月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 これで、二章は終わりです。
 散々悩んだけど、どうしてもこの展開を書きたかった。


第18話「戦いが終わり・・・劇は暗転する」

 用意された別室で、白野は大きく息を吐く。

 先程まで混乱していた頭は潮が引く様に落ち着きを取り戻していた。

 

「もう平気か?」

「うん、大丈夫。ありがとう、セイバー」

 

 傍らのセイバーに白野は微笑む。

 少し離れた場所で、キャスターが狐耳をうなだれさせて正座していた。

 

「申し訳ありません、御主人様・・・・・・。私のせいで・・・・・・・・・御主人様を苦しめる羽目になりました」

 

 目に涙を溜めながら深々と頭を下げるキャスター。

 

「頭を上げて、キャスター。むしろ謝らないといけないのは俺の方だ」

 

 白野はキャスターの側に寄り、腰を下ろす。

 たったそれだけで、鞭で打たれた様にキャスターは震えた。

 そんなキャスターを安心させる様に、白野はキャスターの手を握った。

 

「キャスターを・・・・・・・・・命をかけて俺に寄り添ってくれた君を今まで忘れていたんだ。無意識とはいえ、君に酷い事をした」

 

 心を許す程の相手が、自分を覚えていない。

 そんな寂しさを月の裏側で味あわせながら、また同じ事をキャスターに対してやってしまった。

 

「今はキャスターの事をちゃんと覚えている。思い出させてくれて、ありがとう」

 

 やり方はアレだけど、と白野は茶化しながら笑う。

 その笑顔に、ようやくキャスターは顔色を上げた。

 普段よりもしおらしい姿は、傾国の美女の名に恥じない美しさを湛えていた。

 

「御主人、様・・・・・・やっぱ、イケ魂です」

「ハハハ。元気が無くてもブレてない様で何より」

「しかし、どうなっているのだ?」

 

 今まで黙っていたセイバーが、少し膨れっ面になりながら疑問点を指摘する。

 

「余は間違いなく奏者のサーヴァントだと断言できるが・・・・・・キャス狐もまた奏者のサーヴァントであったと言う」

「うん。今なら、二人とも俺のサーヴァントだって言えるよ」

 

 ただ・・・・・・と白野は言葉を切る。

 

「今の記憶の中にある二人との聖杯戦争は・・・・・・・・・それぞれ違った所があるんだ」

 

 何? と訝しむセイバー。

 

「例えば、セイバーが戦ったサーヴァントの中でセイバークラスだったのはレオのガウェインだけだよな?」

「言うまでもない。あの太陽の騎士は強敵であった」

「でもキャスターとの聖杯戦争では、鈴鹿御前という英霊がセイバーだった。レオはロムルスというランサーを従えていたよ」

「我がローマの始祖を!? いや、問題はそこではないな。余とキャス狐の聖杯戦争では、戦ったサーヴァントが違うと言うのか?」

「うん。何人か戦うマスターが同じだったり、似たような状況になったりもしてるけどセイバーとの聖杯戦争とは大分違う」

「・・・・・・・・・それは多分、ムーンセルのせいでございましょう」

 

 いつもより神妙な顔つきになったキャスターが、初めて口を開いた。

 

「ムーンセルは、万能の願望器として機能する月の観測装置。あらゆる事象を観測するが故に、無限の可能性を演算し続ける月の頭脳です」

「つまり・・・・・・・・・奏者のサーヴァントが余ではなく、キャスターという可能性もあったという事か?」

「ええ。私とセイバーさん。どちらが事実だったかはともかく、ムーンセルは御主人様が聖杯戦争を勝ち抜いた時に即座にシミュレートしたのでしょう。どんなサーヴァントで、どんな相手なら同じ結果になるか、とね」

 

