月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 そうか。ハイアラキとはウルトラな光の国だったのか・・・・・・・・・。(水着エレナを見ながら)
 ネロちゃまを引けたから、もういいやと思ったけどエレナさんと頼光さんは欲しいかなあ。


第11話「鷲獅子の矜持」

 それは突然の出来事だった。早朝に連盟の幹部達を集め、ゲーム攻略の最終確認を行っていたサラは伝令からの報告に顔を青くした。

 

「巨人族の軍勢が南方向より接近! その数、およそ百!」

「馬鹿な!? 奴等の全滅は我等“二翼”が確認した筈だ!」

 

 “二翼”のリーダー、グリフィス=グライフが伝令に食ってかかる。

 

「し、しかし、目視する限り、あれは巨人族で、」

「それこそ有り得ん! 死体として発見された巨人族は、先日の総攻撃時にいた奴等と同数だ! 奴等に生き残りがいるわけが無い!」

「止めろ、グリフィス。現に巨人族が現れたんだ。今は目の前の事態に対処するんだ」

 

 サラが窘める様に言うと、グリフィスは歯軋りをしながらも下がった。その顔は自分のコミュニティの索敵能力をすり抜けた巨人族への怒りと、まんまと出し抜かれた事に対する羞恥に染まっていた。

 

「巨人族達は後どのくらいで“アンダーウッド”と接敵する?」

「はっ! 奴等の行軍速度を考慮すると、後一時間後には戦闘領域に入ると思われます!」

 

 一時間。告げられた猶予時間にサラは歯噛みする。今動ける連盟の戦士の数は百余り。連日の襲撃と昨日の巨龍の襲来で、連盟の戦力は今や十分の一にまで低下していた。こちらにエリザベートや“ノーネーム”一同の様な一騎当千の戦力がいるとはいえ、気安く迎撃を命じるわけにいかない。何より本命は魔王とのギフトゲームの方だ。関係の無い戦闘で戦力を失うなど、愚の骨頂だろう。だが―――

 

「―――各員へ通達。巨人族に対して迎撃準備。奴等が“アンダーウッド”に近付き次第、応戦出来る様に構えてくれ。それと・・・・・・・・・念の為、籠城の準備だ」

「はっ!」

 

 苦渋の顔でサラは決断する。如何に魔王とのギフトゲームが控えていようと、目の前の脅威を無視は出来ない。幸いな事に、魔王とのギフトゲームは黒ウサギの審判権限で休止期間にある。あと五日の猶予はあるのだ。巨人族との戦闘になったとしても、数日は相手できる。

 

「フン、消極的な策だな。誇りある龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟に相応しくない」

 

 グリフィスが鼻を鳴らしながら、サラを睨む。 

 

「生き残りがいる事は驚いたが、所詮は敗残兵の寄せ集めだろう。こちらから攻め入り、一気呵成に叩くべきだ!」

 

 賛同の声は上がらなかったが、誰もグリフィスを諌めようとはしなかった。

 “アンダーウッド”の復活を祝う収穫祭に異を唱える様な連日の襲撃、それに伴う同士達の負傷と死。もはや連盟の中で巨人族達への憎しみは最高潮に達しつつあった。受けた屈辱と死者の無念は、奴等の死をもって償わせるしかない。そんな熱気が連盟の中で渦巻いていた。

 

「―――駄目だ。こちらからの出撃は許可出来ない。敵は巨人族だけじゃない。魔王とのギフトゲームが控えている今、勝ち目が確実にない戦いをするわけにいかない」

「っ、失望したぞ! 議長!」

 

 舌打ちしながらもグリフィスは下がった。グリフィスとて、魔王とのギフトゲームの為に戦力を温存しなくてはならない事は分かっている。しかし、それならば散った同士の無念はどこに向ければ良い? 何よりも巨人族達は“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟を―――偉大な父を象った旗に泥を塗ったのだ。そんな輩が存在している事自体がグリフィスにとって我慢ならない。

 他の幹部達も同様だ。元々が気位が高い幻獣達の集まりであるだけに、自分の同士達を殺した巨人族を許す気は無い。おめおめと目の前に現れた侵略者を殺さねば気が済まない。

 そんな不協和音が出ながらも会議は幕を閉じた。

 

 ※

 

