月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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サハラ「お願いします! クーフーリン・オルタが欲しいです!」
ビリー「しかしマネーは持って来たのだろうね?」
サハラ「はい!」

 デイリーで貰った呼符一枚

ビリー「Hahaha! ボーイ、運営をからかっちゃいけないよ!」

 クーフーリン・オルタピックアップの時に、呼符でビリーが来て思いついたネタ。
 コメントの返信が滞っていますが、今は返信するくらいならSSを書きたいくらいに忙しいので後日に返信させて頂きます。ご容赦下さい。


第8話「“アンダーウッド”防衛戦線」

 非常事態を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 突然の夜襲に、“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟の戦士達は慌てながらも迎撃体制を築こうとする。しかし、遅過ぎた。襲撃者達は既に都市部に入り込み、民家を次々と打ち壊していく。その為、“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟は民間人の避難を優先しながらの迎撃を強いられていたのだ。

 

「報告! 住民の避難が半分完了しました!」

「遅い! まだ半分か!?」

「は、はっ! しかし、なにぶん伝令が混乱していまして、」

「言い訳はいらん! もうじきバリケードが突破される! 住民の避難を最優先させろ!」

「りょ、了解!」

「灯りを消せ! 我々が奴等の格好の的になる!」

「駄目だ! “二翼”には夜目が利かない同士もいる!」

「見張りは何をしていた!? 居眠りしていたでは済まされんぞ!」

 

 喧々囂々、怒鳴り声が連盟の中で交差する。突然の襲撃に、誰もが浮き足立ってマトモに身動きが取れない。本来なら議長であるサラが混乱を鎮め、率先して指揮を取らねばならない。だが、サラの元には襲撃者の中でも別格と思われる相手が徒党を組んでサラと斬り結んでいた。数の有利で実力差が拮抗されたサラに指示を出す余裕など無かった。

 

「伝令! 東地区のバリケードが壊滅! 避難中の民間人が襲撃にあってます!」

 

 新たな伝令に“龍角を持つ鷲獅子”連盟の全員が蒼白な顔になる。よりによって避難が済んでいない地区が攻撃されたのだ。至急、救援を送らないといけないのは分かっているが、人手が足りない。既に負傷者の数は連盟の三割に上っていた。負傷者の搬送に加えて救援を送る余裕など、あるわけがない。

 

「くっ、西地区を放棄! 至急、西地区で戦っている同士を東地区へ―――」

 

 歯噛みをしながら指令を出そうとした、その時だった。

 

『LAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 突如、東地区から雷鳴の様な叫び声が響き渡る。声そのものは極上のハープの様に澄んでいるのに、音階が致命的にズレている様な、そんな叫び声。

 

「なっ・・・・・・・・・」

 

 サラの代理で指揮を取っていた亜人は、信じられない様な面持ちで東地区へと視線を向ける。すると今度は、大樹に設けた本陣から少し離れた場所で巨大な火柱が上がった。

 

「あれは・・・・・・・・・!」

「伝令! 東地区の敵軍前線が崩壊! 同士達が押し返しています! 同時に東地区の避難が完了!」

「何があった!?」

 

 突然、好転した戦況に代理の指揮官は驚愕を隠さずに伝令に詳細を求める。今し方、前線から戻ってきた鷲の翼を持つ亜人は興奮しながらも報告した。

 

「“一本角”です! “一本角”のエリザベート及びバーサーカーにより、敵軍が駆逐されています!」

 

 ※

 

 ―――数分前。

 

 東地区に住んでいた亜人達は大通りを通って群れをなして逃げ出していた。その上空を連盟に所属する翼人達が大声を上げながら避難誘導を行う。住民の中でも空を飛べる者はいち早く避難所へと飛んでいったが、それが適わぬ者は己の足で必死に駆けていく。

 

「あっ!?」

 

 不意に大通りの一転で女の子の声が上がった。猫の耳をした小さな少女が一緒に避難していた住民に突き飛ばされて転んでいた。

 

「ユリ!」

 

 避難所へ走る人達の群れを掻き分けながら、同じ様な猫耳の少年が少女の元へと駆け寄った。

 

「大丈夫か!?」

「う、うん。平気」

 

 ユリと呼ばれた少女は駆け寄った少年に膝立ちになりながら答える。そうしてる間にも、周りでは二人を避けながら次々と大人達が追い越していく。誰もが緊急事態に二人に気にする余裕など無かった。

 

「ユリ、立って! 早く逃げないと!」

「うん、ごめんお兄ちゃ、イタッ!?」

 

 立ち上がろうとした少女が突然、膝を押さえてうずくまる。見ると膝を酷く擦りむいており、傷口から血が流れていた。とてもではないが、走れる様な怪我ではない。

 

 ドスン―――。

 

 不意に、地響きが二人の耳に聞こえた。

 

 ドスン―――ドスン―――ドスン!