 ふむ、とセイバーは黙り込んだ。

 その話が本当ならば、どちらかの聖杯戦争はムーンセルがシミュレートしただけの産物という事になる。

 苦労もあった。困難もあった。

 だが、白野と過ごした時間が演算装置がはじき出した偽物であったとは考えたくない。

 かと言って・・・・・・。セイバーはチラリとキャスターを見やる。

 キャスターも同じ考えなのか、先のハイテンションを潜めていた。

 セイバーにとって、キャスターは突然現れて白野への好意を隠そうともしないお邪魔虫だ。

 しかし、その好意と献身が偽りではない事は十分に理解できた。

 その献身がムーンセルが仮想しただけの結果に過ぎないのは、さすがに惨いだろう。

 

「あの、御主人様」

 

 意を決して、キャスターは白野に話しかける。

 

「御主人様は・・・・・・・・・私とセイバーさん、どちらが本当のサーヴァントだと思いますか?」

 

 白野は眼を閉じて考え込んだ。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 セイバー達の中で、自分の鼓動が大きく聞こえる。

 どちらが真で、どちらが偽か。

 箱の中の猫は生きているのか、死んでいるのか。

 やがて、白野は静かに目を開いて答えを出す。

 

「―――両方だ」

「・・・・・・・・・はい?」

 

 予想外の答えに、セイバー達は目が点になる。

 

「だから、両方。セイバーもキャスターも、俺の大切な戦友だ」

 

 驚く二人に構わず、白野は自分なりの答えを示した。

 

「さっきは混乱したけど、俺にとってどちらが本当のサーヴァントか? なんて、関係ないよ。俺自身、どっちが本当の聖杯戦争の体験かだったかは分からない」

 

 でもーーーと白野は言葉を切る。

 

「たとえムーンセルの計算に過ぎなくても、二人は俺の―――NPCに過ぎない俺に、最期までついて来てくれた。それだけで十分だ」

 

 セイバーとキャスターの聖杯戦争は、それぞれ差異がある。

 しかし、岸波白野が―――彼女達を従えたマスターが、記憶の無いNPCだった事は共通項だ。

 最も弱き者(岸波白野)が、最も強き者に挑む。

 その道程の果てに、今の白野がいる。

 

「どっちが本物の記憶か、なんて関係ない。今ここにいる二人は紛れもなく本物だ。俺は―――今の二人を大切にしたい」

 

 セイバーとキャスター、そして白野の視線が静かにぶつかり合う。

 やがて、セイバーは静かに微笑んだ。

 

「まったく・・・・・・酷いマスターがいたものだ。言い様によっては堂々と二股を宣言した様なものだぞ?」

「本当ですね。本来なら一夫多妻去勢拳どころか、最終奥義のタマモスパークをお見舞いしてる所です」

 

 キャスターは溜め息つきながら頭を振り、和らいだ表情を見せた。

 

「でも特別に許しちゃいます。だって、貴方はそういう人だったから。そんな貴方だからこそ、私は生涯をかけて尽くしたいと思えたから」

「仕方あるまい。奏者の魂の在り方は、たとえムーンセルでも変えられないであろうよ」

 

 同意する様に、セイバーは呟く。

 

「こんな答えしか出せないけど、その・・・・・・これからよろしく、二人とも」

 

 頭を下げる白野に、彼のサーヴァント達は頷いた。

 先程まで反目し合っていた彼女達は、今は同じマスターを持つサーヴァントとして互いに認め合っていた。

 

「まあ、それはともかく」

 

 エヘン、咳払いをするキャスター。

 

「御主人様の本妻は私ですので、セイバーさんは自重して下さいね?」

「は? 何を寝言を言っておる」

 

 胸を反らしながら、セイバーはキャスターと向かい合った。

 

