月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 今回の話は賛否両論になるかもしれませんが、自分としてはこれがベストだと思ってます。必要な時に頭を下げられるのも強さの一つだとは思う。

追記:キャスターの増えた尻尾の数を明記しました。


第9話「コミュニティの為に、今の君に出来ること」

 ―――“アンダーウッド”・葉翠の間 大浴場

 

「この度は我々の同士が大変ご無礼を、」

「もう良い。月の兎に背中を流して貰える、という体験が出来るんだ。多少の事は文字通り水に流すさ」

 

 脱衣場に入って尚も平謝りする黒ウサギにサラは苦笑する。十六夜がかけた水でずぶ濡れになったサラに、黒ウサギはお詫びとしてサラの湯浴みの供をしていた。

 

「しかし、なんというか・・・・・・・・・個性的な人間が多いコミュニティだな」

「うう・・・・・・・・・返す言葉もないのデス。お陰で黒ウサギの苦労は以前の三倍増しですよ」

「ははは、大変だな。まあ、私もエリザベート達がいるから人の事は言えないが」

 

 ウサ耳をうなだれさせる黒ウサギ。そんな事を話しながら服を脱いでいく。すると―――

 

『・・・・・・・・・は・・・・・・で良いか?』

『ちょっ・・・・・・セイバー・・・・・・・・・』

 

「おや? この声はセイバーさんと飛鳥さん?」

 

 浴場の方から何やら二人の声が聞こえてきた。そういえば浴場に行かれると言ってましたっけ? と黒ウサギが先程の出来事を思い出していると―――

 

『フフフ・・・・・・・・・アスカの・・・は、スベスベなのだな♪』

『そ、そ・・・かしら? それを言ったらキャスターだって・・・・・・』

『いえいえ、御謙遜なさ・・・・・・とも♪ 飛鳥さんだって、立派な・・・をお持ちじゃありませんか』

『そんなに褒めら・・・ると照れ・・・わね・・・・・・ひゃん!?』

『ん? ここか? ここが良・・・のか?』

『もう、セイバーってば・・・・・・』

『大丈夫だ。余に任せよ。ちゃんと・・・・・・してやるからな』

『んっ、くすぐっ・・・いってば・・・・・・はあっ、んっ』

『フフフ・・・・・・可愛い声を上げよって・・・・・・・・・』

 

「な、な、ななな・・・・・・・・・!!」

 

 浴場から聞こえてくる声に黒ウサギの顔が真っ赤に染まる。サラもまた耳まで真っ赤にして俯く。尚も飛鳥の何かを堪える様な甘酸っぱい声が浴場から響いてきた。黒ウサギは身体にタオルを巻いた状態のまま、ギフトカードからハリセンを取り出すと、勢い良く浴場の扉を開け放った!

 

「なにを、してやがりますかこの問題児様方はああああああっ!!」

 

 浴場に黒ウサギのツッコミ(大声)が響く。突然の闖入者に驚いたセイバーの手が止まった。

 

「いきなり何だ、黒ウサギ。随分と騒々しいではないか」

「黙らっしゃい! 本拠の浴場ならいざ知らず、よそ様のコミュニティで淫行とかどんだけお盛んなんですか!?」

「はて? 髪を洗う事が箱庭では淫らな事なのか?」

「ローマ帝国が許しても、箱庭の貴族である黒ウサギの目が黒い内は・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 黒ウサギの目が点になり、ようやく目の前の光景が目に入った。そこには浴場の椅子に座った飛鳥と、飛鳥の髪に手を触れながらヘアブラシをかけていたセイバーがいた。

 

「あ、あれ? 本当に髪を洗っているだけ・・・・・・・・・? なんか、飛鳥さんがあられもない声を上げていませんでした?」

「あ、あれはセイバーの手がうなじに当たってくすぐったかっただけよ!」

「つうか・・・・・・黒ウサギさん、何を想像していらしたんですか?」

 

 顔を赤くして抗議する飛鳥の横で身体を洗っていたキャスターがジト目で黒ウサギを見る。「あ、いえ、その・・・・・・」と言葉に詰まる黒ウサギに―――キャスターはニヤリと笑った。

 

「聞きまして飛鳥さん。この子ってば、エロエロな妄想をして飛び込んで来たみたいですわ」

「ええ、聞きましてよキャスターさん。まったく、年頃の子はすぐに勘違いするんだから・・・・・・・・・はしたないですわ」

「ええ、だから箱庭の貴族(恥)と言われるんですわ」

「あ、あう、うう・・・・・・・・・」

 