 

 地響きは段々と大きくなり、こちらへと近付いていた。周りの大人達は泡を喰って我先にと逃げ出したが、二人は恐怖のあまりお互いをしっかりと抱きしめ合う事しか出来なかった。

 

 ドスン!―――ドスン!―――ドスン!!

 

 住人達が逃げていく方向から反対側の大通りから、襲撃者が姿を現した。

 それは、許し難い程に巨大な人間だった。全長は十数メートルを優に越え、船と見紛う様な巨大な足。手など大型の肉食獣をも片手で一捻り出来そうだ。はちきれんばかりの筋肉を動物の毛皮で作られた腰巻きで包み、体格にあった巨大な戦鎚を握っていた。

 巨人。人類の幻想種であり、北欧やケルトの神話で登場する神や怪物の末裔。それが襲撃者の正体だった。

 巨人が手にした戦鎚を無造作に振り、近くの民家を打ち壊す。

 次の瞬間、瓦礫が散弾銃の様に打ち出された。

 

「キャアアアアアッ!?」

「――――――ッ!!」

 

 衝撃と共に降り注ぐ瓦礫に、避難民達から悲鳴が上がった。怯えてうずくまる妹に少年は覆い被さる様にして顔を伏せる。どうか自分達に当たりません様に。せめて妹には当たりません様に。無駄とは知りつつも、祈らずにはいられなかった。

 やがて、辺りが静かになった。少年達が目を開けると―――目の前に下半身を失った連盟の翼人の死体が見えた。

 

「ひっ―――!」

 

 目の前の死体に、少年達は悲鳴を上げそうになる。よく見ると、辺りには沢山の死体が転がっていた。ある者は瓦礫に押し潰され、ある者は弾丸の様に飛んできた瓦礫に身体を抉られ、ある者は元の形が判別つかない肉塊となり果てた死体。そんな死体が辺りを埋め尽くしていた。

 

 ドスン!!

 

 不意に、少年達の周りが暗くなる。二人が恐る恐る前を見ると、目の前に先ほど瓦礫を飛ばした巨人が立っていた。

 

「あ、あ、あ―――」

 

 大きい。改めて思う必要もない。目の前に立たれると、相手がいかに巨大か理解させられる。恐怖のあまり、パクパクと無意味な声が口から漏れた。対して巨人は、目の前の小さ過ぎる(・・・・・)二人につまらなそうな顔を向けた。歩いていたら鼠を見つけたとでも言いたそうな、そんな顔。いずれにせよ少年達には避けようが無い死が、巨人にとっては踏み潰して進める程度の障害が迫っていた。

 

「・・・・・・・・・ユリ、俺が戦っている間に逃げろ」

「お兄ちゃん!?」

 

 悲鳴の様な制止をかける妹に振り向かず、少年は目の前にある翼人の死体が握っていた剣を手に取った。

 

「こいつは・・・・・・・・・俺が食い止める。だから、その間に逃げるんだ」

「ダメっ! お兄ちゃん、死んじゃうよぉ!!」

「こいつから逃げ切れないだろ! ここにいても二人揃って死ぬだけなんだぞ!!」

 

 聞き分けの無い妹に怒鳴り、少年は巨人と相対する。手にした剣は重く、恐怖で切っ先がガタガタと震えていた。

 

「怖くなんて・・・・・・・・・怖くなんて無いからな。お前なんて・・・・・・・・・お前なんて、ただ身体がデカいだけだ!」

 

 膝が笑いながら啖呵を切る少年に巨人の口から海鳴りの様な音が漏れる。鼠と人間程の体格差があるというのに、いったいどうやって戦うつもりなのか? 少年の持つ剣など、巨人からすれば爪楊枝みたいなものだ。もはや呆れを通り越して失笑してしまう。

 

「う・・・・・・・・・ウワアアアアアァァァァァッ!!」

 

