月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
そして黒幕の〇〇〇〇〇〇さん。その………ドンマイ! 今度から人材選びはちゃんとやりましょう。
P.S.サブストーリーでセイバー(アルトリア)を出せました。出現条件が昼休みのパシリに思えたのは気のせいだと思いたい………。
―――“アンダーウッド”サラの執務室
「ちょっとサラ! これ、どういう事!?」
バアン! と音を立てて扉を開けたエリザベートは、その勢いのまま書類の整理をしていたサラに詰め寄った。机に積まれた書類の山が崩れ、傍らに控えていたキリノが慌てて床から拾い上げた。
「あのな、エリザベート。何度も言っているが、ドアをノックしてから入れ。それと仮にも私はお前のコミュニティの頭首だからな? 無闇に敬えとは言わんが、もう少し敬意を持って―――」
「そんな事より! これよ、これ!」
冷ややかな目で見ているサラを無視し、エリザベートは手に持っていた一枚の紙を机に叩きつけた。
「何でアタシのライブ会場が、地下講堂になっているのよ!?」
エリザベートが持ってきた書類―――それは収穫祭の出展に関する配置を記した書類だった。その書類によると、エリザベートのライブ会場は大樹の根本にあるメインステージから、南地区にある建物の地下講堂に移されていた。
「しかもメインステージから遠いわ! これじゃ豚共も不便で仕方ないじゃない!」
喧々囂々と抗議するエリザベート。しかしサラは半ば予想していたのか、溜め息をつきながらエリザベートにワケを話し始めた。
「エリザベート。今回の戦いで多くの同士が失われた。お前の親衛隊を自称している集団にも死者が出ているそうだが、ここまでは良いな?」
「それは、まあ知ってるけど・・・・・・・・・」
「その同士達の為に慰霊祭を開くという事は、以前に伝えたが覚えているか?」
「ええと、言ってた様な聞いてない様な・・・・・・・・・」
「そして慰霊祭はメインステージで行うから、ステージのスケジュールを再調整すると言った筈だが?」
「あー、そういや昨日そんな事を聞いた様な・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・お前な、人の話をちゃんと聞いていたのか?」
「し、仕方ないじゃない! 豚共の慰霊ライブの歌を考えるのに頭が一杯だったんだもん!」
「は? 慰霊ライブ? お前が?」
逆ギレして抗議するエリザベートに、思わずサラの目が点になる。この自分勝手な少女から、他人を悼む気持ちがあった事に純粋に驚いていた。
「・・・・・・・・・別にいいじゃない。会員34番や47番とかライブを楽しみにしてたのに、参加する事なく逝っちゃったのだもの」
サラの視線を受けて、エリザベートはそっぽを向きながら居心地が悪そうに髪を弄る。
「ホント、ファン失格よね。アタシの許可なくライブを欠席するなんて。だから―――天国にいるあいつ等にも、歌声が届く様にって・・・・・・・・・」
最後の方はゴニョゴニョと小さな声になったが、サラにはしっかりと聞こえていた。
「エリザベート・・・・・・・・・」
「べ、別にアイツ等の為なんかじゃないからね! アイツ等は未来永劫、アタシのファンなの! そういう契約なの! ファンにサービスするのはアイドルの義務なの!」
子供の様に癇癪を起こしながらエリザベートは早口で弁明する。そんなエリザベートをサラはたっぷりと一分ぐらい見つめた。
「・・・・・・・・・さっきも言ったが、メインステージのスケジュールは一杯だ。遠方から“サウザンドアイズ”の白夜叉殿を始め、重要なゲストが出席されるからな。・・・・・・・・・まあ、夜間はその限りではないが」
え? とエリザベートの顔が上がる。しかしサラは目を合わせず、メインステージの事が記された書類を手元に寄せた。
「・・・・・・・・・初日の最終ステージ、深夜に食い込む時間帯になるが一応空いているな。こんな時間にスケジュールを入れる奴はいないと思って、空き時間にしたのだが」
「本当に!?」
「言っておくが一時間だけだぞ。こっちも会場の警備とかあるんだ。スタッフ達にあまり遅くまで働かせるのも忍びない。それと―――」
サラはいつも以上に真剣な目でエリザベートの顔を見た。
「やるからには真剣にやれ。散った同士達を思って歌うからには、中途半端も雑な歌も絶対に認めん」
「ええ、ええ、勿論! 見てなさい、死んだ奴等も虜になるような歌を披露してやるんだから! そうと決まったら、さっそく衣装合わせしなくちゃ!」
