月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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お久しぶりです。作者がグズグズしている間にアニメが終り、Grand Orderが開始しました。
作者はAndroidなので既にプレイ開始しました。なかなか2巻の終わりが見えませんが、また岸波白野の物語に付き合ってくれれば幸いです。


第9話「戦闘休止。そして、暗躍」

 ―――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営 大広間

 

 宮殿内には“ノーネーム”をはじめ、参加者達のほとんどが集められていた。とはいえ先の魔王襲撃で多数の負傷者と少数の死傷者がいる為に廊下で治療を受ける者も多く、現場は野戦病院さながらだ。周りを見渡せば、そこかしこで治療の為に走り回る者、座り込んで手当を受けている者。―――そして、顔に布を被せられて二度と起き上がらない者。いずれにせよ、無事な人間を探す方が困難だった。

 

「酷い有様よな」

 

 隣に立ったセイバーが呟く。流石にこの場で花嫁衣裳は相応しくないと思ったのか、いつもの真紅の戦闘服に着替えていた。

 

「ほんの十数分。たったそれだけの時間で、ここまで被害が出るとはな」

「そうだな」

「死人が出たのは、あのサーヴァントに襲われた者だけの様だ。それ以外は軽傷で済んだ様だぞ」

「不幸中の幸い、かな。死人が少なくて良かったと言いたい所だけど……」

「ああ。まだ終わっておらぬ」

 

 状況は控え目に言っても最悪だ。合流したジンくん達の話によると、白夜叉は一歩も動けない様に封印されている。敵は自分達が戦ったサーヴァントの他に、ハーメルンの笛吹きの伝承に関連した悪魔達がいる。そして―――飛鳥が行方不明になった。

 ジンくん達を逃がす為に殿を請け負い、その後の姿は誰も見ていない。現場には、バラバラに打ち砕かれたサーヴァント・ドールだけが残されていた。

 

「アスカの事はまだ心配しなくて良い。死体が無かったのなら、少なくとも生きてはいよう」

「そうだといいけど………」

「今は当面の問題に直面すべきだ」

 

 そう言って、セイバーは大広間の先にある扉を睨む。

 

「相手方がどう動いてくるか。それを見極めぬ限りは動きようがあるまい」

 

 広間の先―――貴賓室では、今まさに魔王一味こと“グリムグリモワール・ハーメルン”と“サラマンドラ”、そして我等が“ノーネーム”がギフトゲームの交渉の最中だ。戦闘の消耗が激しかった自分達は、交渉を十六夜達に任せて大広間で待つ事にした。

 

「この交渉の行方次第で、こちらの出方が決まるな。白夜叉から異議の申し立てがあったそうだが、果たして異議が通るかどうか………」

「セイバーは通らないと見ているのか?」

「十中八九な」

 

 フン、と面白くなさそうにセイバーは鼻を鳴らす。

 

「あちら側の侵攻は燃え広がる火の様に迅速であった。となれば、こちらの陣容も把握していたのだろう。そこまで用意周到な敵ならば、こんな見え透いた不備は残すまい」

 

 その直後だった。貴賓室の扉が開き、中から黒ウサギとサンドラが姿を現す。大広間中の視線が一斉に二人に集まる。

 

「“グリムグリモワール・ハーメルン”との交渉の結果をお伝えします」

 

 黒ウサギの宣言に、ゴクリと誰かが唾を呑み込む音が大きく聞こえた。

 

「ゲームの再開は一週間後。それまでの間、相互不可侵となります」

 

 ゲームの再開。それはつまり、相手側に不正は無く、ゲームの中止は出来なかったという事。その事実に大広間はざわめきに満ちる。

 

「先のルールに加え、いくつかの禁止事項が追加されました」

 

 ①自決及び同士討ちによる討死にの禁止。

 ②休止期間中でのゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出。

 ③休止期間中の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方までとする。

 

 黒ウサギが手元の“契約書類(ギアススクロール)”を読み上げるごとにざわめきは大きくなる。これでは逃げる事も、最後の手段として自決する事も出来ないではないか。そんな不安が群衆の広がっていくのを肌で感じた。

 

