月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 人間じゃない相手の感情表現って難しいの………。もうしばらく、半オリキャラにお付き合い下さい。次の話の為に、書かないといけないと思ったので。


幕間「プレイグ②」

 少し、時を遡る。

 

「よう。こんな所にいたのか」

 

 どことも知れぬ闇の中。羽虫が集まって出来た人影に、ヴェーザーは声をかけた。

 普通の人間ならば、羽虫の群れであるソレに嫌悪感を示して近付こうとしないだろう。しかしヴェーザーはそんな事を気にせず、隣にドカリと腰を下ろした。

 

「しかしまあ、新しいマスターも変わってるな。前のマスターのコミュニティにも色々な奴がいたが、お前さんみたいな変わり種を仲間にしたのは初めてだぜ」

 

 気さくに声をかけるヴェーザーに、ソレは特に反応を返す事もなく佇む。

 元よりソレには獣並みの知能しかないので言われた事も半分以上は理解できてない。

 ヴェーザーもその事を承知しているので、独り言の様にソレに話しかけているだけだ。

 

「ホント………面白い奴等が多かったぜ、“グリムグリモワール”は。毎晩の様に白雪や灰かぶりがドンチャン騒ぎして、マスターもそれを煽りやがる。ああ、あの男ほどユーモアセンスのある魔王は二人といなかっただろうな」

 

 遠い目をして、以前のコミュニティを語るヴェーザー。その眼に映るのは過ぎ去った過去への憧憬だろうか。

 もっとも、ソレにとっては関係ない事なのでどうでも良いが。

 

「ま、今のマスターに不満があるわけじゃないがな。“グリムグリモワール”の名を担ぐなんざ、あいつぐらいだろうしな。故に最後まで忠は尽くす。そこに変わりはねえ」

 

 そこだけは同意する、と言わんばかりにソレは羽虫の群れをざわつかせた。

 その反応に満足したのか、ヴェーザーは腰を上げようとして―――思い出した様にソレに向き直った。

 

「そうだ。聞いておきたいんだが、お前さんは箱庭に来てそんなに経ってないだろ」

 

 突然の質問だったが、ソレは肯定すると様に羽虫の群れを上下に動かした。

 

「だったら言っておきたいんだが、俺達は魔王として箱庭の秩序に歯向かう。故に―――」

 

 いつか必ず滅ぶ。

 

 絶対の預言の様に語るヴェーザーに、ソレは騒いでいた羽虫の群れの動きを止める。

 傾聴する姿勢を感じ取ったのか、ヴェーザーはソレに真剣に語った。

 

「よく言うだろ? 魔物は人を喰らい、最期は英雄に討たれるってな。箱庭においてもそれは変わらねえ。秩序から外れた無法者として振る舞うが故に、いつかは秩序を正す存在に粛清される。そこら辺、お前さんも覚えがあるんじゃないか?」

 

 ヴェーザーに指摘され、ソレは怒りに羽虫の群れを震わせた。

 そうだ。忘れもしない。ソレが外の世界で、猛威を振るった時代。

 牛に罹った病―――牛痘を人間が摂取することで、人間はソレへの対抗手段を確立させた。

 理解不能な天罰から治療可能な病気へと転落した事で、ソレは神格を失い、ついには餌でしかなかった人間に滅ぼされたのだ。

 なんと屈辱的な事か。神とまで呼ばれた自分が人間に滅ぼされるなど。

 なんと無念な事か。自分は人間を殺し尽くさなければならないというのに、それが叶わなくなったなど。

 そして―――なんと羨ましい。

 人間はソレによって命を落とす事は殆ど無くなり、昔の様に怖れなくなった。

 もっと早く、自分が死ぬ前までに治療法が確立していればソレは無惨な最期を迎えずに済んだはずだ。

 だから妬ましい。ソレをろくに調べずに神罰だと言った人間も、ソレの対抗手段を得た人間も、ソレの脅威を知らずに生を謳歌する人間が妬ましい。

 自分は救われなかったのに、救われた他の奴らが羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨やましくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨めしくて怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨

 

「おい、落ち着け。形、崩れてるぞ」

 

 憤怒と怨嗟で人影すら放棄しかけたソレをヴェーザーが諫める。

 怒りで我を忘れかけたソレは、何とか激情を収めて元の人型に戻った。

 

「お前さんにとっちゃ、気に入らないかもしれないがな。こいつは世の摂理ってやつだ。言っておくが、魔王に限らねえぞ? どんな物にだって、終りは来る。違うのは、それが当事者にとってどんな終わり方か、って話だけだ」

 

 ソレを諭す様に、ヴェーザーは静かに語る。

 

「“どんな物語にでも完結(ジ・エンド)はある。ならば誰もが驚き、心に残る様に残る様な最期を飾ってやろう!”。ま、前のマスターの受け売りだがね。頭が痛くなる様な御仁だったが、言ってる事はほとんど正論だったな。俺達のコミュニティもいつかは終わる。だが―――」

 

 ヴェーザーは真剣な顔になると、ソレへと向き直った。

 

「その瞬間まで、お前は“グリムグリモワール・ハーメルン”の一員だ。“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”の配下であり、俺達の同士だ」

 

 一瞬、ソレは何を言われたのか理解できなかった。

 かつて、誰に看取られる事もなく疎まれて排斥された。ソレにとって人との繋がりなど、喰らうか否かのものでしかなかった。

 しかし今、ソレはこの身になって初めて人との絆を得られた。その事だけは、ソレの拙い知能でも理解できた。

 

「だから俺達は、最期の瞬間までマスターに付き従う。それが“グリムグリモワール・ハーメルン”の掟だ」

『………最、期、マデ、マス、ター、ニ、従、ウ?』

 

 羽虫のざわめきを無理やり言葉とした様な、耳障りな声がソレから発せられた。

 返事が返って来た事に少し驚きながら、ヴェーザーはソレに念を押す。

 ソレの姿形に目を瞑るなら、まるで兄が幼い弟に物を教える様な光景だった。

 

「ああ。最期の………命が燃え尽きる、その瞬間までマスターの事を第一にして動けよ」

「最、期、マデ、マス、ター、第、一」

「それだけ理解できれば、あとは十分だ。マスターの気が済んだら、お前の復讐にも手を貸してやるさ」

 

 噛み締める様に呟くソレに、ヴェーザーは満足げに頷くとその場を後にしようとした。

 そして、思い出した様に振り返る。

 

「そうだ。いつまでも名無しじゃ都合が悪いだろ。お前の名前、マスターが決めてたぞ」

『………?』

 

 ソレは首を傾げる様に羽虫の人影を動かした。そもそ名前など、この姿になってから付けられた覚えがない。

 生前にあったはずの名前も、ソレは既に忘却していた。

 

「“ハーメルンの神隠し”、140人が消えた可能性の一つ。マスターが司る黒死病とは別の方法………疫病(プレイグ)だ」

『プ、レ、イ、グ………?』

「流石に天然痘じゃ、お前の正体そのものだからな。今日からお前は、疫病の悪魔だ。よろしくな、プレイグ」

 

 それだけ言い残し、ヴェーザーは何処かへと去って行った。

 一人残されたソレは、反芻する様に今しがた言われた事を呟く。

 

『プレ、イグ………ボク、ハ、プレ、イグ………マス、ター、ハ、イツモ、第一、ニ、スル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最、期ノ………時、マデ………………』


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