月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 改めて言う事でもありませんが、このSSは問題児シリーズとFateの二時創作です。SSを書くにあたって設定の摺り合わせの為に作者の独自設定や原作の独自解釈が含まれます。
 作者の未熟な腕では読者の皆様を納得させられないですが、作者なりに説明はしていきます。
 以上の事を御容赦願います。


第10話「全てはマスターの為に」

 ―――“アンダーウッド”貴賓室

 

 一夜開けて、飛鳥達は作戦の最終確認の為に集まっていた。集まった一同に、十六夜が口を開く。

 

「確認するぞ。城への攻略部隊へは俺、皇帝様、御狐様の三人で向かう。お嬢様、黒ウサギ、御チビの三人は本拠で待機。異論は無いな?」

「無いわ」

「分かりました」

 

 飛鳥は毅然と、ジンはやや緊張した顔で頷いた。

 

「後陣は任せたぞ。奏者達は必ず連れて帰る」

「なので、お風呂を沸かして待ってて下さいな♪」

 

 セイバーとキャスターが待機組に激励を送る中、飛鳥は何かに気付いた様に声を上げた。

 

「そういえばキャスター、貴方いつもと雰囲気が違わない?」

「まあ、一応パワーアップしましたから」

 

 フリフリと二つの狐尾がキャスターの腰で動く。

 

「あ、尻尾が増えてるわね」

「その通り。昨夜、ジン坊ちゃんが持っていた死眼を取り込みました。本当はご主人様に頼まれでもしない限り、神格を取り戻す気は無かったのですが、ご主人様にピンチなら仕方ありません」

「ふうん。でも、これでリリとお揃いじゃない」

 

 ふっふーん、とキャスターの尻尾が動く。しかし、十六夜は怪訝な顔になっていた。

 

「おい、御チビ。お前は確かに御狐様に死眼を渡したのか?」

「は、はい」

「それについて一言あるが、今は勘弁してやる。問題は―――死眼を取り込んだのに、こんな物なのか?」

 

 十六夜の見立てでは、今のキャスターの霊格は神格を得たヴェーザー川の化身と同格くらいだ。後天的に発生した物とはいえ、ケルト屈指の魔王のギフトを取り込んだにしては霊格が弱すぎる。

 

「・・・・・・・・・さあ? 元々、この死眼は魔王バロールが持っていた本物じゃないそうですか。偽物じゃ、この程度が限度じゃないんですか? まあ、無理をすればもう一尾増やせますけど、それでもそこらの稲荷と同レベルくらいですかね」

「・・・・・・・・・まあ、御狐様がそう言うならそうなんだろうよ」

 

 はぐらかす様なキャスターのポーカーフェイスに、十六夜は興味を無くした様に頷いた。思い当たる理由はあるが、問い詰めた所でこの妖狐はのらりくらりとかわすだけだろう。

 ふと、セイバーが思い出した様に声を上げた。

 

「ああ、そうだ。アスカに渡す物があったな」

「私に?」

「うむ。そなた自身への守りが銀の剣だけでは心許なかろう。そこで、これを渡しておく」

 

 そう言ってセイバーが傍らの鞄から取り出した物を飛鳥の手に乗せた。

 

「これは―――腕輪と手鏡?」

「うむ。それぞれ《守りの護符》と《隠者の鏡》という」

 

 《守りの護符》はトパーズやオニキス等のパワーストーンが装飾された腕輪であり、《隠者の鏡》は首から下げる鎖の付いた手の平サイズの手鏡だった。どちらも派手過ぎず、嫌みにならない上品な彫刻が施された装飾品だ。

 

「南側でも顧客を増やせるかと思って持ってきた礼装だが、これをアスカに贈ろう」

「それはありがたいけど、良いの? これって、売り物なんじゃ・・・・・・・・・」

「構うまい。礼装は作り直せば良いが、そなたの身に代わりは無いからな」

 

 そうであろう? と朗らかに笑うセイバー。その笑顔に、遠慮するのは却って失礼だと悟り、飛鳥は一礼と共に礼装を受け取った。

 

「ありがとう、セイバー。“アンダーウッド”は任せて」

「うむ! それで、その礼装の使い方だが、」

 

 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!

 

 セイバーの言葉を遮る様に、“アンダーウッド”中に鐘の音が鳴り響く。まるで緊急事態を知らせる様な鐘の音に、一同は顔を見合わせた。

 

「何事だ? 出撃にはまだ時間があった筈だが?」

「分かりません、何か不測の事態が起こったのでしょうか?」

「ここで話していても埒があかねぇな。調べに行くぞ」

 

 十六夜の号令に一同は頷き、外へ飛び出していった。

 ―――唯一人、出遅れたフリをして部屋に残ったキャスターはコッソリと溜め息をつく。

 

「・・・・・・・・・これ以上、力を引き出すと精神が大元に引っ張られちゃうし―――それ以前に、身体が保たないんですよね」

 

 普段の快活さが消えた表情で、キャスターは自分の腕を見る。まだ取り込んだギフトが安定しないのか、自分の腕が映像のノイズの様にブレて―――球体関節の腕が見え隠れした。

