月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 あけましておめでとうございます。
 いつもより大分短いですが、今年も『月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?』をよろしくお願いします。
 え? FGOの正月ガチャ? ………何も聞かないでお願い。


第1話「戦いの胎動」

 ―――ム#@セル・オー§マト■ 中△部 アン¶ェリ/ケ?ジ(閲覧制限ランク:EXにより一般観測不可)

 

 

「―――以上が、彼等のデータだ」

 

 いくつも浮かぶ画面の光に照らされ、神父服(カソック)を着た長身の男の姿が浮かび上がる。

 男は胡散臭い笑みを浮かべ、低く滑らかな声が空間に響く。

 

「何か、質問はある者がいればお答えしよう」

 

神父服の男はグルリとこの場に居合わせた全員を見渡した。

男を取り囲む様に七つの彫像がそびえ立ち、彫像の足元には台座を削って造られた玉座が並ぶ。

それぞれの玉座には、年代も服装もバラバラな人影が腰掛けていた。

ある者は時代がかった甲冑を身につけ、ある者は全身を覆うボディアーマーを着込む。

何も知らない者が見れば、怪しげなコスプレ集団がいると笑う様な集団だ。

だが―――この場に魔術の心得がある者がいれば、笑うどころか卒倒するだろう。

彼等一人一人が、その場にいるだけで空間を軋ませる様な魔力を放出し、しかし互いの魔力をそよ風の様に受け流す。

場を支配する様な圧倒的な存在感を醸し出しながら、顔色一つ変えることなくそれが自然体の様に振舞っていた。

居並ぶ彼等は、明らかに人間ではない。言わば、人でありながら人を超えた―――

 

「………この逆廻十六夜という少年、詳細不明とはどういう意味か?」

 

七人の内の一人、騎兵の彫像の足元に設置された玉座から男の声が上がる。

古代の中華武将の様な鎧を纏う男は、目の前のモニターを胡乱げな目付きで見ていた。

 

「これでは調べたとは言うまい。蔵書に記録は無かったのか?」

「残念だが………似た様な宝具やスキルはあるが、特定には至れなかった」

 

言葉とは裏腹に、神父服の男は陰のある笑みを絶やさずに答えた。

 

「だが問題はあるまい? ご覧の通り、彼の格闘技術は未熟だ。彼の能力に不明な点はあれど、総合評価では君達の勝率が高いと思うがね?」

「なればこそ、勝機は万全を期すべきである」

 

顔を顰めたまま、中華武将の男は憮然と答えた。

 

「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。確実な勝利の為には一分の隙も許されまい」

「とやかく言うなよ、ライダーのとっつぁん」

 

槍兵の彫像の足元から若い男の声が上がる。

そこには群青のボディスーツの上に軽鎧を纏った青年が、肉食獣を思わせる笑みを浮かべて玉座に座っていた。

 

「相手が分からねえなら、手前(てめえ)の全力でぶつかるだけだ。なんなら、ガキ共は俺が纏めて相手しても良いぜ」

「あら、それは困るわね」

 

今度は暗殺者の彫像の玉座から妙齢の女性の声が上がる。

際どいボンテージの上に鉄格子を思わせるドレスを纏った女性がそこにいた。

彼女は手元の杖を弄りながら、画面の中の久遠飛鳥と春日部耀を興味深く見つめていた。

「この娘達、とっても私の好みですもの。ええ本当に―――虐めれば、さぞかし良い声で鳴いてくれそう」

 

目元を覆い隠す鉄仮面の下から、金色の瞳がヌラリと妖しい光沢を帯びる。

そんな彼女に、ランサーが呆れた溜息を吐く。

 

「は、御得意の吸血風呂(ブラッドバス)にでも沈めるのか? んな事しても若返るワケねえだろうが」

「美容の事が貴方に分かるのかしら? 野を駆けずり回る獣の貴方に」

「ま、分からねえな。生憎とそこまで拘った物が無えしな」

「目的を見失っては困るな。アサシン、ランサー」

 

 咳払いと共に神父服の男が割り込んだ。

 

「標的はあくまで、あの少年(・・・・)。それ以外は二の次に他ならない」

 

 舌打ちと共に不承不承頷く声が各々から返事が上がった。

 神父服の男が手元のコンソールを操作すると画面の映像が切り替わった。

 岸波白野とそのサーヴァントであるセイバーとキャスターの映像と、詳細なステータス情報がそこに映される。

 

「セイバーは暴君ネロ、キャスターは玉藻の前か………こりゃまたピーキーなメンツだな」

「どちらも本職としてのセイバーやキャスターとは言えまい。ステータスだけ見るならば拙者達が有利ではあるが………」

「ああ、『岸波白野』がいる」

 

 ランサーの呟きに、ライダーは押し黙る。

 ライダーだけではない。この場にいる全員が『岸波白野』を見つめていた。

 複雑な感情が入り混じった顔で見つめる者、忌々しい仇敵の様に見つめる者、鉄面皮で自らの心情を悟らせない者。

 様々な感情が交差し、画面の中の『岸波白野』へと視線が集まっていた。

 

「………それで、肝心の()はどうなんだ?」

 

 立ち並ぶ彫像の一角、弓兵の玉座から若い男―――衛士(センチネル)・アーチャーの声が響く。

 

「彼を取り囲む味方やサーヴァントの戦力は分かった。では、我々の標的である()は単独でどれだけの戦力を持っている?」

「それについては心配ない。『岸波白野』そのものの戦力は一介の魔術師と同程度といったところだ。君達を相手にするなんて、とてもとても」

 