 顔を涙でグチャグチャにしながら、少年が剣を振りかぶって巨人へと走り出す。後ろで妹が悲痛な声で名前を呼ぶが、少年にはもう聞こえなかった。そんな少年の決死の覚悟を巨人は嘲笑を隠そうともしなかった。リーチ差は明確。そもそも小さな人間共の疾走など、巨人から見れば虫の歩み並に遅い。戦鎚を振り下ろせば、愚かな亜人の子供の剣は自分に届くことなく、一瞬で虫の様に潰れる。そんな事を考えながら、巨人は戦鎚を振り上げた。

 

 グシャリ、と辺りに肉が潰れる音が響いた。

 

 ―――少年の頭上(・・)から。

 

「え・・・・・・・・・?」

 

 少年が頭上を見上げる。そこには目を見開いて驚愕した様な巨人の顔があり―――額に深々と槍が突き刺さっていた。グラリ、と巨人の身体が揺れる。何が起きたかさっぱり分からぬ、という顔のまま、地響きを立てながら巨人は仰向けに倒れた。

 

「―――まったく。弱い奴が勝手に飛び出すんじゃないわよ」

 

 バサリ、と音を立てながら少年の頭上から声がかかった。少年が後ろを振り向くと、バサッバサッと背中から蝙蝠の様な翼を羽ばたかせながらエリザベートが降りてきた。

 エリザベートはヒールの音を響かせながら倒れた巨人に歩み寄り、額から槍を引き抜く。

 

「ウエッ、汚い血が付いちゃったじゃない。お気に入りのマイクスタンドなのに~~!」

「あ、あの・・・・・・・・・」

 

 顔をしかめながらガシガシと巨人の衣服で槍に付いた血を拭うエリザベートに、少年は恐る恐る声をかける。

 

「ん? 何よ、子猫? あたしのサインが欲しいの?」

「え? いや、そうじゃなくて、」

「遠慮しないの。“アンダーウッド”のスーパーアイドル、エリザベート様のサインなんてファンクラブの豚共が大枚叩いてでも欲しがるお宝なのよ」

「いや、だから、」

「アンタ達も運が良いわね。絶体絶命のピンチに、このあたしが・・・・・・・・・ウルトラアイドルの、あたしが! 助けに来たんだもの。サイリウムを振って歓喜なさいな!」

 

 ドヤッ! と薄い胸を張るエリザベート。喋る暇を与えずにマシンガントークをするエリザベートに、少年は途方に暮れて妹の方を向く。妹もまた、突然現れたエリザベートに目をパチパチさせながら驚いていた。

 

「エリ様~~~!! ご無事ですか~~!?」

 

 避難所の方角から、猪の顔をした亜人が駆け寄った。亜人の胸には、『34』と刻印されたピンバッジが着いている。

 

「あたしを誰だと思っているのよ。こんなデカブツに負ける筈が無いじゃない」

「ブヒッ! そうでした! 疑って申し訳ありません!」

「まあ、いいわ。それで、他に逃げ遅れた子豚はいるのかしら?」

「それは・・・・・・・・・」

 

 猪の亜人が辺りを見回す。猫耳の兄妹以外、生存者がいないのは明らかだった。

 

「ここにいたのは、最後尾の避難民達です」

「・・・・・・・・・。ふーん、そうなの」

 

 生存者がいた事に対する安堵や犠牲者への鎮魂の言葉を口に出さず、エリザベートはただ頷いて転がった死体を見回した。いつもの快活さを潜め、不機嫌そうな顔になったエリザベートの心境はこの場の誰にも分からなかった。

 

「「「「ウオオオォォォォォッ!!」」」」

 

 大通りの先から野太い雄叫びが響く。最前線に赴いた仲間の異変を感じた巨人達がこちらへ押し寄せていた。まだ距離はあるはずだが、巨人達の背丈を見ていると遠近感が狂いそうだ。

 

「会員34番。アンタはその子猫達を避難所に連れて行きなさい。出来ないとは言わせないわよ」

「はい! あの、本当にエリ様お一人で・・・・・・?」

「グズグズしない! あたし、口答えが嫌いなの。ちゃんと出来たら、ご褒美に踏んであげる」

「必ずや遂行いたします、ブヒィィィィィッ!!」

 

 顔を興奮で紅潮させて敬礼する猪の亜人―――もといファンクラブ会員34番。

 

「あ、あの!」

 

 それまで蚊帳の外だった猫耳の兄妹がエリザベートに声をかけた。

 