 緊急の鐘を聞き、即座に外へ出た十六夜達。とにかくサラに確認を取ろうとした矢先の事だった。

 

「おーい!」

 

 十六夜達が振り向くと、息を切らしながら犬顔の亜人が駆け寄って来た。

 

「あなた・・・・・・・・・ひょっとして、私達が“アンダーウッド”に来た時に春日部さんと一緒にいた人?」

「ああ、覚えていてくれてたか! それより大変だ! 今、死んだ筈の巨人族が“アンダーウッド”に攻め入れて来ているんだ!」

「なんですって?」

 

 犬顔の亜人の報告に、飛鳥は眉をひそめた。

 

「どういう事? 巨人族は全滅した筈ではないの?」

「そのはずだったんだ! とにかく、サラ様が呼んでいるからすぐに来てくれ!」

 

 こっちだ、と犬顔の亜人が先導しようとした直後だった。

 

「待てよ」

 

 十六夜の冷ややかな声が亜人の背を呼び止めた。

 

「どうしたんだ? 早く行かないとサラ様に―――」

「ああ、サラに悪いな。―――本当に呼んでいるならな」

 

 ピクリと。犬顔の亜人はたじろいだ。

 

「い、いったい何の話、」

「昨日、おチビと一緒に連盟の亜人達を見て回ったが。おたくの顔は初めて見るな」

 

 亜人の弁明を遮り、十六夜は冷たい笑顔を向けた。

 

「連盟の亜人は女子供や怪我人を含めなければ百人くらいだったから、顔は全員覚えているが・・・・・・・・・アンタは誰だ?」

「偶然だろ? 俺は連盟の中でも使い走りみたいに地位が低いから、その場にいなかっただけ―――」

「ほう? 使い走り、ねえ。そんな使い走りさんに聞きたいんだが・・・・・・・・・何でアンタは巨人族の全滅を知っていたんだ?」

 

 はっ、と飛鳥は気付く。昨日の会議の時、巨人族の全滅にサラは箝口令を敷いたはずだ。巨人族の全滅は連盟の幹部達と会議に参加した“ノーネーム”や“ウィル・オ・ウィスプ”しか知らない事実の筈だ。ただの連盟の一員でしかない亜人が知っているのは、おかしな話だ。

 

「そ、それは、その、」

「その? 答えてくれなきゃ始まらないぜ、自称・“アンダーウッド”の使い走りさん?」

「う、うぐぐ、ぐぐぐっ・・・・・・!」

 

 しどろもどろに弁明しようとした亜人の顔が真っ青に染まり―――

 

「ぐ、GAAAAaaaaaaaaa!!」

 

 突如、牙を剥いて襲いかかって来た!

 

「おっと」

 

 十六夜は易々と亜人の牙を避け、カウンター気味に拳を振るう。十六夜の拳は亜人の胸に―――ドプリという音と共に突き刺さった。

 

「何!?」

「OOOOOOoooooonnn!!」

 

 ここに来て十六夜の顔に初めて動揺が走った。遠吠えの様な雄叫びと共に、亜人の姿が真っ黒なボアハウンド犬へと変わる。ボアハウンド犬はグニャリ、と粘土の様に身体を崩れさせると、十六夜の身体に纏わりつく様に液体化した身体を動かす。あっという間に、十六夜の足下に魔法陣の様な図形が描かれた。

 

「ちっ―――」

 

 十六夜が魔法陣を踏み砕こうと足を振り上げるより先に、魔法陣が起動し始める。白い光が十六夜を包み、十六夜の身体が光の中で薄れていく。

 

「これは・・・・・・・・・空間転移か!」

「十六夜くん!」

 

 セイバーが光の正体を看破するのと同時に、飛鳥が十六夜へと手を伸ばした。

 

「ばっ、来るな! お嬢様!」

 

 いつもより余裕の無い声で十六夜が叫ぶ。しかし、十六夜の制止よりも早く飛鳥は魔法陣の中に手を入れ―――飛鳥の身体も光に包まれ始めた。

 

「飛鳥さん!?」

 

 黒ウサギが瞠目する中、飛鳥の身体も光の中に消えていく。

 

「・・・・・・・・・キャス狐、後の事は任せるぞ」

「え? ちょっと、セイバーさん!?」

 

