月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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「先生ぇ………小説が、書きたいです」
「筆を止めたらそこで終了ですよ」

そんな第4話。今回は以前より、2000文字増しです。いや本当にどうしてこうなった?

3/18 一部誤字修正。


第4話「What's your gift?」

「な、なんであの短時間で”フォレス・ガロ”のリーダーと接触して喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備の時間もお金もありません!」「聞いてるのですか三人とも!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省してます」」」

 

「お黙る!!!」

 

 夕方、噴水広場で合流した黒ウサギ達に喫茶店での一件を伝えると、黒ウサギは耳を逆立てて怒った。それにしても打ち合わせでもしてたのか、君達。

 

「白野さまも! 見ていたなら、どうして止めてくれなかったんですか!?」

「そう言われてもね。流石にガルドを野放しにする気にはなれないよ」

「別にいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「い、十六夜さんは面白ければいいでしょうけど、このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」

 

 黒ウサギの言う通りだ。あの後、ゲームの報酬を取り決めた”契約書類”を両コミュニティのリーダーが作った。そこには”ノーネーム”が勝った場合、『主催者(ホスト)は罪を全て白日の下に晒し、正しい法の裁きを受けた後にコミュニティを解散させる』と書かれている。逆に”フォレス・ガロ”が勝った場合、『参加者は今後一切、主催者(ホスト)の罪を黙認する』とも。

 

「時間さえかければ、必ず彼らの罪は暴かれます。だって肝心の人質は、その……」

「ええ。もうこの世にはいないわ。その点を責めたてれば必ず立証できる。だけど、あの外道を裁くのに時間をかけられないの」

 

 もしもここで時間をかけてしまえば、ガルドはこの都市から逃げ出すだろう。そうなればもう箱庭の法律では裁けばくなる。そしておそらく―――都市の外で、また同じ事を繰り返すだろう。

 

「ここでガルドを逃せば、また奴の犠牲になる人間が出る。それに報復として”ノーネーム”のメンバーに危害を加えるかもしれない。いまここで、確実に叩いておいた方がいい」

「僕も賛成です。彼の様な悪人を野放しにしちゃいけない」

 

 ジンくんも賛同する姿勢を見せたからか、黒ウサギは溜息をつきながら頷いた。

 

「仕方がない人達です。まあ十六夜さんがいれば、”フォレス・ガロ”程度なら楽勝でしょう」

「はあ? お嬢様達が売った喧嘩だろ。俺が参加するのは無粋じゃねえか」

「当り前よ。あんな外道、十六夜くんの手を借りる必要ないわ」

 

 当然といえば当然か。これは自分達が引き起こした騒動なのだ。十六夜には関係ない話だろう。黒ウサギの話を聞くと、戦闘能力がずば抜けている様だから参加してくれたら心強かったのだが。

 

「……もう好きにして下さい」

 

 そう言って遠い目をする黒ウサギの背中は、何故か煤けて見えた。こんど黒ウサギを労わってあげよう。彼女が円形脱毛症とかにならない内に。

 

 

 

 その後、ジンくんを先に”ノーネーム”の本拠地へ帰らせ、黒ウサギの薦めでギフトの鑑定をしてもらう為に自分達は”サウザンドアイズ”を目指していた。”サウザンドアイズ”は箱庭全域に精通する巨大商業コミュニティだ。黒ウサギの話では、コミュニティのメンバーは何か特別な”瞳”を持っているらしい。この近くの支店にいる幹部にギフトの鑑定をしてもらえば、明日のゲームで自分の力を正しく引き出せる様になるとのことだ。

 

「岸波君」

 

 声をかけられて振り向くと、飛鳥は気恥ずかしそうに自分の髪を弄っていた。

 

「その……さっきはありがとう。助かったわ」

「ああ。喫茶店の一件? いいよ、気にしなくて」

「ふうん。私、お父様以外で男の人に体を触られたのは初めてなのに岸波君は気にしないのね」

「ア、アハハ……」

 

 一転して意地の悪い笑顔になった飛鳥に苦笑する。父親以外に触れた事がないって、かなりのお嬢様だったんだな。

 

「それにしても、さっきはよくガルドの拳をかわせたわね。結構速かったのに」

「うん。あの時の白野、私よりも先に動いてた」

 

