月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 話が全く動いてない(白目)
 デイリー報酬の呼符を使ったら、アルトリアが出ましたヤッター!

アルトリア「私、三人目だもの・・・・・・」


第2話「戦果報告」

 乾いて弾ける様な音が辺りに響く。大剣を模した木剣とロングソードを模した木剣が互いにぶつかり合う。

 鉄のように散る火花は無くとも、その衝突には互いの戦意があった。

 はっ、と小さく丸めた呼気を吐き出して、白野はセイバーに打ち込んでいく。

 大剣と普通のロングソードでは間合いに差がある。ならば、その長さが仇となる懐こそ安全地帯。魔術(コード・キャスト)で強化された身体能力は、白野をいっぱしの兵士と同程度までに引き上げていた。

 しかし。相対するのは剣士の中でもトップクラスの剣の英霊(セイバー)

 白野の打ち込みなど予想通りと言わんばかりに大剣を斜めに構え、攻撃を反らす。そのまま、剣の腹を滑らせる様に払い、無防備な白野の脇腹へ大剣が奔る。

 

「っ、gain_con()!!」

 

 白野が発動させた魔術が、彼の身体に鋼の様な堅固さを与える。

 次の瞬間、内臓を弾き飛ばすかの様な衝撃が白野を襲った。

 手加減しているとはいえ、剣の英霊の一撃。相手が鋼の鎧を着込んでいようが、その鎧ごと叩き潰すのは造作もない。

 胃から酸っぱいものが込み上げてくる感覚に耐えながら、白野は強引にセイバーに詰め寄る。

 セイバーの大剣は白野に脇腹に振られたまま止まっている。もうセイバーを守る武器は無いと確信し―――顎に生じた衝撃と共に宙を舞った。

 

「、!?」

 

 まるで漫画の様に飛ばされる中、白野は何とか目だけをセイバーに向ける。そこには左手でアッパーカットの様に掌底を振りぬいたセイバーの姿があった。どうやら、白野が打ち込むと同時に片手を大剣から放し、即座にカウンターに転じたらしい。

 地面へと背中から激突した白野は、何とか受け身を取って、立ち上がろうとし―――視界が揺れている事に気付いた。

 顎を打ち抜かれた同時に脳を揺さぶられたのだろう。それでも剣を握ろうと手を伸ばし―――目の前に大剣の切っ先が見えた。

 セイバーが、白野の胸に切っ先を押し付けていた。

 

「………参りました」

「うむ。これで五百回目であるな」

 

 セイバーが静かに頷き、大剣を白野からどける。

 剣を拾い上げて立ち上がる白野。その表情には、些か覇気がない。

 

「次こそはいけると思ったんだけどな」

「甘い計算だ奏者よ。そもそも本気で打ち込めば防御魔術ごと輪切りにしているからな」

 

 容赦のないセイバーの一言に、白野はガックリと肩を落とした。

 

「それにしても剣の鍛錬を願い出て一ヵ月になるが………」

 

 白野に濡れたタオルを手渡しながら、セイバーは溜息をつく。全身を汗と泥に塗れた白野に比べ、セイバーは疲労の影すら見えない。

 

「はっきり言って才能がない。凡庸、非才、並み以下。戦術眼は優れているが、前線で戦うには致命的に不向きだ」

「改めて言われると落ち込むな………」

「当然といえば当然だ。鍛錬を続ければマシになるだろうが、それには少なくとも十年先を見越した鍛錬をする必要がある」

 

 普段は白野に対して甘い空気を振り撒くセイバーも、今は剣の教官として厳しく生徒(白野)に評価を下していた。

 

「そなたは確かに先読みして相手の一手を封じる様な慧眼の持ち主だ。しかし、それは我等サーヴァントの戦いを傍目で見てきたからこそ。秒の判断が生死の境を決める格闘戦ではそなたの慧眼を活かす時間もない」

 

 ボクシングで例えるならば、白野はリング上の選手に最適な判断を下せるセコンドだ。彼の指示の下、選手は勝利をおさめられるだろう。

 しかし、名セコンドが名選手とは限らない。

 客観的な立場で試合を見れるセコンドと違い、常に攻撃が飛んでくるリング(戦場)は彼に的確な判断を考える余裕すら許さない。

 

「はっきり言うが、そなた自身の手で戦うという選択自体が間違いであろう。どうにもならぬ相手は余かキャス狐。イザヨイかヨウに頼るべきであろう。それすらも適わないならば、即座に逃げる他あるまい」

「それは分かってはいるんだけど………」

 

