月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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ハロウィンに遅れに遅れて、やっとジャックの登場です。

それとギャグシーンってとても難しいと思う。


第7話「不死の悪魔VS剣の英霊」

―――境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”会場。

 

『長らくお待たせしました! 火龍誕生祭のメインギフトゲーム、“造物主の決闘”を開催いたします! 進行及び審判は、この黒ウサギめが務めさせて頂きます♪』

 

 雲一つなく晴れ渡った空の下、円形の競技場(コロシアム)の舞台で黒ウサギが開催の宣言をすると、観客席からは割れんばかりの歓声が広がった。

 

「うおおおおおおおおおおっ!! 黒ウサギィィィィィィッ!!」

「月の兎キターーーーーーーーーーッ!!」

「ネ申 降 臨!!」

「黒ウサギなら俺の隣で寝てますが何か?」

「残念、それは私のおいなりさんだ」

 

 訂正。割れんばかりの奇声が観客席に広がった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。随分と人気なのね」

 

 白夜叉の計らいで用意された貴賓席で、隣の飛鳥は観客席に絶対零度の視線を送っていた。視線の先では、オタクファッションなネコミミナマモノを先頭とした一団が独特な振り付けで踊っている。あのナマモノ、どこかで見たような………?

 

「まあ黒ウサギの見た目は可愛いからな。しかしそれを置いても、この熱狂は凄いな」

「ジャッジマスターである“箱庭の貴族”が審判ということは、両コミュニティが誇りの下に戦ったとして箱庭の中枢へ記録される名誉なんです」

 

 上座から、北側の新たなフロアマスターのサンドラが説明をしてくれた。彼女の隣には兄であり、“サラマンドラ”のナンバー2のマンドラが控えている。

 こちらの視線に気付いたのか、マンドラはギロリと自分を睨み付ける。慌てて顔を逸らし、舞台へと向き直った。その時、十六夜が何かを思い出した様に白夜叉に話し掛ける。

 

「そういえば白夜叉。黒ウサギのスカートが見えそうで見えないギフトとは、どういうことだコラ。今どきチラリズムは古いだろ」

「フン、おんしもその程度の漢であったか。あそこの有象無象となんら変わらない、真の芸術を解せぬ愚か者だ」

 

 白夜叉はオペラグラスから目を離し、憐れみをも含めた目つきで十六夜を見る。

 

「おんしら人類は何を原動力に栄えてきた? エロか? 成る程、それもあろう。しかし時としてそれを大きく上回る力---それが想像力。すなわち未知への期待! モナリザの美女の謎、ヴィーナス像の失われた腕。それらに宿る神秘は永遠に到れぬ幻想でありながら、やがて一つの境地へ昇華される。何物に勝る芸術とは、すなわち―――己が宇宙の中にある!!」

「宇宙、だと・・・・・・・・・!?」

 

 ズドオオオオォォォォンッ!! と効果音をつけて力説する白夜叉に、十六夜が膠着する。

 

「乙女のスカートは中も、また然り! そう、下着とは見えぬからこそ意味がある!!」

「あのさ。もっともらしく言ってるけど、スカートの中を覗きたいだけだよな?」

「それは違うぞ!!」

 

 トンデモ理論に頭を抱えながら反論すると、白夜叉はカットインが入る勢いで反論した。論破! という文字が見たのは気のせいにしておきたい。

 

「おんしはセイバー殿の普段着をどう見る?」

「どうって・・・・・・・・紅いな、とは思うよ」

「馬鹿者! それでも男か!?」

 

 クワッと目を見開き、こちらを見る白夜叉。

 

「スカートの前面を敢えて開ける事で乙女の神秘を晒すという前衛的発想! 私の観点からすれば邪道ではある。だが! 神秘とは常に明かされていく物。それを普段から近くで見ておきながら、何も感じぬと言うのか!!」

「そ、そうだったのか?」

 

