月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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どうにも、最近満足のいく文章を書けてない気がする・・・・・・。そんな第6話。





第6話「報酬は、ギフトカードへ」

 美術展の襲撃から数時間後、レティシアとジンくんを除いた“ノーネーム”一同は白夜叉の私室に集まっていた。

 

「それでは皆の者よ。第一回、黒ウサギの衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません」

「始めます!」

「始めませんっ!」

「うむ! ここは余の秘蔵の一品を」

「って、何ですかそのピチピチなウェディングドレスは!?」

 白夜叉に悪ノリする十六夜とセイバー。速攻で断じる黒ウサギ。というか、持っていたのかその花嫁衣装・・・・・・。

 

「ま、冗談はさておき・・・・・・黒ウサギには明日の決勝で審判を務めてもらいたい」

「あやや。それはまた突然ですね?」

「うむ。おんしらが起こした騒ぎで“月の兎”が来ていると公になっての。明日のギフトゲームで見られる、と期待が高まっているらしい。“箱庭の貴族”が来臨したという噂が出た以上、出さぬわけにもいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼したい。別途で金銭も用意しよう」

 

 なるほど、と一同で頷く。聞くと十六夜と黒ウサギは、昼間の追いかけっこを大勢の人間に見られたらしい。そういえば飛鳥を探している時も、黒ウサギ達を見に行こうとした人達で道が混雑していたな。

 

「分かりました。そういう事情ならば、是非ともやらせて下さい」

「よろしく頼む。・・・・・・・・・それで、明日の衣装は例のシースルーのビスチェスカートを」

「着ません」

「では余の花嫁衣装を」

「そっちも着ません! どんだけピッチリスーツを着せたいんですか!?」

 

 ここぞとばかりに主張するセイバーに、ウサ耳を逆立てる黒ウサギ。一方、それまで無関心だった耀は、思い出した様に白夜叉に向き直る。

 

「白夜叉、私達が明日戦う相手はどんなコミュニティ?」

「すまんが、それは教えられん。主催者がそれを語るのはフェアでなかろう? 教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」

 

 パチンと指を鳴らす白夜叉。

 全員の目の前に、明日のギフトゲームの内容を記した羊皮紙が現れた。その羊皮紙を見て、十六夜が物騒に笑う。

 

「へえ? “ウィル・オ・ウィスプ”に、“ラッテンフェンガー”か。明日の敵は、幽霊とハーメルンの笛吹きか?」

 

 え? と思わず、声が出た。

 しかしそれは、黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声にかき消された。

 

「ハ、ハーメルンの笛吹きですか!?」

「おい、小僧。どういう事だ。詳しく話せ」

 

 剣呑さすらを感じる白夜叉の厳しい声に、十六夜は目を瞬かせる。それだけ二人の驚き様は尋常ではなかった。

 

「どういうこと? 明日の相手がハーメルンの笛吹きだと、何か問題があるのか?」

「・・・・・・そういえば白野にはまだ知らせていなかったな」

 

 白夜叉が柏手を打つと、自分の目の前に先程とは別の羊皮紙が現れる。そこには簡素に、しかし重大な一文が書かれていた。

 

『北の火龍誕生祭に、魔王襲来の兆しあり』

 

「これは?」

「“サウザンドアイズ”の幹部が未来予知したものだ。的中率は、上に投げれば下に落ちるといったところか」

「ほぼ確実、か。防ぐ手立ては無いのか?」

 

 上から下に落ちる事が事前に分かるという事は、いつ、どこで、誰が投げたかも分かるという事だ。それならば、事を起こす張本人を捕まえればいい。だが、白夜叉の表情は硬かった。

 

「うむ。それなんだが・・・・・・首謀者は北の階層支配者の可能性があるのだ」

「なん・・・・・・だと・・・・・・?」

 