「余が正室、そなたが側室。そなたが余に遠慮せよ」

「へー、家事の類が出来なさそうな貴方が正室ぅ? せめて肉じゃがくらい作れる様になってから物を言ってくれます?」

「料理など料理人を雇えば良いではないか。そのくらいの財力など、余の手にかかれば簡単に稼げるわ!」

「はい、ダウトー。家事を人任せとか伴侶として終わってると思いまーす! 御主人様に必要なのは内助の功を支えられる良妻狐でーす!」

「貴様の中ではそうなのだろう。貴様の中では、な」

「あ?」

「やるか?」

「ちょ、二人とも落ち着いて!」

 

 一気に一発触発な雰囲気になる英霊二人。

 彼女達は同じマスターを持つ同士として認め合っていた。

 だが、岸波白野の伴侶として譲り合う気など、さらさら無いのだった!

 

「奏者が決めよ」

「は、はい?」

 

 唐突に、セイバーが白野に振り向く。

 拒否を許さぬ、と威厳を振りまく姿は正に伝え聞く暴君そのもの。

 

「奏者が決めよ。余とキャス狐、どちらが伴侶として相応しいか!」

「御主人様? 男の子なら、しっかりと答えますよね? ちゃんと選んでくれないと、コロコロしちゃうぞ♪」

 

 ニッコリ、とキャスターも迫る。

 笑顔なのに寒気がするのは気のせいではないだろう。

 白野は眼を閉じて考え込んだ。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 白野の中で、自分の鼓動が大きく聞こえる。

 赤を選ぶか、青を選ぶか。

 箱の中の猫はペルシャか三毛か。

 やがて、白野は静かに目を開いて答えを出す。

 

「そ、その・・・・・・・・・二人とも大切じゃ・・・・・・ダメ、かな?」

 

 ―――瞬間、白野の部屋から大きな爆発音が響き渡った。

 

 *

 

 ―――ム#@セ※・オ○§マト■ 中△部 ◎†¶ェリ/ケ?ジ(閲覧制限ランク:EXにより一般観測不可)

 

 そこは、どこまでも広大な空間だった。

 壁も無ければ天井も無い。

 舗装されたアスファルトの様に平坦な床がどこまでも続き、空は白く明るいが太陽も雲も無い。

 ただ広いだけの空間は、見てる者に空虚さを感じさせる。

 しかし、その空間にも座標となる物はある。

 空間の宙空、空と地の狭間に巨大な立方体が浮かんでいた。

 立方体の割れ目から折り重なった光の塊が覗く。

 神秘的な光を脈打つ立方体は、重苦しい程の静謐さを空間に醸し出していた。

 

 カタカタカタカタカタカタカタ―――。

 

 空間に場違いなタイピング音が響く。

 立方体のすぐ下の床に、これまた場違いな木製の机が置かれていた。

 アンティークショップにでも置かれていそうな机には一人の男が席に着き、ホログラムの様なキーボードへ流れる様に指を踊らせていた。

 年齢は二十代後半か。肩まで伸びた髪を後頭部で一纏めにし、眼鏡の下からは糸の様に細い目が覗く。

 スラリと伸びた身体をダークスーツに包み、場所や道具の異質さを除けばオフィスのビジネスマンを思わせた。

 しかし、スーツの上に着てるのは妖しげな紋様が縁取れたハーフマント。

 そして傍らに立てかけられた銀色に輝く――これにも妖しげな紋様が刻まれている――金属のステッキ。

 それらの道具は、スーツ姿の男がビジネスマンなどでは無い事を示していた。

 

 カタカタカタカタカタカタカタ―――。

 

 スーツ姿の男は一心不乱にキーボードを叩く。

 男を取り囲む様に宙にディスプレイが浮かんでいた。

 ディスプレイには、様々な映像が映されていた。

 例えば、飛鳥と耀がガルドと戦った時の映像であり、

 例えば、セイバーがアルゴールと戦った時の映像であり、

 例えば、十六夜がヴェーザーと戦った時の映像であった。

 十六夜達とセイバー達が“ノーネーム”に来てからの1ヶ月間。

 彼等の戦闘記録が、余すことなくスーツ姿の男に提示されていた。

 