 そう言われると、白夜叉の言ってる事が正しい様な・・・・・・・・・。言い淀んでいると、白夜叉は自分の肩に手を置いて正面から対峙した。

 

「セイバー殿は正しい評価を得られなかったとはいえ、芸術の徒だ。その主であるおんしが芸術にうとくてどうする? 成る程、異性の下着を見るのは恥ずべき行為だ。だが絵画には裸婦画という物がある。ピカソやモネはいやらしい感情でそれを描き上げただらうか? 否! 断じて否である! ここに宣言しよう、女体とはすなわち芸術であると!!」

 

 ぐるぐると欲望が渦巻いた目で白夜叉は語る。そ、そうダ、こレは芸術ダ。決シテイヤラシイモノジャナイ・・・・・・・・・。

 

「故に、黒ウサギの下着を覗くのは芸術鑑賞の一環である。おんしは絵画や彫刻を眺める人間を非難するか?」

「ウン、白夜叉ノ言ウ通リダ。何モ可笑シナ事ハナイ」

「って、洗脳されてどうするの!?」

 

 スパーン! と飛鳥のハリセン(ツッコミ)が頭の後ろで炸裂した。

 

 

 

―――Interlude

 

「むぅ・・・・・・・・・。何やら面白そうな話をしておるな」

 

 舞台上で、セイバーは白夜叉達がいる方向を睨みながら呟いた。

 

「そんな事が分かるの?」

「分かるとも。為政者たる者、耳聡くあるべきだからな。それに余のくせっ毛も反応しておる」

 

 不思議そうに尋ねる耀に、セイバーは自分の頭を指差した。

 

「余のくせっ毛は三割当たる!」

「超皇帝級の占い? って、それはどうでも良くて・・・・・・・・・」

 

 コホンと咳払いをすると、耀は極めて冷静にセイバーを指差した。

 

「その服は、何?」

「ああ、これか」

 

 セイバーが見せ付ける様にその場でターンをすると、観客席から一際大きなどよめきが上がった。気持ちは耀にも分かる。セイバーはいつも着ている深紅の舞踏服から、純白の花嫁衣裳に身を包んでいた。

 ただし普通の人から見れば、一般的な花嫁衣裳の想像からかなり外れているだろう。

 前面を大きく開けたスカート、両手首と首に巻かれた鎖。極めつけはセイバーの豊満なボディを強調するかの様な肌に密着した純白の衣装。あえて言おう。ぴっちりスーツだ。

 

「見ての通り花嫁衣裳だが?」

「うーん………中学生が大暴れした結果だと思った」

「おお、知っているぞ。チューニ病とかいう不治の病であろう? だが余が患ったのは頭痛だけだな」

 

「アーシャ=イグニファトゥス様、華麗に参上!!」

 

「確か、昨日から黒ウサギに着させようとした服だよね?」

「うむ。黒ウサギが、『そんなに言うならセイバーさんが着てみて下さい!』と、言うものだからな。余が率先して試着したというわけだ」

 

「あん? おかしな格好をした“名無し”がいるぞ! 皆で笑ってやろうぜ!」

 

「これで黒ウサギも大人しく着るであろう。余は約束を果たしたのだからな」

「黒ウサギ、ご愁傷様………セイバーはその服を着るのに抵抗は無かったの? その、身体のラインがはっきり見えてるけど」

 

「………おい、何か言えよ。ここまで言われて何とも思わないのか? “名無し”さんよぉ?」

 

「愚問だな。ヴィーナスも恥じ入る余の肢体を見せるのに、何の躊躇いがあろうか? いや、ない。反語!」

「アハハハ・・・・・・セイバーらしいね」

 

「おい、聞いてんのか!? いい加減、こっちを向きやがれ!!」

 