 セイバーは呟くと同時に、空間転移の光の中へ身を投じた。そして光が一際強く輝き―――十六夜達の姿は跡形もなく消え去っていた。

 

 ※

 

 所変わって、龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟の会議場。迎撃の準備も整い、巨人族の襲撃をサラ達は今か今かと固唾を飲みながら待ち構えていた。しかし、一時間経って尚も、見張りから巨人族の襲撃の報せは来ない。いったいどうしたものか、とサラ達が訝しい表情を浮かべ始めた矢先だった。

 

「伝令! 巨人族、参りません!」

「な・・・・・・・・・何だと!?」

 

 伝令の報告に、サラ達は目を剥いた。伝令はすぐさま次の報告に移る。

 

「巨人族達は“アンダーウッド”より1キロ先の地点で休止後、“アンダーウッド”に背にして北に進路を取り、境界門へと向かっています! この“アンダーウッド”、素通りの模様っ・・・・・・!」

 

 悔しさの滲んだ声で、伝令は報告を終える。しかし、彼よりも心中の穏やかでいられないのはサラ達の方だった。

 

「あれだけ、我等のコミュニティを荒らしておきながら・・・・・・・・・もはや敵では無いと言うつもりかっ」

 

 ギリィ、と音が聞こえる程の歯軋りをするグリフィス。彼の周りの獣人や亜人も恥辱と憤怒で顔を染め上げていた。一方、サラを始めとした冷静な思考の持ち主達は報告の意味に気付いて顔を青ざめさせる。

 

(いかん・・・・・・! このままでは、他の階層支配者達の元へ攻め込まれてしまう!)

 

 今、魔王の襲撃にあっているのは“アンダーウッド”だけではない。東も北も、魔王の襲撃で救援を頼める状況では無い。そこへ南側から巨人族が襲撃したとなると、龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟は自らの火の粉も振り払えぬ軟弱者、という烙印が押されてしまう。そうなれば仮に魔王とのギフトゲームで生き残っても、龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟は階層支配者として失格だ。十中八九、階層支配者の地位は失うだろう。“アンダーウッド”の復興をしながら築き上げた信頼も実績も全てが水泡に帰してしまう。巨人族達は何が何でも南側だけの問題としなければならないのだ。

 

「・・・・・・・・・サラ様」

 

 不意に、サラの隣りから女性の声がかかる。サラの龍角より、ずっと小さな角を生やした亜人はサラにとって信頼できる部下だった。

 

「ここはどうかご自重を。今の連盟が巨人族と正面から戦うには危険過ぎます。ここは様子見が無難です」

「分かっている・・・・・・・・・っ」

 

 サラは悔しさを交えた表情で部下に答える。部下の女性もまた苦渋を顔に浮かべていた。幼少の頃からサラの御学友として共に月日を重ね、“サラマンドラ”からサラが脱退すると決めた時も共について行った彼女たがらこそサラが如何に苦労してきたか理解していた。その苦労がようやく階層支配者の就任という形で報われる筈だったのに、巨人族によってサラの苦労は水の泡となるのだ。口では様子見が無難と言ったが、本心は巨人族の殲滅に乗り出したかった。

 

「―――いや、待て。誰か地図を持って来い!」

 

 不意にグリフィスが叫ぶ。何事だ? と集まる視線の中、グリフィスは部下が持ってきた地図を広げた。

 

「境界門があるフィル・ボルグの丘陵は、周囲がメタセコイアの様な樹高の高い木々が群生している。巨人族と言えど、障害物となる筈だ。境界門へと抜けるには木々に囲まれた道路を進むしかない」

 

 グリフィスは地図上の境界門へと続く道をなぞった。

 

「隊列を崩し、細い登り道を・・・・・・奴等の大きさを考えれば、一人か二人ずつしか通れない横幅の道を・・・・・・・・・!」

 

 はっ、とサラは気付く。通常、部隊の大将となる人間は中央より後方に配置される。ならば、もしも巨人族達が坂を登り切る前に後ろから攻撃すれば―――少ない犠牲で巨人族達の大将の首が穫れるかもしれない!