 わざとらしい御嬢様言葉でヒソヒソと―――ただし黒ウサギに聞こえる音量で―――話し合うキャスターと飛鳥に、黒ウサギの顔が更に真っ赤に染まっていく。恥ずかしさのあまり、穴に入りたい気分の黒ウサギの肩にポンと手が置かれた。

 

「気にするな、黒ウサギ」

 

 セイバーは優しい表情を浮かべ、親指を立てた。

 

「余はそんなそなたが大好きだ! 欲求不満ならば、今夜にでも余が相手してやるぞ♪」

「■■■■■■――――――!!」

 

 瞬間。バーサク化した雄叫びと、雷が浴場中に響き渡った・・・・・・・・・。

 

 ※

 

「よもや電気風呂というものを体験できるとは・・・・・・・・・箱庭に来てから本当に飽きる事がないな!」

「レプリカとはいえ、金剛杵の雷をくらってその発想もどうかと思いますけど」

 

 ハッハッハッと高らかに笑うセイバーに呆れ顔のキャスター。幸い、黒ウサギが感情のままに解き放った放電はセイバーの対魔力によってかなり減衰された様だ。

 

「違いますよー・・・・・・・・・黒ウサギは、エロウサギなんかじゃありませんよー・・・・・・・・・」

「う、うむ。元気を出せ、黒ウサギ殿。誰にだって間違いの一つは二つはあるからな」

 

 大浴場の隅。体育座りでのの字を書く黒ウサギをサラは慰める。問題児達に手を焼く姿に、サラは奇妙なシンパシーを感じていた。

 

「黒ウサギー、そんな所で丸まってないで湯船に入りましょう。風邪ひくわよー」

 

 先程の事など無かった事かの様に、飛鳥が手招きする。誰のせいですか、と内心で思いながらも黒ウサギ達は湯船に浸かった。大樹をくり抜いて作られた浴場は木目が全て繋がって余計余分な物はなく、巨大な水樹から汲み上げた水は清涼な空気と香りで浴場を満たしていた。

 

「うむ・・・・・・・・・良いものだ」

「ええ。檜風呂とはまた違った趣がありますねぇ」

「ふふふ、気に入って貰えたなら何よりだ」

 

 ほぅ、と一息つくセイバーとキャスターにサラは微笑む。

 

「ええ、黒ウサギが“アンダーウッド”を絶賛するだけの事はあったわ。お招き感謝しますわ、議長様」

「議長様はよせ。私の事はサラでいい」

「そう? じゃあ私も飛鳥でいいわ」

「ああ、分かった。っと、そうだ。こんな場で言うのも難だが、巨人族の襲撃での助太刀感謝する。あの時は本当に助かった」

「そんなに畏まらないで良いわよ。魔王関係のトラブルを引き受けるのが“ノーネーム”の仕事ですもの。それに、エリザベートやバーサーカーの働きもあっての功績じゃない」

「ふふふ、確かにな。あの二人は揉め事を起こしてばかりだが、こと戦闘においては“アンダーウッド”で随一かもしれないからな」

 

 飛鳥の指摘にサラは微笑む。それはどこか、ヤンチャな妹が他人から誉められた事を喜ぶ姉の様な顔だった。

 

「そういえば、飛鳥のギフトはどういった物なんだ? 一見しただけでは分からないが、特殊な物なんだろう?」

「“威光”と言うらしいわ。何か知ってる?」

 

 何? とサラが怪訝な顔になる。どうにも聞き覚えの無いギフトネームだった。

 

「・・・・・・・・・飛鳥さん。その事についてお話しがあります」

 

 黒ウサギは真剣な表情で飛鳥を見る。

 

「飛鳥さんのギフトは決して弱い物ではありません。ですが、その力は魔王との戦いよりもコミュニティを拡大していく事に長けた物です」

「・・・・・・・・・それは、」

「それに・・・・・・・・・白野様も同じ事が言えると思います」

「うん?」

 

 マスターの名前が出て、のんびりと湯船に浸かっていたセイバーとキャスターは黒ウサギの方を見る。

 

「・・・・・・・・・白野様はセイバーさんやキャスターさんの様な強力な英霊を従えていますが、やはりご本人の身体能力は十六夜さん達の様に優れているわけではありません。これからも“ノーネーム”が魔王討伐コミュニティとして戦い続ける事を考えると、白野様も無理に戦われる必要はありません。お二方とも、コミュニティの運営側として専念されるという道もございます」

 