 

 ※

 

 ―――時間は昨夜まで遡る。

 

 吸血鬼の古城の一室。殿下達が退去した後、衛士・キャスター達が居座っていた。長年使われていない為に埃っぽい事を除けば、王族が使っていた豪奢な家具がそのままとなっているので隠れ家としては快適な方だ。さらに衛士・キャスターによってあらゆる魔術の防衛が張られた城は要塞の様な堅固さと機密性を兼ね備えていた。いま彼等が眺めている映像には、今後のゲーム方針を話し合う白野達の姿があった。

 

「ふうむ。明日にでも解かれそうな勢いですね」

「早いな。そこまで簡単なゲーム内容では無かった筈だが」

「落ち着いて見ればタダの言葉遊びですから。黒死斑の魔王のゲームを経験していれば、応用で解けますよ」

 

 少し感心した様な衛士・アーチャーに、契約書類を一読しながら衛士・キャスターは答えた。

 

「請け負った翌日にゲーム攻略される形になりますが・・・・・・・・・別にいいか。こちらとしては敵側のアサシンの情報が得られたから、首尾は上々です」

「―――貴様は、本気で“アンダーウッド”を滅ぼす気だったのか?」

 

 今まで黙っていた衛士・ライダーが剣のある声を出す。

 

「それはどうでも良かったですね。南側の階層支配者が生まれようが、壊滅しようが我々には関係ない話なので」

 

 故に何人死のうが興味無い、と衛士・キャスターは言う。

 

「この“アンダーウッド”が潰れる程度なら、外界への影響は微々たるものですよ。それこそ人理定礎には全く影響がない」

「―――だが、この世界の民は死ぬ。無辜の民に犠牲を強いる事となる」

「確かに。でも―――だからどうした(・・・・・・・)?」

 

 掛けていた眼鏡を外し、衛士・キャスターはギロリと衛士・ライダーを睨みつけた。

 

「どうでもいい。俺にとってはマスター一人に比べれば箱庭の人間が何人死のうが、心底どうでもいい」

 

 底の無い虚を思わせる黒い瞳が衛士・ライダーを貫いた。衛士・ライダーは物怖じする事なく、むしろ推し量る様な目つきで衛士・キャスターと対峙した。

 

「サーヴァントはマスターを勝たせるものだ。マスターを勝たせる為なら、その過程で関係無い人間が何人死のうがどうでもいい」

「それが、主が望む手段では無いとしてもか?」

「勝たせるのが大前提だ。それすら出来ないなら、役立たずの亡霊だろうが。お陰で邪魔な“ウロボロス”の連中は手を引いたし、敵マスターの手駒の陣営も把握できた」

「―――何故そこまで貴様はマスターに拘る?」

 

 衛士・ライダーがもっともな疑問を口にした。2ヶ月(・・・)程度の短い付き合いだが、この男が酷く自己中心的な性格である事は理解できた。召喚したマスターを第一とする様な殊勝なサーヴァントには見えない。

 

「・・・・・・別に。サーヴァントはマスターを勝たせる物でしょう?」

 

 再び眼鏡をかけ、衛士・キャスターは紳士的な笑顔を浮かべる。もっとも、眼鏡を外した時の性格を知る衛士・ライダーには胡散臭い笑顔にしか見えないが。

 

「・・・・・・・・・まあ、あのお人好し(マスター)がこの場にいれば、絶対に許可しないでしょうね」

「それを分かっているなら、何故―――」

「でも、今はいない」

 

 笑顔を消し、陰のある声で衛士・キャスターは断言する。

 

「どこにもいない。表側も、裏側も隈無く探しましたが、どこにもいない。恐らくは、この箱庭ですらも」

「月の裏側に潜っていたのは、そのためか・・・・・・・・・」

 

 衛士・アーチャーが得心した様に頷いた。

 

「マスターが不在だというのに、何をすれば良いのかはムーンセルの指令として組み込まれている。踊らされている感じはしますが、それでマスターが戻ってくる事が約束されているなら、いくらでも踊ってやりますよ。その為なら―――たとえ何が犠牲になろうとも構わない」

「マスターが戻って、それまでの貴様の罪状に罰を下しても、か?」

「たとえマスターに自害を命じられても、です」

 

 断固とした響きをもって、衛士・キャスターは宣言した。マスターの勝利の為ならば、全てを―――自分すらも―――犠牲にする、と。

 

「・・・・・・・・・」

 

 そんな衛士・キャスターを衛士・アーチャーは何とも言えない表情で見ていた。

 ―――もはや思い出す事すら困難な程の昔。正義の為に少数の犠牲を是とした男がいた。天秤の様に人々を量りにかけ、たとえ男の大切な人間が乗っていようが、少数に傾いた皿を容赦なく切り捨てた。

 目の前の男はその逆だ。自分の大切な少数の為に、その他大勢の犠牲を許容する。ある意味、身内贔屓を当たり前とする魔術師の在り方に忠実ではある。

 追及して来ない両者に背を向け、画面を切り換える。そこには明日のゲーム方針を話し合うサラ達の姿があった。

 