 カタカタカタカタカタカタカタ―――。

 

 それらに眉一つ動く事なく、スーツ姿の男は一流のピアニストの様な指捌きでタイピングしていく。

 タイピング音と共にディスプレイに表示されるのは、“ノーネーム”のメンバー達の情報。

 主要な恩恵(ギフト)とその内容、戦闘スタイルや戦闘パターン。推測される恩恵(ギフト)の効果や暫定的なステータス表、趣味・思考、信条とするものエトセトラエトセトラ。

 それらの内容を分析し、時には自身の考察を交えて記載していく。

 

 カタカタカタカタカタ―――ピタッ。

 

 不意に、スーツ姿の男の指が止まる。

 天井も壁もない広大な空間。

 入り口らしきものが無いというのに、スーツ姿の男の後ろに人の気配を感じた。

 スーツ姿の男は立ち上がりながら、後ろを振り向く。

 

「これはこれは。お帰りなさい、アーチャーさん」

 

 スーツ姿の男は朗らかに笑いながら、後ろに現れた人物―――アーチャーに声をかけた。

 人当たりの良い笑顔を浮かべ、男はアーチャーを労う。

 

「この度は本当にご苦労様でした。いや、貴方は本当に働き者だ。わざわざ現地まで赴くなんて―――」

君が召喚した(・・・・・・)サーヴァントは消滅した」

 

 男の社交辞令につき合わず、アーチャーは用件だけを簡潔に述べた。

 

「ペイルライダー・・・・・・現地ではプレイグと名乗っていたが。奴は帝釈天の眷属によって完全に消滅した」

「ああ、はい。知ってます」

 

 どうでもいい報告だというように、スーツ姿の男は軽い調子で応えた。

 

「監察対象と一緒にいる少女にとり憑いたところまでは良かったんですがね。面白い宝具を持っていたので、ひょっとすると―――と思いましたが、上手くいかないものです」

 

 いや、失敗失敗。と、スーツ姿の男は肩をすくめる。

 その顔は相変わらず人当たりの良い―――作り物じみた笑顔。

 

「まあ、騙し騙しで召喚した様なサーヴァントでしたから最初から期待などしていませんがね。それにしてもすいませんねえ。街に噂を流して貰って魔王達へワザワザ(・・・・)ペイルライダーを引き渡したのに、この体たらくで。まあ、箱庭の魔王のデータを取れましたし、貴方もペイルライダーも大変意義のある働きを―――」

「もういいかな。悪いが、君の無駄話に付き合う気はない」

「あ、少々お待ちを。お聞きしたい事があるので」

 

 こちらの事情をお構い無しに一方的に喋る男に嫌気がさしたのか、紅い外套を翻して踵を返しかけたアーチャー。

 その背中に、スーツ姿の男は声をかけて呼び止めた。

 男は手元のキーボードを操作して、画面の一つを拡大してアーチャーの前に提示してみせた。

 画面に映し出されたのは、"The PIED PIPER of HAMELIN"の最終局面。

 2つに分割された画面には、頭を貫かれて消滅するペスト。そして、高台から矢を放つアーチャーの姿が映し出されていた。

 

「凄いですねぇ。あの魔王は神霊。打倒する手段など限られているというのに、単身で仕留めるなんて」

「・・・・・・・・・それが何か?」

「いえね、“ミストルテイン(神殺しの宿り木)”なんて投影出来るとは、流石は錬鉄の英雄」

 

 しかし、とスーツ姿の男は言葉を切り―――眼鏡を外す。

 

「―――監察対象達にバッチリ見られてるじゃねえか。どういうつもりだ、てめえ」

 