笑顔で頷くと、エリザベートは踵を返してさっそうと出て行った。
「おい! 深夜の一時間だけだぞ! それ以外の時間はさっき言った場所を使え! そこなら24時間使っても構わないからな!」
「あ、あの・・・・・・・・・よろしかったのですか?」
エリザベートの背中へ大声を張り上げるサラに、キリノが遠慮がちに聞いた。
「確かにスケジュール上は可能ですけど、エリザベートさんの歌は・・・・・・・・・その、かなり聞きづらいというか・・・・・・・・・」
「まあ、矯正しようがない音痴だな」
キリノが濁した言葉をばっさりと断じるサラ。
「しかし今回の襲撃はアイツやバーサーカー、そして“ノーネーム”の活躍で“アンダーウッド”が守られたんだ。大きな戦果を上げた者を無碍にする様な真似は出来んよ」
「それは、そうですが・・・・・・・・・」
「それにメインステージ周辺にも騒音対策で遮音結界は張る予定だったんだ。奴のステージ中、聞きたい人間以外は入らない様に交通規制を行えば被害は最小限に抑えられるだろ」
書類を素早く捲りながら確認し、サラはキリノに指示を出した。
「念の為、遮音結界の出力の再調整だ。最大レベルまで上げられる様にしておいてくれ。それと警備スタッフのリーダーを呼んでくれ。併せて警備体制の指示を執り行う」
「はい!」
キリノは威勢よく返事をして、執務室を後にする。手元の書類に改めて取り掛かり、ふとサラは思い出した様に呟いた。
「そういえば、あれ以来バーサーカーを見てないな。そろそろ回復しているとは思うが・・・・・・・・・」
※
―――“アンダーウッド”・バーサーカーの私室
バーサーカーは寝台の上でボンヤリと天井を見上げていた。巨人族の襲撃でいつも以上に消費した魔力は、三日間の休息で大分回復した。もう起き上がっても問題ないのだが、バーサーカーは寝台から動く気になれなかった。
『貴女が抱えた想いを知りたい。傷ついてく貴女を、私は支えたい』
頭の中で春日部耀の言葉が木霊する。今まで、バーサーカーにそんな事を言った人間などいなかった。バーサーカー自身が他人に積極的に関わろうとしなかったし、とやかく詮索されたくなかったから事情を話す事もなかった。春日部耀は自分の狂化して剥き出しとなった自分の想いに気付いて、その上で踏み込んできた。それはバーサーカーにとって、初めての―――
(・・・・・・・・・いいえ。そうではありませんでした)
かつて。バーサーカーに同じ様な言葉をかけた人間がいた。一方的な恋心の末に変貌した竜の姿で戦うバーサーカーを心から受け入れ様とした人間がいたのだ。
すぐに生前に愛した人間―――安珍の顔が思い浮かんだが、それは有り得ないとバーサーカーの心が告げた。彼は自分を理解する事なく逃げ出した。だから竜となった自分自身がいるのだ。
バーサーカーを理解しようとした人間はただ一人。それは特別な容姿も能力もなく、何処にでもいる様な貴方で―――。
コンコン、と扉を叩く音が部屋に響いた。寝台から身を起こし、どうぞと返事をすると部屋に小脇に小包を抱えた耀が入ってきた。
「こんにちは。身体の調子はどう?」
「ええ、お陰様で。もう起き上がっても大丈夫ですわ」
「そっか、良かった」
安堵の溜息をつく耀。しかし、そこで会話が途切れてしまう。お見舞いにと来たものの、相手は意外と元気そうだったし、元々饒舌な方ではない耀は何を話せば良いのか考えつかなかった。
一方のバーサーカーも話題を考えあぐねていた。バーサーカーも他人と臆面なく話せるほど饒舌ではないし、ついさっきまで考えていた相手が来て何を話して良いのか考えつかなかった。
((き、気まずい・・・・・・・・・))
奇妙な沈黙が場を支配する。耀は適当に話を打ち切って、この場を後にしたい気持ちになった。しかし、少しずつ周囲に目を向けていこうと決めたのだ。ここで逃げ出すのは、いきなり誓いを破る様で嫌だった。
「あの・・・・・・・・・」
場の沈黙に耐えかねたのはバーサーカーが先だった。
「貴女の荷物は大丈夫でしたか? 巨人族の襲撃があった時、慌てていたみたいですけど・・・・・・・・・」
「ああ、アレ? 壊れたけど、どうにかなったというか・・・・・・・・・そのまま返すには気が引けるというか・・・・・・・・・」
歯切れの悪い耀にバーサーカーは怪訝な顔になる。しかし詳しい事情を知らないのだから無理は無いだろう。まさか友人の持ち物を勝手に持ち出した挙げ句に壊してしまい、弁償の為に用意できたのが―――