 白夜叉の詳しい話はこうだった。

 予知の内容は白夜叉も知らされてないそうだ。“サウザンドアイズ”のリーダーの命令で、詳細は予言者の胸の中だ。

 だが渡された情報から推察は出来る。新たな“サラマンドラ”の頭首を快く思わない他の階級支配者、魔王襲来の預言、そして自分の上司が口止めをした首謀者。これらを組み合わせるとーーー必然的に、他の階層支配者が魔王を招いた可能性が浮上する。

 

「・・・・・・・・・それと、ハーメルンの笛吹きにどんな関係が?」

 

 本来なら下位のコミュニティを守護する階層支配者が、魔王と手を組んだという話に、思う所はある。でも今は目前の相手の方が気掛かりだ。

 

「おんし等は知らぬだろうが・・・・・・“ハーメルンの笛吹き”とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

 

 場の緊張感が一気に高まる。全員が白夜叉を注視する中、白夜叉と黒ウサギは説明を続けた。

 

「魔王のコミュニティの名は“幻想魔導書群(グリムグリモワール)。全ニ○○編に及ぶ魔書から悪魔を呼び出した驚異の召喚士が総ていたコミュニティだ」

「その魔王は既にこの世を去っています。ですが、例の予言もあります。滅びた魔王の残党が“ラッテンフェンガー”を名乗っている可能性が高いのです」

 

 “ラッテンフェンガー”というのは、ドイツ語で『ネズミ取りの男』を示す隠語だ。『ハーメルンの笛吹き』の舞台となったハーメルンの街には、こんな碑文が残されている。

 

『一ニ八四年 ヨハネとパウロの年 六月ニ六日

 

あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三○人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した』

 

 この碑文を基に作られたのが、自分もよく知るネズミ取りの笛吹きの話だ。

 

「いずれにせよ、“ラッテンフェンガー”には警戒した方が良さそうだな。無論、打てる手は既に打ってあるが」

「ほう? どんな手を打ったのだ?」

 

 興味深そうにセイバーが尋ねると、白夜叉は無言で宙に手をかざした。すると、そこに一枚のギアスロールが現れる。

 

『§ 火龍誕生祭 §

 

・参加に際する諸事項欄

 

一、一般参加は舞台区画内・自由区画内でコミュニティ間のギフトゲーム開催を禁ず。

        

二、"主催者権限"を所持する参加者は、祭典のホストの許可無く入る事を禁ず。

 

三、祭典区画内で参加者の"主催者権限"の使用を禁ず。

 

四、祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁ず。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                                   “サウザンドアイズ”印

                “サラマンドラ”印』

 

「この様に、私の主催者権限を用いて祭典の参加ルールに条件を加えさせて貰った」

「”参加者以外はゲーム内に入れない”、”特例を除き参加者は主催者権限を使用できない”。確かにこのルールなら魔王が襲ってきても”主催者権限”を使うのは不可能ですね」

「うむ。押さえる所は押さえたはずだ」

 そうだろうか? 黒ウサギが安心そうに頷いているが、本当にこれで魔王襲来を防げるのか不安が拭えなかった。

 この世に絶対なんてない。正規のルートでないと攻略不可能だったムーンセルが一人のAIの手に堕ちた様に、白夜叉の主催者権限を飛び越えて魔王が襲って来ないか心配だった。なによりーーー

 

(昼間に会った女の子・・・・・・確か“ハーメルンの笛吹きの旗”と言ってたはずだ。まさか、彼女は魔王一派だったのか?)

 

 まだ“ラッテンフェンガー”が魔王と決まったわけではないけど、去り際に“ノーネーム”を従わせる、と宣言した少女の事が気掛かりだった。

 

「アスカ? どうかしたのか?」

 

 ふと顔を上げると、セイバーが怪訝そうに飛鳥を見ていた。飛鳥は何でもない、と答えると胸元を握り締めていた。

 

(そういえば・・・・・・飛鳥は“ネズミの大群”に襲われていたんだよな)

 

 かつての魔王配下、“ハーメルンの笛吹き”。それを示す様な名前のコミュニティ、そして襲って来た“ネズミの大群”。

 白夜叉の主催者権限は確かに見事だ。これなら魔王が現れても力を振るえないだろう。

 でも、ひょっとすると。自分達は既に、先手を取られているのではないかーーー?