 横で聞いていた耀も感心した様に頷く。そう言われても、あの時は必死だったから自分でもよく覚えていない。ただ―――襲い掛かるガルドを見た時、どういうわけか攻撃をしかけるタイミングやガルドの攻撃性能が瞬時に頭に浮かんだ。あとは避けられるタイミングを計り、ガルドの攻撃が届かない距離へと動いたから回避が可能だっただけだ。

 

「へぇ。俺のいない間に面白い事してたみてえだな。どうだ、今度俺と手合せしてみるか?」

「遠慮しとくよ。十六夜と戦ったら命がいくつあっても、足らなそうだ」

「ちぇ、詰まんねーの」

 

 聞けば、十六夜は黒ウサギに追いつかれるまでに水神を素手で倒したそうだ。それにしても―――仮にも神の力を持つ相手を素手で捻じ伏せるなんて、十六夜ってホントに人間か?

 そんな風にみんなで他愛のない雑談をしながら、商店へと続くプリベッド通りを歩く。プリベッド通りは石造で舗装されており、脇を埋める街路樹は綺麗な桃色の花が咲いていた。

 

「桜……じゃないわよね。真夏に咲くわけがないし」

 

 道すがら、並木に植えられた桃色の花を見て飛鳥が不思議そうに呟いた。

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「……? 今は秋の筈だけど」

 

 ん? と三人と一緒に首をかしげる。全員、ウソをついてるわけではないみたいだ。ちなみに自分は覚えてないのでノーカウント。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化など様々な相違点があるはずですよ」

「へぇ? パラレルワールドってやつか?」

「正しくは立体交差並行世界論というのですが……あ、着きましたよ」

 

 そう言って、黒ウサギは話を打ち切った。視線の先では青い布地に互いが向かい合う女神像が記された看板があった。あの看板の店が”サウザンドアイズ”だろう。

 もう店じまいをするのか、割烹着姿の女性が看板を下げようとしていた。

 

「まっ」

「待ったは無しですお客様。当店は時間外営業をしておりません」

 

 とりつくシマも無かった。流石は大手商業コミュニティ。押し入り客の扱いにも手馴れてるのだろう。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです! 閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

「文句があるなら余所へどうぞ。これ以上騒ぐなら出禁にしますのでご自由に」

「出禁!? これだけで出禁とか御客様を舐め過ぎでございますよ!?」

 

 キシャー! と気炎を上げる黒ウサギを宥めながら、店員に頼み込む。ゲームの日程は明日だ。ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「俺達はギフトの鑑定をお願いしに来たんだ。どうにか融通してもらえないかな?」

「ふむ。”箱庭の貴族”であるウサギを連れているなら、さぞかし名のあるコミュニティなのでしょう。宜しければ、コミュニティの名を伺いたいのですか?」

「え、えっと……俺達は”ノーネーム”ってコミュニティだけど」

「ほほう? ではどこの”ノーネーム”様でしょうか? よろしければ旗印をご確認させて下さい」

 

 今度こそ店員の質問に答えられなくなり、黒ウサギに振り返る。そこには悔しそうな顔で俯く黒ウサギがいた。

 これが”ノーネーム”のリスクか。相手は超大手の企業みたいなものだ。商売をするにしても、名前も旗印もないという”ノーネーム”(どこかの誰か)など客にしたくは無いだろう。今更ながら、この箱庭世界では名前と旗がいかに重要なのかが理解できた。

 

「その……あの……私達に、旗印はありま」

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」

 

 どうにか声を絞り出そうとする黒ウサギを、店内から飛び出して来た和装の白髪少女が抱きつき……いやフライングボディアタックだな、あれ。とにかく衝撃でゴロゴロと転がりながら街道の向こうの浅い水路まで吹き飛ぶ二人。あ、落ちた。

 

「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

 

 真剣な表情の十六夜と、真剣にキッパリと断る女性店員。水路では顔を真っ赤にした黒ウサギの豊満な胸に顔を摺り寄せてる和装ロリータ。

 

 さて……どう収拾をつけたものかな?