「そうだ、ヨウも着てみぬか? なんなら、余が直々にコーディネートしよう」

「え!? い、いやいいよ。今の服が気に入ってるし!」

「遠慮するでない。そなたは十分に美しい。しかし飾り気が足りぬのだ。野兎の様な純朴さも良いが、人として生まれたからには美しさを磨く事も覚えて損ではない」

「そう、なのかな? オシャレとかした事ないから分からないけど」

「では手始めに化粧から始めよう。それならば気軽に試せるであろう?」

「化粧か・・・・・・・・・まあ、それくらいなら」

 

「無・視・す・る・な~~~~~~~っ!!」

 

 競技場の歓声を上回る大音量でゴスロリ服の少女ーーーアーシャが叫んだ。

 

「てめえ等・・・・・・・・・“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ様をシカトするとは、いい度胸だなコラ」

「いやいや、全く注意を払わなかったワケでは無いぞ」

 

 ようやくセイバー達はアーシャへと向き直った。

 

「初見でそなたから感じとっていたぞ・・・・・・芸人のオーラを」

「うん、弄り甲斐がありそうな気がした」

「完全にナメてんじゃねえか!!」

「舐める? ふうむ、そなたも見た目は愛らしいから全身くまなく愛でても良いな」

「ハアハア……アーシャたんペロペロ、ハアハア」

「舐めるじゃなくてナ・メ・る! それとしれっと混ざってんじゃねえっ!!」

 

 ローアングルで撮影していたオタクナマモノを蹴っ飛ばすアーシャ。観客席へとぶっ飛ぶナマモノ。

 

『は、早くも両者から火花が散っている様デス。さっそく、ゲームの開始をします! 白夜叉様、お願いします!』

「承知した。おんし達の舞台はーーーこれだ!」

 

 黒ウサギからの要請を受けて、白夜叉は柏手を一つ鳴らす。するとセイバー達の周囲の景色が、劇的に変わる。

ま華鏡の様に目まぐるしく流れていき、やがて一つの場所に統一された。

 

「これは樹………なのか?」

 

 目の前に広がる森林を前に、セイバーは困惑した声を出した。森林の樹は、それぞれが頂点を見上げられないくらい高く、大人が十人くらい輪になっても囲い切れないくらい太かった。まさに巨大樹の迷宮と呼ぶに相応しい光景に圧倒されていると、空から一枚の契約書類(ギアスロール)が降って来た。

 

『ギフトゲーム名“アンダーウッドの大迷宮”

 

・勝利条件

 

一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外にでる。

二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

・敗北条件

一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”と“ウィルオ・ウィスプ”はギフトゲームに参加します。

               “サウザンドアイズ”印

                 サラマンドラ”印』

 

 読み終わると同時に、契約書類は光を放ちながら消えた。それが開始の合図なのだろう。両陣営は距離を取って対峙し合った。

 

「………一つ問おう。そなたが“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーか?」

 

 沈黙を破り、セイバーはアーシャに問い掛ける。

 

「え? あ、そう見える? それなら嬉しいんだけど、残念なことにアーシャ様は、っ!?」

 

 アーシャが言い終わらない内に、セイバーは斬り掛かっていた。驚愕の余りに硬直したアーシャに真っ直ぐと剣が迫り、

 

 ガキィィィンッ!!

 

 甲高い音を響かせて弾かれていた。

 

「では………先程からコソコソと隠れたそなたがリーダーか?」

「―――ヤホホホ、バレていましたか」

 

 陽気そうな男の声が響くと同時に、虚空から火の玉を纏った人型が浮かび上がる。実体のない浅黒い服、ランタンを持った白い手袋。極めつけは普通の十倍はありそうな巨大なカボチャの頭部だ。笑顔の形でくり抜かれた目と口の奥には、鬼火が爛々と燃えていた。

 

「先程の質問ですが、私は“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーではありません。生と死の境に顕現せし大悪魔! ウィラ=ザ=イグニファトゥスの大傑作ギフト! それが私、世界最古のカボチャお化け・・・・・・・・・ジャック・オー・ランタンでございます♪」

 

 まるで道化師の様な風体で陽気に笑い、自己紹介するジャック。しかしその瞳の奥に灯る炎の激しさに、セイバーの中の警鐘を最大限に鳴らしていた。けして侮れる相手ではない。