「助けてくれて、ありがとうございました! お陰で妹も死なずに済みました!」

「ありがとう、エリザお姉ちゃん!」

「うっ・・・・・・・・・」

 

 純粋にお礼を言う兄妹にエリザベートは言葉が詰まる。ファンクラブの男達からチヤホヤされる経験はあっても、こんな風に混じり気なく感謝されるのは初めてだった。

 

「フ、フンッ! 別に、感謝される様な事じゃないし! 助けたのは気紛れよ、気紛れ! ホラ、邪魔だからさっさと行きなさい!」

「エリちゃんツンデレキタコレ!」

「うっさい! 去勢するわよ!」

「ご褒美です!」

 

 そう言い残し、猪の亜人は怪我をした少女を抱え、少年の手を引きながら立ち去った。少年達は時々振り返りながら、エリザベートに手を振っていた。

 

「・・・・・・・・・まさか、このあたしが人から感謝される日が来るなんてね」

 

 三人を見送った後、エリザベートは前を見る。目視する限り、次に来る巨人の集団は五人。それぞれが戦斧や戦鎚を持ち、仲間の死体と自分を指差して何か言っていた。

 

「うわ、次の奴もむさ苦しそうな連中ね。あんな豚共、相手にしたくもないのだけど―――」

 

 ヒュン、と風切り音を響かせながら槍を振る。

 

「あたしのステージを滅茶苦茶にしてくれた上に、ファンの豚達を殺したのだもの。特別に相手してあげるわ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべながら、エリザベートの眼光がギラリと光る。

 

「海老みたいに手足をもいでも良いわよね? トマトみたいにブッ刺してもOK? シャンパンみたいに血を飛び散らす準備は出来た?」

 

 バサリ、と背中の翼をはためかせて宙に浮く。槍を前傾姿勢で構え、そして―――

 

「と言っても・・・・・・・・・アンタ達の血は一滴もいらないけどね!!」

 

 加速を付けて一気に飛び出した! 一条の彗星となって、エリザベートは先頭の巨人に槍を突き出す。巨人は完全に不意をつかれ、喉に深々と槍が刺さる。

 

「アハッ!!」

 

 そのまま横凪に槍を振り、巨人の首を斬り落とす。勢いのまま振るわれる槍は、今度は隣にいた巨人の喉を斬り裂いた。

 

「―――! ―――!?」

 

 ゴポォと血泡を吹きながら、斬られた巨人は喉を抑える。たが深々と斬られた傷は、そんな事では出血を抑えられない。巨人はその場にうずくまる様に膝をついた。

 

「グオオオォォォッ!!」

 

 あっという間に二人の同士を屠られた巨人が怒りの雄叫びを上げ、生意気な小さな敵に戦鎚を振り下ろす。だがエリザベートは翼を動かし空中で旋回して悠々と回避した。そして、そのまま急上昇し―――

 

「そおれっ!!」

 

 脳天に目掛けて槍を振り下ろした。被っていた兜を突き破り、大脳を貫かれた巨人は白目を剥きながら絶命した。蜂の様に飛び回るエリザベートに苛立ち、残った一人が握り潰そうと手を伸ばす。エリザベートは槍を素早く引き抜くと伸ばされた手から逃げようとせず、逆に加速して向かっていく。目標が狂って空振りして手に乗り、腕を伝って素早く駆け上がって巨人の首の背後に回り込む。そして、渾身の力で槍を突き刺した。

 

「っ!?」

 

 頚椎を貫かれ、痛みすら感じる間もなく巨人の意識は永遠に閉ざされた。

 あっという間に最後の一人となった巨人は、目の前の出来事が信じられなかった。何が起きた? さっきまで自分達はチビな亜人共を蹂躙していたはずだ。奇襲に浮き足立った奴等は自分達の敵ではなく、もはや狩りと言っても良かった。だというのに・・・・・・・・・どうして自分達が狩られている!?