 どこか歯切れの悪い様子で言葉に詰まる白野。

 セイバーの言う事が紛れもない正論である事は、白野も分かっていた。彼は剣を振って戦う者ではなく、剣となるサーヴァントを使役する者。

 加えて、英霊であるセイバー達や特別な恩恵(ギフト)を宿す十六夜達と岸波白野では元々の身体能力に差があり過ぎる。それこそ、接近戦を不得手とするキャスターにすら白野は足元にも及ばない。

 普通の魔術師ならば、肉体の鍛錬をする無意味さに早々と見切りをつけて、魔術の鍛錬やサーヴァントの効率の良い運用に時間を費やすだろう。

 しかし。白野は苦い気持ちで一ヵ月前を振り返る。

 それは、〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)のギフトゲームの終盤。

 魔王の手下に操られた春日部耀により、セイバーと連携が取れなくなった白野は彼女の体術の前に手も足も出なかった。

 あの時は奇跡的にキャスターが召喚されて事無きを得たが、あと一歩遅ければ白野の命は無かっただろう。それどころかマスター不在となったセイバーも消滅、耀はそのまま魔王の手下として望まぬ破壊を強いられていた。

 こんな事態が二度と無い様に、セイバー達がいなくても対応できるくらい―――少なくとも自分の身を守れるくらい―――の護身術を身に付けなくてはならないと白野は考えていた。

 

「まあ、幸いな事に今の奏者には余を含めて二人のサーヴァントがいる。」

 

 白野の心情を察してか、セイバーは少し語調を緩める。

 

「常に一人は傍にいる様に我等も心掛けよう。そうすれば以前の様な危機には陥るまい」

「………そうだな、ありがとうセイバー」

「ご主人様~~!」

 

 遠くからキャスターが手を振りながら白野達へ駆け寄る。

 彼女が動く度にトレードマークである狐の尻尾が左右に揺れていた。

 

「飛鳥さん達が戻って来ましたよ。昼食の後、大広間で戦果の審査だそうです」

「そっか、そういえば今日だったな」

 

 汗を拭きながら白野は思い出した。

 一週間前、〝ノーネーム”に送られてきた一つの封筒。

 南側のコミュニティ〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟から収穫祭への招待状が送られたのだ。

 飛鳥のディーンや地精のメルンが開墾したお陰で農園の復興に目処が着いた為に、新たな牧畜や苗を欲していた‟ノーネーム”にとって渡りに船であった。

 しかし、問題が一つ生じる。収穫祭は前夜祭を含めれば二十五日間と長期に渡る。その間、主力である十六夜達が本拠地を離れているのは良くない状況だ。‟フォレス・ガロ”の様な人攫いや天災の様に襲い掛かる魔王の事を考えると、最低でも一人は留守番しなくてはならない。

 もっとも、筋の通った正論ではあっても、せっかくの収穫祭を我慢して退屈そうな役目を引き受ける人間がいたかと言うと―――

 

「「「「嫌だ」」」」

「ん? 驚いたな、岸波が断るなんて」

「どういう意味だ、十六夜?」

「いや、ドを通り越してEXTRAクラスのお人よしな岸波の事だ。ここは進んで引き受けて俺達は感謝感激で涙しながら南側へと旅立つ予定だったんだが」

「………ニヤニヤ笑いをしてなければ、その言葉を信じても良かったけどな」

 

 信じるのかよ、と内心でツッコミを入れながら十六夜は白野の反応を待つ。今まで寝食を共にしてきたが、白野は衣食住以外で個人的な欲求をしてこなかった。むしろ人に譲る事の多い彼が、自分の意向を通そうとするのは初めてではないだろうか。

 

「まあ、俺にだってやりたい事くらいはあるさ。いつも無茶ぶりを振られてばかりだし」

 

 MPSとかはかせないとか借金の取り立てとかな、と遠い目をする白野。

 

「それに、珍しい礼装とか手に入るかもしれないからな。是非とも自分の目で見ておきたいんだ」

「ふうん。最近、皇帝様や御狐様と何やら画策してるみたいだが、それと関係あるのか?」

「まだ秘密。ちゃんと形になってから見せたいし」

「へいへい。それなりに期待してますよっと」

 

 ―――と、こんなやり取りがあった後、最終的に日数を絞らせ、‟前夜祭までに最も多くの戦果を上げた者が全日参加する”という取り決めが為されたのだ。

 

「俺達の戦果は問題ないとして、十六夜は大丈夫なのか? 強過ぎて周りのコミュニティから敬遠されてると聞いたけど」

「大丈夫なんじゃないですか? あの凶暴児、白夜叉さんからゲームを紹介してもらったみたいですから」

 

