな鋼の巨人。それが大空洞の中心に飾られていた。

 朱と金の華美な装飾に加え、胸元には太陽の光をモチーフにした刻印。どんな材質で出来ているか分からないが、装飾や造形は一級の職人が腕を振るったと分かる展示物だった。

 

「すごいわね………。いったい、どこのコミュニティが作ったのかしら?」

「あすか! らってんふぇんがー!」

 

 鋼の巨人に感嘆の溜息をついていると、突然とんがり帽子の精霊が跳び上がって巨人の足元を指差した。そこには確かに、『制作・ラッテンフェンガー 作名・ディーン』と記されていた。飛鳥は今度こそ驚いたように声を上げる。

 

「あなたのコミュニティが作ったの?」

「えっへん!」

 

 誇らしげに胸をはる精霊。“群体精霊”と称された小さな精霊がこの巨躯の鉄人形を作り上げたのなら、それは凄まじき労力だろう。人間でも百人集まってもかなりの労力となるだろうに、彼女のような小さな精霊が作ったのだ。例え千の数がいようと簡単にできることではないだろう。

 

「凄いのね、あなたのコミュニティは………。見た感じ、ここの大空洞に集められた展示品がメインの扱いみたいね。貴方達のコミュニティがギフトゲームの勝者になるかもしれないわ」

 

 飛鳥はとんがり帽子の精霊へと笑みを向けながら、他の展示品を見て回ろうと足を運ぶ。

 

 ―――異変はその直後に起きた。

 

「………きゃ……!?」

 

 ヒュウッ、と一陣の風が吹き、大空洞内の篝火が一斉に消えた。突然、暗闇に包まれて混乱する他の観客達。だが次の瞬間、聞こえてきた不気味な声に全員が身を凍らせた。

 

『ミツケタ………ヨウヤクミツケタゾ!』

 

 怨嗟と妄執が入り混じった、おどろおどろしい声。それが洞窟内に響き渡り、人々のパニックを増長させる。飛鳥は声の出所を探そうと辺りを見回したが、暗闇で見通しが悪い上に、声が反響してどこから響いているのか掴めないでいた。

 

『嗚呼、見ツケタ………! “ラッテンフェンガー”ノ名ヲ語ル不埒者ッ!!』

「この臆病者! 姿を現しなさい(・・・・・・・)!」

 

 不気味な声の主に、飛鳥は“威光”で命令した。すると、それに応える様に五感を刺激する様な笛の音が、どこからか鳴り響く。その音の先………闇の向こうから何千、何万という赤い目が飛鳥を睨んだ。

 それを確認すると同時に、誰かの叫び声が大空洞に響いた。

 

「ネ、ネズミだ! ネズミの群れだ!!」

 

 そう。闇の向こうにいたのは、壁にまで至る一面をビッシリと埋め尽くす程のネズミの大群だった。それらがキーキーと耳障りな鳴き声を上げながら、一斉に襲い掛かってきた。これには流石の飛鳥も背筋に悪寒が走った。

 

「で、出て来なさいとは言ったけど………いくらなんでも出過ぎでしょう!?」

 

 ひゃー、と悲鳴を上げるとんがり帽子の精霊。

 飛鳥ととんがり帽子の精霊は、何万匹ものネズミたちに背を向けて一目散に逃げ出した。他の衆人も同様だ。狭い洞穴を所狭しと駆け回り、出口付近ではパニックになりつつある。

 

「も、もういいわ! 大人しく巣に戻りなさい(・・・・・・・・・・・)!!」

 

 飛鳥の大一喝。しかし、ネズミ達は飛鳥の命令に従わなかった。

 支配する事が出来ずに焦る飛鳥。ネズミの群れは飛鳥に跳びかかる。とっさに、“フォレス・ガロ”のゲームで手に入れた白銀の十字剣を召喚する。

 

「こ、このっ………!」

 

 剣を正眼に構え、薙ぎ払う。

 しかし破邪の力を秘めた剣も、ただのネズミ相手では分が悪い。飛鳥の振るった剣は、数匹を切り裂いただけにとどまった。相手は何万匹もいるのだ。数匹を潰された所で、痛くも痒くも無いだろう。

 

「だったら………!」

 

 飛鳥は再び、ギフトカードを構える。

 何万匹もの相手を素直に相手してはいられない。ここは逃げる為にも時間稼ぎが必要だった。

 

(使わせてもらうわよ………セイバー、岸波君!)

 

 万感の思いを込め、友人達から贈られたギフトを思い浮かべる。ギフトカードには、“威光”の下に“サーヴァント・ドール”の文字が。

 

「来なさい、ドール!!」

 

 ギフトカードから光が溢れ、一つの人影が飛び出した。

 光が収まると、飛鳥の目の前には目鼻の無い、ツルッとした顔のマネキンが立っていた。

 

 

 




相変わらずの遅筆………でも良いんだ、書きたい展開を書いているから。

と開き直る作者であった。

飛鳥のギフト“サーヴァント・ドール”は聖杯戦争の予選で出てきた、あの人形です。マスターの戦闘を代行するだけの簡素なギフト。

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