(まさか、猫耳ヘッドホンだなんて・・・・・・・・・)
何とも頭が痛くなる話だ。さすがに猫耳ヘッドホンをそのまま返すわけにはいかず、代わりになりそうなアクセサリーや小物を探して耀はここ数日、市場で探し回っていた。バーサーカーの見舞いに来たのは、そんな折だった。
「それよりさ、ここ数日にバーサーカーの姿を見なかったけど、まだ身体の具合が悪いの?」
耀は何気なく聞いたつもりだったが、途端にバーサーカーの顔に暗い陰が差した。寝台の上で拳をギュッと握り締め、顔を俯かせる。
「バーサーカー?」
「・・・・・・・・・会わせる顔が無かったのですよ」
顔を俯かせたまま、バーサーカーは絞り出す様に声を出す。
「貴女の言う通り、私は―――かつての想い人を探す事しか頭にありませんでした。その方を探す為だけに戦い、ただ戦場を駆けていただけでした」
「バーサーカー・・・・・・・・・」
「あの時も倒れた同士達がいたのに、皆無視して自分勝手な理由で戦場を駆けて・・・・・・・・・今更どうして“アンダーウッド”の一員なんて言えましょう?」
沈んだ声でバーサーカーは自嘲する。竜に変身していない今、バーサーカーの狂化はあまり機能していない。それ故に、バーサーカーは自分の在り方に苦悩する程の理性を取り戻していた。
耀は改めてバーサーカーを見る。戦場で巨大な竜となって猛威を振るっていた少女は、今はとても小さく見えた。
ああ、そうか―――耀はようやく理解した。数多の修羅神仏が集う箱庭において、外見上の年齢など当てにならない。少女にしか見えない白夜叉だって、本当は数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい昔から生きているという。しかし、バーサーカーは違う。彼女は外見相応の精神性だったのだ。13か14歳の少女に、耀の指摘した事実は受け止めるには重すぎた。
「私は・・・・・・・・・私には、もう“一本角”を名乗る権利なんて―――」
カサッ。
弱気な言葉を吐きそうになったバーサーカーの膝に何かが載せられた。耀が持っていた小包を差し出したのだ。
「これは・・・・・・・・・?」
「開けてみて」
それ以上は言わず、視線で促す耀。バーサーカーが紙に包まれた小包を開けると―――そこに色とりどりの果物が包まれていた。
「市場でバーサーカーの見舞いに行くと言ったら、売店のおじさんやおばさん達が包んでくれたよ。それも代金を受け取らずに」
耀が静かに言う中、バーサーカーは信じられないい面持ちで果物の山を見つめる。ふと、底の方に一枚の紙を見つけた。折り畳まれたそれを広げると、子供が書いた様な達筆とは言い難い文字で、『早く元気になってね 竜のお姉ちゃん』と書かれていた。
「みんな、バーサーカーの事を心配していたよ。貴女が“アンダーウッド”を守る為に、重い怪我をしたんじゃないかって」
震える手で手紙を読むバーサーカー。耀は静かに、そして温かみのある声でバーサーカーに話しかける。
「バーサーカー。君は確かにあの時は“アンダーウッド”の事より、君の好きな人を優先させていた。でも、“アンダーウッド”の事を完全に忘れたわけではないでしょう?」
そうでなければ―――とうの昔に勝手に“アンダーウッド”から離れ、箱庭を宛もなく彷迷っていたはずだ。
「君が思っている以上に、君は“アンダーウッド”の事を大切に思っているよ。そうでなければ、こんな風に皆から心配されたりしないよ。だから、そんな風に自分を卑下しないで。バーサーカー」
その言葉はどう響いたのか―――手紙の上に、ポツポツと水滴が落ちた。
「私、は・・・・・・・・・一宿一飯の恩を返すぐらいにしか、考えてなかったのに・・・・・・・・・」
「うん。でも“アンダーウッド”の人達は、それ以上の絆を君に感じているみたい」
鼻声になったバーサーカーの隣に寄り添い、耀はバーサーカーの手を握る。しばらく無言で涙を流し、やがてスッキリとした顔でバーサーカーは顔を上げた。
「ありがとうございます。春日部さん。お陰で元気が出ましたわ」
「いいよ、お礼なんて。言ったでしょう? 君と友達になりたいって。友達が落ち込んでいたら、元気づけるのは当然だよ」
「貴女・・・・・・・・・本当に春日部さんですか? 初めて会った時は、もう少し内向的な方だと思っていましたが」
「まあ、私も色々あったから、これから少しずつ変わっていくつもり。新しい私に乞うご期待」