 それも一つの選択肢だろう。飛鳥は農園の復興、白野は礼装制作とギフトゲーム以外で自分の力を発揮できる場がある。“ノーネーム”はかつての様にその日暮らしの食費を稼ぐ必要もなくなった。飛鳥と白野はギフトゲームで金銭を稼ぐよりも、コミュニティの地盤を固めて貰う方が大きく貢献できるだろう。なにより二人の身体能力は魔王と戦う上では低い方だ。身体能力だけで全てが決まるわけでは無いが、やはり最後に物を言うのは体力なのだ。その点が一般人と大差ない二人では、この先も魔王と戦っていくのは厳しいだろう。

 

「・・・・・・・・・こういうのも、無い物ねだりと言うのかしら?」

「飛鳥さん?」

「箱庭に来るまで、何かが足りないなんて思った事は無かったから。生活に不満はあったけど、家は裕福だったし、学業だって人並み以上には出来ていたつもりよ。なのに箱庭に来てから、楽しい事以上に歯がゆい思いをしてばかりね」

 

 少しだけ憂鬱そうな顔になる飛鳥。そういった人生の辛苦を感動の起伏として楽しめるくらいの器量は彼女にあったが、そう思えるのも異世界に来て出来た友人達のお陰だ。

 

「レティシアの事は、本当を言うとあまり心配してないの。彼女が頼もしい事は分かっているもの。岸波君は強くはないけど・・・・・・・・・なんだかんだで、絶対に生き延びそうな気はするし」

 

 何とも可笑しな話だ、と飛鳥自身も思っている。岸波白野は、召喚された四人の中で一番凡庸だろう。しかし、白野ならば絶望的な状況でも生還の道筋を探し出して必ず戻ってくる。今までのギフトゲームで、そんな奇妙な信頼感を飛鳥は抱いていた。

 

「でも春日部さんは最近、色々と悩んでいたみたいだし・・・・・・その・・・・・・・・・」

 

 どうしても心配でならなかった。だから助けに行きたかった。そこまでは口に出せず、ブクブクと泡立てながら湯船に沈む。

 

「飛鳥の友人は、春日部というのか?」

 

 ずっと隣で聞いていたサラが、飛鳥に問い掛けた。

 

「え、ええ。そうよ」

「ならば、明日の探索で私はその友人を率先して探そう」

 

 え? と飛鳥と黒ウサギは目を丸くする。

 

「その代わり、“アンダーウッド”の防衛は飛鳥に任せる。正直な話、連日の被害で救出組を必要最低限に絞っても、本拠地を守る人員が心許ないくらいなんだ。巨人族が消えたとはいえ、まだ油断は許されない状況だしな」

 

 だから自分の第二の故郷を守って欲しい。サラは言外にそう言った。

 

「アスカ、戦の優劣は何も力だけでは決まらぬ」

 

 今まで聞き役に徹していたセイバーは、優しい表情を飛鳥に向ける。

 

「力が劣るから戦に役立たぬ、という事は断じてない。そなたが余の後陣を守ってくれれば、余は前線に集中出来るというものだ」

「要は適材適所なんですよ」

 

 キャスターもまた飛鳥を優しく諭した。それは子を見守る様な母を思わせる表情だった。

 

「戦場が殿方の華だと言うならば、家こそ女が華となる独壇場。女の内助の功があるからこそ、殿方達は安心して戦に出れるというものです」

「二人とも・・・・・・・・・」

 

 自分が励まされている事に飛鳥は少しだけ苦笑する。しかしその気遣いは嬉しかった。肩の荷が少し下りた様に飛鳥は頷く。

 

「ええ、分かったわ。あなた達の背後は私が守る。だから、春日部さん達をお願い」

「ああ、任せてくれ」

 

 力強く頷くサラ。そんな一同を窓から上弦の月が優しく照らしていた―――。

 

 ※

 

「キャスター、先の話をどう思う?」

 

 貴賓室へと帰る途中、セイバーは傍らにいるキャスターに話し掛けた。“アンダーウッド”の気候は比較的温暖な方なのか、涼しい夜風が風呂上がりの身体を丁度良く冷ましてくれていた。

 

「どう・・・・・・・・・とは?」

「奏者には今後は戦いから身を引くべき、という話だ」

「ああ、その事ですか」

 

 キャスターはさほど悩む様子もなく、セイバーに返答する。

 

「そりゃま、一理はあるでしょうよ。今の“ノーネーム”はあの凶暴児に耀さん、セイバーさんと腕っ節の強い方が集まっていますから、ご主人様が無理して戦う必要も無いです」

「うむ。聖杯戦争と違い、戦いを強いられているわけではないからな」

 

 キャスターの意見に、セイバーは特に反対意見は述べない。ただし―――

 

