月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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ギルガメッシュキャンペーン第二弾を見て。

サハラ「やっぱエリザ……でもタマモキャットも可愛いよな。戦力的にマリーさんもありだし、いやでも………」(以下エンドレスループ)

注意

 最近、前書きにFateGOのプレイ報告を書いていますが、それを見て感想にプレイ報告の感想だけを書かれる読者の方がいます。
 自分としては感想を頂けるのは嬉しいですが、このサイトのガイドラインに抵触します。読者の方はFateGOの感想だけでなく、このSSの感想も書いて頂ける様にここにお願いを申し上げます。
 


第12話「絶体絶命。そして―――」

「―――耀?」

 

 “真実の伝承”の前に立ちはだかる耀に、もう一度声をかけてみる。だが、彼女からは何も反応が返ってこなかった。

 肌は不健康な色合いになり、腕や顔には痘痕が薄っすらと浮かんでいる。目はこちらを見ているか怪しいくらい虚ろで、いっそ目の前にいるのは耀を模して作った人形だと思いたかった。

 だが、そんな事が無いのは自分が一番分かっていた。

 

「マスター」

 

 セイバーが自分の前へと進み出る。

 

「あれは間違いなくヨウだ。しかし同時に―――あのサーヴァントだ」

「―――ああ」

 

 なんとか声を絞り出す。

 七日前、ジャックによって跡形もなく焼き払われた相手。“天然痘”という異形のサーヴァントの魔力を今の耀から感じ取っていた。

 

「あいつ………まさか耀を、」

「いや待て。そう断ずるにはまだ早い」

 

 殺して復活したのか、という最悪の可能性をセイバーは否定した。

 

「かすかではあるが―――ヨウの気配も感じる。恐らく、あのサーヴァントは感染した相手に憑りつく習性があるのだろう」

「―――そうか。やっと、分かった」

 

 セイバーの指摘、休止期間中に調べた文献、そして一度戦った時に得られた戦闘経験。それらを基に、自分の霊視でサーヴァントの情報(マトリクス)が全て開示される。

 

  真名:天然痘

 クラス:ライダー

  宝具:疫病蔓延(パンデミック・シンドローム)

 

 宝具の効果は、感染した相手の魂を取り込み、手駒にする事。もしくは感染者の魂を喰らい、新たな分身を作成する事。

 

「今は耀の体を乗っ取って動いているみたいだが……。しかし、一体どこでヨウに憑りついたのだ? そんな隙など無かった筈だ」

「……ッ! あの時か!」

 

 記憶を遡り、七日前の出来事を思い出す。

 

「セイバー、覚えているか? あの時、耀はあいつの攻撃に掠ったんだ」

「そういえば……しかしその程度で憑りつく事は出来ぬぞ?」

「ああ、普通のサーヴァントはな。でも―――天然痘は接触感染(・・・・)するんだ」

 

 “サラマンドラ”の書庫で文献に書かれていた事だ。

 天然痘の主な感染経路は、接触感染と飛沫感染。つまり病原菌に直接触れるか、直接吸い込む事で感染する。

 しかし飛沫感染の心配は無いだろう。ジャックが舞台上をまるごと焼却した事で、図らずも殺菌処理をした様なものだ。

 だが、耀は違う。病原体そのものと言っていいサーヴァントに触れる事で体内への侵入を許してしまった。そうして耀の体内に入った病原菌―――サーヴァントは瞬く間に成長していき、耀の体を乗っ取ったのだ。

 

「そんな―――事で……!」

 

 ギリッ! とセイバーが奥歯を噛み締める音が聞こえた。

 だが、相手はそんな後悔に浸る暇を与えなかった。

 

「! セイバー!!」

 

 ドンっと土煙を巻き上げ、耀が駆け出す。

 瞬きすら許さない速度でセイバーへと詰め寄る。

 

「くっ、許せ!」

 

 耀を止める為、セイバーが剣を振るう。

 剣の腹とはいえ、その速度と威力は人間一人を昏倒させるのに十分過ぎるくらいだ。

 そして、風切音と共に振るわれた剛剣は―――見事に空を切っていた。

 

「なっ―――!?」

 

 セイバーが驚愕に目を開く。おそらくセイバーの目には耀が突然消えた様に見えただろう。

 だが、離れた場所で見た自分にははっきりと見えていた。

 耀は剣が直撃する直前、体勢を低く落とし、そのまま四つん這いになってセイバーの剣を潜り抜けたのだ。

 そして猫科の四足獣を思わせる動きで、セイバーの足元を駆け抜け―――!