「―――こちらも明日、動いて来るか。どちらも手が早い」

「確か連盟の要人が城下町にいるのだろう? 連盟として救助を出さないわけにいかないのだろう」

「して、貴様はどうするつもりだ?」

 

 少し考える素振りを見せ、衛士・キャスターは二人に向き直った。

 

「救助隊は来て欲しくないですね。せっかく敵マスターが“ノーネーム”一同と分断された状態にいるのだから―――仕掛けない手はない」

「貴様の手駒を解き放つか・・・・・・。勝算はあるのか?」

「もちろん。それくらいの改造はしましたから」

「しかし、いくら聖杯を与えたとはいえ、あの虎男がそこまで強くなるのか? プロフィールを読む限り、典型的な小悪党にしか思えなかったが」

 

 衛士・アーチャーの疑問に答える代わりに、衛士・キャスターは愛用のステッキを一振りする。すると、衛士・アーチャーの前に新たな画面が現れる。画面に記されたデータを一読し、衛士・アーチャーは少し驚いた。

 

「彼の先祖はドゥルガーの乗り物だったのか・・・・・・・・・。それが悪魔に魂を売る程とは、随分な落ちぶれ方だな」

「まあ、優秀な血筋を残せなかった家系の末路ですよ。だというのに、先祖が偉大だったという昔話(無念)だけが受け継がれ、かつて自分の先祖を排斥した女神に復讐する為に悪魔に魂を売り渡して力をつけた。マトモに霊格を上げていれば、元の座に返り咲く事も不可能では無かったのに」

 

 ヤレヤレ、と衛士・キャスターは首を振る。もっとも、その短慮さを考慮した上で扱いやすい駒となると見抜いたのだが。

 

「元のスペックは十分。彷徨海の鬼子と謳われたフォアブロ・ロワインの秘術。そして無限魔力炉と化した聖杯のバックアップ。力だけならば、箱庭の基準で四桁クラスの霊格はありますよ」

 

 四桁。それは神域に達した者達に許された霊格だ。箱庭において上層部に食い込む力があると衛士・キャスターは語った。

 

「ふむ。しかし、救助隊はどうする? いくらこの階層ではオーバースペックの肉体を手に入れようが、多勢に無勢になるんじゃないか?」

「もちろん対処はしますよ。さしあたっては、」

「拙者が受け持とう」

 

 衛士・キャスターと衛士・アーチャーは驚いて振り向く。

 

「貴方が手を貸すとは思いませんでしたが・・・・・・」

「・・・・・・・・・衛士・キャスター。拙者は貴様が嫌いだ」

 

 憮然とした顔で衛士・ライダーは衛士・キャスターを睨み付ける。

 

「そも、拙者は文官を好かぬ。安全な後方で机上の空論ばかり述べ、戦場の苦労を知らぬ者達を拙者は軽蔑する」

「・・・・・・・・・それで?」

「されど。主の為に働く者を蔑ろにする気はない」

 

 ブンッ! と風切り音と共に、自らの得物―――長柄に大刀の刃がついた形状の武器を衛士・キャスターの首に突きつけた。

 

「我が主が戻るまでの間―――貴様が主の為に働く間は、貴様のやり方に少しは協力してやろう」

 

 されど、と衛士・ライダーは凄んだ。

 

「我が主が戻った暁には、必ず沙汰を受けよ。それまで貴様の首は預けておく。肝に命じよ」

「・・・・・・・・・それはありがたい事で」

「そういう事なら、私も動こう」

 

 シニカルな笑みを浮かべながら、衛士・アーチャーは頷いた。

 

「中華最高の武将、英国最凶の魔術師。両名が働いていながら、傍観するというのも退屈だからな」

「おやまあ。仲間思いの同僚を持てて、私は幸せですな」

「お前の為じゃない。マスターの為だ」

 

 冷たく返す衛士・アーチャーに衛士・キャスターはニヤリと笑った。重んじる方針、方法、考え方。それらに差異はあれど、マスターの為にという一点において彼等の利害は一致していた。

 

 ※

 

 ―――そして、時間は現在に戻る。

 

「・・・・・・・・・馬鹿な」

 

 “アンダーウッド”の物見櫓。サラは愕然とした顔で遠く眺めていた。報告を受けても信じる事が出来ず、自分の目で見に来たが、それでも目の前の光景が嘘だと思いたかった。何故なら―――

 

「何故、今になって巨人族の軍勢が現れる―――!」

 

 そこには、死亡を確認した巨人族達が“アンダーウッド”を目指して進軍していた・・・・・・・・・。

 

 




キャスター

 元々がドールの憑依という形での召喚なので、あまり強いギフトを得ても依り代のドールが保たない。なので、死眼も出力をセーブした状態で使っている。

衛士組

 マスターの為に、という利害は一致したので団結。ただしマスターが帰って来たら、衛士・キャスターは罰を受ける事が条件。

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