 シュルリ、と茫然自失していた巨人の首に何かが巻き付いた。ハッと巨人は自分の首元を見ると、そこには鱗のついた黒い尾が―――

 

 乾いた木を叩き割る様な音と共に、巨人の視界が自分の背後の景色を写した。

 

 突然切り替わった視界と、自分の背中が目線の下にある(・・・・・・・)という事を疑問に思いながら、巨人は地面へと倒れていく。ふと、視界の中に角と翼を生やした悪鬼の姿が見えた。

 間違えた。首が半回転した巨人はうつ伏せに倒れながらも空を見上げ、己の間違いを悟った。あれは亜人なんかじゃない。人型になった怪物だ。それも人を喰らう悪魔の類い。あんなものを相手にするんじゃなかった。曲がりなりにも人である自分達は、あの悪魔に喰われる運命だったのだ。だってほら、もう死に体になった自分へ槍を振り下ろしてくる。目を爛々と輝かせ、口元を釣り上げた顔は、まさに、

 

 グシャリ。

 

 ※

 

「―――フン、呆気ないわね。これじゃ準備運動にもなりやしない」

 

 地面に転がった死体を見回し、エリザベートは冷めた顔で吐き捨てた。エリザベートが駆けつけてから数分足らず、“アンダーウッド”の襲撃者は物言わぬ骸と化していた。

 

「「「ウオオオォォォォォッ!!」」」

 

 エリザベートが勝利の余韻に浸る間もなく、雄叫びが聞こえた。見れば、新たな巨人の一団がエリザベートへと向かってくる。

 

「はあ? まだ来るの? 良いわ、特別にアンコールに応えて、ひゃん!?」

 

 ガシッ、とエリザベートの尻尾が何者かに掴まれる。後ろを振り向くと、そこには喉を切り裂く裂かれて絶命した筈の巨人がエリザベートの尻尾を掴んでいた。尻尾を掴まれ、エリザベートのスカートが高く捲られる。

 

「こ、こら、なに掴んでるのよ!? 離しなさい、痴漢、変態、強姦魔!!」

 

 顔を真っ赤にして、エリザベートは尻尾を掴んで手に槍を何度も突き刺した。だが掴まれた手は一向に緩む事なく、巨人は最期の力を振り絞って雄叫びを上げた。

 

「ヴ・・・・・・・・・ヴガアアアアアァァァァッ!!」

 

 喉を裂かれた為に、出来損ないの笛の様な音共に断末魔の叫びが上がる。その叫びを聞き、駆けつけた巨人の集団の一人が頷く。仮面を被り、古代のシャーマンの様な服装をした巨人は手にした杖を掲げた。激しい雷鳴を響かせながら、杖の先に光球が生まれる。

 

「ッ! まさか仲間ごとあたしを撃つつもり!? アンタみたいなムサいデカブツと心中するなんてゴメンよ! この、放しなさい! はーなーせー!!」

 

 相手の狙いに気づいたエリザベートは、より一層と暴れながら死に損ないの巨人に槍を何度も振り下ろした。だが巨人の手は緩まず、それどころか目が決死の覚悟を伴って、力強く輝く。エリザベートがもがいている間に、巨人のシャーマンが持つ杖の光球は段々と大きくなっていく。

 

「ッ!!」

 

 もはや逃げられないと悟り、エリザベートは襲ってくる痛みに備えてギュッと目を瞑った。巨人のシャーマンはエリザベートへと杖を振り下ろし、

 

「殴りなさい、ディーン!!」

『DEEEEEEeeeeeeeeN!!』

 

 コンマ一秒早く、高速で伸びてきた朱色の鉄腕が巨人のシャーマンの顔を突き破る。仮面を割られ、口から折れた歯や血反吐を撒き散らしながら、巨人のシャーマンは吹き飛んでいく。手にした杖がすっぽ抜け、光球もあらぬ方向へと撃ち出された。

 

「ご機嫌よう、“アンダーウッド”のアイドルさん。お加減は如何かしら?」

「あ、あんた! 確か昼間の・・・・・・・・・」

 

 エリザベートが驚きの声を上げる。そこには、神珍鉄の巨人『ディーン』の肩に乗った飛鳥が、まるで社交場で会った様に優雅に一礼していた。巨人達は突然現れた飛鳥とディーンを警戒して動きが止まる。何より集団のリーダーだった巨人のシャーマンが倒れた事により、どう動けば良いのか分からなくなっていた。

 

「何でここにいるわけ? あたし、バックダンサーを頼んだ覚えは無いのだけど?」

 

 危ない所を助けられたというのに、エリザベートの口から憎まれ口が叩かれた。さっきの醜態を見られたと思うと、恥ずかしくて素直にお礼を言えなかった。

 

「あら、随分な言い草ね。何やら手こずっているみたいだから、加勢してあげたのに」

「あ、あれはワザとだから! あそこから華麗な逆転劇が始まる予定だったから!」

「・・・・・・・・・まだ動けないみたいだけど?」

「あー、もう! アンタもいつまで掴んでいるのよ!!」

 