 それはどんな手品か。

 眼鏡を外した途端、男の雰囲気が変わった。

 笑顔が貼りついた顔は、一瞬にして不機嫌そうに眉間に皺が寄り。

 細められた眼が見開き、墨汁の様な漆黒の瞳が苛立ちを隠さずにアーチャーを射抜く。

 先程までの温厚そうな雰囲気が拭い去られ、凍える威圧感を男は押し出していた。

 しかしアーチャーは男の豹変を見飽きたとでも言うように、肩をすくめた。

 

「ヤレヤレ。最初からその顔で対応すれば良いものを。今更君の性格を知らぬとでも思ったかね?」

「はぐらかしてんじゃねえぞ、コラ。質問しているのは俺の方だ」

 

 舌打ちしながら、スーツ姿の男は銀のステッキを手に取る。

 瞬間、空気が一変した。

 静謐さに満ちた空間が、重苦しく殺気立ったものに塗り替えられる。

 同時に、男を中心に暴力的なまでの魔力が渦巻く。

 元来、無形な筈の魔力が物理的な質量(おもさ)すら感じる程に凝縮され、空間が悲鳴を上げながら放電を生じた。

 

「答えて貰おうじゃねえか。てめえはどういうつもりで、しかも監察対象にも見られる様な形で横槍を入れやがったんだ? ああ?」

 

 噴火寸前の火山を思わせる魔力の奔流を纏いながら、男はアーチャーへステッキをつきつけた。

 納得がいかなければ殺す。

 言外にそう言っている事を理解しながらも、アーチャーはシニカルな笑みを崩さなかった。

 

「君の後始末だよ」 

「あん?」

「だから、君の後始末だ。君が召喚したサーヴァントによって、“黒死斑の魔王”が勝つ可能性が出た。彼女が勝利した場合、人類は再び黒死病の猛威に曝される」

 

 箱庭における神魔の遊戯、ギフトゲーム。

 表向きは箱庭の文化体系と言われているが、真の理由は歴史の考察や外界の事象を形骸化した代理戦争だ。その結果によっては、外界の歴史が変化する。

 もしも"The PIED PIPER of HAMELIN"で“黒死斑の魔王(ペスト)”が勝利したならば。

 彼女は配下にした白夜叉の力を使い、箱庭に深刻な被害をもたらしていくだろう。

 そうなれば14世紀のヨーロッパの様に、人口の六割が病死する可能性(未来)が外界に顕現する。

 もっとも、二人は伺い知らぬが―――ペスト自身の目的はそんな事とは無関係であったのだが。

 

「その為、“黒死斑の魔王(ペスト)”には一刻も早くご退場願ったわけだ。映像を見れば分かるだろうが、最後まで私の姿は誰にも見られていない。むしろ君が人類の絶滅の一端を担う事を阻止したのだ。礼の一言でも欲しいくらいだがね?」

「………ふん」

 

 あくまでも余裕の態度を崩さないアーチャー。

 そんな彼に対して、スーツ姿の男は鼻を鳴らした。

 

「ま、一理あるわな。大災害を未然に防ぐとは、さすがは正義の味方だ」

 

 スーツ姿の男は口元をグニャリと歪めて笑い―――次の瞬間、アーチャーのいた地面が爆ぜる。

 何の予備動作も詠唱もなく振るわれる魔術。透明な巨人が荒々しく手を振り下ろしたかの様に、地面に巨大な罅割れを生じさせる。

 

「舐めてんじゃねえぞ。俺が、その程度の対策もしていない無能に見えたか?」

「―――まったく。眼鏡を外した君は余計なおべっかを言わないが、短気に過ぎる」

 

 地面に生じたクレーターの横。

 魔術の発動を瞬時に見抜いたアーチャーは、攻撃が当たらないギリギリの範囲に回避して肩をすくめた。

 攻撃を避けられるくらい想定していたのか、男はそれ以上は追及せずに左手を見せた。

 そこには、かすれて元の形が分からなくなった三画の模様。

 