 含む笑いをする神父服の男。

 しかし、アーチャーは知っていた。

 『岸波白野』は単純な数値で戦力を測れる相手ではない。

 どう足掻いても埋めようのない戦力差を覆し、最期には逆転勝利する者。

 それこそが、アーチャーの―――

 

「おい一つ忘れてねえか? ウサギ耳の嬢ちゃんはどうする? ありゃ帝釈天の眷属なんだろ」

 

 ふいに、ランサーが声を上げる。

 『箱庭の貴族』であり、雷神にして武神の帝釈天の眷属である黒ウサギ。

 身体能力だけでも逆廻十六夜に匹敵し、彼女の持つ恩恵(ギフト)の数々は護法十二天から授けられた一級の恩恵。

おまけに『審判権限』でギフトゲームへの介入が出来る為に、彼等が『岸波白野』を狙う以上、無視は出来ない存在だ。

 

「問題はない。むしろ戦力として数えなくても良い」

 

神父服の男は、ランサーの疑問を杞憂だとでも言いたげに手を振った。

 

「ギフトゲームは箱庭世界において法と同義だ。ゲームのルールを破る事は許されない」

 

空々しい笑顔と共に、神父服の男は手を広げる。

その手には、一枚の契約書類(ギアススクロール)

 

「故に、ゲームが開始されれば箱庭の審判は黙って勝敗を見届ける他ない。もとより………月に関わる眷属達は、君達に逆らう事は出来ない(・・・・・・・・・・・・)

 

ふん、と不満そうにランサーは鼻を鳴らしたが、それ以上は追及しなかった。

 

「その為にはゲームの開始条件を満たさねばならないのだが………どうやら抜け駆けをした者がいた様だ」

「おや、いけませんでしたか?」

 

神父服の男がチラリと見た先、魔術師の彫像の玉座に足を組みながら座った衛士(センチネル)・キャスターがにこやかに微笑んでいた。

 

「私が使用したサーヴァントの枠はあちらの(・・・・)ライダー。倒すべき敵を味方に引き込んだのですから、むしろお手柄だったと言って欲しいですがね?」

「そのサーヴァントは呆気なく消えた様だが?」

「生憎と不正な召喚なのでマトモなサーヴァントにならなかったのですよ。本来なら不死身といっていい存在になる筈だったのに」

 

紳士的な笑みを浮かべる衛士・キャスター。

しかし、この場にいる全員はその笑顔を信じる者は一人もいなかった。

それどころかランサーとライダーは不快そうに顔を顰めた。

 

「開戦前からズルして騙し討ちか。いい根性してるじゃねえか」

「その上、自分のサーヴァント(部下)を捨て駒にするなど………貴殿は英霊としての誇りを欠いている」

「誇り、ねえ………」

 

二人の非難に、キャスターはクックッと喉を鳴らし―――眼鏡を外した。

 

「さっすが、清純な英霊様だ。言う事が違うねえ、勝利の為に手段を選べとは恐れ入る」

「勝たなくて良いとは言っておらん。だが人として犯してはならぬ領域があろう」

「はあ? そんなものを忌避するくらいなら魔術師なんてやってねえよ」

 

ライダーの叱責に、キャスターは反吐が出ると言いたげな顔になった。

 

「勝つためなら何でも使う。どんな手段でも取る。それが俺のやり方だ」

「なかなか立派な心構えだが、しばらくは控えてもらいたい」

 

 一連の成り行きに全く表情を崩すことなく、神父服の男はキャスターの前に立つ。

 

「確かに()の始末を命じてはいるが、こちらの管理下にないサーヴァントを増やされては困る。これ以降、勝手に英霊召喚システム(システム・フェイト)に干渉する様であれば、君に処分を下さねばなるまい」

「………ええ、肝に命じておきましょう」

 

 再び眼鏡をかけ、朗らかな笑顔でキャスターは答えた。しかし、先ほどまでの態度を見る限り胡散臭い笑みに見える。

 

「ともあれ、開戦条件はもうすぐ満たされる。()が召喚したセイバー、キャスター。未だ姿の見えないランサー、アサシン、バーサーカー。そして、衛士・キャスターが使い潰したライダー」

 

 神父服の男がそれぞれのクラスを読み上げると同時に、向かい合った彫像の中央の空き地にホログラムの彫像が浮かび上がる。

 剣士、魔術師、槍兵、暗殺者、狂戦士、騎兵。

 かつての地上で、そして月で行われた聖杯戦争に召喚された英霊のクラス。

 それらを模した彫像が現れ、それぞれのクラスに対応した玉座の前に向かい合う様に直立する。

 唯一、騎兵の駒だけが黒く塗り潰されていた。

 そしてお互いのクラスを模した彫像が向き合う中、一対にならないクラス。そこは―――

 

「残るは、弓兵(アーチャー)。そのサーヴァントが召喚されれば我等のゲームが幕を開ける。その時は存分に力を振るうが良い」

 

 

「月を守護する最強の番人。月の衛士(ムーン・センチネル)達よ」

 

 

 

 




 彫像のデザインはFateのアニメで出てくるサーヴァントの駒をイメージして下さい。
 月の衛士達が仕掛けようとしてるギフトゲームが何か? 感の良い人は分かるとは思いますが、開催されるのは少し後になります。

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