月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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やっと………本当に、やっと三章が終わった……。
相変わらずの亀更新ですが、今年もどうぞご贔屓に。


第17話「Rapid development」

 光が収まると同時に白野の視界に色彩が戻る。

 まず目に映ったのは丘陵からでもはっきりと分かるくらいに巨大な大樹。そして、満天の星空が白野を出迎えた。

 

「―――緑と清流と青空の舞台。ハハッ、北側とは正反対の景色だな! いや、俺は歓迎だが? むしろ抱き締めたいくらい大歓迎だが? ちょっくら抱きしめて来て良いか?」

「やれやれ。構わんよ」

 

 レティシアが頷くのと同時に、十六夜が駆け出した。走り去った後が旋風となり、あっという間に見えなくなる。

 

「相変わらず落ち着かない方ですねえ。初めて来た場所に大はしゃぎするとか、子供かっての」

「まあまあ。誰が見ても凄い景色だからね。無理は無いさ」

 

 呆れ顔のキャスターを宥める白野。そんな二人を余所に、レティシアは翼を広げて宙へと浮かんだ。

 

「二人もゆっくりと観光してくると良い。荷物は私が宿舎まで運んでおこう」

「良いのか? なんだったら―――」

「それはそれはありがとうございます♪ ご主人様。私と一緒にデートしましょう、デート! 」

 

 手伝おうか、と言おうとした白野を遮り、キャスターは白野に抱き付く様に腕を組んだ。キャスターの豊かな双丘が白野の腕を包み込む。

 

「キャ、キャスター! 近いって! それに、その………」

「いやん♡ 皆まで言わせないで下さいまし。ワザとですから♪」

「それはそれでタチ悪いな!?」

 

 真っ赤な顔で慌てる白野を尻目に、キャスターはレティシアに意味深な目配せをする。

 

「見ての通り、ご主人様とイチャイチャして来るので―――貴方も御用(・・)を済ませて来て下さいね?」

「―――ああ、分かっている」

 

 キャスターに軽く会釈し、レティシアは飛び去って行った。

 

 ※

 

「しかし、本当に北側とは文化が違うんだな」

 

 “アンダーウッド”の大樹の地下都市。その大通りを歩きながら、白野は感心した様に呟く。

 北側が石や煉瓦の建造物が多いのに対し、南側は土地柄に合わせてか木の建造物が多く見られる。道行く人も北側が長袖などの防寒を目的とした服が多かったのに対し、こちらでは涼しげな恰好だ。

 

「あちらは悪鬼悪霊の類が跋扈していましたが、こちらは動物霊や幻獣が多いんですねえ」

 

 白野の腕を組みながらキャスターは辺りへと目を向ける。まだ夜と言っても陽が落ちて間もない時間の為か、辺りには獣人の類が街を歩いていた。服装のエキゾチックさを除けば、キャスターも違和感なく街に溶け込めるだろう。

 

「それにしても巨人族の襲撃ですか。タダで招待してくれるわけねー、とは思っていましたけど、まさか魔王の残党退治をする羽目になるなんて………」

「まあ、魔王の撲滅が‟ノーネーム”の指針だからね。依頼を受けた以上はやるさ」

 

 そう言いながら、白野は頭の中で情報を整理し出した。大体のあらましは、セイバーから送られた手紙で書かれていた。現在、南側の‟アンダーウッド”は魔王の残党である巨人族の襲撃を受けており、これを“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟”が水際で防いでいる。そして―――その中に、新たなサーヴァントの姿がある、と。

 

(手紙によると、巨人族は北欧やケルト神話の末裔が多いみたいだ。この二つの神話では巨人族は神の敵対者と記される事が多くある。ただし、連盟の獣人やセイバー達に撃退できるという事は、そこまでの実力が無いということ。神話で巨人族が作り出した宝具の存在に注意して対処するのが妥当か………)

 

 次いで、南側で新たに確認されたサーヴァントの存在を考える。竜の血を宿した二人の娘。セイバーによるとランサーとバーサーカーのサーヴァントらしい。そしてランサーの真名は白野にとって既知のサーヴァントだった。

 

(―――エリザベート。月の裏側で出会ったランサーのサーヴァント………)