 

「ドール! ガード!」

 

 後ろに控えていたサーヴァント・ドールに命令を下す。

 ドールが自分の前へと躍り出るのと同時に、転がる様にして横へと飛び退いた。

 そして、その判断は正しかった。

 ドールに詰め寄った耀は、そのまま無造作に腕を振るう。

 それだけで、ドールはガードした両腕ごと潰され、長屋の壁に叩きつけられて動かなくなった。

 

「マスターッ!!」

 

 セイバーが駆け寄り、背を見せている耀に剣を振るった。

 だが耀はグリフォンのギフトを駆使し、空へと舞い上がるとセイバーの手が届かない場所まで飛んだ。

 

「すまぬ、油断した。まさかヨウがここまで動けるとは思わなかった」

「いや………俺も驚いているよ」

 

 耀のギフト、『生命の目録(ゲノム・ツリー)』は耀と仲良くなった動物や幻獣の身体能力やギフトを再現するギフトだったはずだ。耀が箱庭に来る前にどんな動物と友達になったかは定かではないが、種族によっては十分に脅威になる。白夜叉とのギフトゲームでグリフォンのギフトを取得した耀は、単純に考えてもグリフォンと同等と見るべきだろう。

 セイバーも人間の身体能力を大きく凌駕するが、耀の様な獣じみた動きはできない。単純な身体能力ならば、今の耀はセイバー以上だ。

 

(確か武術の達人が檻の中で猫と戦う時、日本刀を持って初めて互角になるなんて話があったな……)

 

 などと、悠長に考えていたのが不味かった。

 

『―――キ』

「?」

『キシャアアアアアアアァァァァァァッ!!』

 

 突然、耀が咆哮を上げる。こちらの鼓膜を破りかねない大音量に耳を塞いだ瞬間―――

 

「「「ギシャアアアアアアッ!!」」」

 

 長屋の屋根から亜人達が雄叫びを上げながら飛び掛かってくる。数十の亜人達には耀の様に、身体中に痘痕が浮かんでいた。

 

「奏者! 余から離れ―――!」

 

 セイバーが言い終わらない内に、耀も急降下して襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

 セイバーが剣を前面に突き立て、防御しようとする。

 だが耀は怯む事なく、グリフォンのギフトで更に加速する。あまりの速度に音速の壁を突き破り、衝撃波が生じていた。そして、そのままセイバーへと飛び蹴りをくらわせた。

 

「ッああ!」

「セイバー!」

 

 衝撃を殺しきれず、セイバーが弾き飛ばされる。そこへ待ってました、と言わんばかりに亜人達が殺到する。

 

「くそ! コード―――」

 

 セイバーを助けようと、コード・キャストを発動させようとしたが、目の前に耀が立ちはだかる。

 そして耀は、無防備になっていた自分の腹に回し蹴りを放つ。

 

「ガハッ―――!」

 

 肺の中の空気が無理矢理叩き出され、あまりの衝撃に一瞬痛覚すら飛びかける。

 だがすぐに胃からこみあげた吐瀉物と一緒に、猛火の様な痛みがこみ上げた。

 あまりの痛さに体をくの字に折れ曲がった自分を、耀は容赦なくサッカーボールの様に蹴り飛ばす。

 

「奏者! くっ、邪魔だ! そこを、どけえ!!」

 

 痘痕に侵された亜人の群れを突破しようと、セイバーが剣を振るう。

 しかし"The PIED PIPER of HAMELIN"のルールである『自決・同士討ちによる討死の禁止』に抵触しない様にと加減している為、いつもの様な強力さと素早さが欠けていた。

 加えてセイバーが急所を狙わない様に振るった剣を、亜人達はあえて急所に当たる様に(・・・・・・・・・・・)と喰らいにくる。自分の命を盾にした特攻にセイバーは全力を出せず、亜人達の包囲網を突破出来ないでいた。

 

「グッ、ゲホッ、ゲホッ! グッ―――」

 

 咳き込みながら、吐瀉物が口からあふれ出す。吐瀉物には血が混じっていた。

 しかしそんな事を気にする暇など、耀は与えなかった。

 蹲った自分の腹へ蹴り上げた踵が突き刺さる。

 

「ガッ!!―――gain_con()!」

 

 ゴロンゴロン、と無様に転がりながら防御力を上げる魔術を実行する。これで少しは耐えられるはずだ。

 

(セイバーとは―――駄目だ、合流できない! 相手はセイバーを封じ込めれば俺を好きに料理できると分かっている。いまは俺自身でどうにかするしかない!)