 

「そう心配するな。私は東側最強のフロアマスターだぞ」

 

 自分の不安を感じ取ったのか、白夜叉が緊張を解す様に話しかけてきた。

 

「仮に魔王が現れたとしても、返り討ちにするだけの力はある。おんしらはサンドラと共に露払いを頼む」

「分かった。魔王が来たら、力を合わせよう」

 

 何にせよ、魔王の襲来は約束されているのだ。それなら今更ジタバタした所で意味はない。

 来ると分かっているなら、こちらも準備をして迎え撃つ。そう心に決めて、力強く頷いた。

 

「うむ、頼りにしておるぞ・・・・・・っと、そうだ。白野よ、以前に依頼した件をご苦労だった」

 

 一瞬、何の事か分からなかったが、すぐに思い出した。そういえば今朝、賭博コミュニティを壊滅させた事を白夜叉に伝えてなかった。

 

「詳細はセイバー殿から聞いておる。おんしらのお陰で東側の秩序は守られた。改めて礼を言わせて貰う」

「いいよ、そんな照れ臭い」

「まさかコミュニティを壊滅に追い込むとはな。依頼金以外に何か報酬を渡したいが・・・・・・おお、そうだ」

 

 不意に何かを思い出した白夜叉は、柏手を一つ打つ。すると、目の前に一つの物品が現れた。それが何か確認した途端、急な頭痛と既視感が頭によぎった。

 この感覚には覚えがある。これは箱庭でセイバーの剣を初めて見た時と同じーーー。

 考え込んでいると、後ろからヒョイと十六夜が覗き込んだ。

 

「何だこりゃ。銅鏡か?」

「おう。しかもただの鏡では無いぞ。これは八咫鏡だ」

「八咫鏡って・・・・・・天照大神の御神体じゃないですか!?」

 

 黒ウサギが目を剥いて驚くが、無理もない。あまりに有名な名前が出て、自分も目を白黒させていた。

 その昔、天照大神が岩戸へ引きこもり、世界が太陽のない暗闇に包まれた。この事態に日本の神々は、岩戸の前で宴を開いて「新たな神が降臨した」と騒ぎ立てた。新たな神がどんな者か一目見ようとした天照大神が岩戸を少し開けると、そこにあった鏡に写った自分の姿を降臨した神だと勘違いして、我慢出来ずに岩戸を開け放ってしまう。

 これが、かの有名な『岩戸隠れ』の神話だ。その後、天照大神が八咫鏡を自分自身と思って奉る様に命じた事で、この鏡は天照大神の御神体となったのだ。目の前の八咫鏡は、かなり年季が入った品でありながら、手を触れずとも分かる魔力を感じた。これが、あの八咫鏡なのだろうか?

 

「これ・・・・・・本物なの?」

「逆に偽物であったら、本物は手に負えぬぞ」

 

 恐る恐ると聞く飛鳥に、セイバーは断言する。

 

「長く存在した品物は、それだけで魔力を帯びると聞くが・・・・・・これ程とはな」

「ああ。これはもう、現存する宝具と言うべきだな」

 

 しかし、そんな物をどうして白夜叉は持っているのだろうか? その疑問は、白夜叉が答えてくれた。

 

「これはな、箱庭の上層に住む神の一人から貰った品の一つよ。そやつとギフトゲームをした時に勝ち取った、秘蔵の逸品というわけだ」

「上層の神・・・・・・」

「まあ、あやつの事はどうでも良い。そもそも、この鏡はあやつしか使えぬからな」

「え? 白夜叉にも使えないのか?」

「太陽を象徴するギフトだから、私にも使用権があると思ったが・・・・・・どうも天照大神の眷属でないと意味を為さぬらしい。こんな物を渡すとは、あやつの性根の悪さが伺えるわ」

 

 余程鬱憤が溜まっているのか、白夜叉は苦々しい顔で鼻を鳴らしていた。勝ち取った賞品に、珍しいが使い道の無い骨董品を渡されたのが腹立たしいのだろう。

 