 

「議長! 出陣許可を! 奴等は自分達が不利な土地を歩いていると気付いていない! ここは奴等の大将首を刎る千載一遇の機会だ!」

「グリフィス殿の言う通りだ!」

「ここでおめおめと見逃せば、龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟は腰抜けと末代まで嗤われますぞ!」

 

 グリフィスを中心に血気盛んな幻獣達から出陣を求める声が上がる。

 

「お待ち下さい! ここは様子見に徹するべきで―――」

「この期に及んで何を弱気な事を! そも、巨人族共を他の階層支配者の元へ向かわせれば、龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟は終わりであろう!」

 

 サラの部下の声をグリフィスが遮る。

 

「今までも我等は巨人族を何人も殺してきた! 気に食わぬが、巨人族共を鎧袖一触できる竜の娘もいる! この戦い、我等が負ける筈があろうか!?」

 

 そうだ! そうだ!

 グリフィスを中心に熱気が膨れ上がる。今や会議の波は巨人族殲滅に向かいつつあった。

 

「このままで良いのか! これで巨人族が東側に侵略でもすれば、我等“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟”に階層支配者の道を示した白夜叉殿にも申し訳が立たぬ!」

 

 はっ、とサラが目を見開く。事は南側の問題だけでは無いのだ。東側には“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟”に階層支配者の道を示した白夜叉が、北側には自分の故郷である“サラマンドラ”―――そして、自分の弟と妹がいる。白夜叉の方は巨人族が攻め入れても心配は無いだろう。しかしその場合、階層支配者に相応しく無い者を選出したとして白夜叉の顔に泥を塗る事になる。“サラマンドラ”の方はもっと深刻だ。あちらはまだ“黒死斑の魔王”との戦いの傷が癒えてないと聞く。ここへ更に巨人族の襲撃が重なれば、今度こそ壊滅してしまうかもしれない。

 

「議長! どうか決断を! 勇気ある決断を!」

 

 グリフィスが糾弾に近い響きを持って、サラに問い詰める。周りの幻獣達もサラに出陣を求めて一斉に見つめていた。そして――――――

 

 ※

 

 ―――“アンダーウッド”、フィル・ボルグの丘陵地への街道

 

 黙々と巨人族達が進む。ぬかるんだ道は進みにくく、一歩踏み出すごとに彼等の足に負担をかけたが、その事に全く不平が無いかの様に巨人族達はただただ歩く。

 否―――不平が無いどころか。何の表情すら浮かばせず、無機質な瞳で巨人族達は歩いていた。まるでプログラミングされた機械(・・・・・・・・・・・・)の様に。

 そんな中、巨人族と同じ様に無機質な目をした馬に乗った中華風の武将姿の男―――衛士・ライダーは目的地に進んでいた。

 

(今頃、“アンダーウッド”は揉めているであろうな)

 

 豊かに生えた顎髭を風に揺らしながら、彼は思考する。

 

(本拠の鼻先を掠めての移動。貴公等の矜持は酷く傷ついたであろう。そして、これで傷つかない様であれば武士ではない)

 

 かつて一国の将として戦場を駆け抜けた英霊は、生前からの優れた戦術眼で―――死後、軍神と称えられた慧智をもって、“アンダーウッド”の幻獣達の思考を読み解いていた。

 

(今までの龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟は勝ち戦とは言えぬ。連日の巨人族の襲撃、魔王の襲撃・・・・・・・・・その度に失われていく同胞。故にこそ、この素通りは火に油を注いだであろうよ。そして、貴公等の立場は巨人族を無視するという選択を許さない)

 

 ゆるゆると。巨人族を率いながら、衛士・ライダーは思考する。

 

(そこへいきなり希望の光が見える。無傷で巨人族を殲滅できるかもしれぬ、という強い光だ。このまま素通りさせて良いのか? 他の階層支配者に申し訳が立たぬのではないか? このまま弱気な態度を見せれば、階層支配者となった後も周りの心が離れるのではないか? ーーー全ての感情が出陣への正当化に向けられる)

 

 ※

 

「―――“四本足”、“三本の尾”は本拠に残って、防衛をしてくれ」

「サラ様・・・・・・・・・?」

 

 サラの部下が驚いた様にサラを見る。サラは覚悟を決めた目で、会議場を見渡した。

 

「これより巨人族への追撃をかける! 出陣だ!」

 

 ※

 

(そう―――針の先ほどの希望だというのに、目が眩むのだよ)

 

 

 




 どこかで見た事あるって? まあ、所詮は趣味でssを書いてる人間の限界という事で。

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