 

 

 

「あらためて自己紹介をしようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる

”サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。以後見知りおいてくれ」

 

 店の前での騒動をどうにか収め、自分達は和装の少女―――白夜叉の私室に通されていた。なんでも、白夜叉は黒ウサギとは知り合いらしく、閉店後の”サウザンドアイズ”の支店に入れたのも彼女のおかげだった。白夜叉の自己紹介に聞き慣れない単語があったからか、耀が首をかしげる。

 

「外門って、何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。因みに私達のコミュニティは一番外側の七桁の外門ですね」

 

 黒ウサギの説明に、自分達はなるほどと頷く。箱庭都市は言うなら、巨大バームクーヘンみたいなものだ。そして一番外側のバームクーヘンの皮が、いま自分達がいる場所だ。

 

「そして私がいる四桁以上が上層と呼ばれる階層だ。その水樹を持っていた白蛇の神格も私が与えた恩恵なのだぞ」

 

 そう言って、白夜叉は黒ウサギの横に置かれた樹の苗を指差した。この水樹は十六夜が箱庭世界の果てを見に行った際に水神に挑まれ、一蹴した際に貰ったギフトだ。

 

「へぇ? じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の”階級支配者”だぞ。この東側で並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)だからの」

 

 それを聞いた途端―――十六夜・耀・飛鳥の三人が立ち上がった。

 

「へえ。最強の主催者(ホスト)か。そりゃ景気の良い話だ」

「ここで貴女のゲームをクリアできれば、私達は東側で最強のコミュニティとなるのかしら?」

「うん。これを逃す手はない」

「ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 慌てる黒ウサギを無視して三人は剥き出しの闘志を白夜叉にぶつけていた。確かに十六夜達からすれば、白夜叉はコミュニティ再建にあたって恰好の獲物だろう。だけど―――

 

「止めた方がいい」

「あら? 岸波君は勝てないと思うのかしら?」

「……勝てる勝てないどころじゃない」

 

 飛鳥の挑発を流して、白夜叉を見る。見れば見るほど、ガルドとは比べものにならない、むしろ比べる事すらおごがましい程の威圧感と能力をひしひしと感じていた。背中に嫌な汗が流れてくる。

自分は白夜叉とは初めて会う。だがこの感覚は識っている。記憶に無くても身体が覚えている。そう、これはかつて太陽の化身と向き合った時の様な―――。

 

「ほう。おんしには私が何者か、視えておるようだの。結構。相手を見極めるのは重要な事だ」

 

 白夜叉はくつくつと笑い、懐から”サウザンドアイズ”の紋章が描かれたカードを取り出し―――刹那、視界が意味を無くした。黄金色の稲穂が垂れ下がる草原、白い地平線を覗く丘。森の湖畔。様々な風景が流星群の様に過ぎ去っていく。気付けば水平に太陽が廻る、白い雪原と凍った湖畔がある世界にいた。

 

「……なっ………!?」

 

 余りの異常さに、十六夜達は同時に息をのんだ。これは明らかに人智を超えた所業だ。それを証明するかの様に、白夜叉は外見から考えられない壮絶な笑みを浮かべた。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は”白き夜の魔王”――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への”挑戦”か? それとも対等な”決闘”か?」

 

 重苦しい沈黙が十六夜達に漂っていた。どう足掻いても勝ち目が無い事は三人とも十分に理解させられた。しかし、ここで引き下がるのは彼等のプライドが許さないのだろう。しばらくして、ようやく十六夜が苦笑しながら手を挙げた。

 

「参った、降参だ。今回は大人しく試されてやるよ、魔王様」

 

 それは自信家の十六夜にとって、最大限の譲歩なのだろう。そんな十六夜の意地をからからと笑いながら、飛鳥達にも問う。

 

「く、くく………して、残りの童達も同じか」

「……ええ。私も、試されてあげてるわ」

「右に同じ」

「そもそも勝負しようとは思ってないよ」

 

 苦虫を噛み潰した様な二人とは対照的に、自分は肩をすくめながら答えた。ここまで実力がかけ離れているのだ。自分は元より、この場にいる人間は誰もこの幼い少女の魔王に敵わない事は明白だ。一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろしていた。

 

「も、もうお互いにもう少し相手を選んでください!! 階層支配者に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます!! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