 

「ヨウ。そなたは先に行け」

「セイバー、でも………」

「今回のゲームはそなたがゴールすれば勝利となる。そなたでは、この亡霊の娘はともかく悪魔の方には勝てまい」

 

 耀に先を急がせる為に、セイバーはあえて戦力不足だと告げる。盤石を期すならここで二人を叩き潰すのが良い。しかし、この大悪魔を相手に易々と実行は出来まい。耀の戦力ではかえって足手纏いになりかねない。それくらい強力で、油断ならない相手だとセイバーの直観が告げていた。

 一瞬、反論しようと耀は口を開きかけたが自制して止める。“生命の目録(ゲノム・ツリー)”で得た野生の勘が、ジャックに挑むのは危険だと告げていた。何より、ゲームの勝利条件は先に野外に出る事であって、対戦相手と戦う必要はない。ここはセイバーに従うのが最善策だ。

 

「………分かった。セイバーも気を付けて」

「あ、待ちやがれ!!」

 

 セイバー達に背を向けて、一直線に森の奥へと耀は走る。それを追いかけようと、アーシャも一拍遅れて走り出した。

 

「行かせると思うか?」

 

 背を見せたアーシャに剣を振るおうと、セイバーは振りかぶり、

 

「行かせぬと思いますか?」

 

 目の前に広がった炎の壁に足を止めざるを得なかった。

 

「ジャックさん、サンキュー!」

「礼よりも、あの少女に早く追い付きなさい」

 

 炎の向こうで、アーシャの足音が段々と遠ざかって行く。炎の壁はセイバーとジャックを囲む様に円形へ広がった。仕方なく、セイバーはジャックと対峙する。

 

「やってくれたな。しかしあの娘ではヨウには追い付けまい」

「あまりアーシャを見縊らない事です。彼女は成り立てではありますが、地精の化身。易々と逃げれる相手ではありませんよ?」

「地精? そうか、そなたらは鬼火を掲げたコミュニティであったな」

 

 “ウィル・オ・ウィスプ”とは、無人の墓地や湖畔に突如として現れる鬼火の事だ。この正体は、大地から溢れたメタンガスやリンなどの可燃性気体と言われている。鬼火をシンボルとするコミュニティにとって、大地の精霊は縁が深い存在なのだろうとセイバーは当たりをつけた。しかし―――

 

「貴女は、我々にとって侮辱に等しい勘違いをされてる様ですな」

「………どういうことだ?」

「我等の旗印、“ウィル・オ・ウィスプ(蒼き鬼火)”は決して唯の化学現象ではありません。元々は彷徨う御霊の為に悪魔が与えた篝火。化学現象は分かりやすい目印でしかありません」

「目印だと? それはまさか、」

「そう、そこに死体が埋まっている事を知らせる為ですよ!」

 

 ヤホホホ! とジャックを指を立てて笑う。死体を埋められた土壌からは、リンやメタンガスなどが排出される。それ以外にも、死体が遺棄された場所に鬼火はよく目撃されるのだ。

 

「聞いたことはありませんか? “ウィル・オ・ウィスプ”は、報われぬ死者を導く篝火だと。彷徨う御霊を導く功績で、私達は霊格とコミュニティを大きくしてきたのです」

 

 ギョロリ、カボチャ頭の奥で炎の瞳が動く。セイバーを見据え、悪魔から与えられた篝火は一層と燃え上っていた。

 

「知らぬなら今こそ知りなさい。我ら蒼き炎の導を描きし旗印は、無為に命を散らした炎を導く篝火なのだと。救済の志は、神々に限られた領分ではないと―――!」

 

 ゴウッ! とランタンから一際大きな炎が燃え上がる。その熱量は凄まじく、まるで地上の一切を焼き払わんとする地獄の炎そのものだ。

 