「ただし、それは―――奏者が望むかどうか、だ」

「その通り。私はご主人様第一ですから、ご主人様のご意向に従うまでです」

 

 二人のサーヴァントは静かに頷き合う。長く苦楽を共にした二人には分かっていた。白野は身の安全を優先させる人間ではない。誰かが危機に陥っていると知れば、自分の身が危ないと知っても助けにいく。それがたとえ、顔も知らない誰かであっても。

 

「とはいえ、今回の様に我等が奏者から離れるのは良くないな・・・・・・・・・何か対策を考えねばならぬ」

「一応、むこうには清姫ちゃんがいる筈ですけど・・・・・・・・・うわあ、心配になってきた」

「あのバーサーカーを知って・・・・・・・・・ああ、そうか。そなた達は同郷の英霊であったか。それ程に問題があるのか?」

「戦闘力的な意味なら心配はしてないですよ。清姫ちゃんは龍の化身ですし。問題はご主人様が地雷を踏んでないかどうか・・・・・・・・・」

 

 怪訝な顔をするセイバーを余所に、キャスターは明後日の方向を向いて目線をそらす。彼女の知る清姫は、ゼロ(嫌い)イチ(好き)かでしか判断できない極端な思考回路。何より安珍の事もあって嘘をつく事を許せない。対応を間違えれば、安珍の二の舞になる事は十分に予想がついた。

 

(あるいはご主人様なら、清姫ちゃん相手でも上手く対応出来ちゃうかもしれませんが・・・・・・・・・あ、それはそれで腹立ってきた)

 

 もしも、自分の予想通りに二人がフラグを立てていたらどうしてくれよう? とうとう鍛えに鍛えた必殺技(去勢拳)をくらわすべきか? キャスターの思考が邪な方向に逸れ始めた、その時だった。

 

「キャスターさん」

 

 突然、第三者の声が聞こえた。振り向くと、そこにジンが立っていた。

 

「おやジン坊ちゃん。何か御用で?」

「その・・・・・・・・・お話しがあるので、僕の部屋に来てくれませんか?」

 

 ※

 

 ―――“アンダーウッド”・ジンの宿泊室

 

「それで・・・・・・・・・お風呂上がりの美少女を捕まえて、何の用ですか?」

「ジン・・・・・・・・・そなた、色を覚えるのは良いが、初めての相手にキャス狐を選ぶのか? 大胆なのだな」

 

 ニヤニヤと相手をからかう笑みを浮かべるキャスターに、場の流れでついてきたセイバーが関心した様に頷く。

 

「ち、違います! 明日の作戦の事で相談がしたいんです!」

「え~? ホントでゴザルか~?」

「とにかく! 明日の作戦前に渡したい物があるだけですから!」

「ほほう? キャス狐にプレゼントとな? 持参金を用意していたとは、恐れ入った」

「生憎とこの身は既にご主人様の物ですから、今更献上品を貰っても靡きませんけどね」

 

 この二人にまともに取り合っていたら話が進まない・・・・・・・・・。そう考えたジンは黙って自分のギフトカードから、目的な物を取り出した。

 

「! これはっ・・・・・・・・・!」

 

 ジンの取り出した物にキャスターはふざけていた態度を改めた。ジンが取り出した物は人の頭程の大きさを持った黒岩だった。不吉なオーラを醸し出すソレの名は―――

 

「率直に言います。キャスターさん、この“バロールの死眼”を付与して下さい」

 

 先程までの弛緩した空気が嘘の様に引き締まる。ピリピリとした空気の中、キャスターはジンをまっすぐと見た。

 

「・・・・・・・・・前に言いませんでしたか? 私はご主人様にお仕えしたいから、神格を返上した、って」

「覚えています」

「この恩恵を付与するとなると私は神霊として覚醒するでしょうね。そこら辺、分かってます?」

「はい」

 

 ジンもまたまっすぐとキャスターを見つめる。その顔は彼が冗談などで、こんな提案をしたわけではないと理解するのに十分だった。

 だが―――

 

「―――図に乗るなや。小僧」

 

 ゾワリ、とジンの背中に怖気が走った。キャスターはジンが今まで見たことの無い様な冷たい表情で、ジンを見下ろしていた。

 

「貴様の采配に従ってやってはいるが、それは我が主がいるからこそ。貴様に我を指図する道理など無い」

 

 ジリジリと肌が焼き付く殺気がキャスターから放たれる。本能的に危険だと判断したセイバーが剣を実体化させ、いつでもキャスターを止められる様に構えた。

 いかに霊格が縮小したとはいえ、彼女は平安の大妖狐・玉藻の前。その存在は、ただの人間が対峙するには危険すぎる―――!