「何? じゃあ元魔王ってことか?」

「はてさて、どうだったかな?」

 

 はぐらかす様に笑う白夜叉。その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。その声にいち早く反応したのは耀だ。

 

「今の鳴き声……初めて聞いた」

「ふむ……あやつか。おんしらを試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く自分達の元に現れた。鷲の上半身に、獅子の下半身。まさか、この獣は―――

 

「グリフォン……嘘、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力""知恵""勇気"の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

 普段は大人しい耀が珍しく歓喜と驚愕を表情に浮かべていた。そんな耀に自慢する様に白夜叉が言うと、彼女が持っていたカードから一枚の半皮紙が現れた。

 

『ギフトゲーム名"鷲獅子の手綱"

 

 プレイヤー一覧:逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、岸波白野

 

 ・クリア条件 グリフォンの背に乗り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”いずれかでグリフォンに認められる。 

 ・敗北条件 降参、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

 宣誓。上記を尊重し、誇りと御旗と主催者(ホスト)の名の下、ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印』

 

「私がやる」

 

 半皮紙の記述を読み終わると同時に、耀は真っ先に名乗り出た。その眼は探し続けていた宝物を見付けた子供の様に、キラキラと輝いていた。

 

「大丈夫か? 生半可な相手には見えないけど」

「大丈夫、問題ない」

「ニャウ、ニャア」

「大丈夫だよ、三毛猫。白野、三毛猫をお願い」

 

 心配そうに鳴く三毛猫を受け取りながら、耀を見送る。あとは信じて待つしかない。耀はグリフォンに近寄り、慎重に話しかけていた。

 

「初めまして、春日部耀です」

 

 ピクンッ!! とグリフォンの肢体が跳ねた。瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。動物の言葉が分かる耀のギフトは、幻獣が相手でも問題ないらしい。

 

「私を貴方の背に乗せて、誇りをかけて勝負しませんか? 私が負けた時は……貴方の晩御飯になります」

「か、春日部さん!?」

「正気なの!?」

「おんしらは下がっておれ。手出しは無用だぞ」

 

 突然の宣言に、驚く黒ウサギと飛鳥。だが白夜叉の是非を言わさぬ冷たい声に制される。そしておもむろに手を一振りすると、湖畔に鳥居の様な門が現れた。

 

「そこからグリフォンの背に乗り、山脈を一周する。最後まで振り落とされなければ、おんしの勝ちとしようかの」

「分かった」

 

 耀は短く頷くと、なおも心配そうに見てる自分達を安心させるように笑顔を見せてグリフォンに跨る。グリフォンは前傾姿勢を取るや否や、鷲翼を羽ばたかせて空へと飛び立った。

 

「あれは……空中を、走ってる?」

 

 鷲の鋭い鉤爪で、風を絡め取るように。獅子の強靭な後ろ足で大気を踏みしめるように。グリフォンは自身の翼だけで疾走するのではなく、旋風を操って空を疾走していた。

 

「春日部さん……大丈夫かしら」

「さあな。だがあのスピードと山脈から吹き降ろす風。体感温度はマイナス数十度にもなっているはずだ」

 

 心配そうに呟く飛鳥に対し、十六夜は淡々と事実を述べる。確かに普通の人間なら、あっという間に凍死してるだろう。そうでなくてもグリフォンの動きに耐えきれず、落馬して無残な事になる。

 

「大丈夫だよ。耀のギフトが俺の考えてる様な物なら、きっとクリアできるはずだ」

 

 山の影へと入り、見えなくなった耀達を見ながら自信を持って答える。十六夜はピクン、と眉を震わせるといつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「へぇ? 何を根拠にそう思うんだ?」

「最初、耀のギフトは様々な動物と言葉を交わせる様になるものだと思っていた。でもそれだけだと最初に会った時に、黒ウサギの居場所を見付けられた事は説明できない」

 

 あの時、耀はこう言っていたはずだ。”風上に立たれたら嫌でも分かる”、と。

 

「極めつけは喫茶店での一件。虎のギフトを持っていたガルドを捻じ伏せていた。仮に耀が武術の達人だったとしても、あの細腕からガルドを押さえつける程の膂力は考えられないよ。だから、耀のギフトは」

「あ、見えてきましたよ!!」

 