「最後に………ゲーム再開から二十四時間後、ホストマスター側の無条件勝利となります」

「ふざけるなっ!!」

 

 突然、大広間の一角から大声が上がった。そこには蜥蜴の顔をした亜人が、肩を怒らせながら黒ウサギへと進み出ていた。

 

「先程から聞いていれば、魔王達に有利な条件ばかりではないか! 貴様、まさか魔王達と手を組んだのではあるまいな!?」

「い、いえ! そんなことはありません!」

「ほう! その割には随分と譲歩させたのだな!」

 

 蜥蜴の亜人は侮蔑を顔に浮かべた。

 

「“箱庭の貴族”が聞いて呆れるな! さすが、“名無し”のコミュニティに所属して―――」

 

 ドゴォッ!!

 

 突如、大広間に激震が奔った。建物全体が揺れる様な振動に、その場にいた人間達はたたらを踏んだ。

 

「ずいぶんと好き勝手に吠えてるみたいだが………」

 

 振り向くと、そこに十六夜が立っていた。足元の大理石はハンマーを思い切り振り下ろした様に蜘蛛の巣状にひび割れている。

 

「それならさっき、何で名乗り出なかったんだ?」

「な、何の話………」

「魔王との審議決議。“サラマンドラ”が交渉の協力を求めた時に、どうして立候補しなかった、と聞いてるんだよ」

 

 痛い所を突かれた、と言わんばかりに蜥蜴の亜人は黙り込む。誰も立候補しなかったからこそ、“ノーネーム”が交渉のテーブルについたのだ。

 

「し、しかしそれをどうにかするのが“箱庭の貴族”の役目で、」

「で、交渉がこじれたら安全圏から非難する、と。“名有り”のコミュニティが聞いて呆れるな」

 

 酷薄な笑みを浮かべた十六夜に、蜥蜴の亜人はモゴモゴと弁明していたが誰から見ても明白だった。

 交渉の場に行かなかったのは彼の選択であり、その結果が不利益な物になったのは彼自身の責任。その事で黒ウサギ達を責めるのは、御門違いでしかない。

 

「やめなさい。今は仲間割れをする時ではありません」

 

 サンドラが凛、とした声で二人を制した。

 

「誰が悪いと責任を問うならば、栄えある大祭に魔王の侵入を許した“サラマンドラ”の落ち度。必ず釈明と補償はしましょう。ですから、この場は怒りを収めていただけませんか?」

 

 まっすぐと眼を見つめるサンドラに気圧されたのか、蜥蜴の亜人はしぶしぶと十六夜達から離れていった。

 

「この度は皆様に魔王襲撃という危険な目に遭わせてしまった事を深くお詫びします。ですが、この場は魔王を撃退する為に皆様の力を貸して下さい」

 

 丁寧ながらも有無を言わせぬ口調でサンドラは話し始める。十歳の女の子が発するとは思えない威厳に、あれだけ騒がしかった大広間がしん、と静まり返る。

 

「まず、新たなルールを追加した事に説明します。最初、魔王達は一ヶ月の休止期間を要求してきました」

 

 一ヶ月? 休止期間にしては長過ぎる。敵に時間を与えれば、迎撃の準備を整えさせるだけではないのか?

 そんな疑問が頭に浮かんだが、その答えはサンドラが明かしてくれた。

 

「魔王の正体はペストです」

 

 ざわ、と大広間に動揺が走る。誰かが声を上げる前に、サンドラは畳み掛ける。

 

「既に我々、参加者の中にペストに感染した者がいます。ですから―――」

 

「ペストだと!」「もう魔王に先手を打たれているのか!」「だ、誰が感染している!?」「畜生、誰も俺に近寄るんじゃねえぞ!」

 

 途端、大広間は蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。大声を上げる者、無駄を承知で大広間から走り去ろうとする者、血走った目で周囲を見渡す者。全員が一様に冷静さを失った。

 

「落ち着いて! 皆さん、落ち着いて下さい!」

 

「くそ、だから“ノーネーム”に任せたくなかったんだ!」「いや、そもそも侵入を許した“サラマンドラ”のせいだ!」「こんな事なら北側に来るんじゃなかった!!」「殺される………みんな魔王に殺されるんだ!」