 

 エリザベート・バートリー。月の裏側で白野達と戦ったサーヴァント。アイドルに憧れ、好意を持った相手に料理を振る舞うなど少女らしい一面を持つが、油断は禁物だ。生前、美容の為に大勢の少女を惨殺し、死後サーヴァントになった後でもマスターを殺し、自分だけの為にBBに協力した。自らの為ならば、世界を滅ぼす事もいとわない反英霊。白野にとって危険極まりないサーヴァントだ。

 だが―――

 

(・・・・・・止めよう。彼女は“アンダーウッド”の為に戦った。邪推するのは止そう)

 

 月の裏側でもエリザベートは最後は白野達の為に戦ってくれた。彼女の根底にあるのは邪悪ではない。

 

(でも………だとしたら、誰がエリザベートを召喚した? 何の為に?)

 

 基本的に、英霊の召喚は聖杯が無くては成立しない。神魔が集う箱庭ならば代替手段はあるだろうが、それでも白野が知る英霊ばかりが行く先々で見つかるのは偶然と言うには出来過ぎていた。

 セイバー

 キャスター

 ライダー

 ランサー

 バーサーカー

 

 クラスがはっきりと別れ、多数の英霊が集う。これではまるで―――

 

(聖杯戦争………)

 

 白野が経験した聖杯戦争は、かつて地上で行われた物を参考に組まれたトライアルだ。もしも、この地でオリジナルの聖杯戦争が起きているとしたら? また、白野は聖杯戦争に身を投じなくてならないだろう。敗者は全てを失い、勝者は敗者の屍を踏み越えて先へ進む。そんな凄惨な戦いに。

 

(ともかくエリザベートとは会って話をしてみよう。出来ればバーサーカーのサーヴァントにも)

 

 そして―――“ノーネーム”の皆にも事情を話さなくてはならない。もしも聖杯戦争が起きた場合、“ノーネーム”が巻き込まれるのは避けられないだろう。

 

(もしも―――もしも本当に聖杯戦争が起きたら、どうする? 皆に協力してもらうか・・・・・・・・・それとも、“ノーネーム”を去るべきか)

 

 逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀。彼等の強さは疑うまでもない。だが、どれほど強力であろうと絶対なんて無いのだ。無敵を誇った太陽の騎士が敗れた様に。どれだけ情報(マトリクス)を集めても、力量(レベル)を上げても相手も同じ様に対策して臨んでくる。敗北のリスクは常につきまとう。そして負けて支払うリスクは―――死。

 そんな戦いに軽々と巻き込む事は出来ない。

 

(いったい、どうすれば・・・・・・・・・)

 

「ジイイィィィ」

 

 ふと、横から視線を―――御丁寧に擬音付きで―――感じた。

 

「ジト~~~」

「えっと・・・・・・・・・何かな、キャスター?」

「いえいえ、何でもありません♡ どうぞ考え事を続けて下さいませ♡」

 

 ニッコリとキャスターは笑いかける。なのに、背筋が寒くなるのはどういうわけか?

 

「せっかくのデートで、隣にこーんな可愛い良妻狐がいるのに、難しい顔で黙り込む程の悩み事ですから。どうぞ私にお構いなく、気が済むまで考えて下さいませ♡(怒)」

「あー・・・・・・・・・」

 

 わざわざ括弧怒り括弧閉じ((怒))とまで言われ、白野はキャスターが何を言いたいのか理解した。

 仮にもデート中だというのに、相手を放って自分だけの思考の世界に入り込んでいるのは如何なものか? というか、完全にマナー違反だ。

 

「ごめん、ちょっと今後の事で考え混んじゃって・・・・・・・・・本当にごめん」

「むぅ~~~・・・・・・・・・今回だけですよ?」

 

 素直に頭を下げる白野に、キャスターは膨れっ面になりながらも許した。

 

「ご主人様が今お悩みしている事は、新しく現れたサーヴァントの事ですね? 場合によっては聖杯戦争が起きるかもしれない、と」

「ああ、その通りだ」

「何だ、簡単な話じゃないですか。いざとなったら、セイバーさんや耀さん達の御力を借りれば良いじゃないですか」

「そんな簡単に頼める事じゃ、」

「ていっ☆」

 