「でも、そんなギフトをどうして俺に? 今の話だと、俺どころか“ノーネーム”が持っても意味は無さそうだけど」

「これを使って、英霊の召喚を見せて欲しい」

 

 まるで明日の天気を聞く様に、あっけらかんと言う白夜叉。驚く自分より先に、先を続ける。

 

「おんしが“ノーネーム”が保管していたギフトからセイバー殿を召喚したのは聞いている。ならばこの使い道の無いギフトも、おんしならば新たな英霊を呼び出せるやもしれん」

「それは・・・・・・でも、“ノーネーム”にあったギフトでは軒並み失敗だったよ?」

「モノは試しだ。おんしが本当に英霊の召喚を行えるか、見せて欲しいのだ」

 

 いつになく真剣な真剣な白夜叉。周りを見ると、“ノーネーム”の面々も自分に注目していた。

 

「試してみれば良いではないか」

「セイバー・・・・・・」

「奏者よ。そなたのギフトは、余も把握し切れぬ。ならば試行錯誤をするしかなかろう。これでサーヴァントを喚べれば、新たな戦力になるしな」

「・・・・・・分かった」

 

 八咫鏡に手を置き、意識を集中させる。頭の中で必要なプログラムを思い浮かべ、構築。そしてーーー

 

「――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 詠唱と共に、魔術回路を加速させる。頭に浮かんだ呪文を、そのまま言葉にしていく。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者」

 

 手から漏れた光は、0と1の形を成って配列される。

やがて、六芒星を中心とした魔法陣の形に固定された。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ・・・・・・天秤の守り手よ―――!」

 

 出来上がった魔法陣へ、全ての魔力を込める様に渾身の力を込める! そしてーーー!

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「何も、起きないな」

 

 うんともすんとも言わない魔法陣の前に、十六夜が目を細める。

 

「っ、これ以上は無理だ」

 

 魔力を供給しきれず、魔法陣が霧散する。途端に全身の力が抜ける様な虚脱感がのしかかった。

 

「失敗か。まあ、そう都合よく召喚は出来ないか」

「すまない。期待を裏切る様な結果になったな」

 

 頭を下げる自分に、白夜叉は気にするなと手を振る。

 

「でも、セイバーの召喚は上手くいったんだよね? セイバーの時と何か違うのかな?」

「それなのだかな。余は奏者に召喚されたわけでは無いぞ」

 

 首を傾げる耀に、セイバーは難しい顔で答えた。

 

「余は奏者が来る前から“原初の火(アエストゥス・ エストゥス)”と共にいた。奏者は余を実体化させてくれたに過ぎぬ」

「つまり、岸波が英霊を召喚できるという前提が間違いという可能性もあるわけだな」

 

 十六夜が考え込む様に、顎に手を添える。言われてみれば、もっともな話だ。聖杯戦争では、英霊の召喚自体はムーンセルが行っていたのだ。そのムーンセルは自分が封印したから、もう使えない。つまり新たに英霊を召喚できる可能性は無いのだ。セイバーは特例中の特例だったのだろう。しかしーーー

 

(この八咫鏡・・・・・・どこかで見たことがある。でもセイバーはもちろん、対戦相手もこんな物を持ってなかった。じゃあ、この既視感は一体・・・・・・・・・?)

 

「そのギフト、気になるなら持っていて良いぞ」

 

 自分の心中を見透かした様に、白夜叉があっさりと言った。

 

「良いのか? 貴重なギフトなんだろ?」

「良い。私が持っても無用の長物だからな。そもそも、あやつが他人に渡す品にロクな物があった試しがない」

「さっきから気になるけど・・・・・・これを渡した相手って、苦手な相手だったのか?」

「苦手、といよりも関わりたくないだな。もしあの女狐が引きこもっていなければ、箱庭の四大問題児に数えているところだ」

 

 苦々しく呟く白夜叉を見ると、相当性格の悪い相手だったのだろうか? そう思いつつ、八咫鏡をギフトカードへ仕舞った。

 

 

 

 


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