「いざ来たれ、人の臨界を超えし英雄の魂よ! 聖人ペテロから烙印を押された、不死の怪物―――ジャック・オー・ランタンが御相手しましょう!」

 

 業火の炎で炎上する、樹の根の大空洞。焦熱地獄の様に茹る熱気の中で、セイバーは静かにジャックを見据えた。

 

「先に非礼を詫びよう。そなた達の旗印を唯の炎と勘違いした事を」

 

 剣を下げ、セイバーはジャックに頭を下げる。そして顔を上げると、切っ先をジャックへと突きつけた。

 

「そして宣言しよう。そなたの煉獄の炎は余が断ち斬ると! 来るが良い、亡者の道標よ。神にも悪魔にも裁けぬなら、皇帝たる余が直々に裁定しよう!」

 

 お互いの前口上を済ませ、両者は対峙する。どちらもパートナーに追い付く為には、目の前の敵を無視できないと直感で理解していた。

先に動いたのはセイバーだ。疾風の様にジャックへ駆け寄ると、ジャックの頭へと剣を一閃させる。その鋭さはアーシャに放った物とは比べ物にならない。

 

「ヤホッ!?」

 

 斬撃を両手で受け止めたジャックだが、衝撃の重さにたたらを踏む。そのまま、セイバーは更に踏み込んだ。

 

「ハアアアァァァッ!!」

 

 足下が蜘蛛の巣状にひび割れるくらい力を込め、剣を振り切る。バットで打たれたボールの様にジャックは弾き飛ばされた。追撃をかける為にセイバーはジャックへとと駆け寄って行く。

 

花散る天(ロサ・イクス)―――っ!?」

 

 得意の斬撃を見舞おうとしたセイバーは目を見張る。そこには空中で体勢を立て直したジャックが、自分の周りに人魂の様な炎弾をいくつも展開して待ち構えていた。躊躇して足を止めたセイバーへ、炎弾がつるべ撃ちに放たれる。爆発と共に、紅蓮の華が大輪を咲かせた。炎はその場で渦巻き、火葬を為す釜場と化す。

 

「―――花散る天幕(ロサ・イクストゥス)!!」

 

 剣が横凪に振るわれ、炎の渦は内部から斬り裂かれる。そこには所々が煤汚れながらも、しっかりと立つセイバーの姿があった。それくらいは予想通りと言わんばかりに、どこからか出した肉包丁を振りかざしてジャックはセイバーへと突進する。舌打ちしながらセイバーは剣で受け止める。火花と共に、金属がぶつかり合う甲高い音が辺りに響いた。

 

「ヤホホホ、流石ですね♪」

「そなたも、なっ!!」

 

 鍔迫り合いの状態から、セイバーは強引に剣を押し出してジャックを突き放す。力勝負ではセイバーの方に分がある様だ。そうと気付いたセイバーは畳み掛ける様に剣を振りかぶりに行き―――真横へと跳ねたジャックに目を剥いた。

 

「なに―――!?」

 

 目をこらして見ると、ジャックの服の下―――人間なら足に当たる部分に炎がバネの様に渦巻いていた。

 

「ヤホホホ、行きますよ、っと!!」

 

 宣言と共にジャックは炎のバネを使って跳躍する。樹へ、地面へと縦横無尽に跳ねながら、すれ違いざまにセイバーに斬りかかる。不規則に、そして高速に動くジャックを捉えきれず、セイバーの身体にいくつもの切り傷が生じた。純白だった花嫁衣裳が血で染まり、セイバーはたまらず膝をついた。

 

「これで、終りですっ!!」

 

 セイバーの背後へと回り、樹を蹴って飛び出すジャック。その速度は音の壁すら突き破り、空気すらも切り裂いていく。一秒後には背後から心臓を貫かれたセイバーの姿を幻視し―――目の前に生じた炎の壁へと突っ込んだ。

 

「ば、馬鹿な!? これは―――!?」

「イヤアアアアァァァッ!!」

 