 

 なんとか立ち上がり、アゾット剣を構える。とにかく耀を止めないと。

 すると耀は一端、立ち止まり―――四つん這いになった。

 

(―――来るか!)

 

 途端、耀が四つん這いのまま駆け出す。その姿は虎やライオンの様な大型の肉食獣を思わせた。そしてその予感は外れておらず―――

 

「グッ!」

 

 耀が素早く自分の横を駆け抜け、すれ違いざまに爪で引っ掻いていた。耀の手は人間のものであるはずなのに、引っ掻かれた傷は肉食獣にやられたかの様に深々と斬り裂かれていた。

 耀はすぐさまターンして、自分へと向かってくる!

 

「shock()!」

 

 耀に向けて雷球を発射する。威力は抑えてあるから当たっても気絶する程度で済むはずだ。

 

「ッ!!」

 

 バッと耀は跳び上がり、長屋の壁に張り付く。そして壁を足場に、再びこちらへと向かってきた。

 

「クッ、グッ―――この!」

 

 壁へ、地面へ、屋根へ。縦横無尽に跳び回り、すれ違いざまに自分を斬り裂く姿は密林の狩猟者の様。

 まるでセイバーとジャックの戦いの再現だ。違うのはジャックがバネの弾性で跳ね回ったのに対して、耀はネコの様なしなやかな動きというところか。

 

「く、そ……」

 

 血を流し過ぎたのか、体に力が入らない。たまらずに膝をついて、顔を伏せた。

 その隙を耀は見逃さない。長屋の屋根から一気に自分に目掛けて跳び下りてくる。

 まさに絶体絶命だ。このままでは自分は八つ裂きにされて終りだろう。

 でも―――

 

「―――かかったな!」

 

 自分は顔を上げて耀へと手を向ける。

 この状況がセイバーとジャックの戦いの再現ならば、これもまた再現。

 まっすぐと突っ込んでくる耀に対して、用意した魔術(キャスト)を撃つ。

 耀は空中にいるから咄嗟の方向転換はできず、この速度ではクロスカウンターの様な形になるが自分の魔術を当てる方が早いはずだ。

 あとは実行の命令を出すだけ―――

 

「―――え?」

 

 その時。飛び掛かってくる耀の顔が目に入った。

 顔に広がった痘痕。艶の無くなった髪の毛。そして生気の無い眼。

 その眼から―――一筋の涙が。

 

「―――耀?」

 

 思わず、そう呼びかけて。

 

 ザシュ!!

 

 次の瞬間、胸を大きく裂かれていた。

 

 

 

「うっ!?」

 

 その瞬間、亜人達を相手取っていたセイバーに突然の脱力感が襲った。

 その隙を見逃さぬと襲い掛かった亜人をどうにか押し戻したが、どんどんと力が抜けていくのを感じていく。

 

(これは―――いったい何だ? まるで魔力切れの様に力が出ぬ! 奏者がいる限り、こんなことが起きるはずは―――!)

 

 ハッとセイバーは白野の方を見た。そこには、手から赤いナニカを垂らしながら佇む春日部耀。

 その足元には―――赤いナニカの水溜りに蹲った………

 

「奏者!」

 

 セイバーが叫ぶのと同時に、ひときわ巨漢の亜人がセイバーへと圧し掛かる。どうにか振りほどこうとするが、力が抜けた今のセイバーでは押し潰されない様にするので精一杯だ。さらに、畳み掛けると言わんばかりに大勢の亜人がセイバーへと殺到する。

 

「この、放れろ! 貴様らに構ってる暇などない! 奏者! 返事をしろ、奏者! マスターッ!!」

 

 悲痛な叫びを上げるセイバー。だが、その声も亜人の群れに押しつぶされかけていた―――。

 

 

 

「グ、ウッ……」

 

 ドクドクと流れる血を止めようと傷口に手を当てる。途端、火が付いた様な痛みが自分を襲った。

 痛みをどうにか無視して、コード・キャストを発動させようとする。

 

「ハァ、ハァ―――コード・h、ガッ!?」

 

 だが突然伸ばされた腕に首を掴まれ、そのまま長屋の壁へと叩きつけられた。

 腕は万力の様に自分の首をギリギリと締め付けてくる。

 

「ガ、ァ……」

 

 酸素が全く入らず、頭に血が上るのを感じる。

 腕を振りほどこうと魔術を組み上げ様とするが、耀はもう片方の手で自分の手首を押さえ、そのまま握りつぶすと言わんばかりに締め付けた。

 呼吸困難と傷の痛み。両方で意識が真っ暗になりそうになる。

 でも―――

 

「よ、う………」

 

 酸素不足に喘ぎながら、どうにか耀の名前を呼ぶ。

 自分の首を絞めてくる耀に正面から向き合う形となった。

 耀は―――泣いていた。

 操られながらも意識はあるのか、それとも無意識の内のなのか―――分からないが、耀の目からは涙が溢れていた。

 

(操られた上に、こんな姿にされて……何も思わないわけ、無いだろ!)