 どうでも良さそうに答えるキャスターを連れながら、本拠へと歩く白野達。

 意外な事だが。今回のゲームで、十六夜の戦果成績は低迷していたのだ。

 ‟世界の果て”に住まう巨躯の蛇神、‟黒死斑の魔王”の側近にして神格保持者であった悪魔・ヴェーザー。

 人智を超えた敵達を駆逐した十六夜に対して、下層のコミュニティ達は彼のゲームの参加を著しく制限したのだ。

 もっとも、コミュニティにだって生活があるのだから大敗すると分かってゲームを開催するわけにもいかないのだが。

 

「そっか。このまま勝ち逃げ、というわけにもいかないか。となると、後はどんな戦果を上げて来たかだけど……」

「なに、心配はあるまい」

 

 横で聞いていたセイバーが鷹揚に微笑む。

 

「我等が上げた戦果も中々の物だ。生半可な戦果では奏者達には及ぶまい」

「大口の取引先を確保したんですし、ご主人様の戦果に並ぶ人はいませんって!」

 

 サーヴァント二人が頷くのを見て、白野の中にもようやく余裕が生まれた。彼女達の言う通り、それだけ戦績は上げたのだ。

 何はともあれ、今日は待ち望んだ戦果の報告日。十六夜達がどんな結果を出して来ても、自信を持って自分の戦果を報告しよう。

 

 *

 

 〝ノーネーム”の本拠・大広間。

 そこには黒ウサギを除く主要メンバー全員が集まっていた。

 大広間の中心に置かれた長机には審査員として上座にジンとレティシア。その後にコミュニティへの貢献度として十六夜、飛鳥、白野、耀の順で座っている。そして、白野の背後に控える様にセイバーとキャスターが並び立つ。

 

「これキャス狐、あまり引っ付くでない。先ほどから尻尾がビタンビタンと余に当たっておる。そなたは部屋の隅で控えるが良かろう」

「セイバーさんこそ、私の足を踏んでますよねえ? 聞くまでもないけどワザとだろお前。つーか邪魔だからどっか行け、ハレンチ皇帝」

「淫乱ピンク」

「痴女レッド」

「はい、そこまで」

 

 バチバチと火花を散らし始めた彼女達を白野が仲裁する。

 

「二人とも、静かに出来ないなら退室して貰うよ」

「むぅ……」

「は~い……」

 

 仕方なし、と言わんばかりの二人の態度に飛鳥は呆れた様に溜息をついた。

 

「相変わらずモテモテねえ……」

「両手に花、しかも一人は傾国の美女と来たもんだ。男冥利に尽きるじゃねえか、色男」

「ああ。ついでに体力も懐具合も尽きかけてるけどね………」

 

 ヤハハとからかう十六夜に、白野はグッタリしながら答える。

 事の始まりは一ヵ月前。北側で白夜叉との会合を終えた後の事だ。

 

「まあ、ご主人様が悪いわけじゃないんですけど!」

 

 台詞とは裏腹に、片手は人差し指を立て、もう片方の手を腰に当てて「キャス狐さん、怒ってますよ~」のポーズを取るキャスター。

 

「故意に浮気したわけじゃないので、情状酌量の余地ありという事にしてあげます。戦闘面で見るなら、サーヴァントが二人になったのは悪くないですし」

「うむ。前衛に余、後衛に呪術に優れたキャス狐がいれば戦術の幅も広がるであろう」

「でもでも! やっぱり御主人様にとって一番なのは私じゃなきゃ嫌なのです!」

「余も同感だ。かと言って、記憶の整理が覚束無い奏者にどちらかを選べというのは酷であろう」

 

 そこでだ、とセイバーは一旦言葉を切る。

 

「余とキャス狐で競い合い、そなたの心を射止める事にした。そなたは心惹かれた相手を正室として迎えよ」

「私達無しじゃいられないくらい骨抜きにしてあげますから、ちゃ~んと選んで下さいね? でないと・・・・・・チョン切っちゃうゾ♪」

「・・・・・・・・・ああ、うん。分かった」

 

 部屋の中央。爆心地となった場所でプスプスと黒こげになった白野は、力なく頷いた。その後、抜け駆け禁止、白野が求めない限りは清く正しい交際をする事などの幾つかの取り決めがなされ、第一次正妻戦争は幕を下ろした。

 余談ではあるが、支店の一部を崩壊させられた白夜叉は「やはりアイツ絡みになるとロクな目に遭わん・・・・・・」と頭を抱え、側近の女性店員はブチッという擬音を立てた後、薙刀を片手に白野を追い掛け回した。あの時の鬼神も裸足で逃げそうな形相は、白野にとっては忘れられない思い出(トラウマ)となった。