ブイ、とポーズを決める耀が可笑しくて、バーサーカーは少し吹き出す。寝台の上で無気力に横たわっていた少女は、少しずつ活力を取り戻していた。
「だから・・・・・・・・・バーサーカーの話を聞かせて欲しい。君がそこまで追い求める人―――安珍様って、一体どういう人なのか」
「どうして安珍様の名を・・・・・・・・・いえ、そうでしたね。貴女は他種族の言葉が分かるギフト持ち。竜の時の私の言葉を聞いていたのですね」
バーサーカーは一旦、目を閉じる。サーヴァントとしての常識から考えるなら、マスターでもない相手に自分の事を話すのは極力避けるべきだ。
しかし―――この少女ならば、別に良いのではないか? 安珍の名を知られた以上、自分の真名を調べるのは容易い。隠す意味は半ば以上無くなったと言っていい。それに―――自分を気遣う偽りの無い想いに、隠し事をして嘘をつきたくは無かった。
「・・・・・・・・・安珍様は、私が生前に恋い焦がれた御方。一夜の宿を求め、私の前に現れた旅の僧です」
ポツリ、とバーサーカーは話し始める。
「私の真名は清姫。かつて旅の僧に一目惚れをして―――その果てに妖怪変化した女。それが私です」
それは、恋い焦がれ、恋に破れた一人の少女の物語。
※
“アンダーウッド”から遠く離れた平野で、一人の少女が立ち尽くしていた。黒いワンピースに、黒髪を風にたなびかせた少女は、この場に似つかわしくない可憐さを出していた。
彼女の名は彩里 鈴。巨人族を率いていたアウラと同じコミュニティに所属し、“アンダーウッド”壊滅を企む一員だった。間一髪で戦場から逃げ出したアウラの傷も癒え、再び“アンダーウッド”侵攻の準備を整えた彼女は“空間跳躍”のギフトで巨人族の残存戦力の様子を見に来たのだが―――
「なに、これ・・・・・・・・・?」
鈴の口から呆気に取られた声が漏れる。無理も無いだろう。何せ、
死体は腐臭を放ちながら山となって連なり、流れ出た血は河となって大地をどす黒く染め上げる。
地獄絵図。
そう表現するしかない惨状が鈴の目の前に広がっていた。
(どういう事? 三日前、巨人族の残存戦力を召集した時は何もなかった。つまり、昨日と一昨日の二日間で巨人族を全滅させた? まさか“アンダーウッド”が?)
一般人なら卒倒しそうな光景に眉一つ動かさず、鈴は近くの巨人族の死体を調べた。死体は顔を恐怖で凍り付かせ、手足や胴体をバラバラに千切られていた。
(・・・・・・・・・違う。これ、“アンダーウッド”の仕業じゃない。確かに亜人や獣人が多いコミュニティだけど・・・・・・・・・こんな風に巨人族を
「
「―――!」
鈴のすぐ後ろ。数歩と離れていない距離から、唐突に男の声がした。同時に、リンの背中にさっきまでいなかった男の気配がする。一瞬、腰に下げたナイフベルトに手が伸びたが、すぐに抑えた。殺す気だったならば、声をかける事なく背後から刺していただろう。今は情報を求めるのが先決だ。
「これは貴方の仕業ですか、知らないおじ様?」
「おじ様………まだまだ若いつもりなのですが」
少し落胆した声で男―――衛士・キャスターは、鈴に話しかける。
「その事について色々とご説明したいので―――貴方の上司にアポイントメントをお願い出来ますか?」
※
鈴達から離れた平野―――巨人族の死体がうず高く積まれ、文字通りに死体の山となった頂上で一匹の虎が死肉を喰らっていた。
ガツガツ―――ガツガツ―――
一心不乱に巨人族の肉を喰らう虎。その身体は返り血でどす黒く染まり、目は鮮血の様に紅く輝いていた。
やがて死体から食べられる部位を喰らい尽くすと、虎は天を仰いだ。
「ギッ……ギヒッ、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
虎の口から耳障りな哄笑が溢れ出す。
「―――ツヨイ」
返り血に―――それ以外は一切の傷を負わずにどす黒く染まった身体。それを見て虎は更に嗤う。
「ツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイツヨイ! オレハ強イ! 巨人ヨリモッ!! ‟ナナシ”ヨリモオオオオオオォォォォォッ!!」
哄笑は咆哮となり、死体で埋め尽くされた平野に木霊する。虎は―――ガルド・ガスパーは、新しく生まれ変わった自分を祝福する様に咆哮した。彼の餌食となった物言わぬ死体だけが、彼の咆哮をいつまでも聞いていた―――。
さて、次回辺りで第三章は終わりかな。実に、一年ぐらいかかりましたとも。このSSが終わるのは三年先になりますかね(笑)