 怒りと羞恥で顔を真っ赤にして、エリザベートが未だ尻尾を掴んでいる巨人の顔に槍を投げた。槍は巨人の眉間に突き刺さり、巨人はビクンと痙攣して動かなくなった。

 

「まあ、良いわ。それより、巨人達はまだまだ来るのでしょう? 一緒に手を組まない?」

「それは・・・・・・・・・」

 

 エリザベートは少し口ごもる。客観的に見れば、ここは飛鳥の提案を受け入れるべきだろう。だが貴族として生きたエリザベートにとって、他人から情けをかけられるのはプライドが許さなかった。答えを返す代わりに、別の疑問を口にした。

 

「・・・・・・そもそも、何でアンタが出張っているのよ? アンタ、ゲストだから関係ないでしょう?」

「私も収穫祭の参加者よ。お祭りを邪魔した相手に憤るのは当然でしょう」

 

 それに、と飛鳥は言葉を切る。

 

「私の友人が大切な話をしようとしたのよ。無粋な騒ぎを起こしておじゃんにした事を笑って許すほど・・・・・・・・・心は広くないわよ」

 

 ゾクリ、と巨人達に怖気が走る。自分の掌ほども無い少女が放つ怒気に巨人達は気圧されたのだ。

 

「私は無粋な襲撃者達に早くご退場願いたい。貴女達は“アンダーウッド”を守りたい。ほら、目的は一致してるでしょう?」

 

 どうする? と視線で問いかける飛鳥。エリザベートは、その顔をじっと見つめて―――

 

「「「「「ウオオオォォォォォッ!!」」」」」

 

 突然、野太い雄叫びが響き渡る。見ると、新たな巨人の一団が飛鳥達へと進軍してくる。

 

「「「「ウオッ、ウオッ、ウオオオォォォォォッ!!」」」」

 

 増援が来た事で活気づいたのか、怖じ気づいていた巨人もジリジリと飛鳥達へ近寄っていた。

 

「―――そうね、とやかく言ってる場合じゃないものね」

 

 ヒュンと槍を振り回し、エリザベートは飛鳥の隣に立つ。

 

「本当は・・・・・・・・・絶ッッッッ対に、あたし一人で十分なのだけど! 良いわ、特別にデュエットを許してあげる」

「それは光栄ね。でも私、これでも腕の立つ方でしてよ? 貴女の出番も奪うかもしれないわね、アイドルさん?」

 

 エリザベートの憎まれ口に、飛鳥は挑発的に微笑みかける。すると―――

 

「・・・・・・・・・エリザベート」

「え?」

「エリザベート・バートリー。それがあたしの名前。ちゃんと覚えておいて。それと・・・・・・・・・その、さっきは・・・・・・・・・ありがと」

「ん? 何か言った?」

「~~~っ、何でもない!」

 

 真っ赤になった顔を誤魔化す様に、エリザベートは飛鳥の前に出た。

 

「とっておきをお見舞いするわ。デカブツ達の前線が崩れたら、その鉄人形を突っ込ませなさい」

「とっておきですって?」

「ええ。身も心も痺れる、ロックンロールよ。耳を塞いだ方が良いわよ? あまりの美声にアンタも痺れちゃうかも」 

「・・・・・・・・・ま、まさか!?」

 

 境界門の出来事を思い出し、エリザベートが何をやる気か気付いた飛鳥。慌ててディーンの影に隠れ、耳を塞ぐ。そんな飛鳥に気にかける事なく、エリザベートは槍をマイクスタンドの様に構えた。

 

「讃えなさい! 平伏しなさい! “アンダーウッド”最高のアイドルにして、鮮血の歌姫! 我が名は・・・・・・・・・エリザベート・バートリー!!」

 

 スウウゥゥゥゥゥッとエリザベートは大きく息を吸い込む。ただ深呼吸しているだけではない。息と共に周囲の魔力(マナ)が根こそぎエリザベートに呑み込まれていく。そして―――!

 

竜鳴(キレンツ)―――雷声(サカーニィ)イイイイィィィィィッ!!!!」

 

 エリザベートの口から大音響が轟く。天上から下される雷鳴の様なソレは、衝撃波を伴いながら巨人達を吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 




そういやウチのカルデアにはオルタと名の付くサーヴァントが一人もいないな。相性が悪いのかしら?

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