 パチン、と白野の額でデコピンが炸裂した。

 

「~~~っ、キャスター!」

「ご主人様………ちょっーと、勘違いしてませんか?」

 

 抗議しようとする白野に、キャスターはジト目で白野を見る。

 

「周りを巻き込んじゃいけないとか、自分だけで戦おうとか………今まで御主人様の周りの人達で、巻き込まれて迷惑だ、と言った人はいましたか?」

「それは―――」

「遠坂さん、ラニさん。セイバーさん、耀さん、飛鳥さん。それにあの凶暴児も、ご主人様の人柄に惹かれて、協力してくれました。それなのに、肝心の御主人様が彼等を頼らないのは失礼じゃありませんか?」

 

 その言葉に、白野は頭を殴られた様な衝撃が走った。聖杯戦争でも白野は自分一人の力で戦ったわけではない。パートナーのサーヴァントは勿論、遠坂凛やラニ=Ⅷなどの協力者がいたから白野は戦えた。そんな初歩的な事をどうして忘れていたのだろうか?

 

「諦めず、前を向いて歩く。そんなご主人様だからこそ、慕う人達がいる。力になりたいと言ってくれる。そんな彼等に迷惑をかけたら悪いと遠慮するんじゃなくて、彼等の期待を裏切らない様に事を為す。それが一番大切な事じゃないのですか?」

 

 白野はしばし瞬きを忘れてキャスターを見た。いつも茶目っ気で白野や周りを振り回す時の姿とは違う。長い時を重ね、落ち着き払った年長者としての姿がそこにあった。

 

「………あのさ。キャスターって、時どき核心をついてくるよね。何かあったのか?」

「まあ、つい最近も悩める若人がいたので年長者として助言をば、と思いまして。ぶっちゃけ、耀さんの事なんですけど」

「耀が?」

「耀さん、周りの人達と比べて実力が劣っているのではないか? とお悩みの様でしかたから………」

「そうか………」

 

 最近、耀が時々憂鬱そうな顔になる事は白野も知っていた。しかし、どんな悩み事があるかまでは知らなかった。いつもふざけている様に見えて、キャスターは耀の悩みも敏感に感じ取っていたのだ。

 

「キャスター」

「何です?」

「その………ありがとう。大事な事に気付かせてくれて」

「………いえいえ。このキャスター、御主人様の晴れやかな顔を見る事が第一ですから♡」

 

 いつもの調子で微笑むキャスターに、白野もようやく薄い笑みを浮かべる。事態を重く受け止める余り、今の友人達を蔑ろにするところだった。

 

「みんなに、聖杯戦争の事を話してみるよ。どうするかは、その後に考えて―――」

 

「あの!」

 

 突然、白野に向けて大声がかけられた。

 振り向くと、そこに浅葱色の着物に白い袿を羽織った少女がいた。透き通った翠の髪が月の光に照らされ、髪から覗く白い角が神秘的な輝きを放っていた。

 

「え………貴女、清姫ちゃん? どうしてここに?」

 

 キャスターが驚いた様子でその少女の名前を呼ぶ。だが、少女―――清姫の方はキャスターには目をくれず、白野の方を見つめていた。

 

「やっと………やっと会えましたわ。この日をどれだけ待ち焦がれていたか………」

 

 熱っぽく、潤んだ瞳で白野を見つめる清姫。

 

「白野様。サーヴァント・バーサーカー、清姫。貴方の元へ、再び戻りました」

「えっと、君は―――」

 

 まるで生き別れた家族と再会したかの様に、感嘆する清姫。

 そんな清姫に白野は声をかけようとし―――。

 

 ―――目覚めよ、林檎のごとき黄金の囁きよ―――

 

 突如、どこからかしわがれた声と共に琴線を弾く音が響いた。

 同時に、白野の身体から力が抜ける。

 

「な、に………?」

「この竪琴の音は………!」

 

 突然の眠気に、片膝をつく白野。だが清姫は竪琴の音に惑わされず、辺りを警戒して見回した。非常事態に警戒心を強めるキャスターとバーサーカー。そんな彼女達をあざ笑う様に、竪琴の音と詠唱が続く。

 

 ―――目覚めよ、林檎のごとき黄金の囁きよ。目覚めよ、四つの角のある調和の枠よ。竪琴よりは夏も冬も聞こえ来る。笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ―――!