 

「コミュニティに神霊がいれば箔がつくと思うてか? それとも分不相応の恩恵を手に入れて舞い上がったか? 答えよ。下らぬ理由ならば、魂魄すら残さず小僧の身を焼き払ってくれよう―――!」

 

 背中にじんわりと冷たい汗が流れる。口の中がカラカラに乾く。いま正に逆鱗に触れていると知りつつも、ジンはどうにか声を絞り出した。

 

「・・・・・・・・・コミュニティの為です」

「なに?」

「全ては、コミュニティの為です。春日部さん、岸波さん、レティシアと大切な同士達がいま孤立無援の危機に陥っています」

 

 カタカタ、と膝が震えながらもジンはキャスターと正面から向き合った。

 

「巨人族を全滅させた正体不明の勢力の事もあります。明日、古城に行って皆を探し出すだけで済むとは僕は思っていません。ほぼ間違い無く、魔王に匹敵する脅威が古城で待ち構えている」

「・・・・・・・・・それで?」

「だからこそ、万全を期したい。持てる手札は全て最強の布陣にしたいんです。“バロールの死眼”は強力な恩恵ですが、今の“ノーネーム”にはキャスターさん以外に適性のある人はいないんです」

 

 膝をつき、ジンは頭を下げる。

 

「お願いします! 本来は岸波さんに話を通すべきだとは分かっています。でも、岸波さん達も危機に陥っています。コミュニティのリーダーとして・・・・・・・・・何より、大切な同士として何も手を打たない事は出来ません! だから、貴方に死眼を付与させて下さい!」

 

 土下座してキャスターにジンは懇願する。だが、その瞳には強い決意が現れていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 キャスターは、そんなジンの姿を何も言わずに見つめていた。セイバーも固唾を飲んで見守る中―――観念した様にキャスターは溜め息をついた。

 

「ハア、頭を上げて下さいな。男の子が軽々しく土下座なんてするもんじゃありません。そもそも、恩恵を受け取って貰う為に懇願とか、普通は逆でしょうに・・・・・・・・・」

「これが今の僕に出来る最善手です。僕は十六夜さんの様に力が強いわけでも、岸波さんの様に戦闘の指揮に優れているわけでもありません」

 

 頭を上げ、ジンはキャスターの顔を見る。その目は十一歳の少年とは思えない程、強い意志が秘められていた。

 

「だから・・・・・・・・・・・・どんなにカッコ悪くても、必ず目的は果たす。それが僕の戦い方です」

「結局は他人頼みですけどね」

 

 茶化す様な口調のキャスターに、ジンは顔を真っ赤にして俯いた。彼とて、結局は十六夜やセイバー達が戦って血を流す事は理解している。そして、それをは傍観するしか手段のない自分の情けなさも。だが、だからこそ彼等に任せきりではいけない。だからこそ、最善手を打つ。彼等の苦労を思えば、情けない姿が一つ増えるくらいなんて事は無い。

 

「ったく、しょうがないですね。良いですよ。その恩恵、ありがたく頂戴しますよ」

「キャスターさん・・・・・・・・・ありがとうございます!」

「だから、軽々しく頭を下げるんじゃないと言っているでしょうが」

 

 キャスターから殺気が消え、ようやく安堵の溜め息をついたセイバーは剣を霊体化させる。

 

(しかし、“どんなにカッコ悪くても、必ず目的は果たす”、か・・・・・・・・・)

 

 まだ雛鳥に過ぎないと思っていた少年から、こんな決意を聞かされらるとは思わなかった。仲間の為ならば自らの危機を知りながらも、頭を下げられる程の肝っ玉があるとは思わなかった。一体、誰に似たのやら。

 

(案外、大物になるかもしれぬな。こやつは)

 

 人知れず、セイバーは微笑む。箱庭に来てから、本当に飽きる事がない。

 

「さて、それじゃちゃっちゃとやりますか」

 

 キャスターの宣言と共に“バロールの死眼”が宙に浮く。キャスターが八咫鏡を構えると、死眼は鏡の中に吸い込まれていった。同時に、キャスターの身体が光に包まれる。地上に降りた太陽を思わせる輝きを放ちながら、脈動する様に強まる光の中で―――キャスターの尻尾が三本に増えた。

 

 

 

 

 




ジンは“バロールの死眼”を使った!

おや? キャス狐の様子が・・・・・・?

なんと! キャス狐は三尾の妖狐に進化した!

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