 結局、魔王襲撃の時の功績を相殺する形で許してもらい、白野の少ない貯金が全て支店の修繕費に充てられた。

 

「美少女二人に言い寄られるなんざ、世の男性陣が大金払ってでも替わって欲しいシチュエーションだぜ。リア充税だとでも思って諦めな。もしもの時は、ちゃんと用意してやるよ」

「・・・・・・何を?」

「小船を」

「なんで?」

「Nice boat」

「殴っていい?」

「お? やるか? やれるのか?」

 

 ニヤニヤと小馬鹿にした笑みの十六夜に、拳を握ってプルプルと震える白野。その横で飛鳥は、「良い船って、どういう意味かしら?」 と首を傾げていた。

 

「あ、あの~。そろそろ審査を始めたいのですが・・・・・・」

 

 ジンの遠慮がちに制止し、ようやく問題児達は姿勢を正した。

 

「さて、細かい戦果は置いとくとして、皆さんが上げた大きな戦果から見ていきましょう。まずは飛鳥さん。牧畜を飼育する為の土地と、山羊十頭を寄贈してくれました」

 

 フフン、と後ろ髪を上げる飛鳥。派手な戦果ではないが、生活を成り立たせる為の牧畜を用意したのは組織的に重要な戦果と言えよう。

 レティシアがペラリと報告書を捲って続きを話す。

 

「次に、耀の戦果だが・・・・・・これはちょっと凄いぞ。火龍誕生祭にも参加していた“ウィル・オ・ウィスプ”が、わざわざ耀と再戦するために招待状を送りつけてきたのだ」

「“ウィル・オ・ウィスプ”主催のゲームに勝利した耀さんは、ジャック・オー・ランタンが製作する、炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです」

「これを地下工房の儀式場に設置すれば、本拠と別館にある“ウィル・オ・ウィスプ”製の備品に炎を同調させる事が出来る」

「・・・・・・・・・へえ? それは本当に凄いな。やるじゃねえか、春日部」

「うん。今回は本当に頑張った」

 

 掛け値なしの十六夜の賛辞に、いつになく得意げな微笑みを浮かべる耀。現在、灯りや炊事の火には蝋燭や薪を使っているが、これからはその手間もなくなる。後は竈や燭台、ランプを“ウィル・オ・ウィスプ”製の備品にすれば、本拠で恒久的に炎と熱が使えるのだ。

 

「それで、これを機に“ウィル・オ・ウィスプ”製の生活必需品を買い揃える事になりましたが・・・・・・・・・この代金は白野さんが支払ってくれました」

「え? 白野が?」

 

 耀が意外そうな声を上げるが、十六夜と飛鳥も怪訝そうな顔になった。白夜叉に修繕費を支払って素寒貧となった彼に、そんな出費を出せるとは思わなかったのだ。

 

「白野もジャック達とゲームをしたの?」

「ああ、いや。俺の場合は普通に売買したというか・・・・・・」

 

 耀の疑問に答えながら、白野は傍らに置いていた鞄から何かを取り出し、皆に見える様に長机の上に置いた。

 それは、鮮やかな真紅の鳳凰が刺繍された、一枚のマフラー。

 

「これは回復のギフトを持つ礼装。セイバー達と一緒に作ったのものだ」

「作ったって・・・・・・白野さん、恩恵付与(ギフトエンチャント)が出来たんですか!?」

 

 詳細をきいていなかったジンは驚いて目を剥く。

 恩恵付与(ギフトエンチャント)とは、文字通り無機物にギフトを付与するギフトだ。このギフトを用いれば、ただの矛に絶対貫通の恩恵を、ただの楯に絶対防御の恩恵を施す事が出来る。

 とはいえ、これは言うほど簡単な話ではない。恩恵が強過ぎると付与された無機物が耐え切れずに崩壊し、恩恵に耐えうる無機物があったとしても今度は恩恵が十二分に発揮できる様に加工しなくてはならない。

 素材を壊す事なく恩恵を付与する呪的感性、素材を最適な形にする製作者としての腕前が問われる職人技だが―――

 

「出来るよ。俺達、三人にかかれば」

 

 白野の後ろで、セイバーが得意げに胸を張る。

 

「素材の加工は当然、余だ! かのドムス・アウレアを建造した至高の芸術家である余の手にかかれば、朝飯前であるからな!」

「な~にが朝飯前ですか、御主人様が監督してないと魔改造してたクセに。まあ、そうやって出来た物品に御主人様が術式を加えて、私が細かな調整をして礼装を作ったワケです」

 

 つまり、加工をセイバー、調整をキャスター、総監督を白野が務めて一つの作品が完成したのであった。

 