 

 詠唱が終わった途端、満天だった星空が輝きを失う。曇天が稲光を放ちながら‟アンダーウッド”を覆い、昏く染め上げる。夜空が二つに裂け、そして―――!

 

「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEYYYYYAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 空の裂け目から、常識外れな咆哮が降ってくる。落雷の様なソレは、白野の臓腑を激しく揺さぶった。何とか耳を塞いで堪えた白野は、空を見上げ―――そこに神話の光景を見た。

 

「何だ、あれは………」

 

 呆然とした呟きが白野の口から漏れ出す。その呟きに、キャスターと清姫は答えられなかった。神秘の色濃い時代で生まれた二人でも見たことの無い光景が、そこにあった。

 

「あれは………龍?」

「い―――いやいや! 大き過ぎますって!」

 

 清姫の呟きに、キャスターが大声を上げる。はるか上空から、龍の頭部が‟アンダーウッド”を覗き込んでいた。既に白野の視界一杯に広がる程の大きさだというのに、その全長は雲海に隠れて見えない。考えるもの馬鹿らしいくらいの巨体なのだろう。

 巨竜が再び咆哮する。間近で落ちた雷の様な音量と激しさに、白野は再び耳を塞いだ。しかし、それでも全身にビリビリと衝撃が走り、意識を失わない様にするので精一杯だ。

 かつて月の裏側で、竜の化身であるエリザベートと戦った時、彼女は竜の咆哮を宝具にしていた。雷鳴のドラゴンの威風を再現した宝具に、白野達は幾度となく苦しめられていた。今の巨竜の咆哮は、その時の事を白野に思い出させていた。しかし、あの巨竜は違う。エリザベートの様に明確な攻撃手段としてぶつけているのではなく、ただ吼えているだけだ。それなのにエリザベートの宝具と同レベルの破壊力を有している。これで攻撃手段として咆哮した場合にどうなるかなど、考えたくもない。

 

「ますたぁ!」

 

 地面に伏せていた白野を抱き抱える様に清姫が清姫が飛び退く。そこに巨竜の鱗が巨岩の様な重量を伴って落ちてきた。

 

「ますたぁ! お怪我は!?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 必死な顔で白野の安否を気遣う清姫に、白野はドギマギしながら答えた。しかし、そんな時間すら許さずに事態は悪化する。

 

「ご主人様! 前!」

 

 キャスターの叫びに、白野はハッと前を向く。先ほどの鱗から触手が生え、見る見る内に巨大な多頭の蛇へと姿を変えた。

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 多頭の大蛇が一斉に咆哮を上げる。聞けば、あちらこちらから同じ様な怪物の咆哮と住人達の悲鳴が聞こえる。ここだけではなく、各地でも落ちた鱗から怪物が現れている様だ。多頭の大蛇は白野を見据えると、牙を剥いて飛び出した。

 

 ※

 

 ‟アンダーウッド”全域に火の手が上がる。怒号と悲鳴、そして怪物の咆哮が響く‟アンダーウッド”へ空から何枚mの黒い封書がヒラヒラと舞い落ちた。

 

『ギフトゲーム名:‟SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 

 プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

 ※ただし獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを中断とする。

 

 プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と見なさず)

 

 プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

 プレイヤー側ペナルティ条件

 ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーに時間制限を設ける。

 ・時間事項は十日ごとにリセットして繰り返す。

 ・ペナルティは串刺し刑、磔刑、焚刑からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリアまたは中断された時に適用する。

 ※プレイヤーが死亡したとしても、解除方法が満たされない限り永続的にペナルティを課す。

 

 ホストマスター側勝利条件

 ・なし

 

 プレイヤー側勝利条件

 ①ゲームマスター・魔王ドラキュラの殺害

 ②ゲームマスター・レティシア=ドラクレアの殺害

 ③砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ

 ④玉座に正された獣の帯を導べに、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を討て

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 ‟       ”印』

 

 

 

 

 

 

 


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