「令呪、か。君はペイルライダーと契約を切ったのではなかったのかね?」

「魔力供給のパスは、な。保険に令呪のパスは残しておいた。これでも降霊術のエキスパート。契約の分割くらい、寝てても間違えねえよ。後はこれを使って、魔王とやらの寝首をかかせれば良い」

「・・・・・・・・・最初からペイルライダーは捨て駒にする気だった、と?」

「当然だろうが。何の為に、あんな使えない亡霊を始末しなかったと思ってやがる?」

 

 吐き捨てる様に言い放つスーツ姿の男。

 結果的に自分のサーヴァントを利用した挙げ句に死なせたというのに、男には良心の呵責など無い様だ。

 その姿に、アーチャーは溜息をつきつつも何も言わなかった。

 

「忘れんじゃねえぞ、衛士(センチネル)・アーチャー」

 

 相手の不満を察知したのか、男はステッキを突き付けながら彼の本来のクラス名で呼ぶ。

 

「お前も、そして俺も(・・・・・)。クソッタレな命令(オーダー)を実行する為に呼ばれたサーヴァント。正義の味方が結構だが、本来の目的を覚えてねえと言わせねえよ」

「………分かっているさ。以後、気を付つけるとしよう。衛士(センチネル)・キャスター」

 

 視線をそらしながら答える衛士(センチネル)・アーチャー。

 その答えに不機嫌な表情のまま、スーツ姿の男――衛士(センチネル)・キャスターは眼鏡をかける。

 

「まあ、この話はこれで終わりにするとして。当面の問題はこちらですね」

 

 眼鏡をかけた途端、衛士(センチネル)・キャスターの性格が変わる。

 あっさりと怒りと苛立ちが消え、先程までの紳士然とした表情になった。

 

「………前々から疑問なのだが。初対面ならともかく、今更猫をかぶる必要があるのかね?」

「貴方の言う通り、社交的な性格ではありませんから。それに、生前からの習慣ですので」

 

 しれっと答えながら衛士(センチネル)・キャスターは手元のキーボードを再び操作して、一つの画像を出す。

 

 そこに映るのはプレイグに憑りつかれた耀が白野を追い詰め、あわやという所で召喚されるキャスター(玉藻の前)

 その映像を衛士(センチネル)・アーチャーは渋面を作りながら見つめた。

 

「詠唱も儀式も無く、サーヴァントを呼び出したか……」

「ええ。この時刻、バッチリと作動しましたよ」

 

 衛士(センチネル)・キャスターは頷きながら、自分の頭上を指さす。

 そこには、相変わらず静かに光を脈動させる巨大な立方体。

 

「当然、こちらから英霊召喚システム(システム・フェイト)の起動を許可していません。彼がシステムに介入して作動させたと見ていいでしょう」

 

 既に下知されている事ですが、と衛士(センチネル)・キャスターは言葉を切る。

 眼鏡をかけていれば、初対面の相手にも親しみを感じさせる紳士的な雰囲気。

 しかし再び細められた目からは、ぞっとする程冷たい光が灯る。

 目的の為なら躊躇なく他者の命を奪い、友であっても平気で足蹴にする魔術師の英霊がそこにいた。

 

「消えて貰いましょう、我等のマスターの為に。偽りの支配者には、ね」 

 

 

 

 




 懲りずにオリキャラを出すsahalaでありましたとさ。公式ではっきりと姿を出した事はないけど、今後FGOとかで出てきたらどうしよう……。
 
 このSSは、原作を読んで作者なりに解釈・妄想した展開や設定が多いです。
 パワーバランスがおかしい、設定が変だと思っても「sahalaの中ではそうなんだろ、sahalaの中ではな」という生暖かい目で見守って下さい。お願いします(土下座)

 最後に、玉藻の前の説明も「お前がそう思うなら(略)」ぐらいに思って下さい。
 ぶっちゃけると、間違いなので。

 次回から三章。
 その前に日常編を少しやるか否か、考え中です。
 それでは、失礼。
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