「そう、これぞまさしく! 御主人様との愛の共同作業なのです!!」

 

 キャー☆ と体をクネクネさせるピンク狐。意味深な言い方に、飛鳥は少し顔を赤くして続きを促した。

 

「そ、それで! 岸波君達の創作ギフトがジャック達とどう繋がるのかしら?」

「ああ。俺達はこれを“ウィル・オ・ウィスプ”に売って貰っている」

「・・・・・・なる程、読めてきたぜ」

 

 白野の言葉に、十六夜はニヤリと笑った。

 

「大方、素材はジャック達から買い取り、出来たギフトをジャック達に売り、それをジャック達が別の顧客に売る事で利益を得てるワケだな」

「そ、正解」

「でも、売れるの? 私達、“ノーネーム”なのに?」

 

 旗印と名前は商品のブランド名に等しい。いくら出来が良くても、製作者の名前が無い商品は信用度が低いだろう。

 そんな耀の指摘に、十六夜が解説を加える。

 

「それが問題にならないんだよ。なにせ北側の、しかも“ウィル・オ・ウィスプ”が売り出す商品だからな」

 

 一ヶ月前、魔王襲撃の記憶も新しい北側のコミュニティにとって、魔王の撃退に一役買った“ノーネーム”達は未だに注目の的になっている。そんな“ノーネーム”が製作したギフトは、目の前で実演された魔術(コード・キャスト)もあって効果は既に実証済みだ。お世辞にも治安が良いとは言えない北側では、魔王襲撃もあって戦闘系ギフトの需要が高まっている。

 加えて、販売元の“ウィル・オ・ウィスプ”は火龍誕生祭で最優秀賞に選ばれた。

 魔王撃退に一役買った恩恵、そして最優秀賞をとる程の製作コミュニティの御墨付き。二重の太鼓判が、白野の礼装が売れる理由だった。

 

「しかし、これ一朝一夕で出来る成果じゃねえな。いつから根回ししてたんだ?」

「火龍誕生祭が終わった時。前々から礼装の製作に行き詰まっていたから、ジャックに意見を聞いたんだよ。その時に、いくつか出来上がったサンプルを送ったらジャックが気に入ったみたい」

 

 その直後にキャスターが来た為、ジャックは礼装の素材を白野達に少し横流しする事で白野に礼装を作らせ、素材の原価や販売元の手間賃を差し引いた値段で白野に代金を支払っていた。礼装の販売と共に自分のコミュニティの作品も注目を集め、ジャックにとっても少なくない利益になっていた。

 

「既に鳳凰のマフラーに加えて、守りの護符や純銀のピアスは量産体制が出来た。今は収入源として弱いけど、今後“ノーネーム”が活躍していけば、ジャックを通して売買する必要も無くなって、コミュニティの定期的な収入源になる予定だよ」

「戦わずして名前を売り、売れる度に名前と一緒に金銭も手に入る! 御主人様の礼装はまさしく! 無印良ひ、ムガムガッ!?」

 

 余計な事を言おうとしたキャスターをセイバーが慌てて口を抑える。ともあれ、白野は設備の強化として“ウィル・オ・ウィスプ”の商品を買い取るだけでなく、金銭と共に“ノーネーム”の評価を得る手段を確立させたのだ。

 

「あ、あのさ。白野。私がギフトゲームに勝ったこと、ジャック達から何か聞いてない?」

「え? 最近は手紙で発注のやり取りしかしてなかったけど・・・・・・というか、耀がジャック達のギフトゲームに参加した事もいま初めて聞いたよ」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 どこかホッとした様に胸をなで下ろす耀。そんな耀を怪訝に思いながら、白野は報告の済んでない最後の一人に目を向けた。

 

「さて、俺達の成果は報告し終わった。残るは十六夜だけだけど、君はどんな成果を出したんだ?」

 

 牧畜の提供、設備の強化、副収入と評判の確保。

 どれも組織を運営していく上で、重要性の高い案件だ。

 それらを成果として出した白野達。

 しかし十六夜は、いつもの不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「それじゃ、俺の成果を受け取りに行きますか」

「行く? 行くって、どこへ?」

「“サウザントアイズ”にさ。主要メンバー全員に聞いて欲しい話だしな」

 

 含みのある十六夜の言葉に首を傾げながらも、一同は大広間を後にした。




「キャス狐さん、怒ってますよ~のポーズ」

 元ネタは琥珀さんの立ち絵の一つ。月姫リメイクを待ち望んでおりますとも。

白野の成果について、穴だらけかもしれませんが平に御容赦下さい(ペコリ)

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