 黒ウサギの声に遮られて目を向けると、耀がグリフォンの背中にしがみつきながらゴール地点へと向かって来た。グリフォンは、これが最後の試練と言わんばかりに急降下や急上昇、更には錐もみ回転をしながら飛行していた。

 

「岸波の考察は当たりみたいだな。あれだけ激しく動いていると、身体にかかるGは相当なはずだ。普通ならとっくに失神してる」

 

 十六夜の説明を耳に入れながら、自分は耀に目で追っていた。ゴールまであと十五メートル、十メートル、五メートル……。

 

「やったっ!!」

 

 その声は誰のものだったのか、歓声を聞くと同時に耀はゴールの鳥居を通過した。緊張がほぐれ、息を吐き出す。見ると、飛鳥や黒ウサギも同じ様に胸を撫で下ろしていた。

 

「勝負あり! このゲーム、見事―――」

 

 白夜叉の宣言と同時に、耀の身体がグリフォンから離れ……そのまま落ちていく!

 

「耀ッ!!」

「待て! まだ終わってない!」

 

 駆け出そうとする身体を十六夜に止められる。そして―――地面に激突するより先に、耀は空中を踏みしめて歩いていた。

 

「………なっ」

 

 その場にいたほとんどの人間が絶句していた。無理もない。先程まで空を飛べる素振りを見せなかったのに、今は湖畔の上で風を纏って浮かんでいるのだ。それに、見間違いで無ければ、あれはグリフォンと同じ方法で飛んでいる。

 そうこうしている内に、耀は自分達の元へ降りてきた。待ち切れなかったのか、三毛猫は自分の腕から飛び降りて耀へ飛び出していった。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類のものだったんだな」

「違う。これは友達になった証」

 

 軽薄な笑みを浮かべた十六夜に、耀はキッパリと言い返す。

 

「何にせよ、無事で良かったわ」

「本当に、心臓に悪かったよ」

「よく言うぜ。春日部のギフトに早々に当たりをつけてたくせに」

「ギフトが分かってても、それで安心と思えるほど楽観は出来ないさ」

 

 十六夜の軽口に付き合っていると、白夜叉がパチパチと拍手しながらこちらへ近付いてきた。

 

「いやはや大したものだ。このゲームは文句なしにおんしの勝利だの。………ところで、そのギフトは先天的なものか?」

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげ」

「木彫り?」

 

 首をかしげる白夜叉に、耀は首から下げていた丸い木彫り細工のペンダントを見せた。材質は楠だろう。中心の空白へと向かう幾何学の模様が彫られており―――

 

「………あれ?」

「岸波君、どうかしたの?」

「いや………何でもない」

 

 そう言うと、飛鳥は怪訝そうな顔で自分を見ていた。この模様……どこかで、見たことがある、様な………?

 

「ほう。円形の系統図か。なんとも珍しいのう」

「鑑定していただけますよね?」

 

 貴重な骨董品を見る様に、耀のペンダントを見ていた白夜叉が黒ウサギの一言で固まる。

 

「よ、よりによって鑑定か。もろに専門外なのだが………」

 

 むむむ、としばらく唸ると、突如妙案が浮かんだようにニヤリと笑った。

 

「良かろう! 試練をクリアしたおんしらに少しサービスしよう。受け取るがよい!」

 

 パンパンと白夜叉が柏手を打つと、自分達の頭上に光り輝くカードが現れた。

 

「これは、ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「誕生日?」

「ち、違います! というかなんで皆さんそんなに息がピッタリなんですか!?  顕現してるギフトを収納できる上に、各々のギフトネームが分かるといった超効果な恩恵です!!」

 

 黒ウサギに叱られながら、自分達はギフトカードを見る。そこに書かれた文字を読み―――瞬間、驚きの余りに自分の思考は白く染まった。

 自分の名前の様なスノーホワイトのギフトカード。そこには、簡素にこう書かれていた。

 

岸波白野:ギフトネーム”月の支配者”(ムーン・ルーラー)

 

 

 




どうも、前回の更新より少し時間が空きましてスミマセン。ようやく書き上がった………。

やっとお披露目できた白野のギフトネーム。どんなギフトなのかは、これから書いていきたいと思うます。それではまた!

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