 

 サンドラが大声を張り上げるが、もう誰も聞いていなかった。魔王への恐怖が混乱を呼び、混乱は群衆に伝染して暴動が起きる。

 その直前だった。

 

「殺され、グゲェ!!」

 

 騒いでいた蜥蜴の亜人が突然、宙を舞った。ふき飛ばした張本人はそれに目をくれず、真っ赤な残像だけ残して次の相手へと距離を詰める。

 

「ギャッ!」「ガハッ!?」

 

 振るう剣の腹で次々と当身を食らわしていき、最後に一際大きな身体の亜人の襟元を掴む。

 

「すりゃあああっ!!」

 

 背負い投げの要領で投げ飛ばし、亜人は尚も騒いでいた群衆の真上に落ちる。騒いでいた群衆を何人か押し潰し、ようやく大広間は静かになった。

 

「たわけ! このまま無駄に騒いで死ぬつもりか!!」

 

 大広間の中心で、セイバーは剣を大理石に振り下ろして一喝する。

 

「だ、だって、」

「だってではない! このまま混乱すれば敵の思うつぼだと分からぬかっ!!」

 

 尚も言い募ろうとする者を、ピシャリと一刀両断するセイバー。その姿はいつもの大輪の薔薇の様な可憐さはなく、岩であろうと打ち砕く落雷の様な激しさを伴っていた。

 

「まだ状況は最悪ではない! 黒死病の発症には二日以上はかかる! それに七日後であれば免疫力の強い者ならば発症はせぬ! つまり、ゲーム再開時点での参加者全滅は免れるのだ!」

 

 それに、とセイバーはサンドラ達に目を向ける。

 

階級支配者(フロアマスター)殿は条件を五分まで持ってこれたのだ。ならばゲームの攻略法を調べ上げるのも時間の問題であろう」

「―――ええ、そこの方の言う通りです」

 

 サンドラは一度、深呼吸をすると再び大広間の群衆を見回す。

 

「私達は魔王に先手を取られましたが、同時に"The PIED PIPER of HAMELIN"の攻略方法に心当たりはあります」

 

 すっと、サンドラは後ろに目を向ける。

 

「ここにいる“ノーネーム”の協力により、魔王一味の正体に迫る事が出来ました。魔王一味は“ラッテン(ネズミ)”、“ヴェーザー(ヴェーザー河)”、“シュトロム()”。そして“黒死病(ペスト)”の四人。この中からハーメルンの事件の真相を解明すればクリアできます」

 

 ハーメルンの伝承には数多の考察がある。人攫い、自然災害、疫病の蔓延などなど。今回のゲームは先ほどの四つのの内、130人の子供が失踪した原因を当てて見せろ、という事なのだろう。

 

「詳しい攻略法はこれから必ず調べ上げます。それまではどうか我々に協力して下さい」

 

 サンドラは一端、言葉を切ると群衆に向かって深々と頭を下げた。

 

「お願いします」

 

 シン、と大広間が静まり返る。ここで戦わなければ魔王に隷属するしかない。そう分かっていても、魔王と戦う事に全員が尻込みしていた。その時だ。

 

「“ノーネーム”は協力するぞ!!」

 

 突然の大声と共にジンくんの手が上がった。いや、上げさせられた。そんな事をやる人間は一人しかいない。

 

「めっちゃ協力するぞ! とにかく協力するぞ! ここにいるジン=ラッセルは対魔王専門のエキスパートだ! 魔王? 俺の隣で寝てると言うくらい楽勝だぞ!!」

「ちょ、十六夜さん! それは言い過ぎですって!!」

 

 うろたえるジンくんを余所に、十六夜はセイバーに意味ありげにウィンクする。

 

「―――うむ! 此度の魔王討伐、我がコミュニティだけでも十分であるな! 我が奏者の力があれば、かの釈迦すら頭を垂れる!」

「セ、セイバー?」

 

 何を言い出すのかと聞こうとした矢先、念話が聞こえた。

 

(胸を張れ)

(え?)