 

 まだだ。まだ倒れるわけにいかない! こんな事を無理矢理やらされている耀の為にも、ここで気絶なんかしてる場合じゃない! 

 そう叱咤して、飛びかけた意識を繋ぎ合わせる。

 

(なにか、何か無いか!? 何でもいい、この状況を引っ繰り返せる何か……何か無いのか!?)

 

 必死で考えを巡らせるが、無情にも耀の腕の力は強まっていく。

 気絶してる場合じゃない、と頭では分かっているのに意識は段々とブッラクアウトしていく………。

 

 

 

 ―――『月の支配者(ムーン・ルーラー)』岸波白野の危機的状況を確認。

 ―――状況打破の為の最適解を検索………検索完了。

 ―――追加戦力の投入を決定。システム・フェイト、起動。

 ―――状況打破に最適な英霊を検さ、ささ、さささささささくくくくくく………。

 ―――エラー。要請により特定英霊の投入を決定。

 ―――英霊素体、英霊シンボルの確認………現地にて最適な触媒を発見。現地素材の使用を是認。

 ―――素体への霊格挿入(インストール)開始……霊格不適合。触媒を使い、補強開始……霊格適合。

 ―――該当英霊の適合クラスを検索………キャスターに適合。

 ―――クラス別スキル『陣地作成』の付与開始。

 ―――固有スキル『呪術』、『変化』の付与開始。

 ―――全スキルの付与完了。

 ―――現地知識の情報挿入開始………エラー。『箱庭』の情報はデータに無し。強制終了。

 ―――必要情報挿入完了。

 ―――適合作業終了。

 ―――全行程完了。

 

 ―――サーヴァント・キャスター、現界を開始しま「いいからさっさとなさい、このポンコツ!!」

 

 

 

「―――!?」

 

 突如、耀が後ろを振り向く。

 そこには先程、壁に叩きつけれたサーヴァント・ドールが転がっていた。

 だが、そのドールから今は眩いばかりの白い光が発せられていた。

 光は脈打ちながら、徐々に輝きを増していき、やがて直視ができないくらいに発光していく。

 すると、光の中でドールが動いた。

 ボロボロになった関節で立てるはずが無いのに、ドールはしっかりと立ちあがって、やがて宙に浮く。

 

「これは………一体―――!?」

 

 不思議な現象に、自分を含めてその場にいる誰もが手を止めてドールをみた。

 今度は光の中で、ドールの姿が変わり始める。

 球体関節と単純な造りの身体は、しなやかな女性のものへと変わり。

 マネキンの様なツルッとした顔には桃色の髪の毛が生え、整った顔立ちの目鼻がついていく。

 光が粒子となって、ドール―――いや、ドールだった女性へ青いノースリーブの和服を着せた。

 そして仕上げと言わんばかりに、女性の耳と腰にピンっと狐の耳と尾が加わり―――。

 

「―――!?」

 

 突然、耀が自分の胸を見る。何事かと視線を追うと、胸のポケットから女性の光に呼応する様に光が漏れだしていた。

 

「これは……ギフトカードが反応している?」

 

 何か不穏な物を感じたのか、耀は自分の胸―――ギフトカードに目掛けて爪を突き立てようとした。

 だが突然、ギフトカードから何かが飛び出し、耀はそれを避ける為に慌てて飛び退いた。

 あれは―――白夜叉からもらった八咫鏡!

 八咫鏡はフリスビーの様に回転しながら現れた女性の元へと飛んで行く。

 女性はそれを受け止めると、耀に向かって走り出し―――

 

「喰らいやがれ、阿婆擦れ! これぞタマモ式四十八の必殺技の一つ―――妾退散拳!」

 

 思いっきり、飛び蹴りを喰らわせた―――。

 




ついに登場! キャス狐さんの出番です!
もう少し書きたかったですが、学校の定期試験も近いのでここまでにしておきます。
次回はひょっとしたら、一ヶ月後かな。
それでは皆様、次回も楽しみ下さい!

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