 炎に巻かれ、怯むジャック。その隙に大きく跳躍したセイバーは、ジャックのカボチャ頭を目掛けて剣を振り下ろす。咄嗟に両手でガードするが受け止めきれず、ジャックは叩きつけられる様に地面へと落下した。その衝撃で、砂塵が舞い起こる。地面へと着地したセイバーは、息を整えながら濛々と立ち込める砂塵の方へ向き直った。

 

「―――ひとつ、お尋ねしたい事があります」

 

 砂塵が収まった先に、ジャックは立っていた。だが、その頭部は左半分が欠け、割れたカボチャ頭からチロチロと鬼火が覗いていた。

 

「先程の炎は我が御旗の象徴でもある鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)。なぜ貴女が使えたのでしょう?」

 

 フン、と鼻息を一つ鳴らすとセイバーは胸を張った。純白だった花嫁衣裳は見る影もなく、所々が煤焦げ、血で斑模様を作っている。しかしセイバーはそれが当然であると言わんばかりに、いつもの毅然とした態度で応えた。

 

「皇帝特権である。とくと許せ」

 

 まるでその瞬間を見計らかったかの様に、周りの景色が砕け散る。一瞬の後、二人は元の舞台上にいた。

 

『ゲーム終了! 勝者、春日部耀!』

 

 黒ウサギの宣言と共に割れんばかりの歓声が客席から響き渡り、二人は大きく息を吐いた。その直後、耀とアーシャが二人の元へ駆け寄る。

 

「セイバー、お疲れ様って、大丈夫!?」

「ジャックさん、なんですぐに追ってきて、って! どうしたんだよ、その頭!?」

 

 お互いのパートナーが自分達の惨を騒ぎ出した。当人達よりも酷く慌てた姿を見て、二人は苦笑し合った。

 

「どうやら、我々の決着は次回に持ち越しですね」

「そのようだな。再戦を楽しみにしているぞ、カボチャ頭の幽鬼(ジャック・オー・ランタン)

「ええ、こちらこそ。このカボチャ頭を一新させてお相手しましょう、剣の英霊(セイバー)

 

 静かに頷き合い、再戦を約束する二人。

 ふと、視界の端に黒い物が映った。

 

「………?」

 

 セイバーが目をこらすと、それは黒い封書である事が分かった。訝しむ様に封書を見るセイバーに対し、ジャックは半分だけになったカボチャ頭を青ざめさせていた。

 

「こ、これはまさか………!」

 

 慌てた様子で地面に落ちた封書を破り、中の文面を確認するジャック。ただならぬ様子に、セイバーの第六感が警鐘を鳴らした。

 

「いったい、何が起きたというのだ?」

 

 心配そうにこちらを窺う耀とアーシャと共に、ジャックに問いかける。すると彼は、黙って手に持っていた紙を文面が見える様に差し出した。心なしか、割れたカボチャの笑顔が引き攣った様に見える。

 

『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊、白夜叉。

・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの屈服・及び殺害。

・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 "グリムグリモワール・ハーメルン"印』

 

「何だこれは………?」

 

 文面を確認したセイバーは困惑顔で呟く。だが、何が起きているかは理解できた。背中に嫌な汗をジットリと感じる。これは生前、そして聖杯戦争で何度も味わった感覚。敵に先手を打たれ、それが毒の刃が食い込む様に致命傷になりつつあるという予感。

 空から雨の様に降り注ぐ、闇の様に黒い封書。静まり返った競技場に、爆発する様に観客席から悲鳴が湧き起こる。

 

「魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ――――――!!」

 

 

―――Interlude out

 

 

 

 




読者の皆様には、大変長らくお待たせしました。
それにしても、ようやく次回でペスト組を出せるとかどんだけ亀だorz

少しリアルが忙しいので更新が遅いですが、次回もお楽しみに! 

p.s.気付けばお気に入り登録が3000件突破ですと!? 応援、ありがとうございます!! これからも『月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?』をよろしくお願いします!

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