(いいから胸を張れ。とにかく偉そうに見える様に大きく胸を張るのだ)

 

 何が何やらさっぱりだったが、とにかく言われた通りにしてみせる。すると、群衆からどよどよとざわめきが起きた。

 

「我が“ノーネーム”さえいれば、名有りのコミュニティなど要らぬな! 我等の手にかかれば鎧袖一触にしてくれよう!!」

 

 ふふん、と鼻で笑うとセイバーは群衆を見やる。

 

「大人しくどこかに閉じこもって良いぞ? 弱き物を守るのは強者の義務であるからな」

 

 あからさまな挑発。しかし、それはこの状況では十分過ぎる燃料となった。

 

「この、言わせておけば!」「“ノーネーム”風情に舐められてたまるか!」「貴様等が鎧袖一触なら我等は爪先で十分だ!」「魔王に怖気づく軟弱者は我がコミュニティにはいない!」

 

 喧々囂々、注がれた燃料は闘志となって燃え上がる。先程までこの世の終わりみたいに静まり返っていたのが、嘘の様だ。

 

「我が“夜叉の夜会”は“サラマンドラ”に協力するぞ!」「我等のコミュニティもだ!」「後れを取ってなるものか! “ゴブリンギルド”も協力する!」

 

 次々と手を上げ、協力を表明するコミュニティ達。サンドラは一瞬、あっけに取られた様に見つめていたが、慌てて表情を引き締めた。

 

「では皆様の協力も得られた所で、今後の方針について話し合いたいと思います。コミュニティのリーダーは別室に集まって下さい。それと、少しでも体調を崩した者は医療スタッフにすぐに申し出て下さい。ペストに感染していると判断したら、すぐに隔離させて貰います」

 

 全員から同意を得た声が上がると同時に、大広間の人間達は動き出す。恐怖からの逃走でなく、生き残る為に各々が動き出していた。

 

「よ、さっきはご苦労さん」

 

 いつの間にやら近付いていた十六夜がセイバーに声をかけていた。

 

「まさに千両役者だったぜ。流石は皇帝様だな」

「当然であろう。余こそはオリンピアの華! 余の演劇は常に万雷の喝采で迎えられていたぞ」

「へえ? そりゃどんな風に?」

「うむ! 皆、終劇の頃には感動の余りに夢心地になっていたな! タキトゥスは、「ああ、終幕だ………幕が下りたぞ!」などと、涙を流して喜んでいた! 次の劇をやると言った時は、セネカなど感激の余りに雷に打たれた様な顔をしていたぞ!」

「―――そりゃ、結構な事で」

 

 セイバーの音痴さを考えると、それってどう考えても………。

 この件は深入りすると地雷を踏みそうだから、慌てて話題を変える。

 

「それで、さっきの話は本当なのか?」

「おう。連中はハーメルンの笛吹の伝承から生まれた悪魔だ」

 

 空気を読んでか、十六夜はそのまま話題に乗ってくれた。

 

契約書類(ギアススクロール)に書いてある『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』。こいつもなんとなくは当たりがついてる。後は真実の伝承とやらを探るだけだ」

「そうか………。何か出来る事があったら言ってくれ」

「それなら丁度いい。一つ、聞きたい事が―――」

 

 十六夜が何か言いかけたその時だった。足元で突然、猫の鳴き声が聞こえた。

 

「あれ、君は………耀の三毛猫?」

 

 三毛猫はしきりに鳴き、自分達の靴に噛みつく様に纏わりつく。

 

「いったいどうしたんだ? 何か伝えたい事があるのか?」

「―――おい、岸波。春日部がどこにいるか分かるか?」

 

 ふと、十六夜が真剣な顔で眉根を寄せていた。

 

「え? 確か少し疲れたから休むって………」

「その後は。皇帝様でもいい、春日部を見た奴はいないのか?」

 

 いったい何を………、そう言いかけて気付く。この大広間に耀の姿が無い。そしていつも一緒にいる三毛猫だけが、ここにいるという不自然さに。

 

「まさか………!?」

 

 

 

―――Interlude

 

「本当に良かったんですか? 一ヶ月、休止期間を設ければマスターの勝ちでしたのに」

 

 暗がりの中、白装束の女―――ラッテンは主人である少女―――ペストに問いかけた。

 

「“箱庭の貴族”は惜しいですけど、勝ちが決まったギフトゲームをフイにするのは勿体ないというか………」

「止めろよ、ラッテン。過ぎた事だ」

 

 理解しかねるといったラッテンを軍服の男―――ヴェーザーが制した。

 

「俺等のリーダーが決めた事だ。俺達は黙って従うだけだ」

「でも………」

「別に良いのよ、ラッテン」

 

 なおも言い募ろうとするラッテンを、ペストは面倒くさそうに答える。

 

「ギフトゲームが解けなければ、八日後は私達の総取りで勝ち。解かれても八日後に皆殺しにすればいいだけよ」

 

 ああ、でも―――とペストは可愛らしく唇を歪ませた。

 

「あの男だけは生かしてあげようかしら? あの男だけ(・・)はね」

 

 八日後。自分に歯向かう者を全て殺し、あの男―――岸波白野だけが生き残った時、彼はどんな顔をするだろうか? 絶望の余りに自害するだろうか? それとも自分を憎悪と共に殺しにくるだろうか? しかし彼の運命は決まっている。ギフトゲームの誓約により、敗北した時は彼は自分に隷属しなければならない。自分のコミュニティを、同士を全て奪い取った相手に対して額を地面に擦り付ける。殺してやる! と言う自由も与えず、殺してくれ! と嘆願しても笑顔で拒否する。そして身を焼く様な屈辱で心を焦がしながら、自分の靴を舐めさせる。その様を想像するだけで―――とても、とても楽シイ。

 

「もう! そんなにその男がお気に入りなんですか?」

 

 妖しく微笑むペストに、ラッテンは頬を膨らませた。

 

「あら、嫉妬?」

「そりゃ嫉妬もしますよ! だってマスターと一回しか会ってないくせにマスターの寵愛を得ているんですもの!」

「ああ、違う違う。別に好きとかそんなのじゃないから」

 

 むすーっと膨れるラッテンに、ペストは手をひらひらさせながら答えた。

 

「あれはね、凡人なのよ」

「はあ? 凡人、ですか?」

「そう、凡人。他に特筆する所は無いし、自分で戦えるわけでもない。十把一絡げ、何かの間違いで来た一般人ね」

「………そんな相手に関心を示す必要があるんですか?」

「ええ。凡人、だからこそ」

 

 クックックッ、とペストは嗤う。

 

「凡人で、何も持ってない弱者だからこそ強くあろうとした。負けん気と根性だけで、一流に張り合おうとする。あれはそういうタイプの凡人よ」

 

 だから―――と、ペストは一層に微笑む。それはまるで、

 

「見てみたいじゃない。そんな心意気だけで立ってる様な凡人が、唯一の武器すらも無惨に壊された時に浮かべる顔を。きっと最高に愉しませてくれるわ」

 

 悪魔の様な天使の微笑みだった。

 

「………いや、分かっていたけどな。マスター、本気で趣味悪いだろ?」

「あら? 勇気を振り絞って立ち向かう相手を鼻で嗤って、打ち倒すのが魔王でしょう?」

 

 違うの? とペストは呆れるヴェーザーに可愛らしく首を傾げた。

 

「まあ、そうではあるけどよ………。何か手に入れた後は飽きて放り出しそうだな」

 

 やれやれとヴェーザーは困った様に後ろ頭を掻く。その時だった。

 

 トン、と軽い足音が後ろで響いた。

 

 振り向くと、そこにはスリーブレスのジャケットとショートパンツを着た少女が立っていた。

 

「お前は………!」

 

 見知った顔に身構えるラッテン。しかしペストは彼女を手で制すと、少女に向き直った。

 

「遅かったじゃない。ジャック・オー・ランタンに跡形なく燃やされたと聞いてたけど」

 

 ふうん、と値踏みする様に少女―――春日部耀を見つめるペスト。

 

「それが新しい依り代かしら。プレイグ(・・・・)?」

 

 

 

 




GOプレイ中

作者「赤セイバー来い、赤セイバー来い!」

カエサル「面倒である!」

作者「お前じゃねええええええっ!!!」

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